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1-47 9歳になった

そんなこんなで9歳になった。


麹菌が来てからというもの、やる事が多すぎて、あっという間だったよ。


唐揚げが登場してから唐揚げ狂乱が起きちゃって、給食のメニューはずっと唐揚げ中心。そして廃油も毎日出るから、それで石鹸も作って、民に石鹸が行きわたりだした。


菜種油だけだと不足気味になったから、綿実油も揚げ油に使いだした。もちろん、アブラナも綿花も増産中。そして鶏肉も増産中。


そして、椿の花が欲しいと母上が言うので、種をとって北のブドウ畑の近くに、山椒とともに植樹。促成栽培スキルも、もちろんして、今じゃ山椒ともども花も種も採れるように。


今じゃ高貴な女性たちが使う石鹸は、原料が椿油で花の香りだよ。リンスも椿油だし、今まで以上に美容効果があると感じるらしく、今じゃ量が少ない椿製品はご禁制品だよ、まったく。


なんで、今まで一緒くたにして家畜のエサになっていた、ブドウの種からオイルを絞ることにした。ワインの搾りカスから抽出魔法で種だけ抽出してグレープシードオイルを作って、石鹸用に使ってもらう。さすがにカスから手で種を探し集めるのは効率悪すぎるから、抽出魔法が成分だけじゃなくてモノも抽出できて良かったよ……


そうだそうだ、椿の葉っぱも確認しないとならなかった。ま、今度にしよう。


そして、牛乳からヨーグルトが作れることも判明。乳酸菌はどこかにいたもよう。


甕に入れて運搬していた時にはできなかったんだけど、牛乳を木の樽に入れてみたの。そしたら、一晩経ったらヨーグルトができた。なぜだ。


このヨーグルトを布に乗せて水分を減らしてチーズも作り始めたから、ヨーグルトはチーズ用に使っている事が多いかな。ヨーグルトとしての流通は難しいしね。本当はチーズを作る時にレンネットってのを使うんだけど、これ、子牛を〆ないとならないからね、乳酸菌で牛乳を固めることにしたの。出てくるホエーは家畜飼料に混ぜてるよ。


そして、今まで気が付かなかったんだけど、牛乳を運搬中に脂肪が固まってバターができてた。バターの存在を教えてなかったからね、みんなただの沈殿物と思って、べたべたするゴミ扱いされていたよ……


なので、バターも集めて塩をして、甕で冷蔵保存している。


ここまでは、家畜農場部に丸投げ。


バターがあるということは生クリームもあるはずだけど、それは牛乳と混ぜ混ぜして消費している。でも牛乳自体が人気無いんだよね。そのうち何か考えよう。


なにせ、麹仕事がまだ残っているんだもん。


味噌と溜まり醤油は順調。ジョーンだけじゃなくて、麹培養の作業員も味噌を仕込んでいるしね。魔法があれば、独りでこなせるから。


そろそろ日本酒、は無理でも味醂が欲しい。


いや、欲しいものはたくさんあるんだけどね……スキル、使っちゃおうかな……




***




「ねえアイちゃん」


『はい、救い主様』


「そろそろ異世界食文化召喚、使えないかなー?」


『はい、問題ございません』


「あ、そう? うーん、どうしようかな……食べ物にしようか……燃料にしようか……うーん」


『両方とも召喚すれば良いのではないでしょうか』


「え? そんな事、していいの?」


『はい、何も問題はございません』


「女神様の力が減っちゃうじゃない」


『あの女神(くそ)連絡が取れない(ひるねしている)ままですので、一切問題はございません』


「そうなんだ……こんなに長い間、この世界の事をチェックしなくてもいいなんて、さすが神だよね」


『私めがおりますので。……そろそろ戻ってくる(めがさめる)のも近づいているような気も致しますが、私めには推し量ることはできません』


「そうだよね、神のすることなんだもんね。じゃ、遠慮なく!」


「 『異世界食文化召喚スキルで筍いっぱい元気な竹!』 ヘイ!」


――ピッカリンコ パララッ


「おお~ お? これって、竹の種?」


『だと思われます』


「米みたいね。あ、そういえば竹ってイネ科とかなんだったような」


『米の時より種の数がございますから、ひとまず品種改良なさってみてはいかがでしょう』


「うん、そうだね。でも、竹は家の近くに植えちゃいけなかったはずだから、うーん、また北に行かないとダメかな……ま、とりあえず置いておこう。続いて~」


「 『異世界食文化召喚スキルで高収量で丈夫な小麦!』 カモン!」


――ピッカリンコ ザザザ


「おお、小麦は結構な量が来たね。これも……どこで品種改良しよう。大公屋敷もね、昔と違って色々作ったりしてるからなぁ、スペースがもうあんまり無いし。公都から離れればいいんだけど、僕ひとりじゃどこにも行けないし……これも北に行ってからやろうかな」


という事で~




***




「トム爺、なんか久しぶりだね~」


「カッカッカ! ぼっちゃん、元気じゃったかの!」


「うん。ここの所ずっと忙しかったからね、公都からぜんぜん出られなかったよ」


「カッカッカ! またまた美味いものを作ったと評判じゃぞ!」


「ハハ 今日もね、新たに実験したいことがあってね、でも広い場所が必要だから、また北の荒れ地に行きたいの。でもね、僕、本当に大きくなったからね、トム爺におんぶしてもらうのも限界だと思うんだ」


