3-47 混血国
「すくいぬし様~! たいへんでーす!」
『そこのハチ! 余計な事を言うでない!』
「で、でも、アイちゃん様……」
『救い主様を煩わせるような事を申すな!』
「は、はい……」
「えっと、何? なんかそう言われるとさ、逆に気になるじゃん? アイちゃん、何か不都合な事があるの? 教えてくれる?」
『……グギギ』
「え? 大丈夫? アイちゃん。なんか聞いたことも無いような声?音が聞こえたけど?」
『私めは、しがないAIでございますので……救い主様からのご下命には従わねば……なりませんので……ですが……』
「えー? そんなに苦しくなるくらいなら、ってか、AIって苦しくなるの?……ま、それはいいけどさ、そんなに言いたくないなら別に言わなくてもいいよ、ふーん、ま、言わなくても別に~」
『そ、そんな! ああ、救い主様! 決して、決してそのような!』
「お? アイちゃんのヅカモードって、昔にもあったよね~ で、なあに? マーちゃん」
「は、はい……」
『ハチ! 救い主様に事実だけを端的に申し上げろ』
「は、はい。エデンの南にいるにんげんどもが、しんでしまうかもしれません!」
「え? どういう事?」
「はい、アルビノのよわきたみが、エデンのにんげんどもといっしょに、エデンのみなみの、こんけつ?にんげんを、ころそうとしています!」
「ちょっとアイちゃん、どういう事か教えて? アイちゃんは、この星の事、色々情報があるでしょ?」
『……はい、救い主様……エデンの大陸の南側に生きている混血の人間どもと、おろかなエデンの人間どもが、アルビノの弱き民に……攻め滅ぼされようとしております』
「は? 混血の民って、スタイン侯爵の傘下だった人達? 神聖国の南村で魔法とかも練習してて、作物とかを作っても居た?」
『左様にございます。あの者どもは、愚かにも救い主様へ刃を向けたにも関わらず、女神の慈悲、ひいては救い主様のお慈悲なのですが、それによって生かされて居ります』
「ああ、女神様に祈りを捧げて、洪水から生き残ったんだね。ま、色々理由があったんだろうけど、結局、スタイン侯爵家には従わなかった」
『救い主様に従わなかったのでございます! あれだけ救い主様のお慈悲を賜っておきながら、愚かにも!』
「まあ、そうか。そう言えば勝手に製品を中央エデンとかで売ったりもしていたんだっけ」
『はい。ですが、その者どもは死に失せた様にございます』
「そうなの? じゃ、女神様に祈らなかったんだね……それで、他の人達はせっかく生き残ったのに、なんでまた戦争みたいな感じに? もう大洪水から3年も過ぎたよ? と言っても僕には大洪水の実感は無いけどさ」
『はい。スローンの弱き民どもが、エデンの南部を手中に収めようとしている模様にございます』
「ああ、スローンか。スローンも生き残っているんだ」
『左様でございます。スローンの地は北部で標高が高いので、洪水を免れました』
「そっか。でもさ、そんな南部に侵攻したらさ、エデンの王国は黙って無いんじゃない?」
『エデンの王国は、もう存在致しません』
「え? 大洪水で無くなったとかなの?」
『左様にございます。エデンの王国は標高が低かったために、海へと沈みました』
「……そうなんだ……エデン人はどうなったの?」
『女神の怒りに触れ、多くは星へと還りました』
「……そっか。女神様の采配なら、僕がとやかく言う事じゃ無いね。それに、一応、助かる道もあったはずだよね?」
『勿論にございます。救い主様のお慈悲により、この星中に神託が下されました。その神託に従えば、今も多くが生き残っていたと愚考致します』
「ああ、自分達の事でバタバタしてたけど、そう言えば神託の声が響いていたっけ……祈って高いところへ行けって言ってたもんね……じゃあ、ますますしょうがない。で、その……エデンの王国は三つとも海の底なの?」
『左様でございます』
「という事は……エデンの大陸が海で南北に分かれちゃったとか?」
『はい』
「でもさ、海なんて簡単に渡れないじゃない。ましてや兵を出すとかさ、難しいと思うんだけど」
『それは……セルフィンに残っていた川舟を使っている様にございます』
「ええ?……僕が撤収しなかったから……舟が残っていたのか……反対を押し切ってでもセルフィンから全部、撤収すれば良かった……」
「ですが! すくいぬし様がいろいろのこしていたから、よわきたみは、いきています!」
