3-19 日本酒
レモン講座を修了させた。
これでレモンも使われるようになるだろう。ま、別に揚げ物にかける用途だけでも良かったんだけどね。
そしてスダチも、ポン酢しょうゆとして流通させることに。後はレモンの代わりに絞ってかけて使うんだけど、まだ鍋物とか教えてないからね、そのうち土鍋でも作って……あ、卓上コンロとか無いと、厳しいかな。ま、後でいいや。
鍋物か……そろそろ日本酒が欲しい。
飲むわけじゃ無いけどさ、味醂じゃなくて日本酒があるといいじゃない。
水産物も増えたしね、梅酒とか……あ、梅酒はホワイトラムでも作れるかな。でも日本酒を作りたい。
さて、取り敢えず研究するか。
***
「えっと、米麹は問題なく製造しているでしょ、そしてドライイーストも作ってるんだから、後はヨーグルトくらいかな。まずは、白米を研いで圧力鍋魔法で蒸し米にするでしょ、そしてこれを甕に入れて、水をひたひたくらいに入れて……米麹をほぐして混ぜて……乳酸菌も必要だから、ヨーグルトを少しだけ入れて……仕上げにドライイーストをパラパラと。酒造りは日本だと違法だけど、異世界だもんね~ さ、後はこれを数日間発酵させるけど、空気が必要なんだよね、発酵には。面倒だけど、一日ずつピッカリンコして、石臼魔法で混ぜて、また一日ピッカリンコして……」
「あら、ミチイル、何をやっているのかしら」
「うん、お酒を作っているんだ」
「お酒? ご飯というか、おかゆのようだけれど」
「うん、米の酒だからね」
「お米のお酒と言えば……味醂もそうじゃなかったかしら」
「よく覚えてるね、そうなんだけど、味醂は糖分が高いけどさ、これは甘くは無いんだよ。日本酒って言うんだけど」
「まあ、甘くないという事は、もしかしたらワインやラム酒のように、普通に飲めるお酒なのかしら」
「うん。透明だけどね、ラム酒みたいにアルコール度数は高くないの。だから飲みやすいんじゃないかな」
「そう言えばミチイルは、全然お酒を飲まないわねえ」
「うん。まだ子供……あ! 僕、もう子供じゃない! いや、19歳だけど! 子供? 19歳ってお酒飲めるんだっけ? いや、どうなんだっけ」
「良くわからないけれど、子供ではないでしょう?」
「うん、そうみたい。でも僕、そんなにお酒飲まないからさ、それはどうでもいいんだ。ただね、水産物を料理するのに日本酒が欲しかったからさ」
「まあ、そうすると、エビとかに合うお酒なのね」
「うん。味醂は甘いからね、たくさん使えないの。でも日本酒は甘くないから、たくさん料理に使えるからさ」
「どんなものなのか、あまり想像がつかないわね」
「まあね。でも、味醂から甘みが無くなったものと思えばいいよ。絞った後の酒粕も、味醂粕と同じように使えるからさ。ベタベタしない分、味醂粕よりも使いやすいかも」
「なんですって! という事は、ベタベタしないパックができるという事じゃないの!」
「う、うん、まあそうかな」
「そんな重要な事を! ささ、早く日本酒を作りましょう! わたしは何をしたらいいかしら」
「まあ、もうほとんど終わっちゃったけど……後は、このもろみ状態の物から固形分を抽出して、瓶に詰めて二次発酵で終わり」
「固形分?」
「うん、要するに酒粕だけど」
「んまあ! さすがミチイルね! わたしが来る頃にちょうど酒粕を用意してくれるだなんて!」
「う、うん。じゃあ固形分……じゃ無かった、酒粕を抽出……っていうか、固形分だけ出したら粉になるからね、取り敢えず布で濾してみようかな。さて、丈夫で目の細かい綿布をピカッとして、大きなザルに敷いて……いや、これは重くて持てないね。やっぱり固形分だけ抽出しよう。さ、ピカッとね。で、液体を少し酒粕に戻して、石臼魔法で混ぜて、と。はい、程よい水分の酒粕ね。パックにするなら、一回分ずつ小分けして冷凍庫に入れて置いて使って」
「んまあ! ありがとうミチイル! さて、小分け小分け……で、何に小分けしたらいいかしら」
「えっと、ガス袋とかは? 密閉シーラー魔法は使えるでしょ?」
「ええ、もちろんよ。お裁縫にいつも使っているもの」
「ああ、そうだった。じゃ、スライムフィルムでガス袋、そして型抜きでピカピカ。はい、これくらいあれば大丈夫でしょ」
「ありがとうミチイル! じゃ、わたしは小分けしているから、遠慮なく作業を続けてちょうだい!」
