1-54 オープンハウス
大公家別邸を建てた後、北村へ戻る平民を捕まえて、大親方たちに木製家具を作って大公家別邸に納入してほしい旨の伝言を頼んだ。鍵は締めてないから、別邸に自由に入って、見合う家具を作ってもらおう。
後は、明日以降かな~ ということで屋敷に戻った。
次の日、とりあえず中央工業団地の区画だけ整理しようと思って、再度コーチ牛車で工業団地用地へ。
一応別邸の様子も見ようと思っていると、ピーター爺にドン爺、トム爺たち爺トリオが別邸で大騒ぎしているみたい。なんか話が長くなりそうなので、御者に、デザインや大きさは一切任せるから、応接セットやテーブル椅子ベッド机クローゼットを作って欲しいとピーター爺へ伝言を頼み、僕は工業団地の用地へ。
どのくらい建物を作るかはわからないんだけど、とりあえず1ヘクタールずつ道路で囲っちゃおう。100mおきに東西南北の格子状に道路を敷設していく。道路は、街道サイズじゃなくてコーチがすれ違える程度の、さながら住宅街の生活道路風なレベルの小道路にした。さて、どこに何を建設しようかな……
***
「このイモダンゴはとっても良いお味ね、ジョーン」
「はい、マリア様。タレに味醂を使ってみましたので。カボチャダンゴの方には、練乳をつけてみてください」
「誠に、この練乳というものは、甘くてとてもおいしゅうございますね、マリア様」
「ええ。特にイチゴにかけて食べると、イチゴも練乳もさらに美味しいわね、カンナ」
「それに、このお茶も、大変心落ち着くお味でございますし」
「そうですね! イモダンゴには特に合うと思います」
「ジョーン、言葉」
「まあまあ、いいじゃないのカンナ。今は貴女会なのよ。そんな堅苦しいのはよしてちょうだい。皆で楽しくお茶しましょう」
「ありがとうございます、マリア様」
「ところでカンナ、粉ミルクの件だけれど、やっぱりまだ母乳に問題がある民はいるのかしら?」
「はい。ここ数年は食べ物も増え、女どもも体力が増してはいますが、全員が全員、出産に問題なしとは行きません」
「じゃあ、粉ミルクはなるべく早く必要な民に行きわたるようにしなければならないわね。お父様は私に全部任せると言うのだけれど」
「マリア様は適任でございます。今やマリア様は民からの信仰も集めておいでですから」
「そうですよね! 救い主様の母君として信仰と崇拝を集めていますし」
「いやあねえ、すごいのはミチイルであって、私ではないのに」
「でも、最近ではマリア様が歳も取らず、逆に若返っている、神の御業だ、なんていわれていますしね!」
「あらやだ、ジョーン、それはカンナもジョーンも分家達の女も、皆そうじゃないの。椿シリーズを使うようになってから、顔も白くて肌も綺麗になったし、髪も艶々でしょう。わたしだけじゃないわよ」
「そうでございますね、婆のこの私でさえ、美魔女などと言われております」
「お義母さまはお綺麗です」
「ありがとう、ジョーン。あなたもミチイル様と同じ歳の子供がいるとは思えませんよ」
「ほんとうにねえ、私たち、ミチイルのおかげで若返ったわね」
「失礼致します」
「あらセバス、珍しいわね。なあに? どうしたの?」
「それが……交代で来た御者が言うには、公都の北に立派な屋敷が建っている、ミチイル様が一日で建てたようだ、と騒いでおりまして、一応マリア様のお耳にもお入れしておこうかと思いまして」
「あら、それはありがとう。きっとまたミチイルが工場?工業?何かの作業場を建てたのじゃないのかしら」
「それが……御者の話では、その屋敷に大親方達が集まって騒いでおりまして、何でも、ミチイル様がその屋敷に引っ越しをなさるらしく」
「えっ? どういうことなのかしら? ミチイルが大公家を出て行くっていうの?」
「私には詳細はわかりませんが、御者の話だと、どうもそのようです」
「こうしちゃいられないわ、すぐにミチイルの所へ行きましょう。ミチイルはその北の方にいるというのね?」
「はい。ミチイル様が道路を敷かれているようだ、との話でしたが……」
「カンナ、ジョーン、今すぐ行くわよ! コーチの手配をしておいてちょうだい、セバス」
「かしこまりました」
***
さて、道路はこれで良し、と。
ん? なんか馬車じゃなかったコーチがものすごい速さで近寄って来るんだけど……っていうか、牛って走れるの?
『そのようでございますね、救い主様』
「ああ、アイちゃん。なんか普通、牛って走らないよね?」
『この公国の牛は、マッツァを食べて能力が上がっているようでございます』
「え?」
「ちょっと~ ミチイル~ あなた~ ここで何をしようというのーッ?」
「あ、母上。……ま、コーチに乗るなんて僕か母上しかいないよね、そりゃ」
バタン!