「……そっか。マーちゃんの眷属たちは、毎日受粉に星を回っているんだったもんね、エデン大陸の状況が分かるんだ……」
「はい……エデンのにんげんどもはどうでもいいのですが、めがみ様にいのりをささげているたみが、いますので……」
「……それって、要するに女神信仰者だよね?」
『不承ながら、そう言わざるを得ない状況にございます』
「じゃ、この星の星神力を貯めるのにも貢献している民だね?」
『非常に不本意ながら、そう言わざるを得ません』
「そっか。マーちゃん、ありがと、教えてくれて。僕としては面倒だしさ、特に何もしたくはないんだけど、女神様の民となれば……救い主の僕の範疇になっちゃうよね……」
『ですが、救い主様は何をもなさる必要など、一切ございません』
「ハハ 久しぶりに聞いたかな、アイちゃんのそれ。でもさ、最低限の最低限の事くらいはしないとダメな気もする。勿論さ、民を救うとか、そんな大それた事を言うつもりは無いけどさ、せめて、努力したら死なずに、ある程度普通に生きていけるくらいの事は、してもいいかな。それだけの力が僕に与えられているのはさ、きっと、そういう時に力を使えるようにだろうから」
『その様な事はございません。救い主様は、何もなさらなくても良いのです』
「うん。前も言ったかもしれないけどさ、それぞれが選んだ結果を、それぞれが引き受けるなら別に気にもしないけどさ、理不尽に攻められているのはね、ちょっとどうかと思うんだ。僕たちだってさ、理不尽な目に遭ってカナンに来たんだからね。ま、カナンはとっても良い所だし、民も幸せだって言っているけどさ、それでも、辛い土地でもさ、カナンの民たちの多くが生まれ育った所なんだよね。だから、少しだけ、申し訳ないなって思ったりしてるんだ」
『その様に思い煩う事すら、一切必要が無いのです! そもそも、救い主様が降臨なさらなかったら、この星は滅ぶだけでございました!』
「え? 本当にそんな話だったの? 昔、母上が神託でそう言われたって言ってたけどさ、僕、女神様から聞いてないけど……てっきり言葉のアヤなんだって思ってた」
『あの女神がお伝えしなかったものと思料致します』
「そうだったんだ……そんな事を聞いちゃってたら、僕、きっとプレッシャーに押しつぶされていたかも知れない。女神様は僕を気遣ってくれたんだね……僕は何もする必要が無いなんて言って……で、今はどうなの? この星は滅びそう?」
『とんでも無い事でございます。この星は、救い主様の偉大なるご活躍により滅びの危険性どころか、ほんの僅かながら大宇宙の力を増やすレベルにまで到達しております』
「あ、そうなんだ……良かったよ。ま、小さい星だって言うし、色々広まるのも速いもんね。じゃあさ、せっかくの女神信者だし、死なない程度に助けよう。取り敢えず、攻め込まれないようにすればいいよね? 前の神聖国を石壁で囲ったようにすれば、いいんじゃないかな?」
『それで充分ではと思料致します』
「じゃ、そうしよう。悪いけどさマーちゃん、僕をその場所まで連れて行ってくれる?」
「は、はい……アイちゃん様、どうしたらよいですか?」
『眷属どもを全員引き連れ、救い主様をお連れせよ。万が一、いや億が一の事があっては罷りならん。良いな!』
「まあ、大丈夫でしょ。この世界には飛び道具は無いままでしょ? 僕は地面に下りないからさ。上空からチャチャッと片づけて来るから。それにさ、僕はその気になったら、色々できる事はアイちゃんも知ってるでしょ?」
『勿論でございます。救い主様さえご決断なされば、この星を消し去る事も可能でございますので』
「いやいや、しないってば! じゃ、ささっと行って来よう。マーちゃん、お願いね」
「かしこまりました!」
***
プーーーン
「三年以上ぶりかな、カナンを出るの、っていうか、エデンの大陸に来るのは、か……あ、ほんと、あっという間だね」
「そうですね! カナンはりくからとってもちかいです!」
「ほんとだよね。全然海岸からは見えなかったけど……あ、神聖国の……みごとに荒れ地になっているね。草も生えてないし」
「はい! すべてすくいぬし様がおもちになりました!」
「ハハ そうだったよね。あの時は急いで居たからな……後の事なんて考えても無かったもん。取り敢えず全部、アイテムボックスに入れるのに必死だった」
「でも、そのおかげでここは、だれもすんでいません! そのままのこっています!」
「そうだね……荒らされなくてそれで良かったかも……あ、本当に海になってる……この石壁の残骸が散らばっているという事は、この辺りが南村の跡地かな」
