表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/237

3-23 豆

「さて、今日は豆のレシピ講座を開きたいと思いまーす」


「パチパチパチ」


「まずは白いんげん豆でーす。これは収穫後、乾燥させて保存しまーす。そうすれば1年くらいは、そのまま保存できまーす。さて、乾燥させた豆を一晩くらい水に浸けて、戻しておきまーす。戻した白インゲン豆は、ヒタヒタの水とともに、圧力鍋魔法で崩れない程度に柔らかく加熱しまーす。豆は、加熱時間が長いですが、おおよそ、味噌などを仕込むときの大豆と同じ程度の時間で大丈夫でーす。そして、柔らかくなった豆は、サラダにまぜたり、バターで炒めたり、砂糖で甘く煮て食べまーす。ではレシピに移りまーす。煮た白いんげん豆は、バターと牛乳とコンソメとタマネギと一緒に煮てから、石臼魔法で細かくすりつぶしまーす。器に盛って、アオネギの小口切りを散らしたら、豆のポタージュの、完成です! これは、温かくても美味しいですが、バター抜きで作って、冷やしたポタージュも美味しいでーす」


「はい! ミチイル様!」


「どうぞ、ジョーン」


「はい! なぜ、冷やしたポタージュはバターを抜くのでしょうか。バターがあった方が、コクがでると思うのですが」


「はい、良い質問です、ジョーン。バターは、温かいうちは良いのですが、冷えると固まりますね? ですから、バターの入ったポタージュを冷やすと、溶けていたバターが細かく固まってしまうのです。そうすると、口当たりが悪くなってしまいますので、バターを抜くのです。これは、ポタージュに限らず、他のバター料理に共通の事ですので、覚えておいてください」


「かしこまりました!」


「はい、続いては、煮た白いんげん豆に天ぷら衣を混ぜて、かき揚げにしまーす。さらに、煮た豆を竹串に刺して溶き卵にくぐらせ、片栗粉をまぶしてから揚げまーす。そして、煮た豆を潰して、片栗粉を混ぜて丸く成型し、溶き卵と薄力粉とパン粉をつけて揚げまーす。さ、これで、豆の揚げ物三種、白いんげん豆のかき揚げと、白いんげん豆のから揚げと、白いんげん豆のコロッケの、完成です! 白いんげん豆は、癖が無く澱粉質が多いので、揚げ物に向いていまーす。ジャガイモ、カボチャに続く、ホクホク野菜、というか穀類でーす」


「はい! ミチイル様!」


「どうぞ、ジョーン」


「はい! ということは、もしかすると、スイーツにもなるのではないでしょうか!」


「さすがジョーン、大変良い着眼点です。白いんげん豆は、もちろんスイーツになります。主に和菓子になりますが、癖が無いので洋菓子にも使用可能です。それは、これから教えます」


「はい! よろしくお願いします!」


「では、白いんげん豆を柔らかく煮たものに、豆の半量くらいの砂糖を加えて石臼魔法でペーストにしまーす。これを濃縮魔法で水分を減らし、ぽってりしたら、白あんの、完成です! 白あんの使い方は後にして、取り敢えず、先に進みまーす。最初に紹介した、白いんげん豆の砂糖煮、煮豆といいますが、その煮豆を硬めに作りまーす。そして干物魔法をかけてパラパラになる程度に水分を減らしまーす。その後、砂糖をまぶしてから、さらに干物魔法をかけて、少し乾かすと、甘納豆の、完成です! そして、柔らかく煮た白いんげん豆を石臼魔法でペーストにしたら、干物魔法をカラカラになるまでかけまーす。石のようにカチカチになったら、再度石臼魔法で粉にしまーす。はい、白いんげん豆パウダーの、完成です! これで、スイーツに使う白いんげん豆の、下ごしらえが完了でーす。甘納豆は、そのままおやつとして食べられまーす」


「白あん……あんと言えば、みたらしあん、カボチャあん、ずんだあん……あん!」


「あら、ジョーン、大丈夫かしら? 心が何処かへお出かけしているのではないのかしら」


「ハハ ジョーンはあんが好きだからね。さて、では白あんは、もちろんそのままダンゴに乗せたり、どら焼きのあんにしたり、パン生地に包んで焼いて白あんパンにしたりできまーす。その他には、皮を剥いたゴマの実を細かく擂り潰したのを混ぜれば、ゴマあんになりますし、羊羹にもできまーす。また、白あんに味噌を適量混ぜると、味噌あんになりまーす。以前の味噌あんは味噌と砂糖を混ぜただけでしたが、白あんと味噌を混ぜるのが、本来の味噌あんでーす」


