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3-48 再降臨?

「うわー、空に!」


「なんだなんだ!」


「ぎゃー」


「天の御使い様ではないのか!」


「空が黒いわ!」


「あれは! 畑の妖精様よ!」


「妖精様って、夜中に畑で見かけるっていう……」


「いや、あれは眷属様だ!」




***




「男爵! 大変です!」


「何だ? スローンが国境を越えたか?」


「い、いえ、それはまだ大丈夫なんですが、そ、空に!」


「空だと?」


「は、はい! とにかく空を見てください!」


「ふむ……あああ! あれは! 黒と……白いミツバチ……いや、マーちゃん様と、救い主様ではないか!」


「はい! そうだと思います!」


「いよいよか……救い主様に刃を向けた罰をお与えに来られたのだな……」


「そ、そんな!」


「仕方があるまい。それだけの事をしたのだ! 後は静かに祈りながら、沙汰を待とう」


「はい……」




***




「男爵! 救い主様が、通り過ぎて行きます!」


「……なんだ、どうなさったのだ……」




***




ピカピカピカッ ドデーーーン!




***




「こ、これは!」


「男爵! 国境にか、壁が!」


「これは……かつての神聖国と同じ石壁……も、もしや……救い主様は、混血民を御救いくださるのか!」


「そうかも知れません! ああ、すごい! 石の壁が見えない所まで! ずっと!」


「これは、すさまじいな! こうやって神聖国の壁もお創りになったのだな! ああ! 救い主様!」


「救い主様!」




***




「おい、見ろ!」


「なんだなんだ? 壁が……」


「これで、スローンに攻め込まれ無くて済むわ!」


「救い主様!」


「ああ、救い主様!」


「あ、あれは何だ!」


「木が……森が……森が出来たぞー!」


「すごいわ!」


「こんなに緑色の大きい木は見た事が無いぞ!」


「うわ! こっちにも木が」


「おお! これは桐の木では無いか!」


「本当だ! おお、見る見るうちに巨大な森が出来て行くぞ!」


「これぞ正しく神の御業だ!」


「ああ、救い主様! ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」




***




「こ、これは一体……これは夢なのか」


「い、いいえ、確かに目の前で森が! 男爵! これで木材が手に入ります!」


「そ、そうだ! これで多少の武器も作れよう!」


「ですが、あんなに高くて継ぎ目も無い石の壁がありますから、もうスローンも混血国には入れないのでは?」


「そ、そうだな! これぞ神の御業だ! ああ、女神様、救い主様! 感謝を!」


「感謝を!」




***




――こうして、南島の戦争は立ち消えた


――そして、南島では、天から救い主が白と金色に輝きながら再降臨されたと、世々伝えられていく事になった


――白い天使と、数多の黒い眷属を従えた救い主に、民は感謝し祈り、ひれ伏した


――民の全員が救い主を目にした混血国では、女神信仰がますます隆盛した




***




「はあ、何だか疲れたよ。マーちゃんも、ミツバチ君たちも、お疲れ様~」


「とんでもありません! すくいぬし様のみわざは、すばらしかったでーす!」


『さすがは我が救い主様であらせられます』


「そうかな……神聖国の時と、そんなに変わらないじゃない。それにしても、エデンの大陸が二つに分かれていたなんて」


「あらミチイル、どこかにお出かけしていたのかしら?」


「うん、ちょっとね」


「何だか疲れているように見えるけれど」


「うん、大丈夫。お昼は何か食べた?」


「ミチイルも留守だったから、残っていたマドレーヌを頂いたわ」


「いやいや、冷蔵庫に他にも色々入っているでしょ?」


「ええ。でも、面倒だったのですもの」


「まったく、面倒くさがりはケルビーンの男だけじゃ無いのかも」


「そうね、そういう意味ではわたしもケルビーンなのよ」


「開き直らないでよ、母上。きちんと食べないと、美容に良くないんだから」


「あら、ミチイルが留守だって分かっていたら、いくらわたしでもちゃんと食事はしたわよ? なんの言伝も無しに出かけるんですもの」


「ああ、ごめんね。じゃあさ、少し遅めだけど、お昼ご飯にしよう。なに食べる?」


「そうねえ、朝食はパンだったでしょう? ご飯ものがいいかしらね」


「わかった! じゃキッチンで料理しよう」


「うふふ、楽しみね。お昼を食べなくて良かったわ!」


「いやいや、いつもだって僕が料理をしているでしょ」


「いつもだったとしても、ミチイルのお料理は美味しいから、楽しみなのよ!」


「ハハ」




***




「さ、母上、お待たせ~」


「何を作ってくれたのかしら」


「うん、ジャーン! どう? キレイでしょ?」


「まあ! これはケーキじゃない! でも……ケーキでお昼ご飯なのかしら?」


「うん。ちょっと待ってね……はい、どうぞ」


「んまあ! ケーキを切ったら、断面はご飯じゃない!」


「うん。寿司ケーキだよ。エビとカニを茹でたのを寿司飯に挟んでさ、錦糸卵とかも挟んでね、押し寿司にしてあるの。周りには枝豆のみじん切りを付けて、上にはイカペーストを生クリームみたいに絞ってね、蒸したのでみっちり飾ってるんだよ。ぱっと見は本物のケーキみたいで面白いでしょ」


