3-53 船
えっと、スタイン侯爵が南部に行くことが決定しそうだからさ、移動手段を考えないといけないかな。
カナンに来た時みたいに、海の道を作るのは論外。僕が居なくなったら使えなくなるしね。
海底を盛り上げて道を作る事も考えたけどさ、そんな道路なんか作ってしまったら、何かあった時に攻められちゃう。せっかく、隔絶された安全なカナンなのに、そんな事になったら、意味が無いでしょ。だから、それもダメ。
とすると、舟を作らないといけない。
でも、漕ぐ手段が無いって言うか……ま、木でオールを作って人力で漕げばいいけどさ、それも大変でしょ。なので、舟用のモーター?スクリューを作る。
***
「そう言えばさ、アイちゃん。スローンが川舟を使ってエデンの南島に侵攻したって話だったけど、どうやって舟を進めたの?」
『はい、救い主様。土を掘る道具を使って、海水を掻き分けて進んだ様にございます』
「ああ、結局はオールみたいなもので、人力で進んだんだね……ま、そうか。でも、良く思いついたねえ」
『色々と暗躍している存在がありますので……』
「ん? ……あ、争いの種とか?」
『左様にございます』
「争いの種、か。その種は、カナンにも忍び寄ってきたりしない?」
『今の所は心配ございませんが、人間どもと言うのは、どの様に変化していくか、中々予想が付きませんので、後の事は判りかねます』
「ま、そうだよね。でも、何か理由があるというか、争いの種?に惑わされる原因はあるんでしょ?」
『勿論にございます。人間どもが、分不相応な欲を抱いた場合、そこに種が入り込みます』
「ああ、そんな感じなんだね。とてもしっくり来る説明だよ……という事は、今の神聖カナン王国では、あまり心配は無いんだ?」
『現時点では、種の入り込む余地は無いと存じます』
「ま、それだけでもいいか。できれば僕が生きている間は、今のまま行って欲しいよ……ま、それじゃあスクリューを作るかな~ ありがと、アイちゃん」
『救い主様の、御心のままに』
「さて、取り敢えずモーターだよね……でも、プロペラ?の部分か台座となる部分に魔法陣を仕込まないといけないし、そこに魔石を繋げないといけないんだから……少なくとも遠隔でオンオフできないとね。モーターの潤滑剤とかが、どうなっているのかは分からないけど、今の所は普通に稼働しているしね、魔道具。海の中でもミラクル構造で大丈夫になると思っちゃおう! どうせペルチェ導線で色々繋げないとダメなんだから、もう最初から全部、ペルチェ金属で作っちゃえばいいよね。そうしたら、魔力の流れとか気にしなくて済むし?」
『左様でございますね。ペルチェ金属は、魔力に満たされている間は腐食も致しませんので、あまりご心配の必要はございません』
「ああ、そうなんだ。じゃいいね。まずは……モーターにプロペラが付いて、石臼魔法陣でプロペラが回る……そのモーターに金属の柱を接着して、蝶番みたいなので、それを舟の後ろに設置して、モーターの方向を変えられるようにして……持ち手部分に魔石をセットできるようにすればいいかな! これで舟の上で魔石を付けたり外したりできるしね~ さて、イメージはばっちりだから、取り敢えず舟のモータープロペラを一つ作っておこう、ピカッとね。じゃあマーちゃん、僕を海岸まで運んでくれる?」
「かしこまりましたー!」
***
プーーーン シュタッ!
