3-55 スイーツの王様1
「さて、今日はいよいよ、満を持してスイーツの王様、チョコレートのレシピ講座を開きたいと思いまーす」
「パチパチパチ」
「では、まずチョコレートですが、これはカカオと言う豆、というか種が原料でーす。カカオの生産は問題ない? ジョーン」
「はい! ですが……チョコレートにできないのです……」
「え? チョコレート魔法があるのに?」
「はい……チョコレート魔法を使っても、いつまで経ってもチョコレートにならないのです。どろどろで砂みたいにザラザラした土?にはできましたけど……」
「という事は、発酵?発酵じゃ無いかも知れないけど、とにかく分解?やら焙煎までは過程が進むけど、そこで一旦止まっちゃうのかな……僕がやると一瞬だからなあ……チョコレートは大変だからね、ほんとに。魔力が持たないんだろうね……魔石を握ってチョコレート魔法を使ってもダメ?」
「はい……魔石の魔力が無くなる前に、集中力が無くなってしまうのです……とても時間がかかりますので……」
「ふむ、という事は、チョコレート魔道具が必要かな……」
「ミチイル、チョコレートって、板みたいになっているあれでしょう?」
「うん。美味しいでしょ」
「ええ、とても美味しいけれど、手はベタベタになってしまうし、お口の周りとかも、気を緩めると大変な事になってしまうのですもの……淑女が頂くにはねえ……」
「ですが、他ではぜったいに代えられない、すばらしい味です! ……ただ、誰も作れません……」
「ああ、それは魔道具を作るよ。えっと、どうしようかな……この銅の丸い鍋でいいか。これに、ペルチェ金属でチョコレート魔法の魔法陣を付けて……そして魔石スイッチを……ピカピカ……はい、チョコレート魔道具の、完成です!」
「ミチイル、それでチョコレートができるのかしら……魔道具なのはわかっているけれど、お鍋よ?」
「うーん、僕がやっているみたいに、板チョコがいきなり出来たりはしないだろうけど、液体のチョコにはなると思うんだ。ねえジョーン、この魔道具を使ってみてもらえる?」
「はい! ミチイル様!」
「えっと、魔石とカカオと砂糖ね、はい、どうぞ」
「ミチイル様! このカカオは何か違います!」
「えっと、カカオの栽培は問題なかったでしょ? それで、収穫した実から種を抽出するでしょ? そして種を乾燥させて殻を剥くでしょ? 殻の中の胚乳部分を」
「あ、そのあたりかも知れません! 皮むき器魔法で種の殻を剥いているのですが、どこまで剥いたら良いか、よくわからないのです!」
「あ、そっか……そうだよね、見本も無しに初めての作物なんだもんね……ごめんね。えっとね、これがカカオの胚乳部分でね、チョコレートに使うのはこれなの。これを持って帰って見本に使ってよ。もしかしたら、カカオの実から直接これを抽出できる気もする……ちょっとやってみよう。はい、抽出でピカッと……お、実から胚乳が直に取り出せたよ! すごいすごい!」
「はい! これなら作業も速くなりますね!」
「すごいけれど……最初から教えてあげれば良かったのでは無いかしら、ミチイル」
「……はい、それでは次に移りたいと思いまーす。ささ、抽出したカカオの胚乳を魔道具に入れちゃってもらえる? そして魔石をスイッチの所に入れてみて、ジョーン」
「はい! ミチイル様!」
ピカッ ゴウンゴウンゴウン…………
「……終わったようですね、ミチイル様」
「……ハッ、時間がかかり過ぎて、意識が遠くなっちゃってたよ……かなり時間がかかるんだね……どのくらい経った?」
「はい、半時くらいでは無いでしょうか!」
「うわ……魔道具でもそんなに……あれ?母上は?」
「アトリエに行かれました!」
「ハハ 待ってられないよね、そりゃ。ま、いいや。じゃ、チョコを見てみよう……お、溶けたチョコになってる! さ、これを適当な型に流して、少し時間を進めてピッカリンコ。さあ、これで、チョコレートの、完成です!」
「パチパチ」
「じゃ、味見してみよう。パキッ はい、ジョーン。ではいただきまーす」
「いただきます!」
「……うーん、思ってたんと違う」
「ミチイル様からいただいたのとは、全然ちがっています……」
