3-26 魔道具
さてさて、魔道具を、オーブン魔道具を作ろう。
家にオーブンがあればさ、配給のパンとかだって温めて食べられるしさ、グラタンとかピザとか、ま、そこまで大げさなものじゃなくてもさ、食パンにちょっとナポリタンソースを塗って、野菜とチーズを散らしてピザトーストとかできるじゃん。茹でた野菜にマヨネーズを絞ってオーブンで焼くだけでも美味しいしさ、買ってきたホットドッグとかだって、時間が経ってもオーブンがあれば温めて食べられるしさ、もちろん肉も魚も水産物だって、オーブンで焼いて食べられる。
これ一台あったらさ、家庭で調理革命が起きる事、間違いなし!
さ、まずは大きさ……やっぱり30リットルくらいは欲しいよね。オーブントースターサイズでもいいけど、家族の分が一度に焼けないもんね。でも、設置場所に困るかな……いや、今は冷蔵庫が普及しているんだから、その上に置いて使えばいいと思うよ、うん。
で、魔石はもちろん使うけど、今、レストランとかでやっているみたいに火は燃やさない。危ないからね。だから僕がやっているように、魔力を熱に変換させるだけ。そうじゃないと、魔道具じゃ無いもんね。
僕がオーブン魔法を使うと、問題なく熱が発生するんだから、呪文自体には魔力を熱に変える理があるはず。と言うことは、魔法陣を作りさえすれば、魔石を接触させて熱が……熱って、どこに発生するんだろうね?
『はい、救い主様。おそらく、オーブンであると認識した空間内に発生するものと思料致します』
「ああ、そっか。じゃあさ、金属の箱を作って、それをオーブンとして僕が決めれば、そういう理が構築されて中が熱くなるって事だよね?」
『左様でございましょう』
「わかった~ ありがと、アイちゃん。と言うことは、普通に金属の箱を作って、その側面にでも魔法陣を仕込んで、そこに魔石を接触させればオーブンができるね。あれ?もしかしてペルチェ石の金属で箱を作ったらさ、箱に魔法陣を彫り込んで、魔法が起動しないかな?」
『はい、救い主様。問題なく起動すると思料致します』
「そっか! じゃ、そうしようかな。あ、でもさ、ペルチェ石の金属って魔石をくっつけると冷えるでしょ? オーブンで熱くしたいのに、金属が冷えちゃったらさ、どうなるんだろう?」
『オーブン魔法で熱が発生しますが、同時にペルチェの金属が冷えますので、オーブンの熱が減り、減った熱を補給しようとして、オーブン魔法がさらに発動するものと愚考致します』
「うーん、ややこしいけどさ、要するに魔石の魔力が無駄に消費されちゃうって事だよね?」
『左様でございましょう』
「魔石はエネルギー源としては長く使えるけどさ、そうなっちゃうと魔石の減りが速くなって……どのくらい速くなるかはわからないけど、一般家庭で使用する製品としては欠陥だよね……うーん……あ、例えばさ、ペルチェと銅とか鉄とかで合金にしたらさ、どうかな? ペルチェ合金でも魔力はちゃんと吸われると思う?」
『理論上は、ペルチェ金属が混ざっていれば、魔石の魔力を吸い出すものと思料致しますが、吸われる魔力は、混ざっている他の金属の分、少なくなってしまうのではと愚考致します』
「えっと……それを冷蔵庫で例えると、他の金属との合金で冷蔵庫を作ると、冷蔵庫があまり冷えないって事だよね……吸われる魔力が例えば半分になったとしてさ、その魔力でオーブン魔法は起動するの?」
『はい、起動致しますが、威力は減るものと思料致します。ですが、ある程度の時間をかければ、いずれは設定した温度に到達するのではと愚考致します』
