3-43 お荷物
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――ピロン お荷物をお届けに上がりましたが、お留守のため持ち帰りました。ご確認ください
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「うわ! 何かとってもデジャヴ?」
『お荷物が……届いたようでございますね、救い主様』
「そうだった! この離宮にも宅配ボックスを設置して無かったよ! 取り敢えず、設置しなくちゃ!」
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――ピロン お荷物が届きました
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「えっと、また何かの種?が……誰から?」
『…………』
「アイちゃん、これは何の種?」
『失礼致しました。これは、あの女神が地球から送った、カカオの種だそうでございます』
「カカオ! カカオって、あのカカオ?」
『どのカカオかは存じませんが、カカオと連絡がございました』
「ああ、トリセツ?」
『左様にございます』
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「アイちゃんへ カカオを送るわ。これで、あたしの星にもスイーツ革命が起きるわね! 革命って、とってもステキな響きだわ! これを救い主に渡してあげてもらえる? きっと喜ぶわよ! これを加工するのは割と難しいらしいけど、多分何とかなると思うわ! それじゃ、お願いね! 美しいあなたの女神より 追伸 今回は直ぐに戻るわね」
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「女神様はお留守だったんだね……ま、取り敢えず……品種改良をして……ピッカリンコと……」
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「さて、これで、この世界でも問題なくカカオが育つようになったけどさ、僕、これを加工できないんだけど……?」
『はい、救い主様。カカオは難易度が高いと情報がございました』
「そうなんだよね……なんか一回発酵させるんだっけ……何の菌で発酵するのか知らないけどさ、この星でも発酵できるのかなあ。あまり菌が居ないじゃない?」
『……左様にございますね……』
「それにさあ、その後の加工が……詳しくは分からないけどさ、何十時間とか何日とかさ、ずっと練ったりしないといけないんじゃ……ま、魔道具を作ればいけるのか……その点に関しては、人力が必要ないから、チョコレートはつくれ」
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――ピロン チョコレート魔法が使えるようになりました。チョコレートが思いのままです
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「もしかして、発酵も加工も要らない系?」
『……存じません』
「アイちゃんにも知らない事があるんだね~?」
『私めは、しがない天使……実体すら持たず、取るに足らない存在でございます。かくなる上は、せめてそこらのぶ』
「あああ! 冗談、冗談だよ! んもう、アイちゃんは冗談が通じないからね~ ま、早速新魔法を使ってみよう『チョコレート魔法でミルクチョコ!』 さあ、来んさい!」
ピカッ ポトリ
「うわー、確かにチョコじゃん! 銀紙じゃなくて、紙?に包んであるのか~ ちょっと味見……うんうん、チョコ! アイちゃん、とっても美味しいよ!」
『それは、良うございました』
「うん、ありがと! じゃあ、ココアに、ホワイトチョコに、ダークチョコに、クーベルチュールに……」
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取り敢えず、カカオ豆も栽培してもらうように、もちろん農業部へ丸投げ。
この星に合うように品種改良をしたからね、別に熱帯でなくても大丈夫だし、チョコにするのは魔法があるからね、収穫でき次第、直ぐに使える~
