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3-58 ピンポンパンポーン

――おめでとうございます! アタシーノ星信仰率100%が達成されました。同時に、創星時の大宇宙力の返済も完了しました。また、基本パックに付属していた争いの種の有効期限も切れましたので、ご入用の際は再購入をお願いします。なお、アタシーノ星周辺の次元の狭間に、少量の廃棄物が不法放置されておりますので、大宇宙ルールに則って分別の上、回収日に廃棄物処理センターへ転送をお願いします


――ピンポンパンポーン




***




「あら? もしかして! 神のプログラム、クリアしたんじゃない? クリアよ、クリア! やったー」


『おめでとう存じます』


「いやあねえ、なんか慇懃無礼に聞こえるわよ! でも、アイちゃん、本当にありがとう。じゃ悪いけどアイちゃん、あたし、(みちる)を呼んで話をするわ。最後の謁見になると思うけど。他の天使たちに、いつまで働くのか希望を聞いておいてくれない?」


『かしこまりました。失礼致します』


「さて、取り敢えず(みちる)の寿命を設定しないとね……ま、100歳くらいでいいわね、それっ。あ、約束の地の所有権も、寿命を迎えたらあたしに返却、と。さ、これでいいわ! うふふ、本当にあたしの星は、いい星になったわね~ さ、今のうちにもう少しトリュフチョコを食べちゃおう!」




***




「ミチイル様、大変な事に!」


「どうしたの、伯父上。先ぶれも無しに来るなんて、よっぽどの事?」


「はい、それが、急に海の水が少なくなったとの報告が!」


「ええ? なんで急に? ちょっと待ってね」




***




『ねえ、アイちゃん、アイちゃ~ん~』


『……は、はい、救い主様』


『ん? 忙しかった?』


『いえ、申し訳ございません』


『そう? あのさ、海の水が減ったらしいんだけど、何か知ってる?』


『はい、救い主様。女神が色々なさっておいででございます。ですが、それも直ぐに、終わる事と存じます』


『あ、女神様の仕事だったんだね。じゃ、心配は要らない?』


『勿論にございます。一切のご心配は、必要ありませんのでご安心を』


『ああ、良かった! ありがと、アイちゃん』




***




「あのね、伯父上。海の水が減ったのは、女神様の奇跡の都合らしいの。でも、直ぐに終わるみたいよ」


「ああ! それは良かったです……何か大変なことが起こるのかと、海産部や海上運送の者たちが大騒ぎでしたから」


「そりゃそうだよね~ 僕も知らなかったし、びっくりするよ。でも、大丈夫、何も心配いらな」




***




ピカーッ




***




「うわ! なんかとってもデジャヴ! 真っ白で何も見えないし……」


(みちる)よ……救い主としての働き、誠に素晴らしいものでした』


「えっと、女神様ですか? ですよね?」


『ええ。大洪水の時以来ですね。この星は、星神力が充分に貯まりました。そして、美味しいものもたくさん、わたくしの所へ届いています。この星を、このような素晴らしい星にしてくれて、ありがとう。礼を言います』


「とんでも無いです。僕、そんなにまだ思うようには動けていません。今は世界にも出て行かずに、閉じこもっている状態ですし」


『いいえ。救い主としての働きは、もう充分です。ですから、救い主としての役割を、解放しましょう』


「え? もういいんですか? まだ世界中に色々広がってませんけど」


『もう充分なのです。ですから、今ここで解放します。直ぐにミチイル・ケルビーンとしての生を終える事もできますし、このまま寿命まで、好きな様に暮らして貰っても構いません。どうしましょうか』


「え? 今すぐ死ぬか、寿命まで生きるかの選択ですか?」


『はい。どちらでも、お好きな方を選んでもらって結構ですよ』


「……では、今すぐはちょっと急なので、寿命までお願いします。まだ気になる事もあるし、やりたい事も残っているので、もう少し、この星で暮らしたいので……」


『そう言ってくれて、わたくしも嬉しいです。ですが、もう何もせずとも充分なのです。後は、自分の事だけを考えて、楽しく暮らして欲しいのです。もちろん、美味しいものをずっと供えてくれれば、もっと嬉しいのですが』