「はあはあ……ミチイル、あなた家出をしようっていうの?」
「家出?」
「そうよ! 大公家を出て行くって噂じゃないの! わたしは許さないんだから! わたしの可愛いミチイルがわたしと離れてしまうなんて!」
「ああ、ちゃんと母上の部屋も用意したから、心配しないで~」
「え?」
「え?」
「私の部屋って、どういうことなのかしら?」
「だから、大公家の別邸を作ったから、僕と母上が引っ越す話なんだけど、違うの?」
「え? わたしはミチイルが家を出て行くっていうから、びっくりして慌てて来たのよ」
「なーんだ~ あ、そういえば僕、まだ何も言ってなかったね。家具とかが揃ってから言おうと思ってたんだけど」
「ということは、私とミチイルの屋敷ができた、って事なのよね?」
「うん。なんか大公が代替わりしそうって噂を聞いたからね、そうしたらパラダイスから伯父上一家が戻って来るでしょ? そうしたら、僕と母上が微妙な立場になりそうな気がしたから、別邸を建てて引っ越そうと思ってね。ここに中央工業団地を作って、あちこち散らばっている服飾と食品関係の工場をまとめて建てようと思ってるからね、僕の仕事を考えたら、その工業団地と近い方が都合がいいし」
「あらあらあら、そうだったのね~ ああ、良かったわ!」
「せっかくだから、別邸を見ていく? まだ家具も何もないんだけど」
「ええ、もちろんよ! カンナとジョーンも一緒に見ましょう!」
***
「んまあ! とっても広い敷地に、大きなお屋敷じゃないの!」
「うん。大きく見えるけど、今の大公屋敷の方が大きいでしょ?」
「ええ、それはまあ、そうだけれど、あそこにあるのは大公屋敷だけじゃないもの。セバス家も建っているし分家の屋敷も建っているし、全部を見たらとても大きな屋敷に見えるけれど、大公家部分だけを考えたら、このお屋敷とそう変わらないんじゃないのかしら」
「左様でございますね、マリア様」
「そっか~ 僕、相変わらず大公屋敷も全部、知らないもんね」
「まあ、ここが玄関なのかしら? 大きくて立派な扉が付いているわね!」
「誠でございますね、それに、屋敷のすべての窓にも立派な扉が付いてございますし」
「さ、中へ~」
「んまあ! 玄関ホール?というのかしら、とても広くて開放感があるわね」
「長い廊下が左右に続いておりますね」
「マリア様! 屋根が見えません! 屋根が見えないだけで、とても洗練された感じがしますね」
「あら? ほんとうね」
「うん。天井を貼ったんだよ。居室は全部、天井があるよ」
「こちらのお部屋はなんでございましょう? ミチイル様」
「あ、そこは食堂だね。家族がご飯を食べる場所。テーブルと椅子が入る予定だよ」
「あ、ではこちらがキッチンでしょうか?」
「うん、ジョーン。給食センターとほとんど同じキッチンにしたの」
「まあ、キッチンの外は、お庭なのね」
「うん、中庭と裏庭だよ。じゃあ、西棟の母上の部屋に行こう」
「あら、このお部屋はなにに使うのかしら?」
「あ、ここはサロンだね。椅子や小さいテーブルを入れて、お茶をしたり話をしたりする部屋」
「まあ、貴女会のお部屋ね!」
「ここでもお料理ができますね! かまどがありますし」
「キジョカイ……ジョーン、これはかまどじゃなくて、暖炉だよ。ここで薪を燃やしたら部屋が温まるの。夜はちょっと寒いでしょ。各部屋に暖炉があるよ」
「なんとまあ! 夜の寒さをしのぐために薪を燃やすとは、この歳になっても聞いたこともございません!」
「ハハ そしてこっちが母上の部屋。角部屋だから窓を二か所作ったよ」
「まあ、とても明るくて素敵なお部屋でございますね、マリア様」
「ほんとうね。近くに建物も無いから、とても静かで落ち着くわ」
「そして、向こうが僕の部屋と僕の研究室になる予定の部屋ね。じゃあ、東棟に行こう」
「ここは、何のお部屋?」
「ここは、応接室になるよ。テーブルと椅子とか入れて、来客の応対をする場所」
「こちらのお部屋は……なんでしょう? ミチイル様。見たこともないものが色々あります!」
「うん、ジョーン、ここはね、トイレと洗面所と洗濯室とお風呂だよ」
「……?」
「トイレは排泄場、洗面所は顔や手を洗う場所、小さいシンクがあるでしょ。洗濯室はあそこの大き目シンクで洗濯をする場所。そして奥がお風呂。この石のプールにお湯を溜めて、体をお湯に入れて、温まったり体を洗ったりするんだよ。洗濯室の暖炉があるでしょ? そこで薪を燃やすと、石のプール、浴槽っていうんだけど、そこに入れた水がお湯になるの」
「体をお湯に入れるなんて、想像もできないわね」
「ですがマリア様、顔や髪を椿シリーズで洗うようにして以来、婆の私も含め皆とてもきれいになりましたので、もし、体全部を洗うようになれば……」
「 !!!!! 」
「うん。毎日お風呂に入って石鹸で体も全部洗うとね、全部綺麗になるし、体が湯につかると血行が良くなって肌がキレイになったりもするよ」
「そ、それは、とてつもない事ですね!」
「ん、ん、んまあ! 何てことなのかしら! あら! そういえば昔にミチイルが言っていたのが、これね!」
「うん。楽しみにしといて~ じゃ、次ね。次の部屋は来客の部屋。誰かが泊まったりする時に使うの。そして、東棟の一番奥の部屋が、お祖父さまの部屋。お祖父さまが引退後、どうするのかわからないんだけどね、一応用意したの。お祖父さまが使わなかったら来客用の部屋だね」
「ま、お父様は引っ越してこなくてもいいわね。わたしとミチイルで暮らしましょう!」
「ハハ こんな感じかな。工業製造部に家具を依頼したからね、それができたら引っ越しできるね」
「楽しみね!」
***
その後はもう作業は止めにし、みんなで大公屋敷へ戻ることにして、帰って来た。
「ミチイル~ わしを置いて家出をするとは~ ほんとうかの~!」
お祖父さまが泣きそうになって叫びながら走って来たので、別邸の説明をし、事なきを得たよ。
ふう、ろくに作業も進まなかったのに、今日はとても疲れたよ……




