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3-52 明けまして

新年を迎えた。


カナン5年だね……


去年は、なんだか色々あったよ。


あれからエデンがどうなっているのかは知らないけどさ、ま、壁がある以上、戦争も起こってないと思うよ。マーちゃんも何も言わないしね。


神聖カナン王国では、文化の隆盛が著しいと言うか、ものすごく活気にあふれている。


ベーシックインカムも一人当たり毎月10万円にしたからね、基本的な衣食住は支給制度を取っているし、純粋に生活以外に使えるお金だから、それを使って、様々な消費活動が旺盛になった。


キッチンカーも相変わらずだけど、キッチンカーで実績を積んだ人はね、建物を増やした商店街で店舗をオープンしている。もう僕が何かを言わなくても、勝手に色々な店が出来ているらしい。


店も増えて紙幣で購入できるものが激増したからね、それでますます発展していって、さらに物が増えて、そして発展して……


それ以外にも、絵なんかを描く人も増えたみたいだし、服なんかも、色だけでは無くて柄物も増えたし、宝飾品も、宝石は貴族だけだけど、シルバーアクセとかね、平民でも買うようになった。


音楽もね、コンパクトに小さく作った琴なんかも売るようになって、びっくりする事に、笛も出来てたよ。平民用の琴が販売されてから、貴族の楽器はシターに移ったらしい。


ゲームなんかの娯楽製品も普及して、民が楽しめるようにもなったしね、魔道具なんかも、全家庭が買う感じみたい。ま、使えるお金が増えたからね、かなり購入しやすくなったと思う。


それに学校も、全学年揃ったしね、人口も増え続けているから子供の数もすごいらしい。学校ではね、美術や音楽も取り入れているし、羽根突きバドミントンのスポーツも。本当に学校らしくなってきたよ。


後は、ラック式鉄道ね。これも、勿論とっくに完成していて、海産部の人達はもちろん、別に海岸に用も無いのに、娯楽として乗りたがる民が増えちゃってさ、大盛況みたいよ。ま、ジェットコースターみたいな感覚なのかもね。あまりに増えて収拾がつかなくなるようだったら、運賃を取った方がいいかもね。


そして、モーター魔道具を使ったバス、トラックも運行を開始。


牛を使わなくても、魔石だけで動くからね、かなり効率も良くなったし、夜の運行でも楽になったらしいし、何よりも、道路の清掃が楽なんだって。ま、そりゃそうか。牛だと、色々出したりするんだろうからね、それがどうしても道路とかにも残ったりして、僕は知らなかったけど、清掃員が結構大変だったらしいよ……


僕、本当に細かい事は把握して無いからさ、ま、仕方が無いけど……


今日はさ、久しぶりに来客があるんだ~




***




「ご無沙汰しているのでゴザル」


「本当だよね、足軽君。こちらこそ、すっかりご無沙汰だよ」


「ミチイル様に、中々お会いできなくなってしまいましてゴザルので、ここ数年は寂しかったでゴザルよ」


「左様でございますね、スタイン侯爵令息様」


「シェイマスも、まだそんな呼び方をしているの?」


「当然でございます。なにせスタイン家は、代々当主のお名前が同じでございますので」


「左様にゴザル。呼びにくくて申し訳無いのでゴザル」


「そうだった……それで、シモンはどうしたの? シェイマス」


「はい。シモン様は色々とご予定がおありで……」


「ま、そうか。王太子様だもんね~ ま、取り敢えずお茶でも飲んでよ」


「では、失礼して頂きますでゴザル」「私も、ご相伴に与らせて頂きます」


「ハハ 二人とも、なんか硬い硬い~ あ、お菓子も適当に食べてね」


「これは! 少し変わった紅茶でゴザルな」


「うん。オレンジの皮をブレンドしてるからね」


「そうなのですか……レモンの輪切りを紅茶に入れる事はございますが」


「オレンジも美味しいんだよ。それにね、生の輪切りももちろんいいんだけど、こうやって乾燥した皮とかはね、風味が変わって、と言うか、紅茶の味はあんまり変わらないんだけど、風味だけ付くって言うのかな、生を使ったのとは違った感じで、紅茶の味がメインになるからさ、男性とかにはいいかな」


