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1-6 2歳になった

日々、ポヤっと生きていたら、どうやら2歳になったっぽい


時々アイちゃんに色々教えてもらった知識によると、この星にも時間の流れを把握する方法はあるんだけど、暦がないみたい。アタシーノ星も太陽の周りを公転しているから、一年でちょうど太陽のまわりを一周するんだけど、季節がないから一年を把握しづらい。月も無いから夜は漆黒の闇だし、月で時間も計れない……


なので、夜になると見える星空で判断するそう。

でも細かくはわからないから、夜空に等間隔に並んで見える、金星と銀星と銅星を見て、金星が見え始めた後、しばらく経って銀星が見え始めたら、地球で言うところの4か月経ったとして時を数えているみたい。一年を三つに分けてる。


なにせ、月ばかりか、季節もない星らしいから、時間の感覚が全然わかんない。この星は地軸が傾いてないんだって。だから、季節も無いし、昼夜の長さが変化することもない。


あ、この星は地球よりだいぶん小さいんだってさ。でもちゃんと一日に一回自転してるんだって。なんか良くわかんないけど、地球と同じ時間が流れてるって話。


んで、良くわかんないまま、2歳になったらしい。


僕の住んでる大公家屋敷は、まぁなんというか、それなりに広いけどボロい。


大部分が石造りの平屋。屋根は木でできているから、公国ではありえない高級づくりだけど、天井がなくて屋根裏丸見え。ま、ログハウスみたいな感じ。


部屋はいくつもあるみたいだけど、ドアとかはあまり無い。当然窓ガラスなんかも存在してないから、夜になると窓には板をはめてる。夜は月も無く漆黒の闇だから、外から見えないようにってよりは、夜は寒いから防寒の目的がメインだと思う。


外につながる玄関にも木製のドアが一応あるけど、開けたことが無いから良くわからず。ま、これも大公家だけの贅沢仕様だけど。


部屋の中の家具は、ベッドとテーブルとチェアと各種の棚。以上。


これらも一応木製なんだけど、粗末な作り。ま、木製ってだけで以下略


食器も木製、カトラリーも木製、色も何もない木目で簡素なもの。ま、これも木製ってだけで以下略


衣服も、というか、服?って呼べるかな?


男も女もガサガサの大きな一枚布を体に巻き付けて終わり。色も自然色?リネン色?な感じ。


食事は……ご存じの通りで、相変わらず。


はぁ、これってポンペイよりもかなり低文明じゃね?


それよりさぁ、この世界って魔法が使えるはずなんだけど、全然魔法の気配が無いんだよね。


僕が魔法を使えることはわかっているんだけど、使い方はわかんない。


なんで、せっかく使いたい放題のサブスク魔法も、意味無し……


アイちゃんに訊いても、時が来れば使えます、としか教えてくれないし。




***




「母上~」


「あらミチイル、どうしたの?」


「僕、そろそろ外に行ってみたい」


「そうねぇ。屋敷から一歩も出たことがないものね」


「外は見えるけど、歩いたことが無いし、どんな世界なのか見てみたい~」


「じゃ、一緒に行きましょうか。でも、外では母上って呼んじゃ駄目よ。まだ公国内でも知られたくないから」


「うん、わかってる。救い主ってバレない様に頑張るね」


「じゃ、この布を頭に被って頂戴ね」




***




ワックワクしながら母上と一緒に、初めての異世界散歩。


屋敷の玄関のドア、蝶番とかなくて、出入り口に板をはめて金属の楔で挟んで固定してるだけなんだけど?


「母上~ このドア、中からは出られるけど、外からは入れないよね?」


「そうね、自分では開け閉めできないから、使用人が必要なのよ。だから平民の家にはドアはついていないの。平民は木材も使えないしね。それに勝手に外から中にも入れないのよ、外から楔は抜けないから」


「は~ なかなか考えられてるんだね~」


まさかの大公家贅沢仕様だった。


初めての異世界散歩は、なんていうか、気持ちが暗くなる一方の時間だった。


田舎だってのはわかっていたけど、想像以上に原始的。道路はケモノみちだし、都市計画?なにそれ食べられるの?みたいな。


平民の家は、大公家と同じく石造りで五軒くらい一緒になっている平屋の長屋。当然、窓ガラスもドアも無く、石の壁にぽっかり穴が開いているだけ。時折、穴を塞ぐムシロみたいな布?が垂れ下がっている。屋根は、木材が使えないから、何かの植物の茎?を葺いた茅葺?風な屋根がかかっている。その屋根を支えているのはセラミック?動物の骨?な素材。この長屋がたくさん並んでるだけ。ただそれだけ。