「ああ、と言う事は、僕みたいに一瞬でオーブンの温度は上がらないけど、少ない威力でオーブン魔法は発動しているから、時間がかかるだけで温度は上がるのか……でもなんかそれじゃ、エネルギーの出力をトータルしたら結局変わらなさそう。ま、そうだよね。うーん……あ、ペルチェ合金の箱にさ、魔法陣を彫り込んだペルチェ金属で作ったプレートを取り付けたらどう? それならさ、魔法の起動と維持はさ、普通に問題なくなるんじゃない?」
『はい、救い主様。問題は無くなるものと思料致します。ですが、それですとペルチェ合金も必要が無いのではと愚考致します』
「ああ! そりゃそうだ! ん?でもそれって使えるんじゃないかな。例えば、普通に銅で箱を作るでしょ、そしてその箱の外周をペルチェ合金で覆うでしょ、そしてペルチェ金属魔法陣プレートをくっつければさ、中は普通に熱いけど、外は触っても火傷しない温度とかにならないかな?」
『はい、理論上は、そうなるものと思料致します』
「そうだよね! うん、いい感じじゃないかな~ ちょっと外側が冷えるのに魔力が使われちゃうけどさ、ペルチェ金属の割合をギリギリまで少なくすれば、冷たくなる分の魔力も減るでしょ、そうしたら魔石も魔力もそんなに無駄にはならないもんね~ あ、でもさ、どのくらいの割合ならペルチェ金属は魔力を吸えるのかな? 例えば一割まで減らしたらさ、作動すると思う?」
『……計算上、半分程度までであれば、ペルチェ金属を減らすことが可能のようでございます』
「そっか。粒子なのか分子なのかわからないけど、混ざり合って細かくなっているペルチェ金属がリンクできるギリギリの割合なのかな。ん?そうするとさ、もしかしてペルチェ金属を微粉末にしてさ、何か糊みたいなものに混ぜて魔法陣を書いたらさ、魔法が発動するって事じゃない?」
『はい、理論上は、そうなるものと思料致します』
「そっか! もしかしたら魔法陣を書くのに便利かも! 糊……糊ね……乾いたら固まるのがいいよね……あ、そう言えばゼラチンがあるんだから膠とか作れるんじゃ……オーブンだと溶けちゃうかも知れないけど、熱くならない魔道具なら……膠にペルチェ微粉末を混ぜたインクみたいなもので魔法陣が書けそう! 書いた後に、膠に腸詰魔法とかかけて頑丈にすれば……腸もコラーゲンっていうか、ゼラチンみたいなものだろうしさ、きっと腸詰魔法で思いのままに硬く丈夫になるはず!」
***
と言うことで、取り敢えずオーブンを作ってみた。あ、オーブン魔道具だね。
厚めの銅板で箱を作る。食品コンテナ魔法で金属でも箱にできるからね。そして、その箱の周りを極薄のペルチェ鉄合金の板で包んで、ペルチェ板にオーブン魔法を彫り込んだ魔法陣プレートと魔石のセット部分を取り付ける。同じ素材で作った、横開きタイプのオーブン扉を蝶番で取り付けて密閉できるようにする。オーブン上部には、小さい空気穴を開けて、オーブン魔道具の、完成です!
って感じ。ま、ガラス扉じゃないから中の様子は見えないけどね。そして、中に天板も収められるようにしておいた。これで、上下二段調理が可能。ま、熱が均等に回るかどうかはわからないけど、魔法で熱になっているしさ、たぶん大丈夫でしょ。
ちょっと重たいけど、オーブンレンジよりは全然軽いしね、持ち運びも問題ないだろう。
さ、これを量産するように手配しよう。
……ん? でも、これって誰でも作れちゃったらさ、販売の意味が無いかも。真似しようと思えば、真似して作れちゃう?
うーん、金属板とか合金とかを用意するのは、鍛冶場っていうか、工業地帯じゃないとダメだろうけどさ……逆を言えば、工業地帯でなら複製がいくらでも可能。そりゃそうだよね、そもそも製造だって工業地帯でするんだから。
何か、特許みたいなものでもあればいいんだけど……この世界にそんなもの無いよね?
