3-46 ラック式
さて、途中に空気穴と多少の明り取り用を兼ねた横穴を開けつつ、一番上まで来た。
空気穴は、奥行きが100mくらいの筒状の穴だよ……ま、海鳥とかも居ないからさ、何かが住み着いたりはしないだろう。
でも、遠すぎて明り取りの役目は果たしてないかも……空気は、どうだろ。
ま、都合が悪いようならレンジフード魔法を設置してもいいしね、そうすれば空気は強制循環になるからさ。
さてさて、この辺りが、カナンの地面と同じ高さのはずだから、取り敢えずはさらに奥へ平行に、駅のホームを掘ろう。さ、そして今度は首都方面と思しき方へくり抜いて……お、これも奥行きが100m程度かな。ちょうどいいや」
***
パコッ
***
「お? どでかい穴が開いたわい! これは坊ちゃんじゃな! カッカッカ!」
「じゃろうのう、ほっほっほ」
「ミチイル坊ちゃまが、おいでですな、へへへ」
「あ、トム爺達、お待たせ~ コーチはできた?」
「おう! ちいと向こうにあるぞい!」
「あ、眷属君たち、悪いけどこっちに持ってきて~ ありがと。それで、この穴の中に入れてくれる?」
「坊ちゃん! この穴はなんじゃ!」
「うん。海岸とね、行き来するための道だよ。コーチに細工してね、この道を進むの」
「ほうほう、それでガタガタした車輪の魔道具になっておったんじゃな、ほっほっほ」
「うん、よく分かるねドン爺、さすがだよ」
「わしもそうじゃろうと思っとったわ! カッカッカ!」
「調子が良い事を言っておるのですな、トムは。へへへ」
「さあ、ここに置いて~ そして、取り敢えず車輪の幅に合わせて道に溝を入れよう。道がへこむから鉄道とは反対だけど、この溝に車輪がはまっていれば、車輪も歯車もずれたりしないだろうし。そんで、コーチに取り付けた歯車と同じ物を作って~ それを切り開いて直線にすれば、歯車と同じサイズのギザギザができるよね。それで、これをコピー、というか、これを同じものを海岸まで一気にピカッと。さ、これで、左右に車輪の溝と、中央に歯車のラックが付いた、ラック式鉄道の、完成です!」
「坊ちゃん、らっく?てつどう?とは何じゃろうかのう」
「うん、ドン爺。これはね、このコーチで急な坂を上り下りするための道なの。ちょっと鉄道とは違うんだけどさ、ま、道の真ん中の歯車というかラックは鉄だからね、鉄の道で鉄道。このラックはね、コーチにつけた歯車とぴったり咬み合ってね、ずり落ちたりしない仕組みなの。歯車と同じものをまっすぐに延ばしただけのラックだけどね」
「何やら難しいの! カッカッカ!」
「うん。取り敢えず、コーチに乗ってみようか。えっと、コーチに付けた歯車モーターは……」
「御者席ですな。魔石を取り付ける部分がコーチの床から見えるように細工をしましたのですな、へへへ」
「さすがピーター爺! 何も言わなくてもちゃんとわかって細工するなんて! コーチを発明しただけはあるね!」
「へへへ」
「おんし……この歯車の仕組みを教えたのは、わしじゃっただろうが。おんしもそう来るか……あれは確か、おんしがパラダイスで」
「ヘッ! そ、それは! ドン! さすがはドンですな! ドンが居なかったら、このコーチに細工は無理だったのですな! へ、へへ……」
「……ピーター爺も、ドン爺に弱みを握られているの?」
「……へへへ」
「ドンはの、坊ちゃん。色んなやつの弱みを握っての、いつも脅しよるんじゃ!」
「ほう、そう来るかの、トム。あれはたし」
「はいはい! 仲が良いのは結構だけどさ、コーチに乗ってみようよ! さあ、もう出発するよ!」
「おんし! 押すな言うとるじゃろ!」「ほんにトロいのう、おぬしは」
「わしは御者席で操作をしますのでな、へへへ」
「ありがと、ピーター爺。さあ! 魔石を入れてもらえる? スイッチオン!」
ゴインゴインゴイン……
「おお! コーチが坂を下りとる! さすがは坊ちゃんじゃ! カッカッカ!」
「これは! 坂を転げ落ちもせんと! ものすごい技じゃ! ほっほっほ」
「コーチはもっと長くすると、もっと便利になると思われるのですな、へへへ」
「うん。何台か連結してもいいしね。これで荷物も人も運べると思う。荷物の車は、屋根が無くて荷台だけでもいいと思うしね。後は、このモーターでどのくらいの重量を運べるのか、それを検証しないとね。そもそも今は、下りているからさ、上りも確かめないと」
***
「これってさ、どうやって止まるの?」
「それは、魔石とつながっておるスイッチを切れば良いんじゃないかのう」
「でもさ、ドン爺、動力が無くなってもコーチは進むでしょ?」
「それは大丈夫ですな、車を止める機構がありますのでな、へへへ」
「そうなの? ブレーキ? そんなの付いてたんだ」
「そうじゃ! それが無きゃ、コーチは止まれんぞい! カッカッカ!」
「そうか、まあ、そうだけどさ、僕、コーチを操縦した事なかったから……」
「カッカッカ! 坊ちゃんは、お坊ちゃんじゃからの!」
「ほっほっほ。高貴なお方は知らんでもええ事じゃからのう」
「……まあ、そうかも知れないけど……あ、でも魔石モーターは、外から力を加えて止めようとしても無理なんじゃなかったっけ?」
***
『魔石から魔力が供給されなくなった場合は、回転盤も拘束から自由となりますので、ご心配は無用でございます』
『あ、そうなの?』
『はい。あくまでも、魔力が供給されている間、魔力で作動中は外からの力で自由にならないと言う事でございますので』
