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3-60 エンディング

「はい、では次に参ります。恐れながらミカエル5世様、次をお読みくださいませ」


「はい。約束の地カナンに、女神様の御神託により導かれた救い主様の民は、神聖カナン王国歴5年、混血共和国へ人道援助開始。その後、救い主様の慈悲により、混血共和国は豊かになり、神聖カナン王国へ牛製品を輸出するのを主産業とし、発展する。しかし、混血共和国は神聖カナン王国から、魔石や資源石などを輸入せねばならず、事実上の属国として存在しているが、救い主様の厳命により、それを口にしてはならない」


「はい、ありがとうございました。現在、エデン南島にございます混血共和国は、ブランド牛とブランドチーズの世界最大産地、そして地平線が見える観光国としても名高い国でございます。しかし、かの大洪水以降、混血民は死に絶える寸前に陥るほど、厳しい状況でございました。混血国の民は、救い主様に刃を向けた民でございましたので、女神様が罰をお与えになったのです。ですが、救い主様は、その様な混血民をも憐れみ、慈悲を与えたもうたのです。救い主様が空から再降臨なさると同時に、混血国に広大な畑や大森林、そして枯れることなく清水が湧き出でる神の泉、収穫せんばかりの大量の作物が、一瞬のうちに出現したのです。救い主様は、白と金色に輝きながら、天上から奇跡の御業を成したもうたのです!」


「先生、その時には、世界を東西に分かつ聖なる壁があったそうですが、現在は存在しません。なぜ、聖なる壁は無くなったのでしょう?」


「はい。救い主様がお創りになった聖なる壁は、当時、戦争が起きていた世界に、安寧をもたらす物だったと伝わっております。ですが、この世界の民は現在、皆様もご存じの通り長い間、争わず、共存共栄しております。それをご覧になって満足なさった救い主様が、もう壁は必要が無い、気候変動の引き金にもなりかねないと、一瞬のうちに聖なる壁を消し去ったのです」


「まさしく神話の世界のお話ですわね……」


「左様でございますわね……」


「皆様方は、将来の神聖カナン王国を率いる立場となられる方々でいらっしゃいます。救い主様は、切磋琢磨は行うが決して争ってはならない、貴族は民のしもべである、と初代ケルビーン王に神託を下されました。この事を歴史から学び、神聖カナン王国が世々、祝福された神の国であり続けるように、祈りと努力を怠ってはなりません」


「誠にございますね、心せねば」


「はい! そうですね!」


「ハハ 大丈夫だよ~ 貴族もだけど、平民だって救い主様の教えに逆らう人なんて、居ないもんね~」


「シモン5世様! お言葉!」


「はーい」


「では次に参ります。恐れながらジェイコブ3世様、次をお読みくださいませ」


「はい。アルビノ国は、救い主様の慈悲により、大いなる発展をとげ………………」




***




「はい、皆様、全ての音楽の基本となる聖曲は、各ご家庭で既に、琴にて習得済みであるかと存じます。もし、習得のご経験のないお方がいらっしゃいましたら、どうぞお知らせくださいませ」


「はい、先生! それは、ちゅうりっぷの歌で間違いないでしょうか?」


「左様にございます。その曲は、救い主様が世界に初めて下知くださった、神界の聖曲でございます。この心洗われる聖曲は、全ての貴族に楽器での習得が義務付けられておりますので、もし、習得がまだのお方がいらっしゃいましたら、お知らせくださいませ」


「その様なお方がいらっしゃるのかしら……」


「居るはずがございません。ここにおいでの皆様は、シターの伴奏もつけて演奏が可能でございましょう」


「当然ですよ。シターどころか、パイプオルガンを練習している人も多いですからね」


「はい、では、いらっしゃらないという事で、続きまして、ミ・ミレド・ドの曲でございますが……」




***




「そこで、聖母マリア様はこうおっしゃったのです。『全ての民は、お逃げなさい。女神様が怒りの鉄槌をエデンに下します。悔い改めなさい。さすれば救われるでしょう』と。神聖カナン王国の民は、聖母マリア様の神託に従い、救い主様の大いなる奇跡によって顕現した海の道を通り、この約束の地カナンへやって来たのです」