「はい、勿論です。僕が死ぬまで、食事やスイーツを作って女神様に捧げます」


『ありがとう。では、わたくしが(みちる)と会うのは、これが最後です。ですが、いつも見守っていますね。ですから、美味しいものをお願いします!』


「はい、わかりました。ありがとうございました。そして、会えなくとも、これからも宜しくお願いします」


『うふふ では、幸せに暮らすのですよ』




***




「ミチイル様! ミチイル様!」


「ミチイル! イヤーっ! どうしたらいいの! ああ、女神様! どうか、どうかミチイルを」


「……ハッ……ふう~」


「ミチイル様! ああ、良かった!」


「あああ! ミチイル~ 心配したのよ! 全然動かないのですもの!」


「ああ、ごめんごめん。女神様に呼ばれてたから」


「う、それは……失礼を致しました。私と話している最中に、急に微動だになさらなくなったものですから……どうぞお許しを」


「そ、そうね。わたしもつい……」


「いやいや、ごめんね。色々自分で選べないからさ、急に呼ばれて気づいたら、みたいな感じだから。でもね、もう女神様に呼ばれる事はないの」


「……なぜかしら?」


「うん。もう救い主として色々働かなくてもいいんだって。もうね、この星は救われたみたい」


「まあ! そうなのね! それは! それは……ううっ……」


「マリア……良かったですね」


「ありがとう、お兄様……ううっ……うっ……」


「ああ、そっか。母上は神託があったんだもんね。でもね、泣かなくても、もう大丈夫。この星はね、救われた。後はね、女神様にお祈りして美味しいものを捧げてね、幸せに暮らせって言われたよ」


「それは! もう憂いも無いと?」


「うん、伯父上。もう大丈夫。だからね、伯父上もやりたいようにやってよ。僕もさ、ダラダラ暮らしたいし」


「んもう、ミチイルったら。……ヒクッ……でも、わたしもダラダラ暮らすわ!」


「では、私もダラダラしましょう!」


「まったく、ここにはケルビーンしか居ないから……」


「そうね、うふふ」


「クックック」


「ハハハ」




***




――海の水が無くなった旧エデンの王都辺りに、壁の東側のスローン人とエデン人が集結し、戦いを繰り広げていた


――両者、一歩も引かぬ戦いの最中、急に海の水が押し寄せ、戦っている全ての人間を星に還した


――大波は、壁の東側の島の全てを、洗いざらい押し流した


――島の西側へは、ミチイルの作った壁により阻まれ、到達せずに済んだ


――そして、壁の東側の土地は、無人となった……




***




「ねえ、アイちゃん」


『はい、救い主様』


「僕の救い主としての責務は終了したけどさ、アイちゃんはどうなるの?」


『私めは、救い主様がこの星をお去りになるまで、ご一緒させて頂きます』


「そっか。ありがと。でも本当は、アイちゃんもお役目は開放でしょ?」


『そのような事はございません。私めは救い主様の一生をサポートする責務がございますので』


「そっか。ありがと。でさ、マーちゃんとクーちゃんは、本当に開放じゃないかな? もう何百年も居るんでしょ?」


『左様でございますが、ハチもクモも、救い主様の寿命まで、ご一緒する事を希望致しました』


「そうなの? マーちゃん」


「はい! おじゃまにならないように、しますので!」


「いやいや、お邪魔どころか、ずっと助けられているけど……ありがと。クーちゃんもそれでいいのかな……」


「クーちゃんもだいじょうぶです! マリア様とたのしく、くらしていますので!」


「ハハ そっか。じゃ、僕のお役目は終わったけど、ここは今まで通りだね!」


「はい!」


「じゃ、みんな、よろしくね!」




***




僕の役目が終わったとしても、日々の暮らしは別に変わりはないね。


あ、そうそう、エデンの島ではね、なんか壁の向こう側がキレイさっぱりな感じなんだって。でも、誰もちゃんと確認もしてないし、誰も行って無いらしい。海の水が増えただったか、そんな感じの噂みたいだけど……神聖カナン王国の海岸では海は一時的に減ったって言ってたのにね。


