1-43 出生の秘密
母上と屋敷への帰り道、親族の話がでたから、前から気になっていたことを訊いてみた。
「ねえ母上」
「なあに?」
「僕は救い主として母上から生まれたのは知っているけどさ、……僕に父親は居るの?」
「あら? 何も話していなかったかしら……そういえば訊かれていないから話していないような気がするわね」
「うん。僕からは訊いたことがないけど」
「私はね、ミチイルを産む前も産んだ後も、好きな人もいなければ、婚約者もいなければ、ましてや結婚もしていないのよ。学園を卒業して、パラダイスにいるお兄様一家、さっきのシモンが生まれたばかりだったけれど、そこへ寄ってね、この公国に帰って来たの。そうしたら、ある日、私に神託があってね、私が救い主様を産めといわれたわ。生娘しか救い主様は産めないそうよ。そして、その生娘の私の胎に、ミチイルが降臨したの。普通は結構長い間、妊娠期間があると思うのだけれど、ミチイルは銅期の半分くらいの期間で生まれちゃったのよ。今で言うところの2か月くらいかしら。普通じゃない生まれ方をしたから、大公家では最初から救い主であることは疑いの余地は無かったの。それに、この世界でただ一人だけの金髪碧眼だしね。でも、神託でね、隠して育てよ、普通の子として育てよって指示されていたから、髪は隠して、対外的にはお父様の庶子としたのだけれど、公国内ではあっという間に救い主だとバレちゃったのよね」
「え? 金髪碧眼って世界で僕一人? ……そうだったんだ」
「ミチイルと名付けるようにも神託があったし、ミチイルのやる事を妨げてはいけないとも指示されたわ。だから、ミチイルは好きな様に生きていけばいいのよ」
「だから、幼児の僕のいう事を誰も否定も干渉もしなかったんだね」
「そうね。それはこれからも変わらないわよ。だからミチイルは、私だけの子供なの! うふふ、親の立場を完全に独り占めなんて、なかなかできる事じゃないわね、ふふふふふ」
「母上が喜んでいるなら良かったよ」
「もちろんよ! さあ、今日の夕ご飯は何かしらね」
***
僕、なかなかミラクルな生まれだったよ……処女懐胎に母がマリアとかさ、なーんか用意周到な気もするけどさ。
でも、金髪の人も青い目の人も見たことが無かったのはそういう事なのね。
公国の人達はみんな、茶色い髪に茶色い目で白い肌だもんね。それに確か、エデン人は褐色肌に黒髪黒目だったっけ。
僕、ものすごく目立つよね。エデンにバレない様に神経質になるはずだよね……
ま、僕は僕だし、やる事をやるだけ!
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――もちろん、すべて女神の陰謀のせいである
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さて、今日は新しく完成し、準備も整った麹菌作業場に来ています。給食センターは定休日です。
「ミチイル、今日は何をするのかしら? 給食センターみたいに立派な施設だけれど」
「そうですね、マリア様」
「えっと、味噌と醤油を作りたいと思います~」
「じゃあ、私たちは邪魔しないようにしているから、好きになさいな」
「はーい。まずは、一晩水に浸けた大豆でしょ、堅く炊いたご飯で培養させた麹菌でしょ、そして塩。本当は蒸し米とかの方がいいのかも知れないけどね。とりあえず、大豆は鍋で煮まーす。っていうか、これ、何時間もかかるんだけど……母上もジョーンも暇になるからさ、ここに居なくてもいいよ~」
「私たちは大丈夫よ、ねえ、ジョーン」
「はい。ご指示の続きをお願いします」
「う、うん。と言っても何もすることがないんだよね……吹きこぼれないように火加減に注意するくらいで。でも、薪とかだしね、火加減一つも大変だもんね。ガスとかある世界だったらガスコンロくらいは」
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――ピロン ガスコンロ魔法が使えるようになりました。火加減が思いのままですが、火加減の維持に魔力が必要です
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「……ふむ。維持に魔力が必要なのか……僕なら問題ないけど、他の人はどうかなあ。ま、いいか。ジョーン、新しい魔法を教えるね『ガスコンロ』 」 ピカッ
「あ、かまどの火が急に弱くなりました、ミチイル様」
「うん、この魔法は火を強くしたり弱くしたりできるみたい。今、弱くしてみたけど、弱くするのは魔力ほとんど使わない感じ。今度は強くしてみよう『ガスコンロ』 」 ピカッ
「うわあ、急に火が……」
「何だかゴウゴウと火が燃えて、少し怖い気もするわね、ミチイル」
「うん、ここまで強火にする必要はないけど、イメージを掴んでもらいたいからね。でも、強火を維持するのに、それなりの魔力が必要っぽい。注ぐ魔力を無くしてみるね、っと、火が普通に戻ったねえ」