さ、今日は母上と~
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「母上、お待たせ~」
「ミチイルからお呼びがかかるなんて、なにかしらね、うふふ」
「うん、今日はね、新たな物を紹介しようと思ってさ~ クーちゃんも、お疲れ様」
「とんでもございませんザマス!」
「うんとね、まずはこれを見てみて~」
「んまあ! これは、布で出来たお花じゃないの!」
「うん。コサージュって言うんだけどね、こうやって布で花を作れるの。密閉シーラー魔法があるからね、型抜き魔法もあるし、ほんと、簡単にできちゃう」
「これは……普通の布よりも、丈夫な気がするのだけれど」
「うん。色を食紅魔法で着けるのは問題無いでしょ? 後はね、花びらの形に型抜き魔法も問題無いでしょ? そしてね、布を型抜きしただけだとさ、端から解れて来ちゃうからさ、それを解れないように密閉シーラー魔法で端を接着するんだけど、その時に、布全体を接着するイメージを施すとね、こうやって布に糊がつくの」
「のり?とは何かしら?」
「うん。物と物とくっつけるって言うか……布地に使う場合はね、布をしっかりとピンと張らせるために使ったりするね。ご飯とかおかゆとかをね、細かくして布で濾して液体にしても、布の糊に使えるんだけどね、そうやって糊を付けた布は、洗濯すると元に戻るの。でもね、密閉シーラー魔法で糊を付けた布地はね、洗濯してもそのまま。っていうか、さすがに絞ったりしたら、絞った跡が付いちゃうけどね」
「そうなのね! じゃあ、わたしにもできるかしら」
「うん。母上にもクーちゃんにも問題なくできると思うよ」
「でもミチイル、このお花は見た事がないお花よ?」
「うん。バラって言う花なんだ。こうやってね、花びらがたくさん重なっている、豪華な花なの。貴婦人が好きかも知れない」
「何ですって! このお花が!」
「うん。色もね、赤い色とか白い色とか、まあ、それに限らず好きな色が付けられるんだろうけど……」
「それで?……でも、どうやったらいいのか、想像が付かないのだけれど」
「うん、そこでね、虫絹の布でこのバラを作る花びらをね、サイズを変えて何パターンか作ってね、それで、ちょっと待ってね、ピカッと。はい、これで小さい花びらから大きめの花びらまで出来たでしょ? それで一番小さい花びらを数枚とって、まとめて、下の部分を密閉シーラー魔法で接着して、それから、だんだんと大きな花びらを接着していくの。すると、最終的にはこんな感じの花ができる」
「こ、これは大変に素晴らしいザマス!」
「でしょ? これはさ、たくさんドレスに縫い付けてもいいしね、大き目のを一つだけブローチみたいにしてもいいしね、とっても小さいのをいくつかまとめて、髪飾りにしてもいいし」
「まあ! 聞いているだけでもステキね!」
「うん。それにね、材料もそんなに必要が無いしね、布地も、リネンや綿や、もちろん絹でも作れるからね、布地の違いで仕上がりも色々だからさ、研究のし甲斐もあると思うんだ~」
「左様でございザマス! わたくしの頭の中は、只今大変な事になっているのでございザマス!」
「ハハ クーちゃんは服飾のスペシャリストだもんね~ これで色々と楽しめるでしょ?」
「はいザマス! ありがとうございザマス!」
「これなら、わたしでも大丈夫ね。わたしに限らず、布地を作るのは大変な年寄りとかでも、小さい材料で済むものね、民の仕事にもなるかも知れないわ!」
「うん。仕事、とまでは行かなくてもさ、娯楽とか趣味とかね、そういう感じでも楽しめるかも」
「ステキ! この神聖カナン王国は、どんどんステキになって行くわね!」
「左様にございザマス! さすがは救い主様でいらっしゃるザマス!」
「ハハ それとね、今日は特別に、もう一つありまーす。ジャジャーン、これでーす」
「この模様は! これは糸ね!」
「うん。針と糸でね、こうやって模様を縫えるの。僕はあんまり出来ないんだけど……小学生の時の家庭科で習った、チェーンステッチ、だったかな。後は、このブランケットステッチ? 後はストレートステッチだったかな」
「これは、糸でこうやって縫うだけで、色々な模様ができそうね……」