ま、僕も確認に行く予定は無いけどさ。


もしかしたら、再度の洪水?でもあったのかも知れない。ま……ちょっとわかんないけどさ、女神様がやった事は確定だからね、僕が気にしてもしようが無いからさ。


ま、何にせよ、僕は何もやらなくて良くなった……


となるとさ、なんか抜け殻って言うか、割と忙しく生きて来たけど、急にやる事が無くなったって言うか……やる事は無くなっては居ないか。やらなくちゃいけない事が無くなっただけだもんね。


アイちゃんに言わせれば、それすらもやる必要は無いって言ってたけど……


本当は、もっと色々と魔道具とか開発して、この世界の文明を進めてさ、都市化なんかしたり? テレビとか電話とか、飛行機なんかを作ったり? ま、そんな感じが異世界の定番なのかも知れないけどね、僕さ、今のこの世界が結構好きなんだ。


資本主義でも無いけどさ、選択肢も地球の先進国に比べたら少ないけどさ、それでも、ずっと恵まれてる部分もある。


この国では皆が働いていてさ、別に給料も貰えないのに、店の経営をしてみたりさ、食べ物のバリエーションを増やしてくれたり、自分も仕事がしたいって人ばかり。子供は勉強熱心でさ、大人だって、今じゃひらがなも書ける人が多くなったって言うし。


犯罪も起こさないし、人を出し抜いたりもしないし、当然、殺人事件だって無いもんね。今じゃ、カナンに閉じこもっているから、他の国から攻められたりもしないし、命の危険も少なくなった。


ま、もともと病気も無い世界だしさ、最初から恵まれている部分も多かったと思うね。


それでも、これが当たり前になっちゃって、何十年も何百年も過ぎて行ったら、またエデンの王国みたいになっちゃうかも知れないよね……


そう言えばさ、争いの種ってどうなったんだろう?


『はい、救い主様』


「ああ、アイちゃん。そう言えばさ、僕はもう救い主じゃ無いんだけど?」


『いいえ、この星にいらっしゃる限り、救い主様は救い主様であらせられますので』


「ハハ そう。でさあ、争いの種ってさ、どうなったの? まだ活動してる? この国に入って来る?」


『……この星に、現在は女神が居りますので、私めは全ての情報が得られません』


「あ? そうなの?」


『はい。私めは、女神が不在等の場合に限り、この星の全権が代理で行使できるのみにございます』


「ああ、落ち着いて考えてみれば、そうだよね、AIだしね。じゃ、争いの種は……ってかさ、争いの種って、何なんだろうね?」


『その情報をお伝えする権限は、私めにはございません』


「あ、そうなんだ……ま、女神様に祈りを捧げている間は、あまり入り込む余地が無かったはずだよね?」


『左様でございます。欲望が膨れ上がらない限り、争いの種も活動が不能と存じます』


「なら、やっぱり今のままの国でいいね。完全に貨幣経済とか自由主義経済になんて、しなくてもいいね」


『少なくとも、救い主様がいらっしゃる間には、必要が無いのではと愚考致します』


「うん、いやさ、もう必要が無いのにさ、ついつい世界の事を考えちゃう……定年退職した会社員みたいじゃんね……後は、この世界の人達に、任せないとね」


『救い主様は、やりたい様になされば宜しいかと存じます』


「ハハ アイちゃんは、いつもブレないよね~ 僕も見習わないとね。僕は、環境とか状況とかが変化すると、いつもグダグダと悩んじゃうからね~ ありがと、アイちゃん」


『救い主様の、御心のままに』




***




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