「先生! 海の道は、海が割れてできたと、おばあ様が言うのですが、それは本当なのですか?」


「はい、勿論でございます。今や実際に見た者は残っておりませんが、多くの証言がございます。それ以降、海が割れた事はございませんが、様々な奇跡は常にございました」


「その時に月が出来たと言うのは、本当なのでしょうか」


「勿論です。それまで世界は暗闇に覆われていました。ですが、救い主様が降臨なさり、数々の御業を成し、その結果、空に月が現れたと言われております。それは神聖カナン王国歴元年の、1月2日だったと伝わっております」


「それで、今も建国祭が行われているんですよね」


「そうです。月は毎月1日に姿を消し、世界は暗闇になります。建国祭は、かの大洪水を忘れない様に、救い主様がお決めになったと伝わっております」


「先生! 建国祭は新月ですし、それで見えない月の代わりに丸餅を食べるんですよね?」


「左様にございます。1月1日には、月に見立てた丸餅を入れた雑煮を食べるのが、古くからのしきたりでございます。これは貴族だけではなく、神聖カナン王国の民の全員でございますね」


「先生、私の家では、マッツァの代わりに餅を食べるのだと言い伝えられておりますが、どちらが正しいのでしょうか」


「さすがは筆頭侯爵家のご令息ですね、良く学んでいらっしゃいます。おっしゃる通り、餅が丸いのは、マッツァを模しているのだと言う説もございます。マッツァしか食べられなかった不遇の時代を忘れるな、との意味もあるのでしょう。そもそも餅は『マッツァ』が訛って『もち』となったのだと言う学者もおります。いずれに致しましても、建国祭で丸餅を食べる事には大変深い意味があるのです」




***




「では、初めて世界に登場した魔道具が分かる人?」


「はい! 冷蔵庫魔道具です!」


「残念、それは違うのです」


「はい先生! 電球では無いでしょうか」


「それも違います。これは良く勘違いされているのですが、正解は水道管です。水道管は、世界初の魔道具と言われ、救い主様が4歳の時にお創りになられたと伝わっております」