「はいはい。んじゃ、液体を甕に……いや、徳利に……いや、どのくらいの状態になったのか分かりにくいから、ガラス瓶にしよう。試験醸造だからね。えっと、ガラス瓶魔法で一升瓶を作って、と。そんでコルク栓魔法ね。そんで……漏斗は無いから……漏斗は有った方がいいよね、っていうか、さすがにもうあるよね、長い事、酢やワインや色々液体ものを作っているんだもん。でもここには無いから、取り敢えずアイテムボックスに収納して……一升瓶に直入れしよう。さ、ピッカリンコ。そんでコルク栓を閉めて……あ、緩めにしておかないとね、発酵が進んだらガスが出るもんね。そんで、二日くらいで良いかな、じゃ、二日発酵でピッカリンコ。どれどれ……お、当然だけど、透明で、少しだけ黄色っぽいかな、うん、日本酒の香り! ちょっとだけ味見してみよう。うん、固形分を抽出したから、ものすごく透明だし、すっきりとしてるね。はい、日本酒の、完成です!」
「あら、もう完成したのかしら」
「うん、味見する?」
「ええ、少し頂こうかしら」
「んじゃ、はい。湯呑だけど」
「いただきます。コク……まあ! とてもすっきりとしたお味! ワインよりさっぱりしているし、ブランデーやラム酒よりもきつくないから、とても飲みやすいわ!」
「うん、そうでしょ~ 日本酒はアルコール度数もそんなに高くないしね、化粧水にしたりするくらいだから」
「な、なんですって! 化粧水ですって!」
「うん、そうだよ。火入れしないとね、乳酸菌もあるし酸っぱくなっちゃうけどさ、新鮮な状態なら酵母とかも生きているしね、お肌がしっとりするはず」
「んまあ! 何てこと! それで、どうやって使ったらいいのかしら? このままジャバジャバ体にかければいいのかしら!」
「いやいや、そうだね、取り敢えず殺菌水で倍くらいに薄めて置いて、冷蔵保存しておいたらいいんじゃないかな。まあ、日本酒に桃の葉っぱとかを浸け込んでティンクチャ―とかにするのもいいと思うし、レモンの種とか洗って一緒に浸けて置けば、トロミとかもついていいかも知れないし」
「早速ティンクチャ―を作るわ!」
「うん。でも日持ちしないよ。火入れすればいいけど、酵母とか死ぬしね、効果は薄くなっちゃうかも」
「それはいいわ! こまめに作ればいいんですもの。それで、この日本酒は、当然もちろん醸造工場で大量生産するのでしょう?」
「うーん、大量生産かどうかは分からないけど、作ってもらおうと思ってるよ。ま、ワインよりは多く作ってもらうかな、料理にたくさん使いたいし」
「そうよ! もっともっと大量に作りましょう!」
「でもね、米をたくさん使うの。ワインとかだとブドウだけで済むんだけどさ、日本酒は米で米麹を作ってね、仕込みの時にさらにたくさん米を使うんだよ。だから、とっても贅沢なお酒なの。米が大量に余って無いと、そんなに作れないよ」
「じゃあ、まず農業部に米の大増産をお願いしましょう。そして、醸造工場にも、日本酒の作り方を……わたしは知らないのだけれど」
「まあ、僕から伝えておくよ。ジョーンに教えてもいいしね。味醂の作り方とそんなに変わりはないから、作るの自体は問題ないと思う。でも、本当に材料たくさん使う、贅沢なお酒だからね」
「わかったわ! でも最近は、作物が余るから農業も思いっきりできないって、農業部の人達が残念がっているらしいから、米をたくさん作ってとお願いしたら、逆に喜ぶと思うわよ」
「そうなんだ……労働力が余っているとは聞いたけど、そこまでか……もっと余暇とか趣味に繋がる物を作った方がいいかな」
「え? なんですって? もっと美容品があるんですって?」
「いや、余暇! 余っている時間に、何か趣味となるものをね」
「そんな事を言って、絵だって結局は美容に繋がるものだったじゃない! ミチイルのする事は、色々な物に結局は繋がっているのよ。だから、すなわち、美容にも繋がっているの!」
「はいはい。じゃあ、日本酒の製造手配は母上に任せるからさ、僕が直接教えるのでも、ジョーンに教えてレシピを書いてあげるのでも、どっちでもいいよ」
「そう来なくっちゃ! 大丈夫よ、わたしに任せておいて! うふふ、忙しいわ~」
「それでさ、今日の晩御飯は僕にお任せでいい?」
「もちろんよ! わたし、忙しいもの!」
「うん。じゃあ日本酒を使って晩御飯にするからね」
「楽しみね! うふふ」
***
「さて、取り敢えず、土鍋を作るかな~」
「すくいぬし様! どなべとはなんですか?」
「うん、マーちゃんは見た事が無いかな~ 鍋は金属が多いけどね、土でも作れるんだよ」
「そうなんですか! つちでなべ!」
「うん。食器とかも土から出来ているしね、グラタン皿とかも陶器だから土だしね、同じように丈夫で高温に耐えられるような鍋を作るの。七輪の感じで作って釉薬をかけてあればいいかな~ いや、僕は釉薬とか知らないけどね~ でも、イメージが肝心だからさ。じゃ、万古焼の土鍋をピカッとね!」
ゴトリ
