1-53 別邸
あの日は結局、新メニュー会は中止になっちゃった。
なんでも、過去、出産は命の危険が多くて、出産しても肥立ちが悪かったり、母親が亡くなったりして、母乳が満足に与えられずに死んでしまう子供も結構いたようだ。ここ数年は、お腹がいっぱいご飯を食べられるようになって、それも改善傾向にあり、人口も少しずつ増えてきているらしいんだけど、それでも母乳に代わる赤子の栄養手段があると、かなり違うのではないか、との事。
そういえば、母上の母親、僕のお祖母さまも母上を産んだ後、肥立ちが悪くて死んじゃったって話だったし……
大公家でさえそうなんだから、平民なら余計にそうだよね……僕、あんまり公国民と関わらないし、平民の暮らしも、ちゃんと理解できている訳ではないんだよね。
女神様は、人は救わなくてもいいと言っていたけど、食文化を広めるにしても国民が居ないとね、ダメだと思うから、僕は僕にできる事ならしようと思う。
ということで、粉ミルクはきちんと製造しないとならない。
ここの所、調味料も増えてきたし、今みたいに給食センターなんかの片手間で作っていては、平民まで満足に行き届かないからね、北部工業団地みたいに、食品製造の拠点を作ろうと思うんだ。
そして、そろそろ小麦も使わないと。とりあえず、魔法で簡単に粉にはできるんだから、やっぱりパンかな。でも、パンだとオーブンが必要だよね。手間暇もかかるしね、パン工場を作った方がいいかも知れない。幸い、熱源は使いたい放題あるからね、石窯とか作れれば、パンも焼けるんじゃないかな。
とりあえず、中央工業団地を作って、ここは食品関係と服飾関係の製造拠点にしようかと思う。そして、そこにパン工場も作ろう。給食センターも作り足そう。一か所じゃ足りてないしね。従業員がいるかどうかわからないけど、母上に相談して調整してもらおう。
母上は、今じゃ公国の女性たちを、まとめる感じらしいから。
そうそう、母上と言えば、僕のコーチを見てすぐに、自分のコーチも作らせたらしい。なんだかんだ言って母上は大公家の姫だからね、自分であちこち出かける訳ではなかったんだけど、ここ数年、忙しくしてるしね、茶の木畑とかも自分で確認とかしたいけど難しかったから、コーチで公国中を飛び回ろうとしてるみたい。
それで、大公家には牛と御者が常時詰めてくれることになった。いつも固定じゃなくて、北から公都まで運送してきて、大公家で入れ替わって、ちょっと休憩、そしてまた入れ替わりが来たら、荷物を積んで北へ向かう、みたいな運用らしいよ。牛も人も休憩になるなら、いいかなと思う。
はあ~ とりあえずお茶でも飲もう。
***
「ふ~ アイちゃんも実体があれば、お茶も一緒に飲めるのにねえ」
『ありがとうございます、救い主様。私めはお心遣いだけで、感無量にございます』
「アハハ アイちゃんは相変わらずだよねー でも、お茶もサービス?で召喚されて飲めるようになったし、焼き網魔法で茶こしも作れるようになって、水差しにセットして急須になったし、電気ポット魔法でお湯にもできるしね~ 便利になったよ……っていうかさ、今更だけど、この世界は電気が無いじゃない?」
『はい、救い主様』
「なのに電気ポットって魔法があるのは変だよねえ」
『何も変ではございません。以前も申しましたが、元々同じ力が地球では電力に、この世界では魔力に変換されておりますので』
「ああ、じゃ、魔法の名前は電気ポットだけど、この世界の実態としては魔力ポットって事なのね?」
『左様でございます』
「電気は無くても魔力が電気代わりか……魔力って、枯渇しないの?」
『使い終わった魔力は消滅する訳ではございません。再びこの星を循環しております。それに、この星の地中深くは魔力の塊でございますから、この星がある限り、魔力はいくら使っても枯渇致しません』