「す、すごい!」


「4歳で……考えられない!」


「はい、では、皆さんの家にある魔道具を挙げてみましょう。どうぞ」


「はい! 24時間給湯器!」


「炊飯器!」


「オーブン!」


「洗濯機!」


「エアコン!」


「フライヤー!」


「食器洗浄機!」


「ドライヤーも!」


「卓上コンロ!」


「ガスコンロもあるよ」


「いや、それは魔石コンロだろ?」


「シャンデリア!」


「すごーい! シャンデリアとか、教会でしか見たこと無い!」


「キミのうちのはさ、あれはランプだよ~」


「はい! 掃除機もあります!」


「フードプロセッサーも!」


「ミキサーもあるよ!」


「はい。たくさんの魔道具がありますね。神聖カナン王国の様々な魔道具は、救い主様のお慈悲によって世に送り出されました。魔道具を使う時には、必ずお祈りをしましょう」


「はーい」「はい!」「ザワザワ」




***




「では、神聖カナン王国の人口を知っている人~?」


「はい! 48万人です!」


「違うよ、49万9000人だよ!」


「えー? ほんとー?」


「はい、全員不正解です。正解は……50万人です!」


「うわー、すごい!」


「いつの間に……」


「はい、つい先日、50万人を超えました。後で新聞の発表があると思いますが、今や神聖カナン王国は、世界最大の人口を誇る、祝福された神の国なのです!」


「いや、先生、今じゃなくて昔から世界最大でしょ~」


「そうでした。よく勉強していますね。では、首都の人口が分かる人?」


「はい! 40万人です」


「ちがうよ、42万人くらい」


「はい、正解です。では、首都の区の数を言える人?」


「はい! 一つのブロックに9区あります!」


「それで、ブロックはいくつでしょう?」


「はい! 中央と南西と南東と……」


「北東と北西です!」


「はい、よろしい。それでは区の数はいくつでしょう?」


「えっと、ブロックが5つに……」


「一つのブロックに9区あるだろ~」


「じゃあ、ごっく45区!」


「はい、正解です。九九も良くできましたね。この区分けは、救い主様がお決めになりました。1つの区あたりに約一万人が住める都市計画になっています。そして区ごとに、この平民学校を始め、様々な公共施設が設置されています。では、この学校の住所が言える人?」


「はい! 南東8区1丁目です!」


「正解です。そして学校の名前は、南東8区平民学校ですね。各区に一つずつ平民学校がありますが、今、この首都にはいくつの平民学校があるでしょうか?」


「はい! 45区あるから、45!」


「はい、違います。正解は、44です。貴族区には貴族学園がありますが、平民学校はありませんよ。この首都の建設は中央ブロックから始まりました。そして中央ブロックの中央、すなわち首都の中央に貴族区があり、そのさらに中央に王宮がありますよ」


「へえ~王宮なんて、見たことない!」


「そうですね、先生も遠くからしか見たことはありませんが、希望して許されれば、王宮敷地内の見学も可能です。ですが、抽選に当たるのがとても難しく……あ、いえ、では授業の続きをしましょう」




***




「では、この栄誉あるカナン魔道大学に入学を許された精鋭の皆さん、これから長く、厳しい大学生活が待っています。魔道具を開発するにあたって、一番重要な事は何だと思いますか?」


「はい、教授。漢字です」


「正解です。漢字は大変に難解です。ぱっと見は模様や絵に見えますが、実は意味があると伝えられています。漢字の意味については、判明していないものも多いですが、一説によると、神界で使われていた表現とも言われており、救い主様が魔道具を作成するための呪文として、神聖カナン王国に下賜されたものです。これは、点一つ、線一本のミスも許されない、正に神界の呪文ですから、これを学ぶのは苦行の道となるでしょう。ですが、漢字の習得無くしては、呪文を彫り込む事も不可能です。呪文は、線の細さ太さに加えて、大きさや角度、ハライやハネと言った要素もあります。これらが自然に行えるようになるまで、遊ぶ事はおろか、寝る間も無いことでしょう。ですが、ご安心ください。この北部工業都市は、5万を超える人々が暮らしていますが、娯楽施設は一つもありません。皆さんが遊びたくとも、この、聖地のお膝元である北部工業都市は、成長努力を継続する事しか許されていない都市なのです。ですから、心して学び、必ずや世界に羽ばたく魔道具師となられるよう、願っております」


「はい」「はい」「ザワザワ」




***




「本当に、この屋形船はステキね! ツアー料金が高かったでしょ? こんな贅沢な船で遊覧するなんて!」


「そうだね、ハニー。僕、頑張って働いているからね、ハニー!」


「うふふ。それにしても、どうやってこんなに速く海の上を進めるのかしら?」


「そうだね、ハニー! 魔道具らしいよ、ハニー」


「昔々に、救い主様が海を割ったと言うけど、その時もこんな船を使ったのかしらね」


「ちがうよ、ハニー、海が割れて道ができて、そこを渡ったんだよハニー」


「すごいわね! 救い主様って、今も聖地で暮らしているって、本当?」


「聖地には入れないし誰も見たことは無いけどね、ハニー。歳も取らずに、この国が出来てから百何十年以上もずっと聖地で暮らしているらしいよ、ハニー」


「なんか、何百年も生きているだなんて、まるで神話みたいね! それより、海を眺めながら、ステキな会席料理を食べましょうよ! この器も、キレイな絵が描いてあるわね! とってもロマンチック!」