「はい、土鍋の、完成です! おお、結構高級感のある、黒い土鍋~ これで、海鮮鍋にしよう! あ、卓上コンロも要るよね……取り敢えず、高さの低い高温にも耐えられる感じの七輪を作って、小さい魔石を燃やそう。さて、ピカッとね。ん?卓上コンロはもうこれで製品としてもいいんじゃないかな。七輪に足も付けてあるしね、高さは低いし、一応テーブルが焦げたらいやだから、木のプレート、いや銅プレートでいいかな、これを下敷きにして七輪を乗せて……うん、卓上ガスコンロと変わらないよね!」
「すくいぬし様! このテーブルのうえで、りょうりをするのですか?」
「うん、ここでね、少しずつ具材を調理しながら食べるの」
「とてもふしぎでーす」
「そうかな……いや、そうかも。そう言えば、初めて焼き肉をした時も、目の前で調理したものを食べるってのが云々って話もあったもんね。ま、何にせよ、新しい料理だから~ じゃ、具材の用意をしよう」
***
「ミチイル~ 晩御飯の用意は終わったかしら」
「うん、いつでも大丈夫」
「もう二人増えてもいいかしら」
「え、うん、鍋だから何人増えてもいいよ」
「あら、良かったわ。そろそろ」
「マリア様、ご来客がお見えでございザマス」
「ああ、クーちゃん、お通ししてもらえるかしら」
「かしこまりザマス」
***
「ミチイル様、マリア様、本日はお招きいただきまして、誠に恐縮でございます」
「わたしもです!」
「ああ、カンナにジョーン、いらっしゃい。今日は夜だけど、サンルームでご飯だよ、さ、どうぞ~」
「恐れ入ります」
「ありがとうございます!」
「あら、二人とも、悪いわね、呼びつけちゃって」
「とんでも無い事にございます」
「ミチイル様のお料理をいただけるなんて、うれしいです!」
「今日はね、常夜鍋風海鮮鍋だよ。この卓上コンロと土鍋でね、テーブルの上で調理しながら食べるの」
「まあ、それは珍しいお料理でございますね」
「ほんとうです! 焼き肉と似ています!」
「うん。じゃあ、始めよう。さて、日本酒を倍量に薄めて昆布を入れた土鍋に、野菜を入れて~ エビとイカとカニも入れて~ 煮えたら、このお玉ですくってね、銘々の器に入れてね、そしてポン酢しょうゆをかけて召し上がれ~ あ、お供えもね」
「とってもたくさん日本酒を使うのね」
「うん母上。常夜鍋っていう料理なんだよ。日本酒で煮るとね、臭みも無くなるし柔らかく仕上がるの」
「まあ、楽しみね! では、いただきましょう」
「いただきまーす。んー、やっぱり土鍋で海鮮鍋は美味しい~」
「ほんとうね! さっぱりしているのに、味わい深いわ!」
「誠でございますね、マリア様。それに、テーブルの上で調理しながら頂くのも、格別なものでございます」
「ほんとうですね、お義母様! エビとイカは身だけですけど、カニは一部分だけ殻が付いています!」
「うん。カニの殻からも、とってもいい出汁が出るからね」
「このイカは、何かお花が咲いているみたいよ!」
「うん、母上。イカにね、飾り包丁というか、隠し包丁っていって、たくさん切り込みをいれるとね、火が通ったらくるんと丸まって、こんな形になるんだよ」
「すごいです! ミチイル様!」
「誠に。このお料理は淡白なお味ですから、年寄りにも食べやすうございますね、わたくしは揚げ物でも美味しくいただきますけれど」
「カンナは若いですものね!」
「ほんとうです!」
「そうだよね、カンナは歳を取らないよね」
「マリア様には及ぶべくもございませんが、この頃、そのような身に余る世辞を頂くことが増えましてございます」
「うふふ ところでミチイル、ご飯は食べないのかしら」
「うん、ご飯は最後に食べるんだよ。だからお腹いっぱいにしないでね」
「わかったわ!」
***
「じゃ、そろそろご飯ね。土鍋の中の具材をキレイに取りまーす。そして、カニのほぐし身をたっぷり入れまーす。そこに、味醂と塩を少しいれて、ご飯も入れまーす。ご飯がやわらかくなったら、溶き卵を回し入れて、仕上げにアオネギの小口切りを散らしたら、カニ雑炊の、完成です!」
「まあ! 最後にこんなお料理が待っていたのね」
「さあ、食べよう。んー、やっぱり鍋の〆は雑炊だよね~」
「これは、色々な水産物の味が複雑に醸し出されておりますね」
「ほんとうです! とってもとっても美味しいです!」
「うん、鍋の後はね、残ったスープにご飯とか、うどんとかを入れて、スープまで残さず食べるんだよ」
「いつもながら、ミチイル様の料理には無駄がありません!」
「誠ですね、ジョーン」
「そうね、ゴミまできちんと食べるものね」
「食後にデザートもあるからね! オレンジシャーベットだよ!」
「まあ! 楽しみね!」
***