3-59 その後
あれから何年、経ったかな~
この国も色々変わったね~
まずは、シモンが結婚したよ! お相手はなんと、キャンティだってさ! 僕、そんなこと全然知らなかったからね、ものすごくびっくりしたけど、ま、学園の寮でも一緒だったしね、王族に自由恋愛が許されるのかどうかは知らないけど、知己のある人と結婚したしさ、良かったんじゃないかな。
なにせ、キャンティは伯母上の弟子だからね、この王国の貴族も取りまとめられるだろう。もう子供も生まれたしね、男の子。何歳になったのかな……そう言えば、下の子も生まれたって聞いたかも知れないけどさ、なにせ会わないとね、記憶に残らないんだよね……僕たちは出かけないからさ。
伯母上はね、息子に代を譲って隠居した。ま、隠居と言ってもさ、貴族学校の校長はそのまんまなの。伯母上に逆らえる人も少ない……って言うか、居ない? いやいや、落ち着いて考えたらさ、伯母上が代を譲ったって表現がおかしいもんね。代を譲ったのは伯母上の配偶者のセルフィン公爵なんだからさ……でも、伯母上が代を譲ったって言っても何の違和感もない所が、伯母上の権力を物語ってるね……
それでさ、シモンに跡継ぎが生まれたからね、約束通り伯父上は離宮の近くに隠居所を建てて引っ越して来たよ。今は適当にダラダラ過ごしているね、うん。伯父上の奥さん、王太后って言うのかな、そのハンナ伯母上は静かに暮らしてるみたい。僕も殆ど会った事が無いからね、話したことも無いしさ。もともと旧公国の準男爵家の出身だって言ってたし、身分が高くなっちゃたのが負担だったらしいね。もしかしたら、それもあって伯父上は早く引退したのかも知れない。
そして、シェイマスも結婚した。シェイマスはね、伯母上の娘と結婚したよ。これまた僕は会った事が無かったけどね、僕のいとこだね。ま、この王国で事実上のナンバー2の家だからね、セバス侯爵家は。
それでさ、セバス侯爵家も代替わりして、今はシェイマスがセバスなの。当主が代々セバスって言われるのも、変わらないみたいね。
ジョーンと先代のジェイコブは、侯爵家で隠居、なんだけど、実際は仕事をしているみたい。ま、王家よりも忙しいだろうからね、宰相の家だもん。
後は、足軽君だね。もうスタイン侯爵になってから何年も過ぎたからさ、いつまでも足軽君って呼ぶのもどうかと思うんだけど、そう呼ぶように本人が希望するからね。それで足軽君は、これまたソフィアと結婚したの。要するに、王女と結婚したのね。あ、ソフィアってのはね、シモンの妹ね。僕たちと入れ替わりで学園に入った僕のいとこ。
これで、スタイン侯爵家も安泰だよ。なにせ、王女が降嫁したんだからね。一時期は、足軽君の父上のホルスタイン20世の影響で、少し厳しい目で見られていたスタイン侯爵家だけど、これで名実ともに、王国の重鎮の家になったみたい。
ああ、後はお祖父さまだけどね、まだ元気だよ。伯父上の隠居所にはついて来なかったの。なんかさ、農業が好きらしくてね、農場地帯の近くの豪農の家みたいな屋敷に住んでいるらしい。ついでに、シェイマスの祖父のジェームズとカンナもその近くに住んでいるってさ。ま、ジェームズはずっとお祖父さまと一緒だね。
そんで、オール爺ズもね、全員ご存命だよ。もうかなりの高齢だけどね、魔法を使いまくって歳を取っても働いていたのが良かったのか、元気なの。でも、さすがに行きたいところに出歩いたりは難しいって言ってたね。でも、ほんと良かったよ。僕が子供の頃は、すぐに死んじゃうって思ってたからさ……こんなに長生きしてくれて、本当にうれしいね。
そして母上はもちろん、元気いっぱいで、いつまでも若いまま。ついでに僕も若いまま。母上は永遠の24歳って言い張ってるけどね、恐ろしい事に、それが現実になってるんだよね……どういうことなのかな……ま、僕も15歳くらいから成長してないしさ、ま、そういう事なんだろうけど……
でね、僕たちが歳を取らないのはさ、まあ周知の事実ではあったんだけどさ、さすがに不自然極まりないでしょ、だからね、森の中の離宮を引き払って、カナン北の禁足地、資源場と湖の間に作った壁があったでしょ、その壁の北側が禁足地だからね、そこに離宮を移したの。そこは高い壁がカナンのカルデラの東西に渡っているからね、よっぽど本気にならないと、その壁の北側には行けないからさ、誰も入ってはいけない聖地として国民には認識されている感じ。
離宮はね、もちろん周りの畑やらなんやらも全部、剥がして移転したよ。ああ、跡地はちゃんと桐の森にしておいたからね。それで、壁北側の聖地にある湖周辺にもね、桐を植えて森にして、念願の湖畔生活!
