3-35 サロンにて
「さあ、母上、プレゼントだよ。びっくりし過ぎないでね」
「まあ、何かしら。そんなに驚くものなのかしら」
「フフ では、ジャジャーン! 宝石でーす!」
「…… !!! ……ほう……せき?」
「うん。宝物の石ってやつね。とってもキラキラして、きれいでしょ」
「…… ! ……」
「母上?」
「……!……?……!……!!」
「どうしたの?」
「ンガ……っ……こ……これ……これは……いったい……何なのかしらーー!」
「えっと、だから、宝石?」
「ほうせき」
「うん、ジュエリー」
「じゅえりー」
「うん。アクセサリー」
「あくせさりい」
「ねえ、大丈夫? ちゃんと意識がある?」
「……ねえ、ミチイル、これはとってもステキ! ステキよ! とってもステキ!」
「ああ、母上……バグってる……ま、取り敢えずさ、つけてみてよ」
「……ステキ! ……え?……つける?」
「うん。これはね、こうやって眺めるものじゃなくてね、身に着けるものなの。宝飾品なの。アクセサリーってね、身に着けて飾るものなの」
「んまあ! こんなにキラキラしたものを、身に着けるのですって? こんな……こんな……女神様の祝福の光輝くお品を」
「うん。そのためのものだからね。こっちはブローチっていって、服につけるしね、こっちはネックレスって言って、首から下げるの。そしてこっちは、指輪って言ってね、指にはめるの。特に指輪は、宝石付きの指輪はね、貴婦人のものだよ。こんなのを指にはめていたら仕事なんてできないでしょ? だから、使用人がいるような貴婦人のアクセサリーだね」
「んま! 貴婦人の! これはエレガントだし、ゴージャスでマーベラスでファビュラスよ! 確かに、こんなに複雑な女神様の祝福を指につけていたら、何もできないわね」
「……うん、突っ込んだら負け……ま、デザインとかも色々にできるしね、宝石も色々だから、いくらでもバリエーションが可能、っていうか、無限大」
「むげんだい」
「うん。綺麗でしょ?」
「ええ、それに、とても色々な色があるのね……この赤い色も、とっても鮮やかだし、透明なのは、まるで小さな太陽のごとしよ! いえ、星かしら!」
「そうかもね~ 赤い色のはね、ルビーって言うの。それで透明なのはダイヤモンド、そして………………」
***
「母上~ まだ覚えないの?」
「え、ええ。もう宝石の種類がたくさんあって、とても覚えきれないのよ……」
「だから、紙に書いてあげるからさ、後は現物を眺めて覚えてよ」
「ええ、そうするわ。それにしても、このブローチもステキね! これはドレスにひとつ付いているだけで、まるで雰囲気が変わるわよ」
「うん。ネックレスはもっとお手軽だしね。ペンダントトップっていう飾りを取り換えられるしね、二つつけたり、指輪を通したりなんかもできるしね」
「まあ! これもバリエーションが無限大なのね!」
「うん、それにさ、宝石をつけていないチェーンや指輪なんかはね、シンプルだし、平民でも気軽につけられるかも知れない」
「まあ、そうね! さすがに宝石は仕事の邪魔になるでしょうけれど、銀だけのアクセサリーなら平民でも楽しめるわ!」
「でしょ~ 服飾店がオープンしたしね、平民にもアクセサリーがあってもいいかなって思うんだ」
「そうね! でも、この宝飾品は作るのが難しそうよ」
「うん、銀だけのならまだしも、そんなに簡単じゃないかも。でも、大量に要らないでしょ、特に宝石の方は、しばらくは貴族専用になるだろうしね。ま、宝石もたくさん作れるようになったら、小さいのから民に販売してもいいとは思うけどさ」
「そうね、まずは職人が作れるようになるのが先ね」
「うん。だから見本を職人に渡してさ、再現できるように研究してもらってよ。魔法自体は皮むき器魔法とか、アイシング魔法に型抜き、型押し魔法と、金串魔法とかの金属系の魔法でいけるから。新しい魔法も特別な魔法も必要ないの。それでね、ここには銀のシルバーアクセサリーしかないけどね、金でももちろん作れるからね」
「そうなのね。今は金貨も銀貨も無いものね、メダルにしか使われていないし、金と銀の新たな使い道ができるのも、良い事かも知れないわ」
「うん、仕事も増やせるしね、選択肢も増えるから。それにね、ジュエリー職人ってね、女性にもできると思うの。そのうち、女性の金属加工職人とかも生まれると思う」
「まあ! それは素晴らしい事だわ! 女性はどうしても大きなものを加工するのが不得手な場合が多いのよね、どうしてかはわからないのだけれど」
「うん、たぶんだけど、体格の差とかもあるんだろうと思う。それにね、出産するからさ、子供に栄養とか体力とか、そして多分だけど、魔力も子供に取られると思うんだ。だからね、男性よりも魔力器官の成長が少し、遅くなっているんじゃないかと思う。はっきりとは言えないけど」
「そうだったのね……確かに、子供を出産するのは命をかけた大仕事ですものね、子供がお腹の中で成長しているのですもの、それに出産後も授乳があるし、その間、自分の魔力器官の成長が止まっていても不思議ではないわ」
「うん、まあね、わからない事を話していてもしょうが無いしさ、女性にも仕事の選択肢が増えるって事で、良しとしておこう!」
「そうね!」
「それでね、今日のプレゼントの終わりにね、特別スペシャルな宝飾品を、母上に~!」
「まあ、何かしら。もう既に驚きすぎていっぱいなのだけれど」
「ハハ では、ジャジャジャジャーン!」
「ま、まあ!……これは一段と……ゴージャスで!……エレガントで!……マーベラスで!……ファービュラスで!……でも気品があって……祝福の光がまばゆいわ!」
