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1-45 再・異世界定番のお品

麴菌を安定的に増やさないといけないから、麴室を麹菌作業場に増築した。ま、部屋を一つ繋げて、冷蔵庫と冷凍庫を麴専用に作っただけだけど。


そこで麹菌を醸造スキルで培養していると、リサが来たという。




***




「あ、リサ~ ちょっとぶり~?」


「はい、ミチイル様、毎日伺いもせず、申し訳ありません」


「いやいや、リサの農業部は忙しいもんね。いつもいつも作物増やして、ごめんね。でも、これからも増えちゃうと思うけど」


「とんでもないです! 作物を作るのは楽しいですし、今では公国民が皆、こぞって手伝ってくれますから」


「ハハ そうみたいだね。農業系の魔法は、なぜだか使える人が多いもんね。魔法があれば作業は短時間ですむから、収穫したものを運搬する方が逆に大変かも」


「運搬も、リアカーができてから格段に楽になりました。リアカーは何人分もの荷物を運べるのに、必要な人間は一人だけですから。それに担いで運ぶよりも、ずっとずっと楽ですし」


「そう、それなら良かった~ じゃ、あまり大変な事は無くなったの?」


「はい。まだまだ余裕があるくらいですが、種まきの前が、大変と言えば大変かも知れません。土を耕さないといけませんので、その時は、できるだけ大人数で一気に耕すようにしています」


「ああ、そうか、田んぼも畑も種まきも収穫も魔法でできるけど、土は耕さないと、そりゃダメだよね。根菜もあるし」


「はい。耕さなくても作物は育つのですが、大きさや形に影響がありますので……ですけど、ジャガイモを収穫した後は、土が耕された状態と同じになりますので、ジャガイモの畑をあちこち移動させながら、ジャガイモを収穫した後に違う作物を植えたりいています」


「へえ、輪作だ。輪作っていうのはね、同じ畑で同じ作物を作り続けると作物がだんだん育ちにくくなったりするからね、育てる畑をを入れ替える事なんだ。それをリサは言われなくてもしているなんて、すごい!」


「いえ、そういう知識はありませんでしたので、ジャガイモ収穫後の畑が、土が掘り起こされて丁度よかっただけです」


「僕が魔法を使うと、なんでも一瞬で結果がでちゃうから、そういうことは気づきにくいんだよね。リサ達が魔法を使うと、一瞬では終わらないんだよね?」


「はい。使える魔力の量が人によって違うようで、魔法が及ぼす範囲とか威力とか、そういうのには個人差がありますけど、私たちが魔法を使う時は、本来何時間もかかる作業が目にもとまらぬ程の速さでどんどん進んでいく感じです」


「うーん、早回しみたいに作業が進んでいくのかな。僕の一瞬とは、何が違うんだろう……ま、後で考えよう。ということは、ジャガイモを収穫する時は、ジャガイモが土からどんどん出てきて集まってくる感じなの?」


「はい。まさにそのような感じです。なので、ジャガイモが土から出た後は、畑は耕された状態になります」


「そうなんだ。ジャガイモでそれなら、ゴボウならもっといいかも……ゴボウは根が深いから、ゴボウ掘りが大変だけど魔法があるからい」




***




――ピロン ゴボウ掘り魔法が使えるようになりました。ゴボウが掘れます




***




「いか……うん、ありがとう。でもゴボウはここには存在してないんだけど、スキルが探してくれるかな……って、無い作物が掘れてもさぁ……ああ、ゴボウ掘りね、ゴボウ掘り。土が深ーく掘れるもんね。リサ、収穫しなくても畑を耕せる魔法を後で教えるから、それで試してみてくれる? ジャガイモよりも深く耕せると思うから。でも、輪作は続けてね」


