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1-41 腐敗と分解

新メニューとして、和食風の定食を完成させた。


でも、味付けが塩と砂糖なの。


醤油と味噌とみりんと日本酒が欲しい。


どうしても欲しい!


「ねえアイちゃん」


『はい、救い主様』


「そろそろ異世界食文化召喚スキル、使いたいんだけど」


『はい、問題なくお使いいただけます』


「え? そうだったの?」


『はい。この頃、この公国では祈りと捧げものがとても多くなりましたので、星神力も順調に貯まっております』


「なあんだ~ じゃ、遠慮なく~ 出でよ! 『異世界食文化召喚スキルで、麹菌培養セット!』 おいでませ!」




***




――ピッカリンコ フワリ




***




「うわー! なにこれ! なんかとっても風流なセットが届いたよ! うんと、椿?みたいな枝と……種? そして乾燥米麹……だよね?」


『そのようでございますね』


「麹は、お願いしたんだからいいんだけど、この椿と思しき葉っぱ付き枝は……うーん、なんか昔に教わったような……京都で……あ! 麹菌を培養する老舗で聞いたんだ! 昔はご飯で麹菌を増やす時、麹菌以外の雑菌が繁殖しないように、椿の葉っぱを燃やした灰をご飯にかけてたんだった。とすると、この枝は椿の枝で、この種は、椿の種……かな?」


『おそらく、培養という言葉に反応したのではないかと思料致します』


「あ、そうね、そうかも~ いやー、親切だね! 椿の葉を使って品種改良しろってことだよね!」


『救い主様の、御心のままに』




***




ということで、まずは椿の種と思しきものを、屋敷の裏庭で促成栽培スキル。あ、この頃、給食センターの関係で、屋敷の敷地と給食センターと教会にはね、出入り自由なの~ 少し大人になったんだよ! ま、屋敷の敷地には平民の警備の人が居てくれてるけどね!


ピッカリンコ モサッ


おおー、椿!…………なのかなあ。白くて小さめの花が下向きに咲いているけど……白椿とは何か微妙に違うような……?


『私めには判断しかねます』


「僕、声に出してないのに……ま、いいや。とりあえず、種ができるまで育てよう。」


それほど背は高くならないまま、種ができた。とりあえず、この種は取っておこう。この椿?は、まあ一本だけだし、このまま植えといてもいいよね。敷地は広いしね~


さてさて、麹の品種改良をしないとね。


……でもさ、考えてみれば、この麹は日本の麹でしょ。日本の麹は下手すると1000年くらい、品種改良を重ねたものだよね。麹菌の種もやし屋さんは、世界最古のバイオビジネスって言われてるくらいだもん。もしかしなくても、品種なんて改良しなくていいんじゃないかな。


とりあえず、試すだけは試そう。でも、届いた乾燥麹の半分だけにしよう。


さて、給食センターから、ご飯を貰って来た。これに乾燥麹の半分を混ぜて~の、


「 『品種改良スキル』 」


ピッカリンコ モッサモサ


おおお……非常にモサモサしたけどさ、とても均一にモサモサしてるから、品質の差なんて見当たらないの。だって、白いウサギが丸まってるようなレベルだもん。どこをどう選ぶのさ? 選別不可能でござるよ……


とりあえず、色々準備が必要だよね。まずは味噌と醤油を作ろうとは思ってるけど、米麹を作らないとならない。


今日の麹は、しばらく保存しておかないと……ああ、ご飯で麹を培養したからな……蒸し米で麹を培養して、乾燥麹にしないとダメかな……


そもそもこの世界の菌はどうなってるんだろう。


アイちゃんは前に有用な菌は死にました、なんて言っていたけどさ、少なくとも酵母菌はエデンの果実に居て、それから作ったワインも、数か月経ったら酢みたいになってるんだから、酢酸菌?はいるでしょ。乳酸菌とかはいるんだろうか……牛は昔から家畜化されてるんだから、いるかも知れない。でも、麹菌はお取り寄せで来なかったし……