「うん、どうしてだろう。魔法は同じなのに……ん? そう言えばチョコって、カカオバターをさらに添加して作るよね……インチキなチョコなら植物油とか入れる位だし……という事は、油分が少ないんだね、これは。うーんと、カカオバターは胚乳から油分を絞った油で……その残りがココアになるんだから……もしかしたら、ココアケーキが余計に入っている状態なのかも! という事は……ココアバターを搾り取ったカスのココアケーキだけ、排出する仕組みにすれば、チョコになるかな! ま、やってみよう。えっと、この鍋に……もう一つ空間をプラスしよう。ま、プロトタイプなんだからね、見た目は変だけど、試してみない事にはね。さ、ピカッとね。じゃ、取り敢えずチョコレート魔道具をいったんキレイにして~ はい、ジョーン、もう一回やってみてくれる?」
「かしこまりました!」
ピカッ ゴウンゴウンゴウン…………
***
「ミチイル様! 終わったようです!」
「あ、そう? どれどれ……お、おお! 排出部分にココアケーキがちゃんと分かれてる! と言う事は……見た目は良くわかんないけど、こっちの液体チョコも型に入れて時間を進めてピッカリンコしよう。そして、このココアケーキも干物魔法をかけて石臼魔法でパウダーにと。さ、今度こそ、美味しいチョコが出来ていますように~ では、いただきまーす」
「いただきます! パキッ これは! とってもおいしいです!」
「ほんとだ~ ちゃんとチョコになったよ! やっぱり、余計なものはちゃんと排除しないとダメなんだね~ あれ? でも何で僕が普通にチョコレート魔法を使った時は、ゴミが出ないんだろう…………そう言えば、昔から不思議に思ってた事があるんだけどさ、ジョーン」
「はい! なんでしょうか!」
「うん。玄米をね、精白魔法で精米して白米にするでしょ? その時にゴミとか出るの?」
「はい! もちろんです! しっとりしたゴミが出ます!」
「悪いんだけどさ、ジョーン。ここで玄米を少し、白米にしてみてくれる? はい、玄米」
「かしこまりました! 『精白』 」 ピカッ ザザッ パフン
「おお? おおお! 米ぬかじゃんね! ……もしかして、もしかしなくても、僕が魔法を使う時は、僕がゴミって思ったものは無くなったりするのかな……規則性とかは良くわかんないけど……野菜の茎とかは残るしね……骨とかも残るし皮も残るし……あ、コンポストして飼料にしようとか思ってるから残るのかな! そう考えると、僕が無意識になっちゃっているゴミとかは……次元の彼方とかに行っちゃってるのかも……不法投棄とかになってないよね?」
***
『はい、救い主様。この星で発生した廃棄物の最終処理責任は、あの女神にございますので、一切の心配は必要ございません』
『そうなの? なんか無意識で無くなっちゃってたゴミとかさ、結構あるような気がして来たんだけど』
『そのような物は、大宇宙はおろか、この星と比べてみても些細な物でございますので、お気になさる必要はございません』
『ま、そっか。でも、そのゴミ、どこにあるの?』
『次元が無くなっておりますので、一切のご心配は無用でございます』
『あ、次元が無い状態なのか~ じゃ、良くわかんないけど気にしない~ ありがと、アイちゃん』
***
「うん、大丈夫だったみたい! でさ、ジョーン、この米ぬかはどうしてるの?」
「はい! もちろんコンポストして飼料にします! 昔、ミチイル様がご指示をくださいましたよ!」
「え? 僕、全然覚えてない……これって、麦とかもそうだし米もそうだけどさ、いつもたくさん米ぬかとかのゴミが出ていたって事だよね?」
「はい! 昔からそうでしたよ!」
「……うう……米なんて、栽培を始めてからかなりの期間が経っているのに、今の今まで米ぬかの存在を忘れていたなんて……ちょっとショック!」
「ミチイル様は、ゴミの存在などにお気を取られることはありません! 下々の事ですので!」
「うん、ありがと、ジョーン。でもさ、この米ぬかはね、色々使い道があるの。コンポストして飼料にしてくれていたのはね、栄養もあるからとってもいい事だし、無駄にはなって無かったけどさ、米ぬかで漬物とかも漬けられるしね、掃除なんかにも使えるしね、それに美容にも効果があるものなんだ」