「左様でゴザルな。生の輪切りよりは、紅茶の味がしっかりしていて、美味しいでゴザル」


「確かにこれは、すっきりしていて仕事の合間にも良いかも知れません」


「仕事と言えば、シェイマスは貴族学校で教師の仕事もしてるんだって?」


「はい。次代の神聖カナン王国を背負っていく若い人材は、教育が一番大切だとの、王陛下の仰せでございますので」


「ま、そうだけどさ、次代って言うのは、シモンやシェイマスや足軽君じゃないの。僕たちはまだ代も継いでない歳じゃない」


「ですが、今、貴族学校へ入学しているのは10歳になる歳の子ですので」


「そうでゴザルな。私たちよりも12歳も年下でゴザル」


「あ、そっか……そう聞いちゃうと、なんか自分が歳を取った気分になるよ……僕は相変わらずダラダラしてるだけなのに」


「ミチイル様は、特別なお方でいらっしゃいますので」


「左様でゴザル。逆に、ミチイル様がお忙しくしているような国には、しないようにするのでゴザルよ」


「ハハ まあね、僕が表に出なくても済むって事は、国が順調って事だろうからね~ それでさ、足軽君は何か話があるんじゃないの?」


「はい、今日は……スタイン侯爵家として、ミチイル様にお許しを頂きたく、参りましたのでゴザル」


「おゆるし……って事は、南部の関係の事?」


「左様にゴザル……当家の……現スタイン侯爵が、南部へ行きたいと申しておるのでゴザル」


「そっか。それは、責任感から? それとも懐かしさとか、そういうの?」


「父の考えることゆえ、はっきりとは分からないのでゴザルが、おそらく責任を感じているものと思うのでゴザル」


「民を置いてきちゃったから?」


「いいえ、正確には連れて来れなかったからでゴザル。経緯はあったのやも知れませんのでゴザルが、南部に残った混血民は、ミチイル様に刃を向ける事になってしまったのでゴザル……父は、そもそも、そう言う事にならないようにすべきであったと考えているのでゴザル。父がきちんと南部の民を統率していれば、ミチイル様に逆らう事にもならず、そうすれば、このカナンにも連れて来ていたはずなのでゴザルので……」


「ああ、ちょっとニュアンスの理解が難しいけど……そもそも南部の混血民が一つにまとまって居れば、そもそもこんな事にはなっていなかった、という事かな。そもそも論だ」


「まあ、その様な事は今更言った所で何も始まりませんね。スタイン侯爵は、ご自分の気が済んでいない事を気にされて居たのでございましょう」


「シェイマスは、中々厳しいね」


「当然でございます。この神聖カナン王国の、二家しかない侯爵家なのでございますよ。それを、投げうつような」


「……本当に申し訳無く、お詫びのしようも無いのでゴザル」


「いや、足軽君の所為では無いでしょ。シェイマスもさ、気持ちは分からないでも無いけど、そもそも論で言えばね、この話を持ち出したのは僕だからさ。だから、そうなったからと言って別に国を裏切るとか、そういう話では無いの」


「大変失礼を致しました。勿論、ミチイル様のなさる事に、異議も否やもございません」


「でゴザルが、ミチイル様のご厚意に甘え過ぎだと思うのでゴザル。たとえ、その……後悔や未練があったとしても、それは棄て置くべき事にゴザル。南部に残った民よりも、カナンで神聖カナン王国の正式な民となる光栄に与った混血民の方が、ずっと多いのでゴザルゆえ」


「左様にございます。現在の国民が第一でございます。それを、かなぐり捨てる様な」


「まあさ、僕が思うにね、逆に今の神聖カナン王国が安泰でね、この先も心配が無いと思ったから、今現在、心配がある南部の民の力になろうと思ったんじゃないかな、スタイン侯爵は」


「……うっ……うっ……」


「足軽君、何も泣く事は無いじゃない。足軽君が、そんなに負担に思う事では無いよ。スタイン侯爵が選んだ選択だからね、足軽君にも、残るスタイン一族にも、別に責任は無いから……って言うか、スタイン家はもしかして、全員移るの?」