「ああああああーーー考えてもわかんない! 冷凍庫でもあれば保存が簡単なのに!」




***




――ピロン 冷凍庫スキルが使えるようになりました。ただし、維持には無次元の力と魔力を要します




***




「あ、お世話になりまーす! いつもすみません。何もお礼はできないのですが、お祈りさせていただきますね、ありがとうございましたー」


「という事で~ 冷蔵庫の隣に、というか、大公家の冷蔵庫の中に石箱作って、それをとりあえず冷凍庫にしよう。まず、石箱と木の蓋を~」


ピカピカッ


「そして『冷凍庫スキル』で麹菌を冷凍保存だ! お世話になりまーす! 」


ピッカリンコ


「はぁ、なにかとんでもなく疲れたよ。もう疲れたから、銅缶を作って元の乾燥麹の残りと、さっきのモフモフうさぎ麹を入れて冷凍しておこう。冷凍しとけば、かなりしばらく持つしね」




***




なんか、あれだけ切望していた麹なのに、いざ手に入ったら、やる事が多すぎてパニックになってしまったよ。数日もぽやっとした後、あちこちに手配をお願いした。


まず、大豆の生産を増やさないと。とりあえず、家畜の飼料の大豆は減らしてもらって、大豆は確保。後は、増産待ち。


そして、米だね。米は大量に使うんだよね、麹のものを仕込むとき。なので、米も増産を指示。


それに、作業のスペースっていうか、ほとんど工場並みの広さの建物が必要でしょ、米や大豆を大量に加熱する手段も必要でしょ、熟成とか発酵とかさせるのに大量に甕も必要でしょ、そしてそれらを保管する場所もたくさん必要でしょ、濾したり絞ったりするのに大量に布が必要でしょ、絞る道具も要るかも知れない。そして、洗濯とか……


あ、そうだ。洗濯だよ。洗濯って、どうなってるんだろう??


……僕、そういうこと全然わからなかった。


前世の記憶もあるし、自分は庶民だって思ってたけどさ、自分でも無意識にお坊ちゃんで育っちゃってたよ!


低文明過ぎて、お坊ちゃん感ゼロだけどね……


それに、人間とかの排泄物とか、どうなってるんだっけ??


まず、確認しないといけない。


あ、頼りになる存在を、一瞬忘れてたよ。我ながらパニクり過ぎ~


「ねえアイちゃん」


『はい、救い主様』


「この世界に有用な菌は居ないって話だったけどさ、酵母菌と酢酸菌はいるでしょ? 他に菌は居ないの?」


『もともとは居ませんでした。この世界は、地球で言うところのエデンの楽園として作られたからです。害虫もおらず、病気もなく、腐敗菌もいないのは現在でも変わっておりません。ですが、預言者様が召喚された時に、地球からあらゆるものも一緒に召喚されました。その際、有用な菌も一緒についてきているものと思われますが、繁殖は難しかったと思います。しかし、乳酸菌については、牛が長年家畜化されていることから、残っていても不思議ではありません』


「じゃあ、乳酸菌はお取り寄せできるかも知れない?」


『培地となるものが一緒に無いと難しいのではないでしょうか。仮に、菌本体そのものを召喚したとしても、目にも見えないレベルで空間、お取り寄せの場合は宅配ボックスですが、そこに目に見えない菌が届いても、確認もできませんし、集めることもできないのではと愚考する次第です』


「ああーそうか! もしかしたら、前も麹菌は来てたかもしれないけど、見えてなくて気づいていなかったかもしれないって事ね。あ、でも麹菌は日本の菌だから、アブラハムは知らないよね……」


『かも知れません。少なくとも預言者様は菌の話はなさっていませんでした。菌が発見されていない時代の方だったのではと思います』


「そっか……この世界って、シンプル過ぎて逆にいびつなのかも知れないね。普通にありそうなものが、すっぽり抜けてたりするし。ま、乳酸菌は、今度ヨーグルトになるかどうか牛乳で試してみよう。僕の品種改良した野菜は、漬物にしても乳酸発酵しなかったから、新野菜にはいないとしても、もしかしたら、その辺の雑草とかにならいるかも知れないしね、要検証にしとこう」


