3-25 商売開始
居酒屋とキッチンカーの営業を開始した。
居酒屋は、各区の一丁目の空き地に、それぞれ職人が建てた。公営住宅と違って複雑な構造じゃないからさ、さささっと建ったらしい。
そして、それに先立って、町内会長職である男爵家が月に一回、住民票を元に一人に付き一万円を支給。これは年齢も関係なし。
とっても忙しいとは思うけど、元々家庭で消費する魔石を交換していたからね、その時に一緒に支給するようにしたから、特に支給日などは設けなかった。下手に支給日なんて作ったらさ、その日に民が殺到するでしょ。
そして、支給を受けなかった分は、ずっと繰り越しできる。要するに、預金制度だね。別に盗みとかが発生している訳では無いけどさ、万が一押し入れ預金なんかが盗まれてもさ、困るでしょ。皆が押し入れ預金をしていると思ったら、魔が差しちゃう事だって、あるかも知れないから。こういうのは、一度起きちゃったら模倣犯とか出るからね、そして癖にもなりそうな感じだしさ、抑止力は最初から用意して置く方がいいと思って。
預金もさ、住民票で管理する感じかな。身分証明書とかは無いからさ、もしかしたら用意する事も考えた方がいいかも知れないね。ま、今の所、各男爵家が管理する丁目の人口は最大で1000人程度。ま、ざっくり250家庭だから、なんとかギリギリ管理できるだろう。人口も増えているらしいけど、丁目が増えるようなら男爵家を増やして行く事になるのかな。それとも、役所の職員を設定するかな。ま、それは伯父上達に任せよう。
そして、居酒屋は、全メニュー、一律500円。グラスワインに日本酒のお銚子一本、ブランデーとかラム酒はシングル。どれも一律500円。そして、おつまみメニューも一律500円。唐揚げにエビフライ、イカ焼きに焼き鳥セット、煮物セットとかさ、いくつか日替わりでメニューを用意してもらう。今までも、もしかしたら現場で色々運用をしていた可能性はあるんだけどさ、正式に、メニューの中から食べたいものを選べる体制というか、営業形態を導入したの。
これってさ、選べるって言うのは大きいと思うんだ。給食は決まったメニューを出してもらうだけでさ、日替わりだったから、飽きたりはしなかったと思うけど、やっぱりメニューから選ぶって言うのは、とっても娯楽感が出るでしょ。
ま、予算の範囲で楽しんで欲しい。お酒も月に最大で20杯しか飲めないからね、今は。あ、家族のお金を巻き上げたりしないかな……ま、今の感じじゃ、たぶんお酒で身を持ち崩したりもしないだろう。
それで、キッチンカーだけど、これは一応移動式とは言え、事実上は場所固定かな。これも各区の一丁目の空き地の好きな所で営業だね。要するに、居酒屋もキッチンカーも、貴族区の外周に沿って営業している感じだね。もちろん、同じエリアに公共の施設が集中しているからさ、買い物とかしやすいっていう理由もあるよ。
取り敢えず、キッチンカーはエデンの王国で使っていたものと同じものを多数制作。
そして、お好み焼き系とホットドッグ系と中華まん系、串ダンゴ系とクレープ系の5種類で営業を開始した。
人口は増えたって話だけど、増えたのは子供だと思うから、ざっくり3万人が居るとして、一人が毎月一種類ずつ一回食べたとすると、単純計算で月に3万食を売らないといけないからさ、一日当たりは1000食でしょ、だからキッチンカーは10台。キッチンカー1台当たり一日100食ね。これは最低数だろうけど。それを5種類で営業を開始したからさ、キッチンカーは50台で、営業人数も50人~100人。
居酒屋は国営だから、レストランと同じ扱いで、従業員も固定では無いんだけどね、キッチンカーは固定の人員で専業になってもらう。それで、自由に作ってもらうの。お好み焼きとかも、ある人はイカで、ある人は豚肉で、ある人は箸巻きに、みたいにさ、独自色を出して、競争して欲しい。ホットドッグとかもさ、今はソースの種類も増えているからね。定番のホットドッグでもいいし、エビフライにタルタルソースでもいいしさ、自由にバリエーションを増やして、営業して欲しいんだ。そうしたらさ、色々研究とかして、食文化が発展していくと思うんだ。
ま、串ダンゴはバリエーションが少ないかも知れないけど、串とかにとらわれなくてもさ、揚げダンゴでもいいし、大福でもいいし。
うまく行くかどうかも分からないけど、皆が同じものを作るなら、それはそれでもいいしね。これで問題が無く営業できるようなら、キッチンカーの種類も増やしてもいい。うどんの屋台とか、焼き鳥の屋台とか、どら焼きの屋台とか、そんなのがあってもいいしね。
ただ、コストは、使いたい放題の無限ではない、というのだけ、気をつけないとならない。キッチンカーでの販売価格も、どれも一律500円だけど、材料や燃料が使いたい放題だからと言って、贅を凝らしたり、量を増やしたりしてもらっても、困るからね。ま、材料とかは支給だから、そのコントロールは出来るとは思うけど、各自が営業する形態とは言っても、国営である事には変わりが無いからね。売り上げはもちろん上納してもらうし、給料も払わないよ。あくまで、自分の力を試してみたい、こんなメニューを作ってみたい、そういう向上心のある人を選別してさ、チャレンジの機会を設けるっていう意味が大きいからさ。
それで、希望者を募ったんだけど、とんでもない数の希望者があったみたい。
それを聞いたときは、嬉しかったね。