「カッカッカ! そう言うじゃろうと思うての、今日はリアカーを持って来たんじゃ!」


「あ、リアカーに乗って引いてもらえば、少なくとも重さは大丈夫だよね! じゃ、ちょっと待ってて、敷物持ってくるから~」


「おう! 急がんでもええぞい!」




***




「リアカーに乗ったのは初めてだけどさ、あんまり乗り心地は良くないよねえ、やっぱり。石畳だからマシとはいえ」


「カッカッカ! そりゃ荷物用じゃからかの! そもそも人が乗るもんなんて見たこともないがの!」


「え? そうなんだ。馬車とか、っていうか牛車? 無いのか……作るのもいいかな」


「カッカッカ! 坊ちゃんの作るもんなら、さぞかし便利なもんなんじゃろうな!」


「そうだね……木がたくさん手に入るようになったら、考えよう。それでさ、トム爺、悪いけど途中で椿の林に寄ってもらえる?」


「合点!」


「あ、椿が見えてきた~ ずいぶん花が咲いているね」


「そうじゃな! 辺りは一帯、ええ匂いがしとるぞい!」


「うん、じゃ、ちょっと降ろして~」


「おう! 気をつけて降りるんじゃぞ! カッカッカ!」


「椿も、常に新芽が出ている状態だね。やっぱり季節も無いからかなぁ……ブチッ……これ、やっぱりお茶な気がする」


「お茶とは何じゃったか? 坊ちゃん」


「うん、結構前にね、レモングラスをお茶にしようとしたけどさ、なんか人気がでなくてね、結局今じゃ、家畜のエサとソーセージのハーブと、燻製の燃料の一部になってるでしょ」


「おお、あん草かの! 筋張って硬くて食えんが、匂いはさわやかな草じゃけどの! 湯を沸かして草を煮てまでして飲むほどでも無かったの! カッカッカ!」


「うん。でも、お茶ならね、飲み物として水の代わりに飲むと美味しいし、体にもいいし、何より一回水を沸かすからね、衛生的っていうか」


「おお、そんなもんかの!」


「うん。今この椿の林は誰が管理しているの?」


「管理っちゅうか取り仕切っとるのはマリア様じゃの。実際に花を摘んだりしているんは、家畜農場部じゃ」


「そっか、母上が仕切っているのか……最近忙しそうだなとは思っていたけど……とりあえず、このお茶を試してみよう。トム爺、悪いけどさ、この椿の木の若葉ね、なるべく先端の色が薄くて柔らかい葉っぱ、これを集めてもらえる?」


「合点じゃ! おい! そこの!」


「はい、大親方」


「椿の木の先端の、色の薄い若葉をたくさん集めて持ってこい!」


「ごめんね、よろしく。それで、トム爺には湯呑を作って欲しいの。僕はその間にヤカンを作って……水は……あ、熱源も必要だよね。電気ポットも無いんだし」




***




――ピロン 電気ポット魔法が使えるようになりました。熱源が無くても湯を沸かせます




***




「あ、水があればいいかな~ ここってアタシーノ川の水、引いてあるんだっけ?」


「水はブドウの方にはあるの! おい! お前! 水を甕に入れて持ってこい!」


「ほんと、ごめんね、よろしく。なぜかわからないけど、この世界って、井戸もないもんね」




***




――ピロン 井戸スキルが使えるようになりました。安全でおいしい水が湧きます。地の魔力がある限り枯れません




***




「……さ、とりあえず、ヤカンっていうか、銅の水差しでも作ろうっと。 ピカッ これでよし! ええっと…………『井戸スキル』 」


ピッカリンコ プシャー 


「おおおお! 水が地面から吹き上げてきたぞい! さすが坊ちゃんじゃの! 正しく神の御業じゃ! カッカッカ!」


「……いいのかなあ?」




***




『何も問題はございません』


『ああアイちゃん。ちょっとご都合主義が過ぎる気がしない?』


『この世界そのものがご都合主義で出来ておりますので、何も気に病む必要などございません』


『アハハ、そっか~ じゃ気にしない~ ありがと』


『救い主様の御心のままに』




***




「……とりあえずトム爺、この噴水……じゃなかった、自噴井戸の周りを石で囲っちゃうね」 


ピカッ ガコッ


「おお、これはまるで、エデンの泉が小そうなったようじゃの! カッカッカ!」


「そうなんだ。僕、見たことが無いからね。とりあえず、この水差しに井戸の水を入れてーの、 『電気ポット』 」 


ピカッ ホカホカ 


「大親方、椿の若葉を持ってきました」


「おう、ご苦労じゃの。ほれ、坊ちゃん」


「うん、ありがとうね。生のままでもお茶が出そうだけど、一応乾燥させてみようかな。 『干物』 」 


ピカッ カサカサ


「いつみても坊ちゃんの魔法は見事じゃの! カッカッカ!」


「うん、じゃ、この乾いた葉っぱをホカホカのお湯に入れて、少し待つ。トム爺、作った湯呑をちょうだい」


「おう! これじゃ!」


「トム爺も、綺麗な陶器をつくるよねー んじゃ、この湯呑に水差しのお湯をいれて、と。トム爺も飲んでみて~」


「ふむ。これは何だか落ち着く味じゃの……」


「お、これは本当にお茶だ! 特に加工もしてないから、番茶っていうのかな、四国の方とかにこういう番茶、あったね……みんなもこのお茶、飲んでみて~」




***



――アタシーノ星に初めて、食料ではない純粋な嗜好品が誕生した




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