「い、いいえ……そんな事は考えた事も無いのでゴザル……うっ……私はもちろん、ずっとこのカナンに、ミチイル様のおそばに居るのでゴザルゆえ」


「当然でございましょう」


「うん、足軽君も無理とかはしなくていいんだよ? お父上と一緒に向こうで活躍してもいいし」


「いえ! 私は神聖カナン王国で、スタイン侯爵家として仕え、ミチイル様のお慈悲に少しでも報いたいのでゴザル!」


「う、うん、ありがとう。とにかくさ、自分の人生の選択だからね、好きにしたらいいよ」


「かたじけないでゴザル……そこで、スタイン侯爵家は代替わりし、私が侯爵となるお許しを頂きに来たのでゴザル」


「え? ああ、お父上が居なくなるからね……という事は、お父上は向こうへ行ったら、もう戻らない覚悟なんだ?」


「当然でゴザル。どうしても行くのなら、爵位も退き、二度と約束の地カナンに足を踏み入れない様にするのでゴザルから」


「いやいや、そんな大げさな……それにさ、そんな断絶しちゃったら、結局二の舞になるじゃないのさ」


「にのまい……」


「うん。今だって、向こうが気になる訳でしょ。それは向こうとやり取りして無いからなんだからさ。それで向こうに行った後にさ、こっちとやり取りを止めたらさ、向こうでもこっちが気になっちゃうでしょ、ああ、ややこしい」


「ミチイル様、それではスタイン侯爵がエデンの南部に行った後も、この神聖カナン王国への出入りは、お許しになると?」


「うん、シェイマス。ま、そもそも論で言えばさ、別に僕の許しとかも必要ないんだけどさ」


「その様な事は無いのでゴザル! ミチイル様は常に国の中心でいらっしゃるのでゴザル」


「左様でございます。ミチイル様の許しも無く、国を出る様な勝手を許す訳には参りません。これは、国の総意でございます」


「んもう、考え方が本当に硬いんだから~ ま、でも確かに僕が許したって言えば、この国で文句を言う人とかも減るのかも知れないけど」


「減るのではございません。皆無となるでしょう」


「いやいや、僕はそんな存在じゃ無いんだけど……でも、現状を考えたら仕方が無いか……なんか僕がまるで裏で暗躍してるみたいじゃないのさ」


「そのような事を思ったり考えたりする民は、居ないのでゴザル。ミチイル様がいらっしゃればこそ、民は安寧と幸福があるのでゴザルゆえ」


「はあ、そんな事を言ったらさ、僕が死んだら国がつぶれちゃうよ」


「ミチイル様は、永遠の存在なのではございませんか?」


「はい? 誰がそんな事を?」


「いえ、誰とは申しませんが、皆、そう思っていると存じますが」


「はあ? 僕は救い主かも知れないけど、人間なんだよ?」


「そうだったのでゴザルか?」


「いやいや……全くもう。僕は人間です! 歳を取ったら死にまーす!」


「そ、それは……ミチイル様もマリア様も、一向にお歳を召されないので……」


「左様でゴザル……全然歳を取っていらっしゃらないのでゴザル……お二人とも、初めて拝謁した頃と、何もお変わりが無いのでゴザルゆえ……」


「そう言われちゃうとさ、僕も良くわからないんだけど……ま、母上の所為じゃないかな~ 母上は妙に若作りだからさ~ 僕の所為じゃ無いね、うん」


「これは、国の体制を考え直さなければ……ミチイル様ありきで居ては、後々に支障があるやも知れません……」


「だから、僕は国の運営の表側には出ないって、最初から言ってるのにさ~ でもまあ、この国もまだ始まったばかりだからね、僕が役に立つうちは、僕も頑張るよ。それで、スタイン侯爵家では足軽君に代替わりして、隠居したお父上は、エデンに移住だね?」


「お許しいただけるのでゴザルなら……」


「うん、もちろん大丈夫。さっきも言ったけど、そもそも僕が言いだした事だからね。後は伯父上とも色々取り決めをしておくよ。だから、足軽君は心配しないで」


「誠にかたじけない事でゴザル」


「本当に、ミチイル様のお慈悲は山よりも高く、海よりも深いと存じます」


「んもう。ま、二人とも相変わらずで、ある意味安心したけどさ~ じゃ、お昼ご飯を食べよう!」


「非常に楽しみでゴザル!」


「ミチイル様のお食事に与れるなど、光栄でございます!」


「ハハ」




***




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