「ありがと、マーちゃん。さて、漁業基地からは少し離れているから、この辺でいいかな。まずは舟を船盛魔法でピカッと。はい、舟……だけど、この舟は川舟だしさ、小さいから大勢も乗れないじゃん……それに、底が真っ平だと、海の波とかで……どうなんだろう。それに、もう少し人が乗れないとね……牛とかコーチとかも載せられないとダメだしさ……フェリーとは言わないけど、せめて屋形船くらいのお」
***
――ピロン 屋形船魔法が使えるようになりました。船が思いのままです
***
「ええ……なんか、舟じゃなくて船って感じに聞こえたんだけど、どうして?」
『船だからでございましょうね』
「いやいや、音声なのに漢字が浮かぶってさ、おかしいでしょ」
『そういう世界でございますので』
「ああ、そうだったそうだった。ついね、忘れちゃう……ま、いいか。有難く使用致しまーす! では『屋形船魔法で、牛もコーチも運べる船をお願い!』
さあ進水~! 」
ピカッ ザバー
「おおお! かなり大き目な船……これなら牛も数頭にコーチも一つ二つは載せられるね。人間だけなら30~40人くらいかな~ あ、でも、こんな大きさだとさ、せっかくさっき作ったモータープロペラ? モータースクリュー?が小さすぎて使い物にならないかも……取り敢えず、舟の後ろを確認……って言うか、既にモーター付いてるし?」
『最新式の設備を利用する設定でございますので』
「設定か~って、ここの所ほんと色々ぶっちゃけてるよね、アイちゃんってば。要するに、さっき僕がモーターのプロペラっぽいものを作ったから、それでこの船が建造された訳だね……でも、スクリューとプロペラの違いも良くわかって無かったからさ、形だけ真似て作っただけなんだよ……舟に取りつけて、ちゃんと進むか確認してみようと思ってたのに……」
『そこは、色々調整が加わっておりますので、ご心配には及びません』
「ハハハ まったく~ ま、いいか。でさ、これってどう考えても魔道具なんだけどさ、僕以外でも作れるの?」
『これ程の大きさの物は無理かと存じます。ですが、屋形船魔法で、船と動力を別々に作成する事は可能でございましょう。動力を作成する場合、魔法陣の処理は別に必要かと』
「ああ、一気には作れ無くても、部品としてとか、部分としては作れるかも知れないのね……そして、モーター部分は、著作権メダルが必要なのか。ま、中々セキュリティ対策が取られているね~ そうでないと、カナンが攻められちゃうもんね。船はなるべく必要最低限の作成で留めておきたいし」
『救い主様の、思いのままに建造数の制御も可能であると思料致します』
「そうだね。著作権メダルで管理しよう。金工と木工の技術も要りそうだしね、誰か一人がササっと作って悪用とか、出来ない方がいいや。ま、もう一艘だけ作って、二艘体制で様子を見ようかな。えっと、これの係留を……」
「すくいぬし様! かいさんぶのにんげんに、おつたえしてきまーす!」
「ああ、そう? じゃお願いね、マーちゃん」
「はーい!」
***
取り敢えず、離宮に戻ってから屋形船魔法呪文の著作権金メダルを1枚だけ作成。
船はあんまり増やしたくないからさ、取り敢えずというか、一応作っただけ。技術の継承の研鑽用かな~
さて、ちょっと作業をしちゃおう!
