1-44 味噌醤油
「はい、味噌ができました~ そして、上に溜まった醤油を掬い取ります、っていうか、時間も経ってないのに、なんで上に溜まりが……? ま、今はいいや。では、早速この味噌を使って、新しい料理を紹介します!」
「本当は、味噌を仕込むのに何時間もかかって、そのあと、一か月とか保管しないとならないのでしょ? それをミチイルの魔法だとすぐなのね……」
「ミチイル様ですから、マリア様」
「はい、早速ですが、とてもシンプルかつ強烈に美味しいものを作ります。まず、塩をつけずにおにぎりを作ってくれるかな? はい、ありがとう。それでは、そのおにぎりに味噌を薄く塗ってくださーい。はい、ありがとう。それで、味噌を塗ったおにぎりを金串二本に刺して、かまどの火で炙ります。火を直接つけないようにね。味噌が美味しそうに焼き色がつけば、味噌焼おにぎりの、完成です!」
「まあ、何かしら、この香ばしい?香り」
「本当に。道行く人も入ってきそうな匂いです、マリア様」
「では、いただきまーす!」
「まあ! おにぎりがこんなにも濃厚な味になるなんて……」
「ご飯と味噌は、とてもいい組み合わせですね。匂いも強力です」
「あー、これこれ。懐かしい。これは冷めても美味しいよ~ ちょっと炙るのが面倒だけどね。では、次!」
「まず、新野菜のニンニクを少々、ボウルに入れて石臼しまーす。ニンニクがペーストになったら、味噌と砂糖を同量入れまーす。そして石臼で混ぜまーす。そしたら、ちょっとだけ厚めに切った豚肉をフライパンで焼きまーす。豚肉が焼けたら、さっき合わせた味噌を上に塗りまーす。蓋をしないで焼き続け、上の味噌が温まったら、豚肉の味噌だれ焼の、完成でーす!」
「まあ、これは味噌は焦げてはいないけれど、ニンニクの匂いが良い感じに柔らかくなったわね。味噌は加熱するのが美味しいものなのね」
「塩だけで豚肉を焼くのとは、別物ですね、マリア様」
「うん、味噌は加熱してもいいんだけど、そのままでも美味しいんだよ。では、次!」
「味噌を器にちょっとだけ盛り付けます。そして横に、キュウリを縦に細く切ったものを並べます。そして、そのキュウリに味噌をちょっとだけつけて食べます。はい、キュウリの味噌スティックの、完成です!」
「あら、キュウリは漬物とサラダしか無いものだと思っていたけれど、味噌をつけただけなのに、全然感じが変わるのね。でも、これもサラダと言えばサラダなのかしら」
「生ですから、サラダと思えますが、塩ともドレッシングとも違いますね。味噌の風味が直接感じられますが、キュウリの水分があるので、ちょうど良い味になってます」
「さ、お次は、漬物を作りたいと思いまーす。まず、ナスとキュウリとニンジンを細かく切ります。微塵切りでは無いので、石臼ではなく、スライサー魔法で切ってくださーい。そして、全部野菜を切ったら、味噌を適量と砂糖を少し入れて混ぜまーす。しばらく置いたら、やたら漬けの、完成でーす!」
「これは、味噌味のお漬物なのね、ミチイル。何だか年寄りが好きそうな気分になってくるわ」
「そうですね、これは温かいご飯の上に乗せて食べても美味しそうです」
「はいはい、では、次! まず、アオネギを微塵切りにしまーす。これも石臼魔法より、スライサー魔法がいいと思いまーす。そして、ネギと同じくらいの量の味噌と味噌の半分の量の砂糖を全部混ぜまーす。そしたら、おにぎりを握るのですが、その時、ご飯の真ん中に、この合わせた味噌を入れて、入れた味噌をご飯で包むようにして、おにぎりにしまーす。はい、ネギ味噌おにぎりの、完成です!」
「まあ、おにぎりって、中に何かを入れてもいいものなのね! 味噌とネギって、とっても美味しいわ」
