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1-30 酒

あれからトム爺に屋敷まで送ってもらった後、砂糖の甕は全部、大公家に運んでもらった。


そして僕、廃糖蜜を小さめの甕に入れて一緒に持って帰ったの。明日から、実験実験~




***




「あ、ジョーン、ちょっとお邪魔してもいい?」


「もちろんです、ミチイル様」


「あのさ、レーズン酵母、少し分けてもらいたいんだ~」


「かしこまりました。こちらに」


「ありがと。そういえば最近あまりカンナを見かけない気がするんだけど、元気なの?」


「はい。ここの所カンナは、ミチイル様が創り出した新しいリネン草の処理に追われております」


「あ、今までよりも大量供給が可能になったからか……風が吹けばってやつね。ごめんね、ジョーンも、みんな今までよりも、かなり忙しくなっちゃったよね」


「とんでもありません! 私たちも民も、皆とても毎日が楽しいです!」


「なら良かった。これから先、ジョーンにも手伝ってもらう事が増えると思うの~ 料理を広げていくつもりだから、料理の得意なジョーンにね、その管理者になってもらおうと思ってるんだ~ 」


「はい! ぜひ! 必ずや、ミチイル様のお役に立てるように身命を賭します!」


「ハハ よろしくね。それじゃ、僕は実験しているから、ジョーンは自分の仕事に戻って~」




***




さて、小さめの甕で持って帰った廃糖蜜に、レーズン酵母を入れてみよう。


うまく行けば、いや、間違いなく酒ができるはず。酵母はもうこの世界にいるからね、しかもこの酵母は、魔力で活性化していると思うし、想像よりも早く酒ができるかも知れない。


「では! 廃糖蜜に酵母をいれまーす! さあ、酵母たち、全力で励んでくれたまえ! と言っても、発酵して、さらに酒になるのには時間がそれなりにかかるよね……少なくとも今すぐ醸造が進むわけないし」




***




――ピロン 醸造スキルが使えるようになりました。菌があれば思いのまま醸造できます




***




「うわーお! ってさ、とってもありがたいけどさ、どうせなら菌がいなくてもできるようにしてくれればいいのに……この世界にゃ今のところ酵母しかないし。いやいや、文句などありませんよ! ありがたく使っちゃおう! じゃ、行くよ~」


『醸造スキル!』 ピッカリンコ


「どれどれ~? ブファッ、かなりアルコールが鼻に来るね……でも、この香り……これは、ラム酒だね! でも、なんか濁ってるし、黒いワインみたい……あ、蒸留してないもんね」




***




――ピロン 蒸留魔法が使えるようになりました。お好みの揮発物を取り出せます




***




「ハハ 相変わらず便利だね! でも、甕の作り方を考えないと……アルコールが揮発しやすいよね、甕は隙間があるから……陶器で密閉は難しそう……あ、江戸時代とかは徳利とかあったっけ」




***




――ピロン 徳利魔法が使えるようになりました。土で徳利が作れますが、土の成分によって仕上がりに差が生じます。適当な植物素材の密閉栓が付属します




***




「ふ~ そうね、とりあえず」


『徳利!』 ピカッ ボト


「おお、1リットルくらいの徳利ができた~ 滋賀県のでかい狸が良く持っている感じのやつ~ この栓は何でできてるんだろ……木は手に入らないのに……ん? コンポスト燃料の野菜の茎っぽい、つかたぶんそれ。ま、なんでもいいや、問題ない! んじゃー、心置きなく」


『蒸留!』 ピカッ


「ああああー、ラム酒が徳利に自動投入されたのはいいけど、残った澱が台の上にこぼれた~!」




***




台の上にデロっと残ったラム酒の澱は、とりあえずコンポストしてゴミにしといたよ。できたラム酒はほんの少しだったから、1リットル徳利の中は、底の方にほんの少しだけラム酒があるっぽい。入れ口が狭くて中が見えないから、よくわからないけど。できたのはホワイトラムかな。色が付いていないし。


でも、お酒ができた。


これで、廃糖蜜がたくさんできても、使い道ができたし、無駄にしなくてもいいし、あ、そういえばアルコールだけを蒸留したら、アルコール燃料もできるかも?