***
「ふんふんふーん」
「すくいぬし様~! たのしそうでーす!」
「うん、屋形船魔法でね、色々思い出してさ~ さて、木の器を色々作ったし、食紅魔法で全部、黒色に~ピカッとね。そして、スライムフィルムを薄く延ばして全面に密着! はい、ピカッとね。そして~ 足つきの木のお膳を作って~ 内側は赤っぽい色……朱色は無いからな~ 小豆色に赤を少しプラスする感じで~ お、いい感じ! そして外側は黒ね。さらに、極薄スライムフィルムを全面にコーティングで、はい! お膳セットの、完成です!」
「とてもピカピカしています!」
「うん、そうでしょ~ この世界には漆が無いからさ~ スライムフィルムで代用してみたんだよ。木の食器だけど、光っていて高級感があるでしょ?」
「はい! みたこともありません!」
「じゃあ、これに盛り付ける料理をキッチンで作ろう!」
「はい!」
***
「まずは、お椀かな~ えっと、濃い出し汁を調味して、カニをすり身にして、カニしんじょうの椀物でしょ、それに、筑前煮にしようかな……でも材料が少ないんだよね、レンコンも無いしこんにゃくもシイタケも無いからな……筑前煮風の煮物でいいか。ニンジンとタケノコと小ぶりのダイコンに、鶏もも肉と……あ、結び昆布で煮物にしよう。炊き合わせは面倒くさいから、全部ごった煮でいいよね、筑前煮風だしね。後は……天ぷらかな~ それと、和え物の小鉢は……春菊と黄色い色花で和え物にしよう。うん、キレイキレイ! そして、漬物だけど……あ!べったら漬けにしよう! そう言えば、随分昔から麹があったのに作って無かったよ。さ、漬け床を作って、キュウリとダイコンと薄切りニンジンを入れてピッカリンコ。後は、やっぱり茶わん蒸しでしょ! そして……おかずが盛りだくさんになったから、白飯でいいか。後は、デザートに」
「あら、ミチイル。ずいぶんと機嫌がいいみたいね」
「うん、母上。今日の晩御飯はね、特別スペシャルマーベラス料理だよ!」
「まあ、何かしら! 楽しみね」
「うん。もう殆ど終わったからさ、ダイニングで待っててよ」
「わかったわ!」
「さて、デザートはやっぱり、あれだよね~」
***
「お待たせ~」
「うふふ、そんなにミチイルがおすすめする料理なんて、久しぶりでは無いかしら~」
「そうかな、そうかも~ では、ジャジャジャーン! はい、登場~」
「んまあ! これは……とってもたくさんのお料理が、一つになっているわ!」
「うん。懐石料理って言うんだよ。会席料理でもいいし、ま、本膳料理でもいいけどさ」
「違いがわからないわ……」
「うん、いいのいいの。会席料理ってしようかな! さ、お供えもして、いただきまーす」
「いただきます……まあ! 何から食べたらいいのか、迷っちゃうわ」
「うん、本当は色々作法があるんだけど、別にいいの。食べたいものから食べよう!」
「ええ。それにしても、この器は初めて見るわね。とても光っているし……あら? それに軽いわよ!」
「うん。それは木の食器なの。こういう会席料理の時はね、欠かせないんだよ」
「それに、この木の台?に一人分ずつキレイに並んでいるのが、とても上品だわ!」
「でしょ~ この料理はね、高級な料理の扱いだからね~ 品数も多いしね、手間暇がかかるでしょ、だから高級料理なの」
「そうなのね……でも、いつもミチイルが作っているお料理と、そんなに違いが無いわね」
「うん。でも、こうやって器とかが違うとさ、全然別な感じでしょ? おもてなしにもぴったりだしね~」
「和食、よね」
「うん。こういうのはね、良く、旅館とかで食べるんだけど、屋形船でも食べるんだ~」
「やかたぶね?」
「うん。今日、新たに作ったんだけどね、海の上の船でね、景色を眺めながら食事をするの。その食事とかがね、こういう会席料理が多いんだよね」
「そうなの。舟と言えば、アタシーノ川を思い出すわね」
「うん。でも今日作った船は海の船だからね。海の上を進むの。ま、そうは言っても、カナンから出て行くとか、そう言うつもりは無いけどね」
「そうよ! ここは約束の地カナン。祝福された楽園なのですもの」
「ほんと、そうだよね~ ま、さ、スタイン侯爵がエデンの南部に行くって言うからね、そのために作っただけだから」
「あら、そうだったのね。てっきりマーちゃん達が運んだりするのかと思っていたけれど」
「いや、民たちだけで色々やって行って欲しいからね」
「でも、もとは全部ミチイルの奇跡なんですもの、民の力では無いわよ」
「うん、そうだけど、民が作れるようにもして行かないと。僕だって、いつまで生きているか分からないからさ」
「そうね……わたしだって、いつまでも永遠の24歳では無いものね」
「でも、全然歳を取らないんだよね、僕たち」
「ほんとうね。いいじゃない、元気でいられるのですもの」
「そっか!」
「そうよ! 考えても分からない事は、考えるだけ無駄なのよ!」
「そうだった! アハハ」
「うふふ」
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