着実に、食文化が進んできているっていう証拠みたいなもんでしょ。食物もたくさんあって、料理の種類も増えて、そして選べるようになる……まだまだ始まったばかりだけど、行く行くは、本当に紙幣経済を導入してもいい位になれば、民の間でもっと切磋琢磨が増えると思うんだ。
ま、それでも資本主義経済の導入予定は無いけどさ。
今の所、共産社会で何も問題が起こってないから。無理やり資本主義社会にする必要なんて、無いでしょ。
ま、国民全員が同じ宗教を信仰しているからね、少なくとも、救い主の僕が生きている間は、離反し難いんじゃないかなと思ったり。
ま、つらつら考えてもしょうがないんだけど、僕の中では大きな一歩だったんだ。何とかうまく行って欲しい……
***
さて、紙幣も導入されたことだし、そろそろ魔道具を考えないとね……
国民は魔法が使えると言っても、全ての魔法が使える訳じゃない。得意不得意があるんだけど、生活魔法はだいたいみんな使える。で、生活魔法って何?と言えば、水道管から水を出すのとフランベ魔法で魔石などに火をつける事、ガスコンロ魔法で魔石の火を消す事くらい。
これは国民全員ができるようになっている。ま、これが出来ないと、この国では暮らしていけないからね。
で、もっと言えば、おしぼり業者魔法とか、干物魔法とか、殺菌消毒魔法とか、食洗機魔法とか、そういうのも皆が出来るらしいんだけどさ、結果に差が出るらしい。適性があまり無い人は、おしぼり業者魔法で洗濯できるのは、ハンカチ一枚とかなんだってさ。いやいや、何で?って思うけど、そうなんだから仕方が無いよね……食洗機魔法とかも似たような感じなんだって。ほんと、訳わからん。
だからさ、湯呑一個、皿一枚を魔法で洗うなら、別に普通に石鹸とかで洗う方が魔力も減らないし下手したら速いって事でね、適正が無い人は、ますますそういう魔法を使わなくなるんだってさ。まあ、その代わり、自分の適性魔法は研鑽していると言うから、それはそれでいいんだけどね……
何でも出来ちゃう魔法使いたい放題の僕が言ってもさ、おかしい事になっちゃうから、そこら辺は追及しない事にしているんだけど、要するに、調理器具なんかはね、魔道具にすると役に立つ可能性が高いの。
特に、圧力鍋魔法とオーブン魔法はね、今でこそ魔石燃料を使って何とかなっているんだけど、魔力だけでやろうとすると殆どの人がうまく行かないらしい。なので、僕以外の人は魔石を燃やして、その熱でオーブン魔法とかを使っている状態。だから魔石を動力というか、魔法発動のエネルギーとできればさ、圧力鍋やオーブンや、炊飯器の魔道具がきっとできるでしょ。
もちろん、レンジフードも作れるけど、ま、それは後でもいいかな。今までも窓を開けて調理とかして来ているからね。付けるとしたら浴室とかの方がいいだろうし。ま、それでも、それも後回し。
まずは、調理器具からにしよう。
という事で、オーブン魔道具を作りたい。
本当は、電子レンジとかが欲しいけど、どう考えても無理っぽいもん。……いや、できるのかなあ……僕には出来ないけど、ロイド氏なら出来ちゃうかも?
「出来ちゃう? チラッチラッ?」
『無理なのではと、思料致します、救い主様』
「ああ、やっぱり?」
『はい。理が構築されないのでは無いでしょうか』
「ああ、やっぱり……僕が理解していて、作ろうとか思わないと、ダメなんだもんね。僕に出来る気がしないんだから、理も何も無いよね」
『左様にございましょう』
「だってさ、電球とかはさ、電気抵抗が大きくなって発熱して高温になって光るって思えるけど、電子レンジはさ、なんかピンと来ないの。マイクロ波?が当たって摩擦熱? いや、なんでマイクロ波が当たると分子が動くの? マイクロ波ってどうやって作るの? 魔力でマイクロ波は出る? 電磁波って言う位だから電気が無いと無理なんじゃない? そもそも、この世界に分子とか電子とかあるの? 電気抵抗はさ、そのまま魔力抵抗と置き換えてイメージが出来たんだけどさ、電磁波は、ほんと、わかんないの」
『そもそも無次元の力ですから、次元魔法を使えば可能であると愚考致しますが、救い主様以外には使えないと思料致します』
「あ、そっか。無次元の力を直接使えば、何でもできそうだもんね。だけど、それじゃあさ、魔道具にもできないし、意味も無いもん。うん、いいや、電子レンジの事は、金輪際考えないから! でさ、オーブンが欲しいの。魔道具で。そうするとさ、今よりももっと魔石が必要になっちゃうけど、大丈夫かな? 前に魔石は枯渇しないって聞いてはいたけどさ、足りなくならない?」
『おそらく充分かと思料致します。人口が億を超えるようになった場合は、もしかしたら足りなくなるかも知れませんが、この星では億を超える人口は維持して行けないものと愚考致します』
「そっか。ま、小さい星だって言ってたもんね。いくら一年に何回も収穫できるとは言っても、さすがに億はね……ま、いずれにしても僕が生きている間の事じゃ無いと思うから、当面、僕が死んでも何百年とか?その間に足りなくならないなら、いいや」
『…………』
「アイちゃん、ありがと。オーブン魔道具を作ってみるよ。そして、国の中で使えるように、頑張ろう。食文化にも貢献するはず!」
『救い主様の、御心のままに』
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