「それでさ、排泄物とかは、どうしていて、どうなっちゃうの? 前は腐敗菌は居ないけど分解されるって教えてもらったけど」


『はい、その通りです。有毒な毒素を出すような腐敗菌はいませんが、分解はされるのです。一定以上のレベルに分解された食べ物を食した場合、すみやかに排出されます』


「ハハ それって、有毒じゃないってだけで、結局食中毒と一緒だよね」


『人間に起きる事象としては、変わらないと思います』


「そっか、難しく考えすぎたかな。結局、食べ物は腐るってのは同じなんだね」


『はい。というのも、救い主様がこの世界に祝福を与えるまで、事実上、食べ物はエデンの果実と命の木の実だけでした。完全栄養食の命の木の実は腐らずに乾燥するだけですし、果実は発酵して酒になるだけでしたので、腐る、という事にはなっておりません。家畜として牛もおりますが、牛の場合は、死んだら肉を食べる、程度だったようです。牛乳はエデンの民には飲まれておりません』


「今まで食べていた食べ物は、腐ることがなかったって事なんだね~」


『はい。ですから、いわゆる、食中毒というものを知らない可能性もあります。アルビノの民は雑草を食べていましたので、もしかしたら経験しているかも知れませんが、エデンの民は食中毒など、認識外ではないでしょうか』


「それだと……人間の排泄物も、いわゆる腐って臭くなって不潔で、っていうよりも、ただ分解されていくだけ?」


『はい。腸内細菌がほぼいないと思いますので、ただ分解されて、栄養が吸収されて、その残りカスが排出されていると思います。ですから、外に出た排泄物も、同じです。地球でいうところの、大腸菌はおりませんので』


「えー、それは逆にステキじゃない? 臭くないし環境汚染もないし」


『この星を造った女神(くそ)は、綺麗な世界を望んでおりましたから、余計なものは作りませんでしたので。ですが、救い主様が色々な菌を広げれば、変化していく可能性もございます』


「え」


『お気になさらずとも結構でございます』


「……ま、女神様が美味しいもの優先って言ってたもんね、腸内細菌が増えるのは、良い事だと思う事にするよ、ハハ じゃ、要するに排泄物を外に捨てても地面に埋めても環境汚染は無いって事だよね?」


『左様でございます』


「うーん、今の話を考えるとさ、洗濯とかも同じだよね。汚れとして皮膚とかは垢にはなるけど、腐敗はしないから、臭くならない?」


『私めは肉体がございませんので、そもそも匂いは関知せず、知識としてしか持っておりませんが、仮に、垢まみれの人間がいたとしても汚いだけで臭くはないのでは、と思います』


「言われてみれば、僕、この世界で転生してから、一度もお風呂に入ってないもんね。体をお湯で拭いているだけで。当然、他の人達も同じなんだから、臭いが気になったことがないということは、アイちゃんの言うとおりな気がする」


『はい。汚れるだけでございましょう』


「ま、汚れるだけ、ってのも良くはないから、洗濯は、そうそう、じゃ洗濯とかは皆、どうしてるの?」


『洗濯は、洗剤なども存在しておりませんので、水洗いだけなのではないでしょうか』


「ああ、そうなのか……今まではそれでも問題なかったかも知れないけど、これからはダメだよね。料理するようになったし、油汚れとかケチャップよごれとか、燻製の汚れとか、今まで無かった汚れが発生する、いや、もうしているよね。洗濯の方法についても、検証しないとね」


『救い主様なら、問題ありません。今までも、様々な事を解決なさって来られました。私めにも想定外な位のスピード感でございます。神の世界の時間感覚なら、居眠りひとつ程度の時間でしょう』


「ハハ 神の世界なら、本当にそうかもね~ アイちゃん、いつもありがとう。僕、考えることが多すぎて、またパニックになってたかも」


『微力ですが、お役に立てて光栄でございます、救い主様』


「さて、ひとつひとつ片づけていこう!」




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