ちらっと中を見える範囲で見てみたけど、一軒につき部屋数は2つくらい。扉も無い玄関から家に入ったら、すぐに居室、奥にもう一部屋、終わり、な感じに見えた。


考えてみれば、火を使えないし調理らしいこともしないんだから、暖炉もキッチンもいらないんだな……



……キッチンが要らない生活……どさんこ王子としては、この言葉の重さに泣きそう。



風呂なんか当然ないんだろうし、トイレだって、大公家でもオマルにしているんだから、見てはないけど平民だって同じだろう。


ただ、水だけは潤沢みたい。


北の方から小川が流れてきていて、公都の中を何本かに分かれて流れている。


公都には店も無く、人もろくに歩いてなく、子供も遊んでない。




***




「ミチイル、どうしたの? 元気ないのね。あれだけ楽しみにしていたのに」


「うん、公国民の平民生活がとても厳しそうだから、気になって」


「さすが、救い主ね、と言いたいところだけれど、そんなこと、ミチイルが気にすること無いわ。天使様は、ミチイルが世界を救ってくださる、って言っていたけれど、ミチイルが居なければ世界が滅びる、ともおっしゃっていたわ。それはつまり、ミチイルは生きてここに居るだけで、世界が救われるのよ。だから、気に病むことはないの。やりたいことをやって、大きくなってちょうだい?」


「ぐすん。母上~」


「あらあら。ナデナデしてあげるから、ドン爺のところにでも行きましょう」




***




「ドン爺、お久しぶり」


「おお、マリア様、ご無沙汰様じゃな。そのお子は?」


「私の弟なのよ。お父様がエデンで……ゲフンゲフンな感じなの」


「ほっほっほ。ミリアン様が亡くなって大公も独りが長いからのう、大目に見てやって下され、マリア様」


「ええ、何も問題ないし、弟はかわいいから幸せよ。ミチイル、ご挨拶なさい」


「おはよ~(普通にしゃべったら不自然すぎるから幼児モードにしないと) 」


「ほほう、これはこれは賢そうな坊ちゃんじゃ(ん?金色の髪に青い目!なんと!) 」


「……ドン爺、色々言いたいことがあるとは思うけど、全部秘密よ」


「マリア様、心配はご無用じゃ。わかってるでの(エデン人にでも知れたらえらいことじゃ) 」


「ドン爺、何をしていたのかしら?」


「これから銅を叩いて、皿でも作ろうと思っていたところなんじゃ」


「あら、そう。お邪魔したわね」


( ! 鍛冶?金工?仕事? 見てみたい!)


『ヒソヒソ……母上、ドン爺の仕事、見てみたい……ヒソヒソ』

『わかったわ。頼んでみるから』


「ドン爺、お邪魔なのはわかっているけれど、その皿を作るところ、見せてもらえないかしら」


「お安い御用じゃ、マリア様」




***




ドン爺が、銅の板?を持ってきて、石でできた台の上に置く。そしてその小さい銅板を石で叩き始めた。


トントントン、トントントン


銅が打ち出されて、だんだん丸みを帯びてくるのだが、つい真剣になってガン見していると、ドン爺の手先に蛍光色のモヤモヤが見え始めた。すると、ドン爺の作業スピードが五倍くらいにアップし、みるみるうちに銅のスープ皿ができてしまった。


「すごい……」


「そうね。ドン爺は南にある村で鋳造と鍛冶の責任者だったのよ。今は引退して公都に戻っていて、無理のない範囲で仕事してるの。とっても腕がいいのよ。今でもこの国で一番ね」


「ほっほっほ、マリア様に褒めてもろうて、恐縮じゃわい」


「ドン爺、ありがとう。また来るわね」


「さよなら~」


「マリア様も坊ちゃんも、いつでも来てくだされ」




***




さっきのあれは、何だったんだろう。


モヤモヤが現れてから、明らかに作業スピードが上がってた。


普通の動きとは思えないレベルだ。少なくとも地球ではあり得ないレベル。


あのモヤモヤに何か秘密があると思う。


っていうか、秘密もクソも、魔法に決まってるんじゃない??




***




――ミチイルが、この世界で動き出す……




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