「そうだね、ハニー! とっておきのワインもあるんだよハニー」


「まあ! 色付きワインボトル入りね! とっても高級じゃないの! 愛してるわ、ダーリン!」


「僕もだよ、ハニー! じゃ、ワインを開けようか!」


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「まあ! これもキラキラして、とってもステキなワイングラス!」


「そうだねハニー。クリスタルガラスって言うんだよハニー。さあこれを、愛しているよ、ハニー!」


「わあ! 真っ赤なバラ! 高かったでしょ! 嬉しい~」


「そして、ハニー、これも受け取ってよ!」


「きゃー! ダイヤモンドの指輪じゃない! 結婚しましょう!」


「ありがとうハニー! では、婚約を祝して~」


「いただきまーす!」


「いただきまーす!」




***




「先生! カナンカルデラの一番南にある遺跡は、魔道具だったって、本当ですか?」


「えー? あの扉みたいなのがいっぱい並んでるとこー?」


「さわってみても、何にも起こらないよ~」


「あの扉が開くんだって、じいちゃんが言ってた!」


「はい、みなさん。あの遺跡は、確かに魔道具であったと伝わっています。昔には、あの魔道具で下のカナン港へ行き来できたそうですよ。」


「どうやって?ー」


「飛ぶんじゃない?」


「はい、みなさん。記録によると、エレベーターと言う魔道具だったそうです。どのように使うのか、どうやって結果が出るのか、記録にしか残っていませんが、エレベーターを使うと、一瞬のうちに海の前に出られたそうです」


「ええー!」


「うそー」


「ラックラインでも5分くらいかかるのに?」


「はい、みなさん。今はカナン港へ行くのにラックラインを使っていますね? ですが、はるか昔には、エレベーターを使っていたそうです。ですがカナン82年に、突然使えなくなったそうですよ。現在では、エレベーターを使用した経験のある人はいませんが、数多くの証言が残っています」


「もしかしたら、まだ使えるんじゃね?」


「行ってみよう!」


「それはいけません。あの遺跡は救い主様の祝福遺構ですから、触ってはいけませんよ。それに、近くには非常階段と言う危険な場所もあります。入れないようにはなっていますが、決して近づかないように」


「はーい」「はい」「ザワザワ」




***




「では、この世界で一番売れている本を知っている人?」


「はい! バイブルです!」


「よろしい。では、そのバイブルが発売された年は?」


「先生! カナン22年です!」


「よろしい。今から150年以上も前ですね」


「先生! そのバイブルの初版は、カタカナだけで書かれていたって言うのは、本当ですか?」


「はい、本当です。カナン王宮中央図書館に、貴重な初版本が保存されています。そのバイブルは、現在と違ってカタカナだけで書かれているそうですよ。先生も実際に見たことはありません」


「先生! 今のバイブルは、ひらがなはもちろん、簡単と言われている漢字も少し、書かれています!」


「そうですね、漢字を書くのはとても難しいのですが、シンプルな漢字なら、読める国民も多いですから」


「わたしは読めません……」


「僕も……」


「俺も」


「はい、ですが、カタカナとひらがなで書かれているバイブルは、皆さんも読めますね?」


「はい!」「もちろんです」「ザワザワ」


「よろしい。では、このバイブルの正式な名称を知っている人?」


「えー、バイブルに書いて無いよねー?」


「え、ええっと確か……ど、ど」


「どん……」


「……わかんない」


「では正解を教えます。このバイブルは『どさんこ王子のズボラ飯』と言う名前なのです。みなさん、世界の基本となるバイブルですよ、必ず全てを読み、そして料理を作れるようになってください」


「はーい」「ザワザワ」




***




――世界のバイブル『どさんこ王子のズボラ飯』の巻末には、こう書かれている


――『料理をして、美味しいものを女神様に捧げる事……これが全ての民の祝福の基本です』




***







***

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