「あんが……あんがたくさん……あんがいっぱい! すばらしいです!」


「ハハ じゃ、続きまーす。パウンドケーキの生地に、白あんを混ぜて焼くと、どっしりした和菓子風のパウンドケーキが出来まーす。白あんの代わりに白いんげん豆パウダーを加えても良いでーす。そして、マドレーヌの生地でも同じようになりまーす。あんは少な目に混ぜてくださーい。そして、ホットケーキの生地に白あんを混ぜ、マフィンカップに入れて蒸せば、浮島の、完成でーす」


「はい! ミチイル様!」


「どうぞ、ジョーン」


「はい! なぜ、蒸したケーキだと浮島と名前が変わるのでしょうか」


「はい、深い意味はありませんが、蒸したケーキ、特にあんを混ぜて蒸したケーキを浮島と言うのです。これは和菓子の名前なのです。蒸しケーキでも蒸しパンでもいいのですが、おしゃれな名前の方を採用しました」


「そうね、おしゃれな名前は、とても重要よ」


「わかりました! とっても高貴な雰囲気です!」


「この浮島の生地を二つに分けて、一つには抹茶パウダーを、もう一つにはカボチャパウダーを入れて、それぞれ風味と色をつけてから、半分ずつ型に入れて軽く混ぜて蒸せばマーブル模様になりますし、先に型に一種類だけ入れて蒸して、その後もう一つの生地を入れて再度蒸せば、二層に分かれた美しい浮島を作る事ができまーす。こんな風に」


「んまあ! これはとっても上品で美しいわ!」


「ほんとうです! 食べるのがもったいないです!」


「もちろん、他の色でも作れますので、研究してみてくださーい。さて、白あんを用意して、そこへ米粉を入れて混ぜまーす。それを晒ふきんで包んで蒸しまーす。蒸しあがったら、少し冷まして、色々な形を作りまーす。今は、一番簡単な茶巾絞りにしてみまーす。はい、これで、練り切りの、完成です! これは、本当に色々な形が作れる、高級和菓子でーす。日持ちはしませーん。もう一つ作ろうかな。練り切りを丸くしまーす。そして型押し魔法をピカッ、さらに周りは赤く食紅魔法、中心は黄色く食紅魔法で色をつけたら、藪椿の、完成です!」


「んまー! 赤くてきれいなお花になったわ! 椿なのね? 赤いけれど」


「うん、茶の木は白い椿っぽい花だけどね、赤い椿もあるんだよ。それを模した風流な和菓子なの」


「ステキ!」


「ほんとうです!」


「練りきりは、こんな風に、いろんな形といろんな色をつけて、自由に創作して自由に名前もつけられまーす。さ、続きまして、パウンドケーキに甘納豆を混ぜて焼けば、豆ケーキの、完成です! そしてパン生地に甘納豆を混ぜて焼けば、豆パンの、完成です! そして、カボチャ羊羹のカボチャを白あんに代えて抹茶も混ぜまーす。そこへ甘納豆を入れてまぜ、固めたら、抹茶豆羊羹の、完成です! ささ、バニラアイスに白あんを混ぜたら、あんアイスクリームの、甘納豆を混ぜたら、豆アイスクリームの、完成です! さささ、寒天液を作って、砂糖を甘めに加えまーす。小さな湯呑に寒天液を入れ、そこへ甘納豆も適量入れて冷やし固めたら、豆錦玉の、完成です!」


「きんぎょく、とはどういう意味なのかしら」


「うん、とても美しい高貴な球体って感じの意味かな」


「まあ! 確かに透明でつやつやしていて、球では無いけれど、美しいお菓子ね」


「ほんとうです! 中の豆が、とても美味しそうです!」


「うん、今日は透明でつくったけど、色を着けてもいいしね」


「それにしても、豆があるだけで、こんなにもたくさんお菓子が増えるのね……」


「ほんとうです! とても偉大な奇跡です!」


「うん。豆はね、和菓子の基本なんだ。豆を使って小麦粉を使わないお菓子がたくさんあるの。そして、白いんげん豆はね、色が白っぽいから、本当に使い道があるよ。色々混ぜて、カラフルな色を付けられるからね~ さ、次は料理に行きたいと思いまーす。鍋にニンジン、タマネギを角切りにしたものと、ソーセージをぶつ切りにしたものを入れて、少しの油で炒めまーす。ニンジンにある程度火が通ったら、コンソメとワインとチリソースと、茹でておいた白いんげん豆を、たっぷり加えて煮込みまーす。白いんげん豆にスープの色が付いたら、チリコンカンの、完成です! 今日はソーセージを使いましたが、たっぷりのひき肉で作ると、コッペパンに挟んで食べたりできまーす。その場合は、スープというよりは具材なので、水分は減らして作ってくださーい」