「はい、かしこまりました」


「話は大分それちゃった気がするけど、今日は何か用事があったんじゃないの? わざわざ来てくれて」


「あ、そうでした。ミチイル様が、米に関係した新しい作業員をお求めと聞きましたので、心当たりの者がいましたから」


「そうなの? 米の作業に心当たりの者?」


「はい。その男性は職人ではないので技術は何もないのですが、米を扱うのが好きらしく、というか、ご飯が好きなんでしょうね、ミチイル様の新しい事業にどうかと思いまして」


「技術はね、何も無くても適性っていうか、好きとか興味があるとか、そういうのが一番大切なんだよね。何か好きなものとか努力してきたものとか、そういうのがあると、その関係の魔法に適性があることが多いから」


「はい。私も草好きが高じて、農業を任せていただいております。農業系の魔法は多くの人が使えますけど、範囲と威力では誰にも負けません!」


「そうだね、リサは農業関係の魔法は公国一の達人だもんね。じゃあ、後日でいいから、その人をここに寄越してくれる?」


「かしこまりました」




***




リサにゴボウ掘り魔法を教えたら、嬉々として戻っていった。


そして後日、麹菌培養作業員としてやってきた男性に、麹菌の培養作業を教えた。麹菌は、日持ちがするように蒸し米で行うようにしたんだけど、その蒸し米、水に充分浸した後に圧力鍋魔法でできる事が分かってね、その男性も圧力鍋魔法が使えるようになったから、作業は簡単なの。蒸し米に、前に培養した麹菌を混ぜて、後はときどき空気を入れるように適当に混ぜたらいいだけ。一日後には蒸し米に麹がびっしりなの。やっぱり魔力があるせいか、僕が魔法を使って増やしたせいなのか、地球より、かなり早く麹菌が増えるからね、麹菌の培養作業は全部、その男性に丸投げすることにした。


さて、そろそろ懸念事項を一つ、片付けよう。




***




と言うことで、給食センターの定休日。



「お待たせ~ カンナとジョーン。忙しいのに悪いね」


「いえ、とんでもない事でございます、ミチイル様。マリア様もごきげんよう」


「ふふ、カンナが給食センターにいると、何か不思議な感じがするわねえ」


「はい、私も、ここのキッチンに足を踏み入れるのは初めてでございます」


「ここはジョーンに任せているからね、カンナは服飾で大忙しだし」


「ジョーンがミチイル様のお役に立っているようで、安心致しました。ジョーン、精進するのですよ」


「はい、お義母様」


「じゃあ、今日はね、異世界定番の石鹸を作ります!」


「……石鹸とは、前に公都を散歩した時に話していたものね? ミチイル」


「うん。頭や顔や手や体を洗ったりね、洗濯に使ったりするの。石鹸を使うと、とてもきれいになるよ。油のよごれも取れるし」


「ああ、料理を大量にするようになってから、服や割烹着についたよごれが取れなくて取れなくて……色も変になって、どんどん汚くなってしまってます」


「ジョーン、言葉遣い。もっと精進なさい」


「ハハ いいんだ、カンナ。みんなにも普通にしてもらっているからね。それでね、今日は石鹸を作る魔法を教えたいと思いまーす。ジョーン、綿実油とかまどの灰を用意してくれる? ありがとう。じゃ、行くよ~ 『廃油石鹸』!」


ピカッ ゴロゴロゴロ


「はい、一丁上がり!」


「ミチイル、何かしらこれ? なにか石みたいなのがゴロゴロ転がってきたけれど」


「これが石鹸だよ! ジョーン、汚れた布を持ってきてくれる? うん、シンクの桶に水と汚れた布を入れてね。そして石鹸を横に置いて~ さあ、またまた新魔法でーす!『おしぼり業者』!」