『はい、救い主様。ございません』
「そうだよね……特許なんて、誰が許可するんだか……女神様とか?」
『そういうものを設定するとなると、救い主様が許可権者になるのではと愚考致します』
「はあ、そうなのかな……でも、そもそも許可とか特許とか、どうやって設定するかもわからないんだけど。著作権とか? いや、著作じゃないでしょ……レシピ本みたいに、魔法陣をレシピにして本でも作る? そんなので特許みたいなものを設定できるんだろうか……そもそもレシピだってさ、レシピそのものには著作権が無いんだよね、料理のレシピには著作権は無いって、僕のレシピ出版の時に」
***
――ピロン レシピ出版スキルが使えるようになりました。著作権付のレシピが設定できます。許可が証明されれば誰でもレシピ使用が可能です
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「えっと、レシピって、魔法のレシピっていうか魔法陣……だよね……著作権付……で魔法陣を設定して……許可を与えれば……いや、許可の証明?」
『何か身分を証明するような物があれば宜しいのではと愚考致します』
「身分の証明……あ、学園生のメダルとか?」
『救い主様がお創りになられた物であれば、何でも可能ではと思料致します』
「そっか。じゃあ、各レシピごとに著作権メダルを作って、それを職人に渡せば、それを持っている人は魔法陣を作成できると言う事にしようかな」
『それが宜しいかと存じます』
「うん、じゃ金メダルに『オーブン』と型押ししておこうかな、ピカッ。取り敢えず一枚でいいかな、いや、魔道具は何千個も作るかもしれないし、ナンバリングして5枚くらい用意しておこう。後は、このオーブン魔道具の見本と、著作権メダルを工業地帯へ渡して、と」
「すくいぬし様! かんせいですか~!」
「うん、マーちゃん。悪いけどさ、工業地帯まで連れて行ってくれる?」
「かしこまりました!」
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魔道具の制作を指示してきた。
指示して来たんだけどさ、薄いペルチェ板に魔法陣、というかオーブンって彫り込んでもらってさ、魔石をくっつけてみたんだけど、オーブンが作動しないの。魔法陣を彫り込む人には著作権メダルは持たせておいたのに。
それで、色々試してみた結果、オーブンと書いただけじゃ、ダメだったの。オーブン魔法って書かないとダメ。
それでね、漢字でしょ、魔法。それがものすごく難しいらしくてさ、全然成功しないの。ま、オーブン魔法って魔法陣を彫り込むだけだからさ、何とか練習してもらおう。でも、漢字だからさ、難しいよね……それで、焼き印魔法とか型押し魔法とかさ、そういうので魔法陣をコピーしてできないかなって思ったんだけど、それもダメだった。
僕なら何でもアリなんだけどね、普通の職人だとダメ。
もしかしたら、このシステムで魔法陣が管理されてるのかも知れない。簡単に魔法陣がコピー出来ちゃったら、管理できないもんね。
だから、魔法陣は手で彫り込むか、記入しないといけない。素材はペルチェ金属のみ。そして、その魔法陣が作動するためには、著作権メダルが必要。著作権メダルを持たずに魔法陣を彫り込んでも、それは魔法が作動しないの。
思っている以上に、セキュリティ対策がバッチリだったよ……
でも、僕が死んだ後は、どうなるんだろう……ま、金のメダルだしね、劣化もしないだろうから、メダルを大事に使ってもらうしかないかな。それか、死ぬ前に著作権フリーにしてもいいしね。
そうそう、それで、ペルチェ石を微粉末にして膠に混ぜたものは、魔法陣用のインクとして使える事も確認できた。ちょっと書き辛いけど、金属に彫り込むよりはマシかな。膠で魔法陣を書いた後は、もちろん腸詰魔法で、膠を硬化させることも忘れないようにしないとね。膠はものによっては乾いた後に樹脂みたいになるけどさ、ちゃんと硬化させておかないと、温度とか湿度とかで膠が融けちゃうから……
まだまだ大量生産には程遠いけど、とりあえずオーブン魔道具は完成次第、随時販売することに。
価格は一台6万円で、販売は各区を統括する子爵家。
魔道具の種類が増えたら、魔道具店舗でも作ってもらおうかな~
と言うことで、汎用品で職人が作れるオーブン魔道具の、完成です!




