1-21 一粒万倍
「……いや、パラパラリンって…………玄米、3粒だけ?」
『今の救い主様の魔力器官に見合った量となっております』
「……うん、そうだよね。芥子粒2粒なのに、米が3粒来たんだから、ひとつぶお得! ……ってことにしとこう」
「これで、この貴重な貴重な北海道の米を品種改良すればいいんだよね?」
『左様にございます』
「んじゃ、どうなるのかいまいち良くわからないけど」
***
『品種改良スキル』 ピッカリンコ ザザーッ
***
「うわー、いきな玄米が何十粒も出てきたけどさ、これだけじゃ、実際育つかどうかとか、おいしいかとか、全然わかんないじゃん! どうしたらいいのさ」
『品種改良スキルは、任意の状態の時で止められますので、米粒になる前あたりの時をイメージしてみてはいかがでしょう』
「え? 好きな成長具合で止められるってこと?」
『左様にございます』
「んじゃあ、取り敢えず早苗状態で『品種改良スキル』 」
――ピッカリンコ
「あ、さっきの米が、早苗になった。ええっとー、やっぱりヘナチョコなのと、丈夫そうなのとあるね。しかし、水も土もないのにできるんだ……土から丸ごと引っこ抜いて水洗いして乾かしました、みたいな状態だけど……」
『スキルですので』
「うん、考えちゃだめだよね~ 便利なんだから~ 環境は、いまこの場に自動で合わせてくれてるんだよね?」
『左様でございます』
「じゃ、とりあえず、寒いこの公国でも育つってことだよね~ 念のために北海道の米を選んでよかった! んで、取り分けた丈夫そうなやつで再度、『品種改良スキル』 」
――ピッカリンコ
「おー、さっきよりさらに太くて丈夫そうなのと、さっき程度のに分かれたね! んじゃ、また丈夫そうなのを『品種改良スキル』 」
――ピッカリンコ
「おおー、なんか楽しいね、これ。一瞬で一世代分の結果が出るし。今、4回スキル使ったから、普通に換算するともう4年も改良したのと同じだもんね~ 呪文が面倒だけど、楽しい!」
『救い主様は無詠唱でスキルも魔法もお使いになれますが』
「あ、そうだった、そうだった~ いやね、新しい魔法とかだとね、一応イメージというか、気合がね……ま、サクサク行こうか!」
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――しばらく品種改良した後、ミチイルは、寒い土地でぐんぐん育ち、病気知らずで害虫知らずで連作障害無し、単位収量が最高で、魔力を栄養にできる肥料要らずの北海道ブランド米を手に入れた
***
(とりあえず米は手に入ったけど、どうやって栽培しようかな~ そうだ! ブッシュ地帯が土だけになったし、あの辺りに水田を作ればいいよね~ 取り敢えず近いほうがいいし、少しでも南の方がいいと思うし、公都のすぐ南側を水田にしてみよう。ちょっと方法はまだ思いつかないけど、まずは現状視察! そうと決まれば~)
「母上~」
「なあに? ミチイル」
「僕、ちょっと散歩に行きたい」
「ええ、いいわよ。ドン爺のところ? それともトム爺のところ?」
「うんとね~ 公都の南側の草が生えてるところに行く~」
「わかったわ。あら? その小さい入れ物は持っていくのかしら?」
「うん! 僕が持っているから大丈夫~」
「あらあら、何が入っているのかしらね~」
***
大公屋敷から母上とテクテク歩いて、家も無く草がまばらに生えている、川の近くへ来た。この辺りの川はまだ水量たっぷり。
最近は自分の足で歩けるようになったんだよね~ まだ少しだけだけし、靴はなくてリネン布を足に巻いただけだから痛いけど。
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「うーん、とりあえずここらへんで、この世界初の、稲作文化を花開かせよう! 」
「なあに? どうしたの急に」
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――ピロン 稲作文化スキルが使えるようになりました。稲作ができます
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はいはい、ありがとう……ってさ、ちょっとざっくりし過ぎじゃない?
