1-35 大宇宙の力
またしばらく時が過ぎた。
リサの農業班にお願いしていた綿花だけど、予想通り? 一か月くらいで綿がとれたよ……
なんかさ、この世界に一か月ルールとかあるのかな?
『そのような事はございません、救い主様』
「アイちゃん、そうだよねぇ。意味不明だし」
『救い主様が品種改良などのスキルをお使いになられたために、そのような事になったのではないかと愚考致します』
「やっぱり? なんで僕の魔法だけ、そんな特別なのかな。スキルだって、魔法なんでしょ? 僕しか使えない魔法」
『それは、救い主様だからでございます。スキルも魔法ですが、基本的にスキルは無次元の力を直接使用致します。スキル発動のための魔力は別に必要なのですが、実行される力は無次元の力です』
「その無次元の力と魔力の違いがイマイチわかんないんだよね」
『無次元の力とは、大宇宙に存在する、神が使える力です。その無次元の力が、この星専用の力に変化したのが魔力です。ですが、根本的には、さほど変わりありません。しかし、魔力は魔力器官があれは誰でも使えますが、無次元の力は、誰でも使える訳ではございません。この星では、女神を除けば救い主様だけがお使いになれるのです』
「まだピンと来ないけど……星神力ってのもあるでしょ?」
『星神力は、それぞれの星において神が信仰を集めた結果、神に貯まる力です。これも根源的には無次元の力、なのでしょうが、無次元の力は大宇宙に既に存在しているのに対して、星神力は、それぞれの星で新たに生じる力なのです。いわば、力が生み出されているのです。星神力は、いずれは大宇宙に還るもの。即ち、星神力が増えると言うことは、大宇宙の無次元の力も増えるという事なのです』
「うわ……なんか話が壮大過ぎて、僕の頭が理解を拒否している気がする……」
『無次元の力と魔力と星神力は根源としては同じ力。ですが、救い主様は魔力以外もお使いになれる、その結果、奇跡が起こる、とご理解いただければ、問題ございません』
「わかった! ……じゃあ、女神様が星神力が必要って言ってたのも……」
『はい。神々が新たに星を作り、世界を作るのは、即ち大宇宙の無次元の力を増やしていく事なのです』
「うん……え? じゃ、星神力で異世界食文化召喚したら、遠い未来の宇宙の力が減るって事じゃない?」
『事実としてはそうです』
「僕のスキルも宇宙の無次元の力を使っているなら、スキルを使えば宇宙の力を直接減らしてるって事じゃない?」
『事実としてはその通りでございます』
「じゃ、どっちもあんまり使わない方がいいじゃん……」
『救い主様が気にする必要など、細胞一つほども必要ございません』
「さいぼうひとつ……ってさ! 魔力器官も細胞一つとかなんだから、実は結構インパクトあるよね?」
『ものの例えでございます。あの女神が、この星を一つにまとめるのに使用した量や、普段からあの女神が使用している量に比べれば、救い主様が使用した分など、無いも同然ですから』
***
――女神が姉女神の地球との間の往復に使っている力も、星神力なのである
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「星を作るっていうのは、大変なんだね……」
『…………』
「でも、無次元の力のスキルはともかくとして、星神力の異世界食文化召喚は、多用しないようにしないと」
『ご心配は無用にございます。この星に信仰が満ちて、星神力が増え、使用した力以上の力が最終的に大宇宙に還元されれば良いのですから。今はその準備のために、力を前借りしている様なものです。お気になさるなら、後で倍にして返せば良いのです』
「うわ……まさかの借金経営だった!」
『仮に借金と同じようなものだとしても、その借金を返すのは女神であって、救い主様ではございません』
「……うん、そうだよね! 僕がスキルをたくさん使っても、その結果が星のためになるんだったらいいよね! っていうか、かなり無理ゲーだしね、力を使わない縛りプレーとか、している場合じゃないしね!」
『こころおきなく、すべての力をお使いくださいませ、救い主様』
「ハハ ま、そうは言っても異世界から召喚するのは慎重にするよ。この世界に無かったものが未来にどう影響するかもわからないし。その代わり、スキルや魔法はバンバン使おう! くよくよするのは僕らしくないしね!」
『それでこそ、我が救い主様でございます』
「ハハ アイちゃんは相変わらずだね~」
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「カンナ、わざわざ悪かったね、ありがとう。うわっ、分かってはいたことだけど、ものすごくでかい綿だよね。僕の頭よりでかいもん」
「私は見たこともないものでしたので、良くはわかりませんが、柔らかい糸になりそうな気がいたします」
「うん。今のリネンよりも、ずっとずっと使い勝手がいい布ができると思うんだ」
「はい。ですが、繊維が細く柔らかいので、なんとか糸を紡いだとしても、織るのに苦労が……」
「そうだよね……あんな折り方をしているんじゃ、苦労っていう表現じゃ済まないよね……緻密な布までは無理でも、せめて晒ふきん程度の布」
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――ピロン 晒ふきん魔法が使えるようになりました。お好みの晒がつくれます
