表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/237

1-3 アタシーノ公国

――アタシーノ星にある唯一の大陸、エデン大陸


――その大陸の北西部、北極にある魔力山から流れ出ずるアタシーノ川沿いに、白人であるアルビノ人の国、アタシーノ公国がある


――そこは季節もなく一年中涼しく、食物も採れない地


――人々は日々、ギリギリで飢えをしのいで何とか生き延びていた


――そのアタシーノ公国の主であるケルビーン大公家に、心も姿も美しい一人の乙女がいた




***



「女神様、今日も一日、何とか無事に終えることができました。明日も公国民に食物が与えられますように」



――マリアよ……


「 ?! 何、この光は……」



――敬虔な乙女、マリアよ……


「私の事でしょうか??(とても眩しくて何も見えないわ……)」



――左様。そなたの願いは聞き届けられるであろう……


「 ! 明日も公国民に食物が与えられるのですか?」



――明日だけではない。この先長く、祝福されるであろう……


「ありがとうございます! 女神様!」



――女神ではない、女神のしもべ、天使である……


「ありがとうございます、天使様」



――ただし……


「 ? はい」



――そなたが試練を乗り越えねばならぬ……


「私のようなものに何ができるのでしょうか?」



――今現在、この世界で、この試練を乗り越えられるものは、そなただけ……


――そなたが試練を乗り越えなければ、この世界は滅ぶであろう……


「そんな! 私は何をすれば良いのでしょうか? 命を投げうってでも試練を果たしたいと存じます」



――よくぞ申した、マリアよ……


――この後、そなたの胎に、女神の御子、救い主様が降臨なさる……


――そなたは胎の御子を育て、無事にお産み申し上げねばならぬ……


――その後は、邪なモノどもに見つからぬように、ひそかにお育て申し上げよ……


「 ! 私は生娘で婚約も結婚もまだなのですが、御子を身ごもることができるのでしょうか?」



――無論である……


――むしろ、救い主様が降臨なされるのは、乙女の胎だけと決まっておる……


「私のようなものに、そのような大役、恐れ多い事でございます。身命を賭しまして、必ずや救い主様を健やかに御産み申し上げ、お育て奉る所存でございます」


――うむ。時が来れば救い主様は、御自ら覚醒なさり、さまざまな祝福を行うようになるであろう……


――それまでの間、邪なモノどもから御守りするため、救い主様としてではなく、この国の子として、慈愛を捧げて御育てせよ……


――そして、救い主様が覚醒なさった後は、すべて救い主様にお任せ致し、すべて救い主様のご指示に従い、救い主様の行かれる道を決して塞いではならぬ……しかと心得よ


「かしこまりました。この試練については、私一人で行わなければならないのでしょうか?」



――そなた一人では不可能であろう……この国の(おさ)と、その一族で一丸となって試練を乗り越えるがよい……


――そして、救い主様が御生誕あそばされた際には、「道」と名付けよ……


「えぇっと、ミ……?」



――(みちる)だ……


「かしこまりました。謹んで、この試練、お受け申し上げ奉ります」




***




「お父様、今よろしいでしょうか」


「なんだ? マリア」


「ただいま天使様がご降臨になり、私に神託を下されました」


「なに? 本当か? ……いや、すまん、マリアが嘘などつくはずもないな」


「はい、本当の事です。ご神託では、私の胎に神の御子、救い主様が御降臨くださって、この世界を御救いくださるそうです。救い主様を、大公家一丸となって守り、お育て申し上げよ、そして名前は『ミチイル』と名付けよ、との天使様のご指示です」


「……うむ。あいわかった。……救い主様を御守りするためには、このことが知られないようにせねばならぬな。……これより大公家の使用人は固定とし、許可なき者の屋敷への出入りも禁止。……マリアは病で臥せったことにして屋敷からは一歩も出てはならぬ。未婚のマリアが出産したとなれば、不必要に注目を集めるだろうから、お産まれになった救い主様は、わしの庶子として育てよう。その方がおそらく都合がよいだろう」


