閑話2 ミカエル・ケルビーン2
わしは、ミカエル・ケルビーン。
このアタシーノ公国で大公を務めておる。
わしの可愛い可愛い孫は、凄すぎる。
トムと出かけたと思ったら、魔法を使えるようになって帰ってきた。
さすが、救い主様だ。伝説の預言者様と同じく、いや、どう考えてもそれ以上だな……
南の村の木工場じゃ、えらい騒ぎになってしまったが、きつい箝口令を敷いた。エデンにバレる訳にはいかん。
がしかし、人の口に戸は建てられぬ。ミチイルが奇蹟を起こす救い主様だと、公国内であっと言う間に広がってしまった……口どころか平民の家には、エデンのやつらが強欲なせいで窓も戸もないからな、何事も筒抜けなのは仕方がない。
かと思っていたら、トムも魔法を使えるようになったと言うではないか!
預言者様の時代、奇蹟を使ったのは預言者様だけだと口伝で伝わってはいるが、まさか普通の民も使えるようになるとは!
そうこうしているうちに、ドンまで魔法が使えるようになっておった。
ミチイルが言うには、技術の研鑚を積んだ優秀な人間、魔法が使えるのはアルビノ人だけらしいが、それが今までも無意識に魔法を使っていたらしい。身体強化?魔法らしいの。
南の村では、さらに大騒ぎだったが、皆が魔法が使えるかも知れないと言って努力しだした。結果、木工も金工も、あっと言う間に仕事が終わるような魔法を使うものが出た。使えるのはまだ一部らしいが、親方連中と技術が高いものたちは、全員使えるようになったらしい。
木工場じゃ、引退していたピーターまで復帰して、南の村で魔法の研鑽をしているらしいぞ。
もう適当に有耶無耶にできる状態では無くなった。正式に制度化し、職人たちには魔法を研鑽するよう指示した。もちろん箝口令は絶対だが、エデンにさえバレなければ当面大丈夫だしの、公国内では自由にした。
その結果、ミチイルは、完全に救い主様だと定着してしまった。女神様に祈る時、ミチイルにも祈りをささげる民がいるらしいの。
だから、ミチイルには決して救い主様と呼び掛けてはならない、と民に厳命する事になった。エデンにバレるとも限らんしな。
何はともかく、これでエデンに出す税の作業が、速く楽になるはずだ。一息つこうと思っておったら、今度はまたトムだ。
トムともども大親方と呼ばれている、引退した元親方達が、魔法で活躍しているのがうらやましかったらしいの。トムだってナガシソウメンで充分活躍したんだが。
トムがミチイルと北の石切り場に出かけたと思ったら、またまた魔法を増やして帰ってきおった。
あれよ、と言う間に北の石切り場と公都、それに南の村まで見たことのないような道路ができたわ。その結果、民の移動が速い事速い事……一日であちこち行けるようになって、公国が狭くなったと思うほどだ。
そうしたら、今度は、またミチイルだ。教会を建てたいという。
もちろん、ミチイルのやる事には一切制限は設けておらん。公国の民どもには、ミチイルのする事に決して口を挟むなと、厳命してミチイルには好きにさせておるからの。
どんな教会が建つのか、そもそも、いくらミチイルと言っても、建物を建てるなど簡単ではないだろう。長い目で見守る必要がある。
そう思って、素敵なお祖父さまとして悠々と構えておったと言うのに!
教会が建ったというので見に行ったら、本当に教会が建っておった。建てると言ってから、まだ一時くらいしか過ぎとらんのにだぞ!
これにはさすがのわしも、女神様の元へ上がるかと思う位、驚いたわ。しかも、王宮でも見たことがない様な立派な建物だったしな。
教会ができてから、民が暇さえあれば教会に行き、女神様とミチイルに祈りを捧げておる。もちろん、わしもだ。
その後、ミチイルはまた何かをしているらしい。
以前から、ミチイルが部屋でぶつぶつ独り言を言っていると報告があったが、今度は、部屋を草まみれにしているらしい。もちろん、何も横から口は出さず、ミチイルの好きにさせて置くように厳命しておるのだから、わしらは見守ったり、時々何か協力したりしているだけだ。
マリアがミチイルと出かけたな、と思ったら、深刻な顔をしてマリアが戻ってきた。
何でも、ミチイルの奇蹟で米というものができ、今さっき、その米を増やすための水田なるものを作って来たというのだ。目の前で次々起こる奇蹟に、マリアは言葉を失ったそうだ。
そして、その、米というものは、うまく行けば公国の民の全員が、腹いっぱいに食べられるものらしい。
全員が腹いっぱいだと!
なんて事だ!
ミチイルがもたらした魔法で公国の民の暮らしはすっかり変わり、民が生き生きとして来て、わしも喜んでいたが、食べ物が充分に無い事には変わりなかったのだ。
それが! それが!
わしは、体が震えてくるのを抑えることができなかった……
可愛い可愛い、わしのミチイル。なんてすごいのだ!
たとえミチイルが世界を救う救い主様であろうとも、お祖父さまはずっと、ミチイルの素敵なお祖父さまじゃからな!