いやあ、湖のほとりってさ、とってもいいね! この世界は虫も居ないしさ、変な動物も居ないしさ、窓を開け放っても快適なんだ! ちょっと地球じゃ考えられないよね~
でね、その離宮の近くに、と言っても壁よりは南側だけど、その辺りに伯父上の隠居所が建ってるの。って言うかさ、いくら隠居でもさ、限度があるでしょうに……本当に周りには人も住んでないんだよ、ここは。最寄りの人里は工業地帯でさ、40kmくらいあるんだからさ。
でも、そこにミツバチ君たちが蜂蜜とか蜜蝋とかを集めてくれてる。だから王の隠居所だけど、将来的にはミツバチ関係の資源所になるかもね。マーちゃんとクーちゃんの眷属たちのねぐらは、禁足地にあるからさ、民は入れないからね。
ま、ここら辺は交通事故の心配も無いからね、コンクリート舗装ばりの真っ平な道路を敷いて、魔道具自動車で爆走できるんだけどね。自動車はさ、首都の中とか周辺では低速で運用しているけど、桐の森から北側は爆走だからね。時速50kmくらい出してる気がする……ま、僕は乗らないんだけどさ。
神聖カナン王国はね、とっても発展しているよ。
人口も増えて……今は何人なんだっけ……10万人は超えてるのは知っているけどさ、ちょっと詳しい事は判んないね。なにせ、伯父上が隠居してからは、本当に国政には関与して無いもん、僕。
で、工業地帯は、村だったけど街になってるらしい。
首都も、どのくらいまで区を増やしたんだっけかな……僕は工事に関わって無いからさ、ちょっとわかんないけど、元々あった首都区域は中央って呼ばれてて、シルバーセンターと商店街を建てた南区域も、今は8区あるのかな、それくらいにはなっているはず。それでも、まだまだ余裕があるもんね。
でも、将来の事を考えて、首都の郊外に水源地を用意して置いた。巨大な井戸を掘ってね、そこから水道管を市街地まで引けるようにしたの。僕が死んだら井戸も掘れなくなるしね、川も無いカナンだからさ。これで100万人くらいの水なら大丈夫じゃないかな。そこまで人口が増えるかどうかは分んないけどね。
そうそう、王国と言えばね、魔道具を作るために漢字の勉強をする学校、と言うか、魔法学校なのかな、魔道具学校なのかな、それを作ってね、魔法陣などの勉強もしているみたいよ。ま、魔道具はさ、僕が作った著作権メダルが無いと作れ無いんだけどさ、僕が死ぬ前には著作権は開放した方がいいかも知れないね。
あ、でもね、紙幣とコインの著作権メダルも作ったの。これは王家とセバス侯爵家だけが使えるようにしたんだけどね、これは著作権は設定したままの方がいいかな。権力だからね。だから、このメダルを持っていないと紙幣もコインも作れ無い。これで偽造とかの心配も無いでしょ。
ま、著作権メダルは金のメダルだからね、何百年も保つと思う。でも、千年くらい経ったら、オーパーツになるかもね……
そして、エデンの南島はね、そのまま混血共和国になった。王政は布かないんだって。ホルスタイン20世がね、色々と頑張ってさ、今じゃ牛の一大産地になってる。なんかね、カナンの牛よりも美味しいんだってさ。理由は良く分からないんだけどね、広い牧場で草を食べさせてるでしょ、それに魔力も薄い土地だからね、育つのも遅いんだって。もしかしたら、それが関係しているのかも知れないね。
ま、何にせよ、混血共和国の牛肉とかチーズはね、今じゃブランド品扱いだね。そうそう、チーズと言えばさ、熟成する事が判ったんだ。ま、落ち着いて考えてみれば、今までも熟成させてチーズを作っていたんだろうけどね、熟成させてくれる菌とかも、この世界に居るのかどうか分からないまま、適当に時間を置いてただけだったの。でもね、物が腐ると言うか、星に還っちゃう時はね、どうやら魔力で色々分解しているらしくてね、それでチーズも熟成で美味しくなるって感じだったみたいね。
で、混血共和国では魔力もろくに漂って無いしさ、どう言う仕組みなのかは良くわかんないけどチーズの分解に少し時間が必要みたいでね、結果的に長期熟成みたいな感じになって、うまみが多いみたい。
