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3-20 音楽

さて、何か余暇を楽しむことを考えないとね。


ゲーム……とか……ま、手軽でいいけどさ、リバーシとかトランプとかは、異世界定番すぎて胸焼けレベルだからな……カルタとか……百人一首とか……いやいや、漢字があってこそのもんでしょ……俳句とか和歌とか……いやいや、僕が分からないもん。


はあ……ん? ……歌……そうだ! 音楽とかいいんじゃないかな!


そう言えば、ガットが出来た時にギターとかバイオリンとか作れるじゃんって思ったんだった。ま、そんな余裕なんて無かったけどさ、今ならいいんじゃない?


『はい、救い主様。大変によろしいのではと愚考致します』


「ああ、アイちゃん。食文化じゃないけどさ、暮らしを楽しむ事があってもいいよね~ そういえばさ、この世界は音楽とか、あるの?」


『一切ございません』


「ま、そうだよね、うん。わかっていたけど。ま、取り敢えず何か楽器を作ってみよう」


『救い主様の、御心のままに』




***




さて、どうしようかな。甕魔法でオカリナとか作れそうっちゃあ作れそうだけど、穴とかさ、どう開けたらいいのかわからん。笛も……筒にするのは……流しそうめん魔法で管にはできそうだけど……やっぱり穴がわからん。


やっぱり弦楽器かな。ギターとかは、作れそうだけど、ちょっと複雑だし、何よりギターは弾けないもんね、僕。バイオリンなら……いや、バイオリンはきらきら星レベルで止めたんだった。ピアノは少しは続けたけどさ、ピアノなんて作れるわけがないよ。


ま、やっぱり琴かな。


琴は大昔からある楽器だからね、形態は色々だけど。竪琴とか……いやいや、チューニングが難しいし……あ、そうだ!


日本の琴なら作れる!


もちろん作った事は無いけどさ、いや、ちゃんと弾いたことも無いけどさ、しまゑ祖母ちゃんが弾いてたもんね! 構造とかならなんとなくわかるし、日本の琴は弦さえ張ってしまえば、チューニングは琴柱を動かすだけでできるはず。音によっていちいち弦の張力とか考えなくてもいい楽器だしさ!


えっと、まずは中が空洞の……いや、木をくりぬくとかさ、職人じゃないし激ムズでしょ……あ、確か正倉院とかの古い琴は箱型とかだったんじゃ無かったっけ。ま、見た目はともかく、音が共鳴すればいいんだから、箱型にしよう。それなら茶箱魔法で簡単だしね。


さてさて、ちょうど桐はふんだんにあるからね、琴の本体は桐だったと思うし。うんと密度の高そうな桐で、細長いけど木の厚みもたっぷりある茶箱をピカッ。そして一番端っこの部分は開放させないと共鳴した音が出てこないから……スライサー魔法でカットして~


さ、短くて太い釘を金串魔法でたくさん作ってーの、絡ませた弦が抜けないように釘に型押し魔法で横溝を入れて―の、さっき作った胴体に打ち付け―の……


「いや、僕、釘とか打ったことが無いんだけど……そう言えば昔はドン爺とかも石で打ち付けたりしてたよね……ハンマーとかは作ってないのかな。いや、さすがにもうハンマーくらいは作ってるよね……でも、肉をたたいたりするのも、太い麺棒を使ってるもんな~ 銅かなんかで肉叩きでもつくっ」




――ピロン 肉叩き魔法が使えるようになりました。叩いたり叩きのばしたり打ったり思いのままです




「えっと、肉はまあいいけどさ、打ったり……はい、釘ですね! んじゃ、遠慮なく『肉叩き魔法で琴本体に等間隔で釘打ち!』 片側20個ずつね!」


ピカッ トストストス


「おおー、なんかこれだけでも楽器っぽくなったじゃん! さて、あとは腸詰魔法で細くて丈夫で伸びたりしないガットを長ーく作ってと。そして釘の間を巻きながら弦を張って……はい、弦が張れました!」


「すくいぬし様~ これでかんせいなのですか~」


「まだだよ、マーちゃん。これからね、琴柱っていう部品を作って弦の一本一本に挟めて行くんだ。さてさて、琴柱も硬い桐でいいかな……石でも良い気もするけど、ま、桐にしておこう。まな板魔法でピカピカ……さ、これを弦と胴体の間に挟めて……少しずつずらしていって、チューニングしないとね」


ピーン ピーン


「さ、これでいいかな。半音とかは面倒だしね、ハ長調の音階を20音。下のミから2オクターブ上のドまで、2オクターブ半くらいのハ長調の音階の、完成です! そして同時に、琴の、完成です! ま、ハ長調の曲とイ短調っぽいのしか演奏できないけどね~」