「本当ですね、味噌も匂いが強くて、ネギも匂いが強いですけど、二つ合わさると良い感じに落ち着いた味です」
「はい、次は、フライパンに油を多めに入れて火にかけまーす。そこへ、ナスを一口大に切ってどんどん入れて、炒めまーす。ナスが綺麗な色になって、少ししんなりしてきたら、そこへ味噌と砂糖を同量、いい感じに入れまーす。ガスコンロ魔法で強火にし、手早く上下を返しながら水分を飛ばしまーす。水分が少なくなったら、ナスの味噌炒めの、完成です!」
「んまあ! ナスの炒め物も、ナスと油が一緒になって、とても美味しかったけれど、ナスと味噌の相性も最強だわ!」
「ほんとうに、驚きです。ナスはあまり味のしない野菜ですが、そこに味噌が入り込んでいて、ご飯が欲しくなってしまいます」
「はーい、では最後にもう一品! 昨日から水に浸けておいた昆布一枚と、昆布が浸かっていた水を小鍋に入れて、火にかけまーす。沸騰したら昆布を取り出し、そこへ味噌を少しずつ、しょっぱくならない程度に入れて、味噌を良く溶かしまーす。ひと煮立ちしたら、小さく切ったワカメとアオネギを入れまーす。スープ皿にもりつけて、ワカメとネギの味噌汁の、完成です!」
「ほう。なんだかほっこりするスープね。やさしい味だわ」
「はい、マリア様。いつものスープよりも、ずっと美味しいです」
「ほえ~ 久しぶりに味噌汁飲んだよ……ああ、鰹節欲しい~」
「ミチイル、わたし、もうお腹がいっぱいなのよ」
「私もです」
「じゃ、料理はやめて、仕込みしてみよう。この味噌はね、肉を柔らかくする効果があるの。だから、牛肉とか豚肉とかね、食べやすく切ってから、味噌と砂糖を同量混ぜたのを肉に塗ってね、甕に入れて蓋をして、冷蔵庫で一晩おいて次の日に焼いて食べるとね、肉の臭みもなくなって肉が柔らかくなって、味が中まで滲みていて、とても美味しいの。準備だけして、今日は終わろうか。ジョーン、調理も大変だったのに、最後までごめんね」
「とんでもありません、ミチイル様。一度に覚えきれないかも知れませんので、後でまた、教えていただければと思います」
「うん」
***
味噌は、無事に仕込めた。僕はあれから毎日、味噌を仕込み続けているの。味噌が普通にできるまで時間がかかるしね。
ジョーンは、少しずつ魔法を練習しながら、味噌を仕込んでくれている。計量器魔法がね、デジタル数字が出る訳じゃないからイメージが難しいみたい。見た目の体積とかから、だいたいの感じでやってみて、と言ってある。もう職人の勘の世界だよね……
ジョーンが麹菌作業場にかかりきりになったから、給食センターは他の料飲部員に任せきりになっちゃってるけど、何も問題は起こっていない。
本当は醤油もできれば良かったんだけど、麦もないし手間暇がね……だから、色は薄いけど味噌から取れる溜まり醤油でいいや。
普通に上に浮かんだ溜まりだけ集めても、量が少ないから、味噌ができたら晒布で絞って、堅めの味噌と溜まり醤油に分けることにした。もともと水分が多めの味噌だからね。
それでも溜まりが足りなくなったら、10%塩水で味噌を薄めて追加の発酵させて醤油もどきを作ろうと思う。時間を置けば色も黒くなると思うしね。なんならカラメル作って足してもいいし。
それより、麹の培養がね……今のところ、僕しかしてないんだけど、これを他の人もできるようにしたい。でも、醸造とかさ、スキルなんだよね。これは正規の方法で時間を取って麹作りをするようにしないといけない感じ。料理が好きな男の人とかいればいいんだけど……カンナにでも訊いてみよう。
醤油の在庫が十分になるまで、醤油メニューはしばらくお預けすることにした。




