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1-61 目覚め

「あら? ミチイル。お料理しているの?」


「あ、母上。お帰りなさい……?」


「ええ、今戻って来たところなのよ。今日はミチイルが夕ご飯を作っているの?」


「うん。趣味で。料飲部の人は帰らせたよ。僕がやるからって」


「そうなのね。後でカンナに伝えておくわ」


「うん」


「それで、今日の夕ご飯は何かしら~?」


「うん、今日はね~ オムライス」


「……食べたことが無いわねぇ」


「うん。オムライスはね、給食とかだと手間暇がかかるからね、教えてないの。一人分ずつ作らないとならないからね」


「そうなのね……いつ頃ご飯にする予定なのかしら?」


「うん、いつでもいいよ~ 下ごしらえは終わっているから、食べる前に完成させる~」


「今日は私とミチイルの二人で夕ご飯?」


「カンナとか居るならカンナも誘う~?」


「そうね。カンナにも声をかけましょう。ねえ、そこのあなた、悪いんだけれど、カンナの家に行って、夕ご飯一緒に食べましょうって伝えてもらえるかしら? 伝えたら、そのまま帰宅してくれて構わないから」


「かしこまりました。では失礼します。ミチイル様、マリア様」


「うん、お疲れ様~」


「そういえば、カンナがミチイルに、ズボンの事を訊きたいって言っていたわ」


「ズボン? できたの?」


「ええ。私も見せてもらったけれど、とてもステキだと思ったわよ」


「そうなんだ~ 僕用?」


「ええ。ミチイル用だと思うわ。サロンに置いてあるから、後でカンナと一緒に確認しましょう」


「うん」


「マリア様、ミチイル様、お招きありがとう存じます」


「ああ、カンナ。ごめんなさいね急に。今日はね、ミチイルが夕食を作ってくれる事になったのよ」


「うん、カンナ。楽しみにしててね~」


「まあ! 恐れ入ります」


「じゃ、もう支度を始めようかな~ 母上たちはダイニングで待ってて」


「私たちもキッチンで手伝うわよ、ねえ、カンナ」


「もちろんでございます。何なりとお申し付けください、ミチイル様」


「うん、じゃ、始めよう!」




***




「まずは、スープを作ろうかな。ここに豚骨スープが」


「あっ! ミチイル、それはいいのよ、使わなくても。他のスープにしましょう」


「え? 豚骨スープ、飲めるようになったんじゃなかったっけ?」


「え、ええ、もちろんよ。でも、ほら、ね、残りが……」


「ん? 今日の夕ご飯のスープにするくらいは残ってるよ?」


「い、いえね、とにかく! 豚骨スープ以外のスープにしてちょうだい!」


「 ? う、うん。じゃ、何か無いかな~ ん? これは牛のスペアリブ、かな。肉もついているけど、とりあえずこれでスープを取ろう。デカいから一個あればいいや。では、鍋に洗ったスペアリブと水と半割タマネギとニンジン一本とニンニク丸ごと、塩を適量に味醂も適量、そして山椒の粒を数粒入れて~ 『圧力鍋で一瞬でスープ』 ピカッ はい、これで終わり~ アオネギを小口切りにして、乾燥ワカメも用意しとこう。カンナ、このスープの器を用意しておいてくれる?」


「かしこまりました」


「じゃ、サラダは、デカいサラダボウルにドサッと移して~ デカいフォークとスプーンを作って~ ピカピカッと。工場製ドレッシングに、タマネギのすりおろしを混ぜよう。カンナ、この一式をダイニングのテーブルに運んでおいて~」


「かしこまりました」


「では、いよいよメイン料理でーす。まず、卵をたくさん割って、牛乳少しと塩を混ぜて、オムレツ用溶き卵を作っておきまーす。そして、チキンライスを作りまーす。大きいフライパンにバターを少しとご飯を入れまーす。たくさん作っちゃおう。そこへ、先ほど仕込んでおいた、チキンライスの素を全部入れて、中火でご飯が全部ケチャップ色になるまで炒めまーす。次に、別の普通のフライパンにバターを多めに溶かし、中火でオムレツ用の溶き卵を流し入れまーす。オムレツと違って、混ぜないでくださーい。フライパン全体に卵を回して広げまーす。そうしたら、フライパンの真ん中あたりにチーズ適量を乗せて、その上に先ほどのチキンライスを適量のせて、後は卵で包みまーす。ひっくり返しながら、あ、カンナ、大きいお皿ちょうだい、皿に盛り付けて、上にケチャップをかけたら、チーズオムライスの、完成です!」