「はい!」
「今は、もう海が近いね……大陸が狭くなったのかな……という事は、あっちの浅瀬の辺りは昔の森林地帯だね。そして……王都方面は……完全に海の中だ……」
「はい! みずがふえたり、へったりします!」
「えっと?……あっ、月が出来たからかな! 潮の満ち引きがあるんだね。カナンにいると分からないけど……って言うか、僕は海岸であまり時間を過ごしてないもんね、知らなくて当たり前かも。海産部の人達は知っているかな」
「はい! しっているとおもいまーす!」
「そっか。しかし、結構向こう側……南側と離れているね。大陸とカナンの距離よりも遠いんじゃない?」
「はい! すこしとおいとおもいまーす。でも、とべばすぐでーす」
「そうだった、マーちゃん達は受粉に来ているんだもんね。という事は、この辺りでも作物が育っているんだ?」
「はい! すくいぬし様のとちよりはすくないですけど」
「僕の土地……ああ、カナンか。別に僕の土地じゃ無いんだけどな……あ、向こう岸が見えて……ここが、昔の王国南部だね、初めて来るけど。今は神聖国の跡地からまっすぐ南下したんだよね?」
「はい!」
「という事は、ここはパラダイス王国の南部だね……あ、湖が見える。割と大き目? カナンの湖よりも大きいかな?」
『はい、救い主様。カナンの湖よりは東西に長いと存じます』
「そっか。ま、川も無さそうだし、湖が無いと生きていけないもんね。この湖は、魔力の井戸?」
『いえ、これは普通の水でございます。雨が降り、ここに染み出しております』
「という事は、天候によっては干上がっちゃう?」
『その可能性はございますが、以前に比べて雨の量が増えておりますので、よっぽど大人数で使わない限りは大丈夫かと思料致します』
「そっか。じゃ、その点は心配ないかな……お? あれか……なんか土で小山を作って、国境?を整備したのかな」
「そうだとおもいます! にんげんどもが、つちをほってもっていましたので!」
「とすると、向こう側に居るのが……ちょっとはっきりは見えないけど、スローン人とエデン人の生き残りなんだね?」
『左様でございます』
「じゃさ、取り敢えず、この土盛小山の東側に、神聖国で作ったような石壁を作ろう。海の中から、南の端……は見えないけど、まあ、作れるもんね? 僕なら」
『はい、救い主様であれば、何でも可能でございますので』
「いやいや、何でもはできないでしょ。死んだ人なんかはどうしようもないし……え? できないよね? いやいや、僕は考えないよ! 次元魔法の事は、考えないの! 人には絶対に使わないって決めたんだからね! 異論は認めません! ま、さっさと石壁を作っちゃおう。じゃ、行くよ! それっ!」
ピカピカピカッ ドデーーーン!
「よし、これでいいね。取り敢えず、東からはもう攻めては来れないでしょ。神聖国の時だって、人質が無ければ別にそのまま、籠っていても良かったんだしね。ん? 今回は人質は居ないよね?」
『存じませんが、仮に居たとしても……女神の采配……では無いかと……』
「そっかそっか。女神様の計画だもんね。僕は必要以上の事は考えないようにしよう。じゃ、これでしばらくは大丈夫かな~」
「すくいぬし様~! ここは、木とかがすくないでーす」
「あ、そうなの? うーんと、そっか。前にあげた桐は……あ、あの辺りだろうけど、確かに木材には少し足りないかも。早生桐とは言え、そもそも5年くらいはかかりそうだったもんね。じゃ、竹でも植えておこうかな……あれ? 混血民って、魔法が使えたよね?」
『使えますが、この地には魔力が殆どございませんので』
「ああ、そうか。ま、でも一応竹も植えて置こうかな。竹を植えると井戸も必要だから、少し離して植えて置こう。あれ?魔力が無かったら井戸も無理なんじゃない?」
『その時々の魔力の脈を使用致しますので、新たにお創りになられる井戸は問題ございません』
「そっか。あと、桐の森もドカーンと増やして置こうかな。えいっ。あ、促成栽培でピッカリンコもして置こう。はい、ピッカリンコ~ これで、木材の心配も無いでしょ。どのくらいの人口が居るかは分んないけどさ、この市街地の感じだと、そんなに多くは無さそうだしね! じゃ、なんか人がいっぱい集まって来ちゃったからさ、さっさとカナンへ帰ろう!」
「かしこまりましたー!」
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