「北極の魔力山から魔力が溢れ出ているんだったよね……地球で言えば、油田があるようなものかあ。そう考えると、この北部一帯って、エネルギーの宝庫なんだよね、ん? エネルギー? 魔力って、エネルギーなの?」
『地球の電力相当ですから、エネルギーと言い換えても問題ないかと存じます』
「ああ、そう考えると、ガスコンロ魔法で火力を強くする時とかは、魔力を火力に変換しているんだね。弱火にする時はただ空気を薄くしているだけかも知れない。だから強火の時は魔力が多く使われているような感じで、弱火の時はほとんど魔力使われないのか……」
『はっきりとは申せませんが、魔力は無限の可能性があるのでは、と愚考致しております』
「ま、わかんない事を考えても仕方がないよね。でさ、僕、中央工業団地をね、僕独りで作ろうと思うの。僕なら材料が目の前に無くても何でも作れるでしょ? 民の力を使おうと思うとさ、すぐに出来ないし時間がかかっちゃうから……でもさ、僕がチートで作りまくったら、僕が死んだら困るでしょ? だからある程度は民たちだけで色々できるようになって欲しいんだけど……ああ、僕、何を言っているんだろう」
『救い主様は救い主様のしたいようになされば良いのです。何の躊躇も遠慮も必要ありません。救い主様が、この星から居なくなった後のことなど、考える必要はありません。それを考えるのは、あの女神の義務ですので』
「ハハ そっか。じゃ、好きな様にやっちゃおうかな~ ありがと、アイちゃん。僕、定期的にグダグダモードになっちゃう」
『救い主様の、御心のままに』
***
ということで、今日は中央工業団地を作ろうと思う。
場所は、色々考えたんだけど、テンサイ畑の南側、公都の市街地の北端のさらに北に作ることにした。公都の中は用地が無いしね、大きい道路も通せないし。
御者にお願いして、僕のコーチ牛車でテンサイ畑の南へ。
北からの南北街道がカーブしていって、公都の西側を迂回する部分を直角のクランクにして街道を引き直す。アタシーノ川の西側ね。なにせ、川を渡る手段があまりないから。今はブドウ畑と茶の木畑が川より東側にあるだけ。公都の中もそうだけど、東側のそこに行くのは川の中に大きくて平らな漬物石を並べて、人が飛びながら渡っているからね、かなり大変……っていうか! 僕、今きづいたよ。橋が無いじゃん! まあ、今までは橋を作りようが無かったけどさ、川の中にデカい漬物石を並べてるんだから、その上に丈夫な木の板を渡せば橋になるじゃん! 木材の自由が無かったから、気づくの遅れちゃったよ。早速、工業製造部にお願いしよう。
南北街道は、中央工業団地用地の東側と南側に接した後、直角に南に折れて南下して公都の西側を通る感じになった。
さて……アタシーノ川は水量は常に一定で、洪水などの心配も無いし、工業団地東側は僕の住む家を作ろうかな~ 今の大公屋敷も色々作ったから周りが狭くなってね、コーチも自由に出入りできないし、なんかそろそろ大公が代替わりしそうな気配なんだよね。代替わりするという事は、いまパラダイスにいる伯父一家が戻ってくるって事だけど、僕、まだ会ったことが無いんだよね。伯父一家が戻ったら、母上と僕は、なんか微妙な立場じゃない? だから、大公家別邸を作ろうと思うの。
とりあえず、中央工業団地の敷地は、南北街道に東と南の二面で接地する南北500m東西1kmの用地だから、その角っこの1ヘクタールを大公家別邸にしよう。この別邸用地から南に1kmちょっとで現大公屋敷、北に1kmほどでテンサイ畑。中央工業団地は、公都市街地の北端と街道で向かい合ってる感じね。
とりあえず、別邸敷地をブロック塀で囲む。敷地南側中央に切り込みを入れて出入り口にする。
屋敷は、とりあえず母上の区画と僕の区画と来客用の区画とパブリックな区画、そして一応お祖父さまの区画も用意しようかな。