『ねえアイちゃん』
『はい、救い主様』
『稲作文化スキルって、どうやって使うの? スキルだから僕しか使えないのは分かってるけどさ』
『そのままです。水路を作り、田を作り、稲を植え、後は収穫するだけです。スキルを発動しながら魔力を供給しつづければ、この順番で推移いたします。もちろん、魔力供給を止めれば、その時点でストップしますので、任意の状態にする事が可能です』
『なにそのぶっこわれスキル』
『救い主様のスキルと魔法ですから、当然でございます』
『はいはい』
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「母上~ ちょっと色々起こるかも知れないんだけど、何も心配いらないから、静かに見ててね~」
「あら、また何かするつもりなのね? いいわよ、何でも好きにしてちょうだい」
「はーい」
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(えっと、ここなら川も近いし、草がまばらだから、いいよね。米は1合くらいしかないから、そんなに広い田んぼじゃなくてもいいかな。ま、失敗しても、まだ屋敷に米も残っているしね、ドーンとやってみよう!)
ええっとー『稲作文化スキル』
ピッカリンコ
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――ミチイルがスキルを使ってみると、イメージ映像が現れる……みるみるうちに、川から水路が引かれ、あぜ道ができ、田ができ、土が掘り起こされて水がどんどん入り、米が勝手に飛んで行き、勝手に整然と植えられ、芽が出て、青々とし
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「ちょっと、ストップ、ストップ~ このくらいでお願い!」
(ふう。危なかった。このまま行けば、稲穂がお辞儀までするところだったよ……)
(とりあえず、田植え後、って感じになったから、この辺で様子をみてみよう。スキルや魔法以外で普通に育つかどうかわかんないし)
(あ、土地が乾いているから、せっかく水田になったのに、水がなくなっちゃった……ま、様子見様子見)
「これでよし!」
「ミチイル、いきなり草が生えたけれど?」
「うん母上、これはね、米って言って、うまく行けば、みんながお腹いっぱいになるかも知れないものなの。でも、まだうまく行くかどうかわからないから、みんなに内緒にしておいてくれない?」
「わかったわ。ミチイルと私の秘密ね、うふふ」
「うん! よろしくね~」
「じゃ、帰りましょう」
「はーい」
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――マリアとミチイルは仲良く幸せそうだが、いまや公都から南の村まで道路が通っているのである
――世界初の田は、道路から丸見えであった
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(そういえば、勢いで田んぼを作っちゃったけど、あの辺りはリネン草を採取している人たちもいるんだった)
(少しリネン草、減らしちゃったから、リネン草も品種改良して、リネン草畑をつくろうかな)
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「ねぇ、カンナ~ 今日の夕食の雑草はなにかなー?」
「まあミチイル様、竈房まで来られて……何か御用でございますか? 雑草が気になるのですか?」
「うん。雑草って、どんな種類があるのかなって思って~」
「ふふ、ミチイル様、雑草は雑草でございます。種類など…………種類? 言われてみればあるような気も致します」
「あ、特に気にしなくていいんだけど、どんな草なのかなって思って」
「ちょうど今日のスープに使う予定の雑草がございます。こちらが雑草でございます」
「へぇ、何種類かあるように見えるね~ とても小さい草だけど、これが標準サイズなの~?」
「はい、このくらいが普通でございます」
「リネン草って、どれ~?」
「ミチイル様、リネン草は食べられません。布と服になる草でございますから」
「あ、そうだったんだ……リネン草が手に入ると思ったのに……」
「リネン草でしたら、男爵家にございますので、お持ちいたします」
「え? いいの?」
「はい。私が布仕事をするために、ある程度の量もございますので、ご心配には及びません」
「カンナって、布仕事できるの?」
「はい。私は準男爵家から男爵家へ輿入れいたしましたが、準男爵家は平民と関係が近いので、小さいころからリネン草で布仕事をいたしておりました」
「そうだったんだ~ よかったら今度、仕事を見せてほしいんだけど……」
「かしこまりました。ジョーンと時間を調整して、お見せ致します。でも……退屈だと思いますよ、ミチイル様」
「それは大丈夫~ 見たことがないから、楽しみ!」
「はい、ではリネン草の方は、すぐにでもお部屋にお届けいたしますので、お部屋でお待ちくださいませ」
「あ、リネン草の種? がついているものがいいな~ じゃ、この雑草、少しずつもらっていくね~」
「かしこまりました」
***
――アタシーノ星の雑草に、種類が生じた