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「あ、もしかしたら解決したかも~ ちょっと見ててね、カンナ」
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『晒ふきん』 ピカッ ボスン
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「お、成功成功!」
「ミチイル様、布が一瞬で現れましたが……しかも、密度が高くて柔らかくて薄くて大きくて……こんなに大量に……」
「うん、晒ふきん魔法で、この綿があれば布を作れるみたい。カンナも今のをイメージして呪文を唱えて魔法を使ってみて? カンナも使えると思うから」
「かしこまりました。では……ふんす!『サラシフクン』……」
「うん、おしい! 晒ふきんね、サラシフキン」
「かしこまりました。ではもう一度……ふんす!『サラシフキン』 」
ピカッ ポス
「あ、カンナにもできたね~ おめでとう!」
「はい、ありがとうございます。ですが、ミチイル様に比べたら、こんな端切れでは……色も少々濃いですし……」
「大丈夫! 魔法は使えば使うほど、どんどん魔力器官が大きくなって、さらに使えるようになるから。今は小さい布でも、すぐに大きな布を作れるようになるからね! 色は気にしないで。布ができる事が重要だからね」
「はい。精進いたします」
***
綿で布が作れることが分かったから、綿花も大増産する手配をしてもらった。
農業班、忙しすぎない? でも、頑張ってほしい。どの作物も、それほど手がかからないからね。綿花も種まきしたら収穫までメンテフリーだし。畑魔法で畑を作るのが一番大変かも。でも、畑は一度作ればずっと使えるからね。
カンナは、魔法を研鑽して、どんどん布が作れるようになっている。魔法を使っているところを見ていたら、一回の魔法で晒が10cmずつ伸びていくの。ぱっと見、機織り機と変わらないよね。まだ魔法を連続で使える回数は少ないけど、これから増えていくだろうから、そう遠くないうちに、一日で体を巻く服の布が織れる?作れるようになると思う。
そうそう、リネンの布も、税として納めないといけないから作り続けるんだけど、この晒ふきん魔法、リネンにも使えるらしい。
ただ、今までとの品質が違いすぎて、布の密度が粗くなるようにしないといけないらしい。低品質にする努力って、一体……
とりあえず、色は生成り色だけなんだけど、大公家一族の服が、綿布に変わったよ。
服もね、いい加減に布一枚をぐるぐる巻き付ける服から卒業したい。
でもねぇ、ミシンどころか、針と糸すらないんだもん。縫うっていう文明が無いからね……
あ、でも針くらいなら、金串魔法でできるよね、たぶん。でも、糸がね……この綿から手で撚っていく行くしかないのか……糸車が必要だね。
「でもな~、細く撚っていくのにも技術が必要かな……今の僕が撚ったら、縫い糸どころか、タコ糸になっちゃ」
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――ピロン タコ糸魔法が使えるようになりました。お好みの糸が作れます
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「う……って、よし! 『タコ糸』 」
ピカッ ゴロン
「うわ、縫物できそうな細い綿糸がボビン巻きで出てきたよ……ん? ボビンが無いや。コアレス糸? ま、なんでもいいや!」
「で、糸はできたとして、縫物はね、僕、本当にわからない。型紙?とかいるんだっけ? 和服タイプの方が作りやすいのかな。直線断ちで行けるしね、サイズ調整もあんまりないし。でも、和服なんてもっとわかんないよ……しまゑ祖母ちゃんはテレビに出るとき和服着てたっけな……料理する時は割烹着なんか」
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――ピロン 割烹着魔法が使えるようになりました。お好みの割烹着が作れます
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「着てた……ね。うん、割烹着だ、とりあえず。んじゃ『割烹着』 」
ピカッ パフン
「はい、割烹着~ ってか、裸の上にこれじゃ、何か法律に触れそうなんだけど。うんと、お好みの割烹着が作れるんでしょ……丈をもっと長くして、袖も長くして、前合わせに変更して、前は重なるようにして紐で縛って着るタイプ……って、これ、まんま和服じゃん! いいや、和服をイメージして、いざ! 『割烹着』で和服! 」
ピカッ トサッ
「おおおおーーーー、和服和服~ 生成り色だけど~ ちょっと着てみよう。うわー、帯無しの浴衣! っていうか、作務衣の長いやつ? もしくは手術着みたいな感じ~ これで! ようやく! 布一枚から脱出だ~! 」
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大人用の和服も割烹着魔法で数着作って、カンナのところへ。
カンナは、声もでないくらいびっくりしてたわ。そりゃそうだよね。
それで、割烹着魔法とタコ糸魔法を教えて、練習してもらうことにした。
手術着はどうかと思ったので、作務衣と呼ぶようにしよう、そうしよう。
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――この世界に初めて、まともな衣類が生まれた