「うん。ティアラっていうんだよ。これはね、特別に高貴な人しか着用が許されていない、本当に特別な宝飾品なの。頭の上に乗せるんだよ」
「なんですって! 特別に着用が許される……女神様の祝福!」
「ま、そう言い換えてもいいけどさ、ステキでしょ?」
「ええ! とても複雑な銀の細工に……色とりどりな宝石……それもたくさん! 頭に載せたら、頭が宝石だらけよ!」
「うん。それこそ、頭の上に太陽と星が乗っかっているように見えるかも~」
「これは、とても神々しいわ! こんなの、わたしが着用してもいいのかしら」
「そりゃ、いいんじゃない? 高貴な女性の代表みたいなもんでしょ、母上は。聖母だし」
「そ、そうかしら……そうね、このような祝福、怖気づいてはいけないわ。わたしが民に示さないと……」
「ま、本当はそんなに御大層なものじゃないよ。アクセサリーだから。でもね、重いしさ、さすがに普段にはつけられないからね、もう少しというか、かなりシンプルにしたやつも用意したから。はい、これ。サークレットっていうんだよ。とってもシンプルでしょ?」
「そうね、でも上品でステキだわ! これはさながら、頭のネックレスね」
「そう言えばそうかもね~ 頭のネックレスの事をサークレットって言うかも知れない」
「……これくらいなら……普段のお出かけの時に、ちょっとつけてみてもいいかも知れないわ」
「うん。ティアラとかも、公式の場所とかにはつけてもいいかもよ。教会に顔とか出したりしてるでしょ?」
「ええ。通った時には教会に寄っているわよ」
「じゃ、その時にでもつけたりしてね。それで、職人たちの育成も、母上に任せるから」
「ええ、それはもう、研究につぐ研究をしてもらうわ!」
「お手柔らかにしてあげてね。それで、原料の石はね、マーちゃんが離宮に集めてくれるからね」
「わかったわ」
***
――ミチイルの作ったティアラやサークレットを着けたマリアが、教会で度々目撃されるようになった
――宝石が煌めくティアラのあまりの神々しさに、太陽と月と星の祝福を見られると噂が噂を呼び、人々の聖母信仰がさらに進み、結果として女神に集まる星神力が、ますます多くなった
***
母上は、工業地帯の職人たちに檄を飛ばして、宝飾品の研究に余念が無いらしい。
ほどほどにしてくれればいいけどね。
でも、宝石を使わないシルバーアクセサリーとかは、服飾店でも売られるようになった。ま、銀を細工するだけだからね、そんなに手間もかからないから、普通に製造できるだろうし、民も喜んでいるらしいからさ、良かった事にしておこう。
そして、宝石の方は、完全なカットまでには、なかなか至らないらしい。
そりゃそうだよね、正多面体とかなんてさ、僕も全然わからないもん。僕はチートでカットできているだけなんだからさ。それを人の手でやらないといけないんだからね、大変だよ。でも、何十面体とかは無理でもさ、キレイなカットとかは、それなりに出来始めているみたい。シンプルなティアラは、割と貴族には行き渡り始めているとか。
それでね、貴族女性は公式な場ではティアラを着けるようにルールができたらしいよ……伯母上によって。
ま、貴族の取りまとめは伯母上に任せてあるからさ、好きにやって欲しい。
そしてさ、宝石を加工していて気づいたんだけど、ステンドグラスも作れるんじゃ無いかと思うんだよね。
アイシング魔法で金属も好きな様に形が作れるしさ、ま、職人がやろうとすると、熔かした金属が必要なんだけど、ま、アクセサリーよりは細かい作業が少ないと思うからさ、出来ると思う。
後は、普通のガラスを板状に加工してから、型抜き魔法で形を作ってさ、密閉シーラー魔法でガラスを枠に接着していくだけでしょ、それをさ、教会とかの窓にはめたら、すごくステキじゃないかと思うしさ、信仰も増えるかも~
ま、教会に偶像とかは無いんだけどさ、別に何かの絵である必要も無いんだから、適当な幾何学模様みたいなステンドグラスでもいいかな。
僕、絵ごころとかは無いからさ……あ、料理の絵とかならいいかも知れない。でも……教会に料理の絵のステンドグラスとか、なんか違う気がするから、やっぱり幾何学模様のステンドグラスにしよう。教会の窓のサイズは……正直覚えてないから……ま、最悪、ステンドグラスに合わせて漬物石魔法で窓枠を切ってもいいか~
さて、ステンドグラスの枠は、銅でいいかな。職人も作りやすいだろうし。それで、三角形をいっぱい作って……そこに、適当に色ガラスをはめて……はい、ステンドグラスの、完成です!
「すくいぬし様! これはほうせきのまどですかー?」
「宝石じゃなくてね、普通のガラスなの。だけど、キレイでしょ?」
「はい! とてもキラキラしていますー!」
「うん。そうだ、ついでだから、照明とかのランプシェードも作っちゃおう。これで離宮の廊下の照明を取り替えたらさ、とっても雰囲気が出るよね! あ、そうしたら、母上の部屋にも欲しいって話になるだろうし、母上の分も……あ、そうだ、テーブルランプにしてあげよう。おしゃれなテーブルの上に、ステンドグラスのランプとかさ、とってもいい感じでしょ~ さ、ピカピカピカ……」
***
――全ての教会に、ステンドグラス窓が設置された
――その荘厳な雰囲気に民は女神を感じ取り、ステンドグラスに向かって祈りを捧げる者も……
――ステンドグラスの導入により、神聖カナン王国の女神信仰は、これ以上無いレベルに達した
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