3-30 屋台の王様
母上に、蜜蝋製品をプレゼントしたら、当然のように狂喜乱舞……ま、そりゃそうか。
でもさ、取り敢えず作ったけどさ、本来は食品にしようと思ってたんだけど……お菓子に使ったり……でも、母上のあの様子だと、美容製品に使われて終わりかも。
ミツバチくんたちに無理させるのかどうかは分からないけど、あんまりたくさん貰うのもどうかと思うからさ、美容製品専用でいいや、蜜蝋は……
さ、今日は、満を持して登場の麺料理を作ろう!
***
「さて、今日のレシピ講座は、ラーメンでーす。これは、うどんよりは手間がかかるため、今まで教えて来ませんでしたが、民にも余裕が生まれたので、ここらで世に出したいと思いまーす!」
「パチパチパチ」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! ラーメンは、以前から名前は上がって来ていましたが、スパゲティやうどんとは違うのでしょうか」
「はい、ラーメンは基本的には、スープと共に食べるものです。そして、麵にも加工が必要ですし、スープもうどんよりは複雑です。そして、スパゲティのように洋風の味付けにする事は、あまりありません。そして、うどんよりも細く、麺に腰があります」
「わかりました!」
「はい、ではまず、重曹をお湯に入れて火にかけまーす。数分、ボコボコ言わせて加熱してくださーい。さ、次は大きなボウルに薄力粉と強力粉を半々に入れ、そこへ水の代わりに、先ほど火にかけて冷まして置いた重曹水を入れまーす。水はスパゲティを作る時くらいに少なめでーす。それを、キッチンロイド魔法で捏ねたら、パスタマシーン魔法で2mmくらいの厚さに延ばし、さらに2mmくらいの細い麺に加工しまーす。麺の長さを30cmくらいに切ったら、麺がくっつかないように片栗粉をまぶしまーす。その後、だいたい一人前、150g程度に分け、手で麵を包むようにして、揉みまーす。ギュウギュウに揉んでいくと、麺が縮れて来まーす。充分に麺が縮れたら、それを浅めの箱に並べ入れ、できれば冷蔵庫で、そうでなければなるべく涼しい所で、最低一日は寝かせまーす。はい、これで、生ラーメンの、完成です!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! なぜ、水では無くて重曹水を使うのでしょうか? そして、重曹水を加熱しておくことに、何か意味があるのでしょうか」
「はい、大変に良い質問です、ジョーン。まず、重曹を加熱するのは、成分を変化させるためなのです。本来は、かんすい、という材料を使うのですが、手に入りません。そこで、重曹を数分間、加熱すると、かんすいと似た成分に変化するのです。それを、かんすいの代わりに使用します。それで、かんすいや重曹をなぜ使うのかと言えば、小麦粉はアルカリ性という成分を加えて捏ねると、とても腰が出るのです。このラーメンは、麺類の中でも一番と言っていいくらい、腰が必要な麺なので、普通に捏ねただけでは足りないのです。かんすいや重曹を加える事で、小麦粉の成分も変化し、色や風味、そして腰が生まれてラーメンになるのです。逆を言えば、重曹などを加えないで麺を作ったら、それはラーメンでは無く、硬いうどんなのです。ですから、ラーメンにするには、重曹は必須なのです」
「わかりました!」
「さ、今日は時間が無いので、一日分時間をピッカリンコし、いよいよ茹でていきまーす。はい、一日寝かせた生ラーメンは、このように色も少し濃くなっています。この時点でも、うどんとは違いますね。はい、では、鍋にたっぷりのお湯を沸かし、生ラーメンを入れて、くっつかないように軽く混ぜながら茹でていきまーす。茹で時間はお好みなのですが、うどんやスパゲティよりは短く、3分~5分くらいでしょう。僕は、柔らかめが好きなので、長めに茹でまーす。さ、麺が茹で上がったら、ザルにあげて水気を切っておきまーす。本来はここで、すぐさまスープに入れるのですが、今日はとりあえず、アイテムボックスへ収納しておきまーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! なぜ、すぐさまスープに麺を入れるのでしょうか」
「はい、良い質問です、ジョーン。ラーメンは、先ほどから言っているように、麺の腰が一番大切な要素です。なので、茹でてから数分も経ってしまえば、麺がのびて腰が無くなってしまうのです。ですから本来は、スープを完成させてから、茹であがった麺をすぐに入れる料理なのです。スープはあらかじめ作り置きして置くのが基本ですので、麺を茹でている間に、スープの最終仕上げをしたり、具材の用意をしておいて、麺が茹であがったらすぐに、提供すると覚えておいてください」
「かしこまりました!」
「はい、ではスープの方に移りまーす。スープは色々あるのですが、大きく分けて、醤油味と豚骨味と味噌味と、塩味がありまーす。そして、スープの出汁となるものも、鶏ガラと豚骨、さらには、鰹節や水産物、昆布などを組み合わせてスープを作りまーす。そして、ラーメンに欠かせない素材として、チャーシューがありますので、まずはチャーシューを作りまーす。チャーシューとは、豚肉に味をつけて、焼いたり煮たりした料理でーす。チャーシューだけでもおかずになるのですが、ラーメンにおけるチャーシューの最大の役割は、その煮汁にありまーす。ラーメン、特に醤油味のラーメンには、このチャーシューの煮汁を使って味をつけるのでーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! 何かの煮汁……料理の後に残った汁が、味付けに欠かせない料理は、初めてではないでしょうか……どうしても、残り物とか、後始末とか、お鍋の〆のイメージがあります」