「ええ! これは、華やかだしびっくりするし、おもてなしにもぴったりね!」


「うん。じゃ、お供えもして、いただきまーす」


「いただきます……パク……見た目はケーキだけれど、味は散らし寿司なのね」


「そりゃそうでしょ、材料がそうなんだから」


「そうよね。でも、このイカ?は弾力があって不思議な食感ね」


「そうだね。イカのすり身だけど、色々混ぜて練って蒸してあるからね、かまぼこって言うんだ」


「初めて食べる食感だけれど、あっさりしていて美味しいわ!」


「でしょ? ちょっと塩分が多いけどね、低脂肪で高たんぱくだからね、とても人気がある食べ物なんだ。そう言えば、イカは使い道が少ない気もするから、かまぼこを作ってもいいかも知れない」


「そうね、食べ物の種類が増えることは、いいことですものね」


「そう言えば、エビはレシピ講座をしたけど、イカとカニはしてないかも……」


「でも、ミチイルだけではなくて、イカもカニも、民は適当に使っていると思うわよ」


「まあね、食材は供給されるもんね。さ、野菜が不足するからね、このピクルスをどうぞ」


「あら、これは青いトマトね。この青いトマトのお漬物も美味しいけれど、ピクルスもさわかやでいいのよね」


「うん。今日は少しアレンジして、オリーブオイルとニンニクもプラスしたよ」


「……カプッ……あら、確かにあっさりしたピクルスが、しっかりしたサラダになったわね。美味しいわ!」


「でしょ~」


…………


「うふふ」


「アハハ」




***




「何だと! 兵が全員逃げ帰って来ただと!」


「はい、スローン大公。南部の西に、突如として石壁が現れたそうです」


「馬鹿を申すでない! そのような事があってたまるか!」


「ですが、神聖国の例がございます」


「……救い主とやらか……どんな魔法を使ったか知らんが、そのような戯言に騙されるとは! 優秀なスローン人の名が泣くぞ!」


「民は、奇跡が起こったと言い、泣きながら女神に許しを願っております。セルフィンへ逃れたものも多くなっております」


「馬鹿め。民とは愚かなものよ。セルフィンに行ったとして、何があると言うのだ。このスローンに献上するものを作らされるだけではないか。セルフィンはスローンの奴隷なのだ!」


「スローンには大公令息がおりますが」


「あやつは、どうも覇気がない。何としても世界を手に入れようとは思わんのか! 全く、わしの息子とは思えんな。もう跡継ぎにするのは止めだ!」


「……ですが、誰が他に……」


「分家の阿呆どもがいるであろう! 誰でも良いではないか。わしの言うことを聞きさえすれば良い」


「では、セルフィンの令息や、私の息子は」


「このスローンに物を供給している間は、そのままにして置いてやろう。だが、文句を言うようなら、攻め滅ぼせ!」


「南部はどうなさるのでしょうか」


「石の壁とやらがあるのであろう? なら、壁を乗り越える道具をセルフィンに作らせろ。そして、セルフィンからスローンの民を取り戻し、南部へ送れ。大量に兵を送れば、南部も陥落するに決まっておる!」


「かしこまりました」




***




「スローン大公、セルフィンでは、民は出さないし、道具も作らないと言っております」


「何だと! 身の程も弁えない者共が! わしの言う事に逆らうか! ええい、セルフィンへ攻め込め!」


「ですが、残っているスローンの民も、多くはございません」


「何だと! どこへ行ったというのだ」


「セルフィンだと存じますが」


「馬鹿な者共だな! 良い、残りの民をかき集め、エデン人も総動員してセルフィンへ攻めろ! そして民を集め、全員で攻め込み、南部を我が物とするのだ!」


「……かしこまりました」




***




「なに? クソおやじが?」


「はい、大公令息。兵を集め、セルフィンへ攻め入るようにと号令を発したようで……」


「あのバカは、一体何を考えているというのか……」


「南部に侵攻していた兵が逃げ帰って来たと言ってましたし……救い主様の奇跡が起こり、果ての無い石の壁が南部に突如として現れたと言う話ですから」


「……石の壁か……神聖国と同じだな」


「左様でございましょうね」


「ようやくセルフィンも安定して来たと言うのに……それで、増えた民は?」


「はい。スローンから逃げてきた民は、悔い改めて女神様に祈りを捧げているそうでございます」


「それなら大丈夫か。食糧なども問題は無いな?」


「問題はございません」


「では、動けるものを総動員して、まずは国境へ集めよ。石材は運んでいるな?」


「はい。神聖国にあった石の壁の残骸を、公都東へ集めております」


「よく運べたな……いや、命令して置いて言うのも何だが」


「はい。神聖国からの石の街道がある程度残っておりましたし、神聖国製の牛の荷車も少しだけございますので」


「そうか。材料に手段まで神聖国の遺物か……では、女神様と救い主様に祈りを捧げ、石を積み上げろ」


「ですが、国境すべてとは参りません……」


「もちろんだとも。そのような事がお出来になるのは女神様か救い主様くらいであろうからな。だが、この公都と北の作業所、南の畑くらいは囲め。5km四方くらいだな」


「かしこまりました」


「……何日で壁が完成するんだかな……」


「それが、女神様へ祈りを捧げるようになってから、仕事が速くなって来ている民が多くなっております。ですので想定よりは早く完成するかも知れません」


「は? それは女神様の祝福なのか?」


「はっきりとは分かりません。ですが、フランベ魔法と同じように、何らかの力が作用しているのではと」


「……そうか。それは女神様の祝福に違いない。もっと祈りを増やすように通達せよ」


「かしこまりました」




***




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