「な、なんですって!」
「あ、母上。チョコはちゃんとできたから、どうぞ」
「今、なんて言ったのかしら?」
「チョコどうぞ」
「その前よ!」
「米ぬかの使用法? ……ああ、美容ね」
「それよ! なんでもっと早く言わないの!」
「だって、米ぬかがあった事を知らなかったもんさ」
「それで、それはどこにいつどうやってどんな事になるのかしら?」
「ええっと……まずは美肌の効果が」
「び、美肌ですって? 大変じゃないの!」
「う、うん。米ぬかを袋に入れてね、お風呂のお湯の中で揉んだら、お湯が濁り湯になってね、それに浸かると美肌効果が」
「なんですって!」
「後は、絹で小さな袋を作って、それに米ぬかを入れて、お湯で濡らして体を擦ると、老廃物が取れてビタミンとかが肌にプラスされて美肌効果が」
「なんですって!」
「後は、米ぬかを少しの水で溶いて、パックにしたりすると美肌効果が」
「なんですって!」
「後は……米ぬかから油も抽出できるから、料理にも使えるし、化粧品の原料にしたり、美肌オイルとして使えたり」
「なんですって!」
「後は、塩を混ぜて野菜を漬け込んで置いたら、美味しい漬物になるんだよ。発酵は……ま、ヨーグルトとかを少し入れて置いたら乳酸菌も発酵するかな~」
「それは、まあどうでもいいわ」
「いやいや、ぬか漬けは整腸効果もあるからね、体の中から老廃物を排出してくれる効果が高いんだよ」
「なんですって! どうしてもっと早く言わないの!」
「だって、米ぬかの存在が」
「いいわ! それよりも、その米ぬかはたくさんあるのかしら?」
「はい! マリア様! なにせ、お米を精米する時に毎日大量に出ます!」
「んまあ! それを今まで捨てていたなんて!」
「いや、飼料にしてたみたいだから」
「いいえ! 正しく使用されていなかった事には変わりないのよ! 米ぬかは正しく使用しないといけません!」
「そうですね! では、米ぬかは集めて大量に離宮に運びます!」
「そうしてちょうだい!」
「いやいや、何万人も食べる米の糠なんてさ、毎日大量だよ? そんなに必要ないの。せいぜい小さいボウルにひとつもあれば充分なの!」
「そうなのかしら? でも、美肌に美肌に美肌に、それに美肌にも使うのよ?」
「いやいや、お風呂だって小さな袋で充分なの。肌を擦るのだって、あ、そうだ、絹の袋にするからさ、絹で肌をやさしく擦るだけでも美肌効果があるんだった」
「なんですって! どうして早く言わないの!」
「ハハ あんまり興味が無いからさ、僕」
「とんでもないわ! この神聖カナン王国での最優先かつ最重要機密事案なのよ! 自覚が足りないわ! ミチイル!」
「はいはい。取り敢えずさ、お風呂で揉んで入浴剤と、絹袋で体を擦るのとさ、米ぬかパックね、これだけやれば充分だって。他の美容品もたくさんあるのに、色々使いすぎると、それぞれがケンカして大変な事になるかも知れないよ?」
「け、ケンカは良く無いわね。それで、一日に何回すればいいのかしら」
「だから、数日に一回くらいでいいよ。ま、糠袋は毎日でもいいけどさ、石鹸で洗った後に、軽く絹の糠袋で肌を撫でる程度にしときなよ」
「わかったわ! この新デビューラインナップの神の袋シリーズは毎日でもいいのね!」
「とてもステキですね! マリア様!」
「そうね、うふふ! 神の泉に高潤に神24に神の袋……んまあ! ステキね! 早速今日から使いましょう! ジョーン、米ぬかをよろしくお願いするわ!」
「はい! マリア様!」
「あのね、新鮮な米ぬかを使わないとダメなんだからね、数日経ったものを使うと、酸化しているからね、肌が老婆になるよ」
「なんですって!」
「そ、それは大変です!」
「常に新たな祈りと信仰を持って扱わないといけないのね、神の袋シリーズは」
「そうですね! お祈りも、いつもしなければなりません!」
「ええ、そうよ! 神の袋も毎日、新たなものを使わないといけないわ!」
「あのー、今日はチョコレートの日なんですけど」
「そ、そうだったわね、ごめんなさい。でも急に神聖カナン王国最重要議題が発生したのですもの……」
「あのね、チョコだって美肌効果があるんだからね!」
「な、なんですって!」