「うん。それこそ、花の模様とかね。ま、僕は詳しくは無いんだけどさ、こういう方法を研究してみてもいいんじゃないかな」
「そうね! 手間暇がとてもかかるけれど……」
「うん。だからね、こういうのを全面に施したドレスなんかは、完全に貴婦人のドレスだね」
「んまあ! それは聞き捨てならないわ!」
「左様にございザマス! マリア様、これはわたくしの眷属どもにさせましょうザマス!」
「あら、それは……いいのかしら」
「勿論でございザマス! 服を作るのは、わたくし共の重要なお仕事の一つでございザマス!」
「そう? それじゃ、お願いしようかしら。もちろん、わたしも頑張るけれど」
「是非、お任せくださいザマス!」
「うん、色々な模様とかさ、色の組み合わせとかさ、刺繍で絵なんかも表現できるしね」
「まあ! 布地に絵を! 糸で!」
「うん。とっても贅沢なものだけどさ、出来たらキレイかも~」
「それは! 大変に遣り甲斐がございザマス! わたくし、数百年ぶりに漲るものがございザマス!」
「ハハ じゃあ、そんなクーちゃんにもう一つ~ こんなのはどうかな~ えっと……卵ぼうろ魔法で極小の金の粒! そして、それに型抜き魔法で極小の穴!」
「あらあらミチイル、せっかくの金が、ゴミのようになってしまったわよ」
「だから、ゴミじゃ無いってば! これはね、ビーズって言うの。この小さな穴にね、糸を通して布地に縫い付けるの」
「ミチイル、そんな小さなゴミを縫い付けてどうするって言うのかしら」
「だから~ ま、僕は縫い付けるのが得意じゃないからさ、取り敢えず見本だと思ってね。さ、ビーズを布地に密閉シーラー魔法でいっぱい接着して~ はい、完成です!」
「んまあ! 布地がこんなにキラキラに!」
「左様にございザマス! まるで夜空の星の様でございザマス!」
「ほんとうね、クーちゃん! これでドレスなんかを……!」
「そうでございザマス! このようにキラキラと光り輝くドレスなど! 正しく聖母に相応しい装いでございザマス!」
「あら……そうかしら」
「うん。いつもいう事だけどね、これだけ手間がかかるからね、これも貴婦人専用のドレスかな~」
「まあ! それも聞き捨てならないわね!」
「全く……母上は貴婦人に弱いよね、昔から」
「あら、当然じゃないの。貴婦人は全ての基本なのよ。まず、貴婦人であって、そこから全てが始まるの」
「何が始まるのさ?」
「全てよ。貴婦人が追い求め、貴婦人が色々な物を広めて行って、それを民が真似する……そうやって国が発展していくのですもの」
「まあ、ただの我が儘にも聞こえがちだけど、確かに一理あるんだよね、困ったことに」
「あら、困るくらいなら教えなければいいじゃないの」
「ま、それもそうか! じゃ母上とクーちゃん、好きな様にやっちゃって!」
「ええ、もちろんよ!」
「かしこまりザマス!」
「あ、このビーズはね、別に金で作らなくても、銀でも……ま、銀は色が悪くなっちゃうか」
「そうなのよ、ミチイル。銀のアクセサリーはね、少し時間が経つと、色が黒っぽくなってしまうの」
「あ、銀はね、重曹で磨くとキレイになるから、定期的にお手入れが必要だね。金は何もしなくても大丈夫だけど」
「な、何ですって! どうしてそれを、もっと早くに言わないの!」
「ごめんごめん、すっかり忘れてたよ……」
「神の泉シリーズでお手入れするのね?」
「えっと、重曹だよ?」
「だから神の泉シリーズの最廉価版じゃないの。それにしてもすごいわね、神の泉はお肌や体だけでは無くて、アクセサリーまでも美しくするなんて、まさに神の泉の名に恥じないわ!」
「……うん、そうだね」
「何よ、ミチイル、テンションが低いわよ! こんな大発見を前にして!」
「いや、重曹は銅の鏡を磨いたり、銅の鍋を磨いたりもしてたじゃない」
「あら、そう言えばそうね」
「ま、宝石は磨かない方がいいけどね、ちょっと重曹が付いたくらいでは特に変化もしないと思うけど、重曹で擦ったら傷がつくかも知れないから、宝石部分には気をつけて」
「わかったわ! さ、これから忙しくなるわね! 頑張りましょう、クーちゃん!」
「はいザマス!」
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