3-18 レモン
レモンとスダチも普通に収穫できているけど、使い道が無いっていうからね、ジョーンに来てもらってレシピ講座を開こう。
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「さあ、今日もレシピ講座を開催しまーす」
「パチパチパチ」
「さて今日はまず、レモンを使いまーす。レモンは唐揚げとかエビフライとかにかける使い方しか無いのですね? ジョーン」
「はい、残念ながら……オレンジと違ってジュースにもできませんので……」
「まあ、酸っぱいからね。では、レモンから~ レモンは、オレンジと同じくマーマレードにできまーす。オレンジの皮よりは苦いので茹でこぼしを多くやってから作ってくださーい。そして、レモンはジャムにもできまーす。マーマレードで皮を使った後の身だけ使ってくださーい。薄皮と種からペクチンを作るのは、どちらも共通でーす。とてもさわやかで酸味があるものに仕上がりまーす。ジャムもマーマレードも、パウンドケーキに混ぜて焼いたり、焼きあがったマドレーヌの表面に塗ったりしても美味しいでーす。そして、レモンジャムと酢と塩とオリーブオイルを混ぜたら、レモンドレッシングの、完成です! これは普通にサラダの他、エビやイカの刺身にかけても、とっても美味しいのでおすすめでーす。刺身にドレッシングをかけたものを、カルパッチョと呼びまーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! カルパッチョは刺身のドレッシング和えという事なのでしょうか」
「はい、おおよそ合っています。しかし、美しく盛り付ける事で、別な料理へと変わるのです。ここで試してみましょう。まず、スライスオニオンと千切りのセリ、千切りの青じそを水にさらして、水気を切っておきまーす。そうしたら、大きな平皿に薄く野菜を敷き、その上に薄くスライスしたエビの刺身を、綺麗に並べていきまーす。そしたら、レモンドレッシングを回しかけ、山椒の粉をパラパラふりまーす。仕上げに、種の部分を取ってから賽の目に切ったトマトを散らしたら、エビのカルパッチョの、完成です!」
「まあ! これはとっても美しくてエレガントなお料理ね!」
「ほんとうです! これは確かに、お刺身の和え物ではなくて、カルパッチョがふさわしいです!」
「ハハ じゃレモンの続きね。さあ、レモンの皮を剥いて、皮の方を使いまーす。今回は白い部分を多めに残しまーす。そうしたら、5mm幅くらいにスライサー魔法で切断し、3回くらい茹でこぼして置きまーす。そうしたら鍋にヒタヒタの水をいれ、圧力鍋魔法で柔らかく加熱しまーす。レモンの皮が柔らかくなったら水を捨て、新たに少なめに水を入れ、砂糖も多めに入れまーす。そして圧力鍋魔法で加熱してから、干物魔法で水分を減らしまーす。ほどんど水分が無くなったら、レモンの皮を取り出し、砂糖をまぶしてから、再度干物魔法で乾燥させまーす。触っても手にベタベタがつかなくなる程度になったら、レモンピールの、完成です! これは、オレンジでも作れますので、覚えておいてくださーい」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! とても手順が多いのですが、最初から砂糖も入れてレモンの皮を一回で加熱してはダメなんでしょうか」
「大変良い質問です、ジョーン。まず、柑橘の皮は苦いのです。レモンもオレンジも、白い部分が苦いのですが、マーマレードもピールも、その白い部分を使うのです。ですから、何度も茹でこぼし、水を取り替える事で苦味が減るのです。そして砂糖を最初から入れないのも、水で煮ないと苦味が減らないからと、皮が柔らかくならないのです。昆布を煮る時にも、味をつける前に柔らかくしてからでないと、いつまでも硬いままですが、それと同じようなものなのです。ですから、充分に柔らかくなった後に、砂糖を加え、そして乾燥させることで糖分を高め、保存も出来て透明感のあるピールにする事ができるのです」