でも、燃料にするためには材料が足りないしね、食が足りてないのに、口に入れるもの以外にする訳にもいかない。ラム酒が食事情に役に立つわけではなくとも、口には入るんだから……


そういえば、酵母は品種改良してなかったな、と思い出して、酵母種を小甕に入れて部屋に持って帰る。そして、中甕を作って、水をジョーンに部屋まで届けてもらい、小甕に薄茶色の砂糖も入れて、一緒に持ってきた。


それで、酵母の品種改良。


ピッカリンコ ピッカリ……………………


そうそう、砂糖が手に入ったからね、水と砂糖で酵母は増やせるから便利になったよ!


それで、水と砂糖をいれたらすぐに、ブクブク発酵してくる、力強い丈夫な酵母を作成、これをラム酒に使おう。もちろん、マッツァナン用の酵母種にも。




***




数日後、再びテンサイ実験場にトム爺と二人。


植えてから数日しか経ってないのに、テンサイはわさわさ……もしかしたら、僕が魔法で作った畑に、僕が魔法で植えたら成長が早いっていう可能性があるかも……つか、それしか考えられない。それとも……


「うーん、もしかして無意識に魔法でも使っちゃったのかなぁ。促成栽培魔法、とかだったりして」




***




――ピロン 促成栽培スキルが使えるようになりました。食物の成長をお好みに促成できます




***




「しょくもつ……植物じゃないのか……なんか不穏な感じがするから、考えるの止めておこう……」


さて、検証の必要があるし、今日は収穫と砂糖づくりとラム酒の仕込みだけにしとこ~っと。


後で、リサたちにテンサイを植えてもらって、確かめよう。そうしよう。


さて、土木部でどのくらい甕を作ったかな?




***




「トム爺、甕はどのくらいできたの~?」


「カッカッカ! 土木部の手隙のものを畑から回しての、砂糖工場の中は甕だらけじゃ!」


「んーどれどれ、うわ、ほんとだ。甕がビッチリ~ さすが、トム爺、頼りになる~」


「カッカッカ! そうじゃろそうじゃろ~ わしにかかればこんなものよの! カッカッカ!」


「そんなトム爺に、今日も新しい魔法を教えたいと思いまーす! 良く見てイメージしてね」


「おお! さすがさすが坊ちゃん、わかっとるの! カッカッカ!」


「では、『徳利!』 」 ピカッ ゴンゴロンゴンゴロ………………


「おおお! 坊ちゃん、これらは何じゃ何じゃ?」


「うん、徳利と言ってね、甕と同じ素材で出来ているんだけど、口が細くて小さいでしょ? そして栓もあるから、これで徳利の口をギュッと塞ぐと、水とかが零れないし、空気もゴミも入らないの。密閉っていうんだけどね」


「う、うむ……『トックーリ』 」


「おしい! 徳利、トックリね」


「ふんす! 『トックリ』……何も起こらん……………………」


「あ、甕魔法と違ってね、徳利魔法は栓があるでしょ? この栓がね、植物素材から出来ているから、僕以外の場合、近くに植物素材、今回の場合はね、コンポスト薪が必要なの。だからトム爺の魔法は、ここでは発動しないと思うの……伝えるの忘れてた、っていうかコンポスト薪を持ってくれば良かったよ……そしたらトム爺も、すぐに徳利魔法が使えたはずなのに」


「カッカッカ! そうじゃったか! わしの所為ではないんじゃな! そうじゃろうと思うとったわい! カッカッカッカッカ! カッカ……」


「う、うん。とりあえず、この徳利の数々を工場に持って行ってから、トム爺たちが作ってくれた甕を、畑の方に10個運んでもらえる~?」


「おしきた!」


「そんでー、『収穫』『コンポスト』『砂糖』 」 ピカッピカッピカッ……


「いつみても見事なもんじゃの!」


「ハハ それじゃ、この甕全部、運んで……あ、工場のスペース足りないね。ちょっと待って、先に建物増やそう」


ピカピカピカピカピカ


「これでよし! じゃトム爺、新しい工場に運んで~」


「合点! カッカッカ!」




***




新工場の中に、廃糖蜜が入った甕が5個。これに、品種改良した酵母を五等分にして入れておく。混ぜる道具がないから、このままでもいいや。


後は蓋をして、しばらく放置しとくことにした。


出来た砂糖は、例によって後で大公家に運んでもらうようお願いし、収穫した種も甕にいれて工場へ安置。


畑はそのまま、何もしないでおくよ。検証にならないからね。


後で、リサ達に畑にテンサイの種を植えてもらおう。



そして今日は、もう一つやることがある……




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