ピカッ ボテッ


「あら?あら? なんだか布が元々の色になって、絞ってあるわねえ」


「そうでございますね、マリア様。後はこれを干すだけ、なのでございましょうか? ミチイル様」


「うん、もちろん干してもいいんだけど、もっといい方法があるよ、カンナ。さあ、本日三つ目の新魔法! 『干物』!」


ピカッ パタパタ


「うわー、布が一気に乾きました! 油のネトネトも無くなって色も綺麗に!」


「ジョーン、言葉遣い」


「まあ、本当に! ミチイル、もしかして今日の魔法で洗濯が全部終わっちゃうってことなのかしら」


「うん、そうだよ。これをみんなが使えるようになったら、洗濯がとても速く楽になると思うんだ~」


「はい。これは速く楽に、という範疇を超えております、ミチイル様。この魔法があれば、公国の女たちの仕事が、わずかな時間で終わってしまいます。服飾仕事に使う時間が、大変増えると存じます」


「うん、平民の女性たち、あ、もちろんカンナもジョーンもだけど、洗濯にかかる時間と手間が結構多いでしょ? これでみんなの時間が増えると思うんだ」


「料理の時間も、もっと増えます!」


「ジョーン、言葉。ミチイル様、食物ばかりか、私どもの仕事にまで御心をくだいてくださり、感謝の言葉もございません」


「ハハ カンナは相変わらずだね~ とりあえずね、給食センターでね、営業が終わった後の片づけの時に、この洗濯系魔法をみんなに教えてもらえる? ジョーン」


「かしこまりました」


「石鹸はね、油がたくさん必要だから、国で作って支給することにしようと思うの。それでね、今は綿実油で作ったけど、廃油で作ってもらおうと思うんだ。綺麗な油はもったいないからね」


「ミチイル、廃油ってどこからくるのかしら? 捨てるような油なんて、見たことがないけれど」


「うん、それはね、給食センターの新メニューにもかかわってくるんだけど、その新メニューを作るとね、使い終わった油をたくさん捨てることになっちゃうからね、それを使うの」


「油を捨てるなんて! 行燈油とかに使えは良いのではないでしょうか?」


「うん、ジョーン、いい着眼点だね! でもね、料理に使って捨てる油を行燈にするとね、家じゅうが臭くなって気分が悪くなっちゃうんだよ」


「ミチイル様のなさることに、余計な口を挟むものではありません。ジョーン!」


「はい、申し訳ありません」


「ハハ 油を捨てるのは勿体なかったからね、今まで迷ってたんだけど、廃油の使い道ができたからね、新しい料理を解禁する事にしたんだ~」


「まあ、それは楽しみね、ミチイル」


「うん、それは後日にするんだけど、母上たち~、今日の石鹸は、まだ量が少なくて貴重な綿実油でつくったからね、洗濯にはもったいないから、顔や手を洗う石鹸にしようと思うの~ お風呂は無いからね……とりあえず、シンクの桶に水をいれて、顔を洗ってみて~ あ、僕が最初に使って、使い方を教えるね」


「ふふふ」


「まずね、桶の水を手ですくって顔全体にパシャパシャかけまーす。その後、この石鹸を手にとって水をつけながら手と石鹸をこすりまーす。泡がモコモコしたら、この泡を顔に付けて顔全体を泡で撫でまーす。……モゴモゴ……パシャパシャッ ジョーン、布ちょうだい~ ふう、泡で顔を撫で終わったら、後は水で泡を綺麗に落としまーす。泡がきれいに顔から無くなったら、布で顔を拭いて、完成です!」


「まあ!まあまあまあ! ミチイルの顔が、さらに白くなっているじゃないの!」


「……誠でございますね、マリア様。もともと麗しいミチイル様が、さらに赤子のような……」


「うん、生まれて初めて石鹸で顔を洗ったよ。なんか、生まれて初めて洗う、っていう言葉も、生まれて初めて使ったよ」


「ミチイル様! わたしも試してよいでしょうか!」


「もちろん、母上もカンナもジョーンも、顔を洗ってみて~」



パシャパシャ モコモコ パシャパシャ



「 !!! 」




***




――アタシーノ星に、美容という概念が、生まれてしまった




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