「はい! ミチイル様!」


「どうぞ、ジョーン」


「はい! チリコンカンは他の豆でも作れるのでしょうか」


「はい、大豆でも作れます。ですが、この後紹介する小豆は向かないでしょう。小豆は色も風味もあるので、あまり料理には向かないのです。そして、チリコンカンの野菜は、ナスを使ってもいいし、角切りのジャガイモやカボチャなんかを入れてもいいですし、生のトマトを入れてもいいです。余っている野菜を上手に使うのが良いでしょう」


「かしこまりました!」


「では、白いんげん豆はこのくらいにして、次は、小豆に移りまーす。小豆は、白いんげん豆と違って、あらかじめ水で戻しておく必要がありませ-ん。水を入れて、すぐに加熱することができまーす。思い立ったらすぐに仕込めるので、とっても便利でーす。さ、小豆をたっぷりのお湯で、柔らかくなって煮くずれる一歩手前まで、圧力鍋魔法で煮まーす。小豆に火が通ると、煮汁が濁っているので、これを一度、全部捨ててしまいまーす。そして、小豆の半分程度の量の砂糖を加えて、さらに圧力鍋魔法で煮くずれるくらいまで加熱し、水分が多いようなら濃縮魔法で少し水分を飛ばしたら、餡子の、完成です!」


「はい! ミチイル様!」


「どうぞ、ジョーン」


「はい! なぜ茹で汁を全部捨ててしまうのでしょうか? もったいない気がします!」


「はい、大変に良い質問です、ジョーン。小豆には、見て分かる通りに色が付いています。そして、風味も強いのです。この色と風味は、言い換えればアクなのです。ですから、そのアク汁を捨ててから加工する方が、すっきりと上品に仕上がるのです。この、一度すべての煮汁を捨てることを渋切りと言いますが、いつも渋切りをする必要はありません。汁はアクであるとともに、栄養でもあるのです。素朴なお菓子を作るときなど、渋切りせずに餡子を作ると、風味のある和菓子になるでしょう。それに、この煮汁にはポリフェノールと言って、若さを保つ抗酸化作用のある成分がたくさんあるのです。また、染め物にも利用できますので、濃縮して殺菌消毒して保管したり、干物魔法で粉にして保存しても良いかも知れません」


「な! なんですって!」


「若さを!」


「たもつ! ですって! なぜそれを早く言わないの! ジョーン、小豆の汁は全て、保管しておくべきよ!」


「もちろんです! 濃縮汁と粉と、両方つくります!」


「ええっと、レシピ講座なんだけど……」


「あら、ごめんなさい。急に神聖カナン王国の最重要議題が降ってわいて来たものだから」


「ほんとうです!」


「いや、まあね、でも、小豆そのものを食べる方が効果が高いと思うよ」


「んまあ! 考えてみれば、それもそうね! ミチイル、早くレシピを教えてちょうだい!」


「はいはい……と言っても、白いんげん豆と、使い方は同じなんだよ。色と風味と味が違うからね、白あんを使うか、餡子を使うかはお好みなの。ただ、小豆の方が汁粉にも向いているし、パンに入れて焼いたアンパンも、焼いてもパンに負けない風味があるからね、そういうのは小豆がおススメかな。羊羹も、どら焼きも、小豆の餡子の方が、どっちかって言えば向いていると思う。それに、小豆の餡子は生クリームにもカスタードクリームにも合うんだよね。だから、そういうのには小豆の餡子の方がいいかな。なにせ、色々なあんがあるけどさ、小豆のあんだけは、餡子っていうんだもん。あんと言えば小豆っていうくらいの、あんの王様みたいな感じだからね」


「そうだったのですね! あんはたくさんありますけど、餡子は小豆……」


「見た目は黒っぽいけれど……」


「うん、色が濃いからね、黒っぽく見えるけど、黒と言うよりは赤っぽいんだよ。だから、小豆の煮汁とかで布を染めたらね、とても落ち着いた赤っぽい色に染まるの。赤、とは言えないけどね」


「そうなのね! 早速試してみましょう!」


「うん。それでね、白いんげん豆と小豆は、乾燥豆の状態で流通するのと、後はそれぞれ、あんにしてガス袋に小分けして流通させるのがいいかもね。でも、スイーツを広めてからの方がいいかな。まず、食べてみて、それから家でも作りたい、とかってなると思うから」


「かしこまりました!」


「じゃ、お供えをして、試食しよう!」




***




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