昔に南部でチーズを作っていた時は、出来る量が少なかったしさ、神聖国産のチーズと混ぜてたからね、全然気づかなかったんだよね~
それで、熟成の時に麹とかつけたらいいかも?って話してみたらね、なんと、カマンベールチーズみたいのが出来たんだって。それで、チーズの産地として不動の地位を築いたね、混血共和国は。
そんな感じで混血共和国も潤沢に紙幣が手に入るからさ、色々と神聖カナン王国から輸入も出来るし、当然に魔石も輸入しているでしょ、魔法で畑も作れるし建物も建てられるし、昔の神聖国程度の国になっているんだってさ。もちろん、女神教を信仰しているみたいね。
でさあ、僕は全然知らないんだけどね、旧セルフィンでスローン人が国を興したんだってさ。なんて名前だったっけな……アルビノ国?とか何とか。
これまた僕は知らないんだけどさ、その国を管理しているのは、スローン大公の息子でね、学園の寮にも居たらしいんだよ。僕は本当に記憶にも無いんだけどね……それで、アルビノ国でも女神教を信仰しているみたい。
なんでも、スローン人は魔法も基本的な物は使えるらしいの。ま、アルビノ人なんだろうから魔力器官はあるだろうしね、女神様に祈りとか食べ物とかを捧げているんだったら、魔法が使えるようになったとしても、不思議では無いよね。だから、混血共和国と取引というか、交易してるみたいよ。技術とか魔法とかを教えてもらったりしてるのかな……
そのアルビノ国はセルフィンの跡地だからさ、国の整備もちゃんとしてあるしね、魔力山が無くなったとは言っても、それなりに魔力も漂っている土地だって言うし、少しは魔石とか資源石とかが北で採れるらしくてさ、それで暮らしていけているみたい。ま、カナン王国みたいには暮らせないだろうけどね、女神様の民なんだったら、きちんと祝福も受けられるだろう。
こうやって考えると、この星は3つの国になったんだね。神聖カナン王国と、混血共和国と、アルビノ国?
で、この星にエデン人は殆ど残ってないらしい。ま、カナン王国には最初から居ないけどさ、混血共和国には少しは残っていたらしいね、エデン人。ま、そのエデン人も女神信仰をしているみたいなんだけどさ、魔法は使えるようにはならない。ま、魔力器官は後天的には出来ないって言う話だからね、それは当然なんだけど。
それで、エデン人はアルビノ人や混血民と婚姻するとね、当たり前だけど子孫は混血になる。でも、本人はどうにもならないの。少しだけ気の毒な気がしないでも無いんだけどさ、僕にも誰にもどうにもできないからね、ま、幸せに暮らして欲しいよ。
そう言えば、昔に作ったエデンの島を東西に分ける壁は、どうしようかね……僕が作ったから、僕が取り払う必要があるとは思うんだけどさ、取った方がいいのかな?
『はい、救い主様』
「ああ、アイちゃん、どう思う?」
『特に何もせずとも宜しいのでは無いかと愚考致します』
「そお? 星の邪魔にならないの?」
『特に問題はございません。海流や風の流れが多少、と言った程度でございますので』
「いやいや、気候に影響があるってさ、結構なインパクトじゃないの?」
『何も問題はございません。大洪水や月の出現に比べれば、些細な事にございます』
「ま、そっか~ じゃあ後でいいや。でさあ、僕のアイテムボックスの中身だけどさ、これって、僕が死んだらどうなるの?」
『はい。それも女神が片づけると存じます。色々と手続きがございますので』
「そうなんだ……女神様に迷惑とか?」
『一切お気になさる必要はございません』
「ハ、ハハ じゃ、まだ死ぬわけじゃ無いと思うから、死にそうになってから考えるよ」
『救い主様の、御心のままに』
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――こうしてミチイルは、やりたい事を好きな様にやりながら、残りの人生を幸せに暮らした
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