『あ、魔力が無くなれば、ただの可動部品になるんだね』
『左様でございます』
『安心したよ……大変な事になるかと思った……ありがと、アイちゃん』
***
「うん、大丈夫だった。魔力の供給を切って、普通にブレーキで止まれる」
「……懐かしいのう。坊ちゃんは小さいころから、良う分からんうちに何でも解決しておいでたからのう、ほっほっほ」
「そうじゃ! ようわからんでもの、坊ちゃんが言うんなら、大丈夫じゃ! カッカッカ!」
「ハハ 僕が随分小さいころから、色々と作ったりしたもんね、ドン爺もトム爺も一緒に。ピーター爺は少し後からだったけど」
「では、そろそろ下に着くようですな、スイッチを切って、ブレーキをかけるのですな、へへへ」
「お! 着いたぞい! カッカッカ!」
「うん、無事に着いたね。5分くらいかな、結構速かったね」
「そうじゃのう、これなら何も問題もないじゃろうのう、ほっほっほ」
「あ、でも上りの時はどうしよう……モーターが反対に回転すれば解決だけどさ、御者席も後ろ向きになっちゃうし」
「そんなら、コーチを長くして、前後に御者席をつければ良いのでは無いかのう」
「そっか。さすがはドン爺だね、モーターもそれぞれに付ければいいしね、そうしよう!」
「ほっほっほ!」
「取り敢えず今は僕が一旦収納して、向きを変えて出そう。ピッカリンコ、と。さ、今度は上るよ~ 石も積んでみようかな。重さがあっても大丈夫か検証したいしね。さ、準備はいいよ!」
「おしきた! カッカッカ!」
「楽しみですな、へへへ」
「ワクワクするのう、ほっほっほ」
ゴインゴインゴイン……
***
ラック式の鉄道は、無事に完成した。
コーチは専用に作り直す必要があるけどさ、ま、そんなに手間もかからないだろう。
後は、水車魔法を教えてラック式の車輪モーターを作ってもらって、それに石臼魔法を仕込む魔法陣を彫れるように、著作権メダルも作らないとね。
さて、これで一安心。
これが完成したら、僕が死んでも問題なく海岸にも行けるし、そうでなくても普段から使って海産物も運べるしね。コーチも職人が作れるし、モーター魔道具も作れるはず。ラックレールも、水車魔法でいけるし、それに魔法を使わなくてもさ、鋳造しても作れると思う。
ラック式鉄道は単線で往復する1ルートしか無いけど、それで充分だと思う。そもそも、カナンの外に行く用事も無いしさ、コーチを列車にすれば、人だって多く運べるだろうしね。
ほんと、あやうく、うっかり忘れたままになる所だったけど、エレベーター以外のルートも確保したし、最悪、いま工事中の非常階段もあるしね、なんとでもなるだろう。
それでさ、モーター魔道具ができたと言うことはさ、普通に自動車も作れるよね。
でも、自家用車は事故とかもあるから危ないし、そんな必要も今のところは無いもんね。でも、乗り合いコーチとかは、バスにしてもいいかも知れないし、牛を使わなくても荷車が運行できればさ、便利に違いないと思うんだよね。
牛は食肉にもしているしさ、それ以外の移動手段は多い方がいいし。
と言うことで、ラックレール式鉄道が完成したら、モーターバスと、モータートラックも作ってもらおう。でも、スピードは牛と同じ程度にしてもらわないと。速すぎると事故が起きちゃうかも知れないしさ。
ま、バスとトラックだけ作っておけば、後の運行は今のまま、スタイン侯爵家で管理して運用してもらえばいいしね。牛がそのまま自動車になるだけだもん。速度も牛並みなら、問題も無いでしょ。
……いや、曲がる時とかはどうするんだろうね?
今は牛の進む方向を変えてるんだっけ……
うーん、前輪と荷台を繋いでいる部分を可動式にして、それを動かせば曲がれるよね……って、これってさ、今の牛荷車も状況は同じなんじゃないかな……
今も板バネを軸との間に噛ませているはずだしね、僕が知らないだけで、そこが可動式になっているのかも知れない。そしたら、進む方向に曲がれるもんね。
……うん、どうせ僕はわからないしね、情報だけ伝えて、後は職人に頑張ってもらおうか。
僕がいくら考えても、知らないものは知らないし、分からないものは分からないからね~
あ、そうだ。
せっかく中庭に、ほどほどの大きさの水車を出したからね、特に使い勝手は無いけど、噴水の水を少し細工して、水車を回すようにしようかな~
杵が搗く機構を作動させなければ、うるさくもないしね、ちょっと観賞用に水車が回ってるなんてさ、割とおしゃれじゃないかな~
さ、噴水は眷属たちの飲み水にも使っているから、水が噴き出しているのを一部、水車へ回しておこう。
ピカッ ジョボジョボ
はい、これで離宮の中庭に、観賞用の水車の、完成です!
「すくいぬし様~! これはおもしろいでーす」
「うん。別に要らないけどさ、せっかく作ったからね、眺めようと思って」
「これで遊んでもいいですかー?」
「うん、別に構わないよ。軸に巻き込まれないようには気をつけてね」
「ありがとうございまーす!」
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――こうして、カナンのカルデラと海岸を結ぶ別ルートが確保された
――また、モーター魔道具を使用した、バスやトラックも使用開始された
――これら新しい魔道具は、後に活躍する事になる……
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