「そうね、ミチイルは良く、ゴミを料理に使うものね」
「だから、ゴミじゃないの! ま、とにかくチャーシューを作りまーす。まず、豚肉の塊を用意しまーす。これは後でスライスしますので、大きな塊と言うよりは、ほどほどに太くて長く切り出した肉、と思ってくださーい。そして、肉の部位は、バラ肉でもモモでも、肩ロースでも、どこでもいいのですが、それぞれチャーシューが全然違った感じと味に仕上がるので、ラーメンを販売する際には気をつけてくださーい。さ、豚肉を軽く洗って、鍋に入れまーす。そこへ、砂糖をたっぷり、日本酒と味醂も多めに、そして一番肝心な、醤油をドバっと入れまーす。醤油は肉が隠れるまでたっぷり入れてくださーい。だいたい、醤油が1として、味醂と日本酒が半々ずつ、砂糖は四分の一くらいがいいでしょうー。水は使わず、調味料だけで煮ていきまーす。煮る前に、肉をタコ糸でしばっておくと、肉の形がキレイになりますが、そのままでも大丈夫でーす。さ、こうして吹きこぼれないように一時間くらい煮たら、チャーシューの、完成です!」
「ミチイル、それは汁というよりも、ほとんど醤油なのではないかしら」
「うん、そうだね。見た目は真っ黒だけどね、これをスープで薄めるからね、逆に、これくらい黒く無いとね、スープの味がしないの」
「そうなのね……ちょっと、そのままでは食べるのに勇気とお祈りが必要だわ」
「ハハ じゃ、取り敢えずチャーシューはこのままにしておきまーす。しばらく経ったら肉を引き上げて、肉だけ別に冷蔵保存してくださーい。ずっと入れっぱなしにしておくと、肉が本当にしょっぱくなりまーす。さ、つぎは、鶏ガラスープと豚骨スープを作りまーす。それぞれ、味は後で足すので、塩は入れないでスープを作りまーす。これは、いつもの作り方で構いませーん。野菜の皮とか昆布とか、味醂や日本酒などを入れてもいいでーす。さ、ここに、ドンブリがありまーす。うどんの丼よりも、丼物の丼よりも、大きく広がったドンブリでーす。これは、ラーメンドンブリという食器でーす。醤油や塩味のスープには白いドンブリ、他の味には黒いドンブリなどが合うでしょうー。ささ、今は白いドンブリに、チャーシューの煮汁を少し入れて、鶏ガラスープを7分目くらいまで注ぎまーす。良くスープを混ぜたら、先ほど茹でたラーメンの麺を、スープに入れて軽く混ぜまーす。その上に、薄ーくスライスしたチャーシューを数枚乗せ、仕上げにアオネギの小口切りを散らしたら、醤油ラーメンの、完成です! そして、豚骨スープで同じように作ったら、豚骨ラーメンの、完成です!」
「まあ、見た目はスープに具材が少しと、新しい麺が入っているだけで、特に目新しい感じでも無いわねえ」
「でも、ミチイル様が今までずっと隠していた料理ですよ!」
「ハハ 隠しては居ないけどさ、作るのがかなり面倒くさいからね。ま、取り合えず、これはアイテムボックスに収納して置こう。これが基本のラーメンね。後はこれをね、色々アレンジっていうか、豚骨スープを塩で味付けしたり……ま、取り敢えず次ね。まず、味噌ダレを作りまーす。味噌に砂糖と味醂とおろしニンニクとトウガラシパウダーとごま油を入れて、良く混ぜまーす。柔らかめにしてくださーい。そして、これをドンブリに入れてラーメンの味付けにすると、味噌ラーメンの、完成です! スープは鶏ガラでも豚骨でもいいでーす。そして、鶏ガラスープを塩で味付けしまーす。それで茹でたラーメンを入れて、ごま油を少し回しかけたら、塩ラーメンの、完成です!」
「随分とたくさん種類があるのねえ」
「うん、母上。もっともっと種類があるよ。じゃ、少しバリエーションを作りまーす。鶏ガラスープと豚骨スープを半々にしてラーメンスープを作りまーす。これはチャーシューのタレでも、塩で味付けしても味噌ダレでも、何でも味付けができまーす。そして、昆布と鰹節で出汁を取って、塩とごま油で味付けしたラーメンスープでも和風のラーメンになりまーす。さらに、その和風スープにカニを殻ごと入れて、味噌ダレも入れて少し煮てラーメンにすると、魚介味噌ラーメンができまーす。また、味噌ラーメンにはバターをちょっとだけ乗せて食べても、味噌バターラーメンになりますし、茹でたトウモロコシの実を入れても美味しいでーす。カニの代わりに殻ごとのエビでも美味しいでーす。そして、鶏ガラスープにトマトペーストを入れて、仕上げにチーズなんかを乗せたら、トマトチーズラーメンになりまーす」
「うわ! とっても種類が多いです!」
「ほんとうね、これを色々組み合わせたら、数えきれないくらいのラーメンができるわね」
「うん。本当に色々なラーメンができるよ。だから、これをキッチンカーで売る。鶏ガラとか豚骨スープはスープの素を使ったら手軽だしね。皆が色々な工夫とかをしてさ、たくさんの種類のラーメンができると思うよ」
「すごいです!」
「そうよね……こんなに種類があったら、いつまで経っても食べきれないじゃないの」
「ハハ 食文化って、そういうもんだからね~ さ、本当は冷やし中華とか、まだまだあるんだけど、取り敢えずお供えもして、試食タイム~ っていうか、お昼ご飯にしよう!」
***