「はい! わかりました!」
「さて、このピールはこのままおやつでもおいしいですし、お酒との相性も良いのでワインと共に少量食べたりします。そして、これを細かくしてケーキ生地に混ぜて焼くと、とっても美味しいケーキなどになりますし、漬物を仕込む時にピールを加えても、大変に風味のある漬物ができますので、おすすめでーす。さ、次は、レモンに抽出魔法をかけて種を取り出し、スライサー魔法で皮ごとみじん切りにしまーす。そうしたら、レモンの重量の10%の塩を混ぜ、ガラス瓶にぴっちりと詰めまーす。一か月くらい経ったら、塩レモンの、完成です! これは漬物を仕込む時に少し混ぜたり、蜂蜜と混ぜて鶏肉に塗ってからオーブンで焼いたり、ドレッシングに混ぜたり、マヨネーズに混ぜたり、ケチャップに混ぜたり、はたまたスープにほんの少しだけ加えたりすると、複雑な味になって美味しいでーす。常温でも冷蔵庫でも日持ちがしまーす。それに、ご飯を混ぜても爽やかで美味しいので、おにぎりにも向きまーす。スダチでも同じように作れまーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! 塩と混ぜて直ぐに使わないのはなぜでしょうか」
「はい、直ぐに使っても、それはそれでいいのですが、時間を置いた方が塩味もマイルドになりますし、レモンの苦みも均一になりますし、数か月も経てばレモンが少し溶けて使いやすくなります。何より、保存が利くと言う所が一番の利点ですが、直ぐに使っても構いません」
「かしこまりました!」
「では、続きまして、レモンを薄―い輪切りにしまーす。これを紅茶に浮かべまーす。はい、レモンティーの、完成です! これは砂糖を入れるのがおすすめでーす。そして、このレモンの輪切りを干物魔法でカラカラに乾燥させれば、干しレモンの、完成です! そして、このレモンの輪切りをパウンドケーキを焼くときに上に並べて砂糖を振りかけると、見た目も美しく風味もプラスされまーす。ケーキの中にはレモンピールを混ぜるのがよいですね! さらに、レモンの輪切りを漬物を仕込む時に加えると風味が良いでーす。そして、肉を焼くときにレモンの輪切りを張り付けて焼くと、酸味と風味が肉にプラスされまーす。そして、トマトをレモン絞り魔法でジュースにしてから、レモンを絞った汁を加えまーす。そうすると、トマトジュースが飲みやすくなりまーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! レモン絞り魔法はレモンやオレンジ専用かと思ってましたが、トマトや野菜にも使えるのですね! 他にはどんなものに使えるのでしょうか」
「はい。野菜ジュースはトマトがメインです。後はニンジンも大丈夫ですが、あまり美味しく無いでしょう。もしくは野菜ミックスジュースとして、トマトとニンジンと緑の野菜なんかを一緒にジュースにしても、それなりです。その場合は、蜂蜜とレモン汁を加えると良いでしょう。野菜ジュースの利点は、サラダじゃなくても生の野菜が食べられる事です。ですので食が細い年寄りなどにも向きますが、食物繊維が減ってしまうので、野菜料理の代わりにすることはおすすめしません。トマトジュースは料理にも使えますので、調味料の一つとして流通するのも良いでしょう。ダイコンもジュースに出来ますが、ダイコンジュース、というかダイコン下ろしもそうですが、生のダイコンを食べ過ぎるとダイコン中毒になりますから、ジュースにはしない方が良いでしょう。レモンは、色々な物の臭みを減らす効果があるのです。ですので、ジュースに加える使い方を、覚えておいて損はありません」
「かしこまりました!」