「ミチイル様、この魔法なら、料理がしやすくなります。ハンバーグの際にも便利だと思います」
「うん、後でいいから練習しておいてくれる? ジョーン」
「かしこまりました」
「火加減の調整は便利になったとは言ってもねえ、時間がかかるのには変わらないんだよね。大豆って柔らかくするのに、とても時間がかかるから。スープとかに入れて食べるだけならいいんだけどね、味噌とか仕込むときは、ものすごく柔らかくする必要があるの。これが大量生産のネックだよねえ……公国では熱源に限りがあるし……あ、圧力鍋とか作れたら時短できるよね」
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――ピロン 圧力鍋魔法が使えるようになりました。魔力を注ぐと極短時間で加熱され、柔らかくなります
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「…………ええっと、もしかして、熱源も要らないとかだったりする系?」
『どうも、そのようです、救い主様』
「ハハ 熱源問題も時間問題も解決しちゃったよ……圧力鍋を制作とか、やっぱり危ないもんね。ジョーン、水に浸けておいた大豆を違う鍋に入れてくれる?」
「ありがと。じゃあ、また新しい魔法を教えまーす『圧力鍋』 」 ピカッ
「……? まだ煮てもいないのに、豆がやわらかそうになりました、ミチイル様」
「あら、ほんとね。これは長い間煮たのと同じ感じになる魔法なのかしら?」
「うん、そうみたい。魔法を使うときに注ぐ魔力によって、結果が変わる感じだから、試行錯誤が必要かな。この魔法も練習しておいてくれる? ジョーン」
「かしこまりました」
「じゃ、材料もそろったし、味噌を仕込もう。この圧力鍋魔法で柔らかくなった大豆と、ご飯で培養した麹を、同じくらいの量で石臼魔法をかけて、完全にペースト状にしまーす。そして、その総量の10%の塩……ってさ、計量器もないのに」
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――ピロン 計量器魔法が使えるようになりました。重さを計ることができます
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「……何か、どうしても調味料を増やさせたい力学が働いていないかな……ま、いいや。麹菌は扱いが難しいからね。これくらいのサポートが無いと無文明じゃ無理だわ。日本人だからこそ、麹菌ができたわけだしね~」
「ということで、悪いけどジョーン、この計量器魔法も覚えてね。それで、分量のおさらいをするとね、乾燥大豆と培養した麹は同量使うの。そして塩の量は、茹でた大豆と麹を合わせた全体量の一割、10%っていうんだけど、この分量の塩を入れるの。それでね、全部を合わせて石臼魔法で細かくしてね、そのあと、甕に入れて蓋をして、おわり!」
「一度で覚えきれるかどうか……」
「うん、大丈夫。何回でも訊いて。それでね、普通なら半年くらい、そのまま置いておくんだけど、いつもの例で言えば一か月くらいで味噌ができると思うの。味噌ができるとね、上に真っ黒い液体があるから、それを掬って別にしておいて。これは溜まり醤油っていうからね」
「ミチイル、そんな一度に言っても、わたしもわからないわよ」
「うん。文章に残せればいいんだけどね……」
「石板に彫り付けるのはダメなんでしょうか?」
「ぜんぜんダメじゃないけど、石板に文字を彫れる人って、そこら辺にいるのかなあ?」
「石板は無理ね。あれは、どうしても後に残したい、人の名前とかに使うのだもの。用意するのにとても時間がかかるわよ」
「そういえば、僕は見たことがないよね……そもそも文字も見たことがない気がする」
「お父様の執務室に石板置いてあるわよ。歴代の大公の名前とかしか書いていないけれど。見ても何の役にも立たないわね」
「いずれ、それにも着手しよう。今日はとりあえず、もう一回味噌を作るから、よく見ててね、ジョーン」
「かしこまりました」
「じゃ、乾燥大豆を鍋に入れて水をたっぷり入れて『圧力鍋』 」ピカッ
「そして鍋に残っている余分な水を捨てて、冷めたら培養した麹を入れて『計量器』 」 ピカッ
「計量器の魔法で重さが判明するから、それの10%の塩をイメージして再度『計量器』 」 ピカッ
「10%の塩が分けられたら、さっきの鍋に塩をいれて、全部まとめて『石臼』 」 ピカッ
「そして、これらを全部、甕に入れて蓋をして、保存。今日は僕だけが使える魔法で味噌にしちゃうけど、ここまでの流れで味噌を仕込んで欲しいんだ。魔法を覚えるまで、毎日少量ずつ仕込んでみてくれる? ジョーン」
「かしこまりました」
「じゃ、『醸造スキル』 」 ピッカリンコ
「できた! 味噌と溜まり醤油の、完成です!」