「すくいぬし様! かんせいですか~」


「うん、完成だよ。さ、小さい三味線のバチをまな板魔法で作って、と。さあ、演奏してみよう!」


さーいーた~ さーいーた~ ちゅうーりっ ぷう~ の~ は~な~が~


「うわー! とってもきれいでーす!」


「うん、単音旋律だけしか無いけど、それでも音楽だよね~」


「もっとききたいでーす!」


「うん。じゃ、つづきを~」


なーらんだ~ なーらんだ~ あーかーしーろー きーいーろ~ どーのーは


「ミチイル! なんなのかしら、この音!」


「ああ、母上。琴って言う楽器の音だよ」


「琴……楽器……音!」


「うん。歌をね」


「……歌……」


「こういう風にね、音を出して曲を演奏したりね、声に出して歌ったりするものをね、音楽って言うの。音を楽しむって言う意味だよ」


「……んまあ! んまあ! なんて! なんてステキなのかしらー!」


「うん、そうだね」


「聴きたいわ! もう一回やってもらえないかしら!」


「うん、いいよ~」


さーいーた~ さーいーた~ ちゅうーりっ ぷう~ の~ は~な~が~ ………………


「はう……なんてステキな……何か心に染み入るものがあるわ……」


「そうだよね~ 音楽の力ってバカにはできないからね」


「……ミチイル、これって、わたしでも演奏?できないかしら。救い主限定なのかしら」


「いやいや、そんな事は全然ないよ。なんなら、学校で音楽の時間を作ってもいいくらいだけど、取り敢えず琴を職人が作れるようにならないと、無理かな。結構難しいからね」


「そうなのね……でも、わたし、やってみたいわ!」


「うん、どんどんやってよ。貴族とかが演奏するようになって、それから民に広がっていく方がスムーズかも知れないしね、練習するのに時間も必要かも知れないし。でも、これは最大限シンプルにしてあるから、色々押さえたりしなくても、弦をはじくだけで音が鳴るけど」


「そうなの……わたし、練習してみたいわ。この琴は、貸してもらえないかしら」


「もちろんいいけど、これはプロトタイプで作ったやつだから、もう少し綺麗な母上用の琴を作ってあげる。少し待って~」


「さすがわたしのミチイルね!」




***




母上の琴は、ダークブラウンで艶々にして、胴体の端とか側面とかに、ユリの花を型押し彫刻とかしてあげた。


うん、とっても高級感あふれる琴だよ!




***




「さ、母上の琴の、完成です!」


「んま! ミチイルのと違って、とっても高級感があるわ! でも、弦?と言ったかしら、数が少ないわね……」


「うん。2オクターブ半も無くてもいいかなと思ってさ、1オクターブ半にしておいた。弦の数が少ないほうが演奏しやすいからさ」


「そうなのね。じゃ、これは……どうするのかしら」


「うん、このバチで弦をはじくと音が鳴る。で、音は端っこから順番になっていてね、それぞれ一つの音が鳴るの。だから、何の音が鳴るか、弦の場所は覚えないといけない。それで、一番下の音はこの弦で、これがミ。ファソラシドレミファソラシと来て、こっちの端っこは高いドっていう音なの。これは覚えた方が演奏しやすいよ。取り敢えず、音を出してみたら?」


「ええ、やってみるわ!」


ピーン


「まあ! 結構簡単に音が出るわね!」


「うん、特別な技術はいらないの。弦の音の場所を覚えるのが大変なくらいかな。どんどんやってみて~」


「頑張るわ!」


ピーン ピーン ピーン


「あ、ドとかレとか、口に出しながら練習してね」


「はい! ミチイル様!」




***




「じゃ、ちゅーりっぷを覚えよう。まずは口で歌って覚えてね。ドーレーミー、ドーレーミー、ソーミーレードーレーミーレー……」


「ドーレーミー、ドーレーミー、ソーミーレードーレーミーレー……」


…………


「はい、もう覚えた?」


「ええ、大丈夫だと思うわ!」


「じゃ、次は、歌いながら、その音の弦をはじいて音をだしてみて~」


「わかったわ!」




***




「……ソーソーミーソーラーラーソー、ミーミーレーレードー……はあはあ、どうかしら!」


「うん、すごいね、何時間かで弾けちゃうなんて! 母上、音楽の才能があるんじゃない?」


「うふふ、そうかしら! ミチイル、申し訳ないのだけれど、わたしの琴をサロンに運んでもらえないかしら。サロンに置いておくわ」


「そうだね、楽器がサロンにあるなんて、本当に貴族っぽいよね。琴を乗せる台もつくっておこうかな」


「ええ! ありがとう! 琴はとってもエレガントだわ! 貴婦人にふさわしいわね! うふふ」


「じゃ、ついでにお茶にしよう」




***




「さあ、母上、お待たせ~」


「あら! これはクレープね」


「うん、クレープなんだけどね、加工がしてあるんだ」


「ええ、なにか……煮込まれているのかしら。オレンジはわかるのだけれど」


「うん、これはね、クレープシュゼットって言うんだよ」


「くれーぷしゅぜっと……これはまた、なにか高貴な雰囲気ね!」


「うん、クレープを焼いてね、オレンジジュースで少し煮てあるの。そしてアップルブランデーを少し入れてね、オレンジを上に飾るんだよ。温かいけど、これはこれでおいしいんだ。あ、バニラアイスもトッピングしよう、ピッカリンコ。さ、いただきまーす」


「これはナイフとフォークで食べるのね。じゃ……パク……んまあ! オレンジの香りがさわやかで、クレープはとても柔らかいわ! とてもステキな色だし、エレガントね!」


「うん、見た目が華やかだよね~ さ、アイスも一緒に……うーん! 温かいものと冷たいものの取り合わせも、すごくいいよね」


「そうね! どちらも一緒に味わえるだなんて、なんて贅沢なスイーツなのかしら!」


「うん。今日はクレープで作ったけどね、これは食パンでもできるんだよ」


「温かいオレンジとか、全然思いつかなかったけれど、とってもいいわ!」


「うん、ワインとね、オレンジジュースを混ぜて温めても美味しいんだよ。ホットサングリアって言うんだけど」


「んまあ! 聞いているだけでおいしそうだわ!」


「サングリアは冷たくても美味しいしね」


「ほんとうに、ミチイルは何でも知っているのね! 楽器まで作っちゃうんですもの」


「うん、たまたまね」


「わたしも、琴をたくさん練習して、今度の貴女会で披露するわよ!」


「ハハ 頑張ってね」




***




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