中庭欲しいし、裏庭も欲しいし、研究用の畑も裏に作って~ 逆コの字型の建物にしよう。正面は玄関ホールでしょ~ その左にサロン、右に応接室、玄関ホールの奥側は食堂とキッチンに。それらにつなげて、西棟はサロンの西に母上の部屋、その北に僕の部屋、さらに北の奥に僕の研究室、東棟は、応接室の東にサニタリーを作る。そのサニタリーの北側に客室、そのさらに北の奥はお祖父さまの部屋にした。これらの部屋は建物に合わせて逆コの字型の廊下で接続させる。廊下にはもちろん窓をつけるよ。窓が無いと暗いからね。あ、そうそう、随所に燭台を置く場所もつけよう。夜も暗いからね。
サニタリーには、トイレと洗面所、洗濯室、そして、待望のお風呂! 燃料が使いたい放題だからね~ キッチンと接する中庭に、井戸と燃料庫を作って、井戸の水はキッチンとサニタリーへ銅で作ったそうめん水道管で供給。井戸は自噴井戸だから、井戸を石で囲って蓋で密閉して水道管を繋げたら、ちゃんと水道管に水が供給されて流しっぱなしにもできるようになった。もちろん、水道管の先に魔力を流せば水を止めたり流したりもできるよ! もちろん排水設備完備。浸透桝は後で屋敷裏に作ってもらおう。
風呂は石造りの浴槽にして排水口に木の栓、浴槽横には小さい穴を上下二か所開けて水が漏れないようにぴっちりと流しそうめん銅管を接続、風呂場横の洗濯室に作った暖炉に銅管を回して、ここで薪を燃やして風呂を沸かす。いわゆるバランス釜ってやつね。それ以上は作れる気がしないもん。暖炉と煙突は漬物石で作れるからね。
もちろん、玄関や部屋には扉をつけて、窓にも扉をつけたよ。給食センター魔法を一部、扉部分だけ使うイメージでできた。ほんと、何でもありだよね……それで、キッチンはもちろん、給食センター魔法でキッチンだけ再現。小さめ冷凍庫と冷蔵庫に燃料庫に保存庫にシンク、排煙加熱設備もついた、給食センターと同じ感じのキッチンにした。この屋敷にはちょっと大きすぎたね……後で誰かに穴を掘ってもらって浸透桝を作ろうと思っていたけど、給食センター魔法で浸透桝だけ設置できたよ。後は、工業製造部に依頼して、テーブルセットに応接セット、机と椅子、ベッド、クローゼットなんかを木材で作ってもらって、各部屋に設置してもらおう。多分、できると思うんだ。
各部屋に、小さい暖炉もつけたよ。夜はそれなりに寒いからね。
これで、壁と床は石造り、玄関扉と扉窓完備、居室には天井板設置、屋根は鉄骨柱と竹板で三角屋根を作ったあと、さらに銅板葺きにした。屋根裏は今のところ未使用。何気に屋根裏とか世界初かも。こうして、逆コの字型平屋建て大公家別邸の、完成です!
いつものことながら、石と木材とか、どうやって接着してるんだろうね。釘も見当たらないし、僕が見てもわかんない。おかしいよね、僕が作ったのに。
あ、敷地入口に御者待機スペースと、ちいさい牛舎もつけて、敷地内も石畳道路を設置したよ!
使用人がどうなるか、わからないけど、もともと最近はカンナもジョーンも屋敷で侍女の仕事してないからね。平民の女性がメイドを日替わりでしてくれているから、数人も居ればいいかな。食事とかは僕も作れるし、洗い物や掃除はイメージ次第で殺菌消毒魔法で行けるし、洗濯だっておしぼり業者魔法で行けるし、薪を燃やした灰は庭に捨てればいいし、野菜とかのゴミもコンポスト魔法で処理できるし、トイレ作ったからおまるの処理も必要ないし、何なら使用人も必要ないかも。あ、トイレは洋式便器に穴があるだけなんだけど、多分地中に勝手に滲みて分解されると思う。
そうだ、燃料と食物は毎日配送してもらわないとダメだよね……
母上に任せよう!
さすがにちょっと疲れたけど、こんな屋敷を半日で独りで建築できる僕って、化け物じゃない?