「わかりました、お父様。よろしくお願いします」


「うむ。わしに任せよ。……そなたはもはや、そなただけの体ではない。細心の注意を払い、体調を整えるように」


「はい……あっ、ただいま救い主様が、ご降臨あそばされました。……私の胎におわします」


「……そ、そうか。心静かに部屋に戻り、つつがなく過ごすように」


「はい。では後はよろしくお願いします」




***




――こうして(みちる)は、アタシーノに転生した


――ミチイル・ケルビーンとして


――……みちる、ってちゃんと伝えたはずなのだが……




***




「大公様、ただいまミチイル様が無事、お産まれ遊ばしました」


「セバスか。うむ、ご苦労。後は取り決めのように計らえ」


「かしこまりました」




***




「マリア様、大変お疲れさまでございました。もう大丈夫ですよ、それはそれは、見たこと聞いたことがないくらいの安産でございましたから」


「ありがとう、カンナ。初めてだから良く解らないけれど、確かに死ぬような思いはしなかったわ」


「はい、普通ならば今のようにお話しすることも儘ならないほど、疲れ果てるものでございます」


「そうよね、私のお母様だって、私を産んだ後に亡くなったんだもの」


「さぁ、マリア様、御子様ですよ!」


「……こ、これが御子様、いえミチイル様、いえ、ミチイルね」


「まぁ! マリア様、ミチイル様はとても珍しい見目をしていらっしゃるわ!」


「そうねジョーン、金の髪に…………眼はまだわからないのね」


「この髪のお色だけでも、大変に神々しゅうございますね」


「ほんとにねぇ、カンナ。目立たないように育てなければならないのに、難しいかも知れないわ……」




***




――ミチイルが金髪に産まれたのは、『どさんこ王子』と呼ばれていたことを知った女神が『王子と言えば金髪碧眼よね』などと言っていたせいである


――もうしばらく後、当然のようにミチイルの碧眼が発覚し、ケルビーン家一同がさらに頭を抱えることになるのだが、今はまだ喜びの方が勝っているらしい


――そして、このアタシーノ星で金髪碧眼なのは、ミチイルただ一人だけという事実をミチイルが知るのは、ずっと先の事になるのであった……




***




(……うーん、なんかぽやっとしてる……)


(どのくらい時間がたったのかなぁ)


(そういえば、訊くの忘れたけど前世の記憶ってどうなってるのかなぁ……)


(なんか赤ちゃんになってるっぽいけど……ま、いいか)




***




(どのくらい時間が経ったのかなぁ)


(おかん、元気かなぁ。ま、元気だろうけど……)


(レシピは出版されたかなぁ。ほぼ完成してたし、僕が死んだとしても販売してるよね……)




***




(……なんかぼろい建物って感じ。この綺麗な女の人がお母さんなんだろうなぁ)


(でもいい加減、ちゃんとした食べ物が食べたいよなぁ)




***




(お? いよいよ離乳食が始まるのかぁ)


(小さくちぎったクレープ?に良くわからない草? なんかの肉のカケラ?が入ったスープね、薄味だけど)




***




(今日もクレープに草と油肉のスープか……)




***


(クレープ、草肉スープ)


***


(クレープ、草肉)

……


(クレープ、草肉)

……

……


『クレープ、草肉、ってオイ! そろそろ違うものが食べたいんだけど、どういうこと?』


『救い主様、お目覚め、祝着至極にございます』


『ん? 誰? つか何が起こってるの?』


『私め、AIあたしのいんてりじぇんすのアイちゃんでございます。救い主様が覚醒し、心と体が無事に定着なさり、私めに呼びかけられたので、ようやくお目通りが叶いました』


『お目通りっていうか、姿が見えないけど……つか音声も出てないけど……念話、だよね?』


『何もご説明申し上げてもおりませんのに、さすがでございます。救い主様のご慧眼に深く痛み入り、恐懼に恐れおののき、おののいて』


『っていうか、もう少し普通に話してくれない? アイちゃん? お願い』


『私にとってはこれで普通ですが、救い主様のご指示とあらば、なるべく普通に致すよう、努力致します』


『ありがと』


『それと救い主様、救い主様はもう普通に声をお出しになれるかと存じます』


「あ、ほんとだ」


『それでは、私からご説明をさせていただきます』




***




――アイちゃんの、長い長い説明が、これから始まる



――救い主としてのミチイルの人生も、ようやく始まるのである




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