「はい、続きまして、バターを入れたカスタードクリームを作りまーす。そこへ、レモン汁と砂糖とレモンの皮の黄色い部分だけをオロシガーネでおろして加え、良く混ぜたら、レモンカードの、完成です! これはアップルタルトのリンゴの代わりに使ったり、クッキーに乗せて食べたり、パンに塗って食べたり、トライフルに入れたり、パン生地で包んで焼いたり、色々なスイーツに使えまーす! 本当の作り方は違うのですが、この方が手軽に作れまーす」
「さ、次は、レモンを四分割し、種を取りまーす。これを甕に入れて、ホワイトラム酒をレモンが浸かるようにドバドバ入れまーす。三か月ほど置いたら、リモンチェッロの、完成です! これは、そのままお酒として飲んでもいいし、リンゴジュースで割って飲んだり、水で薄めて飲んだり、レモンリキュールとしてスイーツに使ったりしまーす。そして、同じように四分割したレモンの種を取りまーす。ホワイトラムの代わりに、酢で漬けこみまーす。はい、レモン酢の、完成です! これは風味のある酢ですから、すし酢や甘酢に使ったりするのがおすすめでーす。また、レモンをレモン絞りしてレモン果汁にしたものを、小さなガラス瓶に入れて流通させることもできまーす。レモンは酸味が強いので、風味は落ちますが、日持ちはしまーす」
「ささ、後のレモンの使い方は、醤油に混ぜてレモン醤油にしたり、ドレッシングにレモン汁をプラスしたり、ピクルスに加えたり、レモンを丸ごとお風呂に浮かべてレモンの香りを楽しんだり、レモンの皮からオイルを抽出すればレモンオイルとなって、とてもさわやかな香りの石鹸にもなりますし、レモンオイルをティンクチャ―用の高濃度アルコールに混ぜたら、レモンの香水になりまーす」
「ちょっと待って! レモンのティンクチャ―? お風呂? 香水? 香水とは何かしら?」
「うん、母上。お風呂はね、レモンをただ単純にお湯に浮かべたらいい匂いなのと、少し溶け出すレモンの油が肌の保湿をしてくれるかも。でも、レモン汁とかを肌につけるのは良くないから、お風呂の時は丸ごとのレモンを浮かべるだけにして。ティンクチャ―も、香りの用途にしか使えないの。石鹸の香りづけは分かるから説明はいいでしょ? あとは香水だけど、これをね、小さな紙なんかに浸みこませて皿に乗せて部屋に置いておいたら、部屋の中がレモンの香りになってね、爽やかなの」
「んまあ! 何かとってもステキね! 是非やらなくては!」
「そうですね、何か高貴な雰囲気がします!」
「うん。オレンジでもできるし、他の花とかでも同じようにできるかな。ルームフレグランスって言うの。お部屋の香水ね」
「るーむふれぐらんす……とってもとってもステキな響き! エレガントな感じよ!」
「ほんとうです!」
「えっと、今日はレモンの食べ物レシピがメインなんだけど」
「あら、ごめんなさい。続きをどうぞ、ミチイル」
「はいはい。では、レモンのレシピの最後、まずレモンを薄い輪切りにして種は取ってしまいまーす。さ、これを甕かガラスの保存瓶に入れて、上から蜂蜜をたっぷり注ぎまーす。このまましばらく冷蔵庫に入れておいたら、蜂蜜レモンの、完成です! これは水で薄めて飲んだり、紅茶に入れたり、お湯で割って飲んだり、ワインで割って飲んだりしてもいいでーす。後は、ジャムやマーマレードの代わりにもなるし、このまま食べても美味しいでーす。蜂蜜とレモンの相乗効果で、喉にもいいでーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! マーマレードやジャムの時のように、手間をかけた下ごしらえはしなくてもいいんでしょうか」
「大変良い質問です、ジョーン。蜂蜜レモンの時には、特別な下ごしらえは必要ありません。蜂蜜の風味が高いので、レモンの苦みなども抑えられるのです。逆に言えば、茹でこぼしたりしない分、レモンの成分をまるごと摂取できるのです。声を出し過ぎた時など、喉の修復を助けてくれますよ」
「それはいいわね。美容じゃなくても、時々喉が変な事もあるものね」
「はい!」
「じゃあ、試食タイムにしようか~」
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