「まあ、見た目は大きいオムレツと同じね」


「うん。カンナ、これをダイニングの神棚にお供えしてきて~」


「ミチイル様、神棚といいますと?」


「ん? ダイニングの壁に棚が生えているでしょ?」


「え? ミチイル、あれって神棚だったの? 女神様へのお供え用に?」


「うん、僕、言ってなかったっけ? あちこちの食堂にはいつも作っているけど。カンナの家にもあるでしょ?」


「はい、確かに棚がございます」


「えええ? あれって、給食のメニューの見本を置く棚じゃなかったのね?」


「うん。お供え用の神棚」


「これは早速周知しなくちゃね」


「マリア様、手配致しておきます」


「よろしくね、カンナ」


「ハハ 僕、うっかりしてたよ~ じゃ、カンナ。カンナも隣の七輪でオムライスを作ってみる?」


「是非に」




***




「はい、皆の食事が完成しました~ では、いただきまーす」


「ミチイル、このスープ、今まで飲んだのとまた全然違うのね。とてもあっさりしていて美味しいわ」


「うん。牛骨スープっていうんだよ。アオネギとワカメがいい感じでしょ?」


「誠に、ミチイル様。スープ鍋の中の野菜や肉は食べないのでございますか?」


「うん、カンナ。食べてもいいけどね、あれは出汁を取るために入れたから」


「そうなのね。野菜からも出汁が出るのね」


「このサラダのドレッシングも、大変美味しゅうございます」


「ええ、ほんとうね。タマネギの風味がして、甘みもあって、とてもサラダが美味しいわ!」


「うん、ドレッシングは無限のバリエーションがあるからね~ さ、オムライスオムライス~」


「んまあ! このオムライスは、とっても濃厚な味でチーズもとろけて、とてもおいしいわ! オムレツよりも美味しい! ケチャップのご飯もこんなに美味しいのね!」


「左様でございますね、マリア様。婆の私でも、とても美味しゅうございます」


「うん、子供が好きな料理なんだけど、大人でも時々、無性に食べたくなるんだよね~」


……


「でね……」


「あらやだ」


「そうなのですか……」


「うふふ」


「ほほほ」


「アハハ」


…………




***




「さ、洗い物をしちゃおう。『食洗機』 」 


ピカッ


「ミチイル様、この魔法は……?」


「うん、新しい魔法なの。キッチンの洗い物がすぐに終わる。乾燥まで。後はしまうだけ~ カンナ、これ、皆に教えておいてもらえる?」


「ショクセンキ……かしこまりました」


「ミチイル、今日はもう暗くなっちゃうから、ズボンは明日にしましょう」


「はーい」




*** 




「うーん、うーん、クンクン、なんか、とってもイイ匂いがするわ! ハッ! あたし、昼寝しちゃってたのね……どのくらい寝てたのかしら。ま、きっと一瞬しか寝てないわね! さて、(みちる)はうまく降臨できたかしら? うん、何も問題ないみたいね! あ! なに、これ! 星神力がたくさん溜まってるじゃない! それに! これってオムライスじゃないの! やったー」


『おい、クソ女神。てめー今頃起きやがって、ぶっ殺すぞ。クサレ女』


「ああ、アイちゃん。相変わらず口が悪いわねぇ。モグモグ……うん、ちょっと味に奥行きと複雑さが足りないけど、こんなチープな味も、たまにはいいわね!」


『くたばれ、クソが! てめーが呑気に昼寝ぶっこいている間に、救い主様が大変だったんだぞ、このクサレが! 死ね!』


「あら? そうなの? でも、ほんのちょ~っとだけ寝ている間に、あたしの星でもオムライスができてるじゃない~ (みちる)はなかなかの働きぶりね!」


『おい! こんなクッソみたいな星で、ろくな材料もねえし、味に奥行きが足りねえだと? ああん? 寝言は寝てからぬかせ、このクソボケが!』


「いやねえ、アイちゃん、今あたし起きたばかりよ~ それに、チープな味は事実じゃな~い。お姉様の星のオムライスは、もっと深みのある味なのよ。風味も効いているし」


『おいコラ! てめーが何も用意しなかったせいで、こんな何にも無えスッカラカンのクサレ星になったんじゃねーか! ぶち殺すぞ! クソ女!』


「ま~アイちゃん、お口が悪すぎるわ~ せっかくあたしが、眉目秀麗でグレートなAIにしてあげたってのに。アイちゃん、そんな口調で、よく大宇宙中央管理センターの審査を通り抜けられたわねえ」


『おい! 実体もねえのに眉目秀麗もクソもねえだろうが! 誰が好き好んで、こんなクッサレ女のクサレ星に来るかっつーんだよ! ぶち殺すぞゴルァ!』


「いやあねえ、そんな事ばっかり言っていると、大宇宙中央管理センターに送り返すわよ」


『おう、望むところだクッサレボケが! じゃーな、とっと死ね! あばよ!』


「うそうそうそ~ アイちゃん、冗談に決まってるじゃな~い! んもう! アイちゃんが居なかったら、この星が立ち行かないって知ってるくせに~ ほんとにイケズぅ」


『…………殺す!』


「いやあねえ、アイちゃん、神は死なないの、知ってるでしょ~」


『絶・対・に、殺す!』


「あ、あたし、お姉様の所に行かなくちゃ、だわ! お姉様にはとてもお世話になったしね、い、色々報告しなくちゃ!」


『おい! てめー、姉女神様の所にいくんなら、向こうからスパイスとかなんか役に立つもん、こっちに送っとけよ! わかったか! このクサレ女!』


「わ、わかってるわよ! 食事が美味しくなるようなものをお姉様からもらって、ちゃんとこっちに送るわ~ これだけ星神力があれば、余裕よ、余裕~」


『送るもん送ったら、さっさと帰って来いよ! てめーの星なんだからな、クッソボケが! さっさと戻らなかったら今度こそぶち殺すぞ! ドグサレ女!』


「わ、わかってるってば~ じゃ~ 後は任せたわ~」




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