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3-16 美術

結構時が過ぎ、カナン2年になった。


神聖カナン王国も、順調に発展していっている。食料を始め、各種生産品も充分行きわたり、むしろ余力がある状態らしい。仕事以外に暇な時間もできて、子供も続々と生まれて、家族で健康ランドでレジャーなんかを楽しむ余裕もあるんだって。


とっても豊かな国になったと言ってもいいと思う。民が仕事に追われる事が無くなったんだからね。まあ、カナンに来る前は、自分たちの人口以上に色々供給して来たんだもんね、作物は常に豊作で、一年に何回も収穫できるし、工業製品だって原料なんかも使いたい放題だもん。以前は必要な機能だけあれば良かったんだけど、今は余裕があるからね、型押し魔法で彫刻なんかも施した木工品とか金属製品とか、そんなのも楽しめるようになった。


僕も毎日ゆったり過ごしているしさ、ここらで食文化以外にも目を向けてみようと思うんだ。


と言ってもさ、僕は芸術系とかには詳しくは無いんだけど、それでもね、今は何もない状態なんだから、ほんの少し、子供のままごとレベルの事であっても、きっと皆も楽しめるんじゃないかなって。


と言うことで、色も12色揃ったし、絵を描いたりしてみようかな。


料理刷毛魔法で、筆も作れる。材料は……確か牛のやわらかい毛……耳とかの毛で、昔は刷毛とか筆とか作っていたはずだからね。




***




「さて、筆はこれで良し! 染料の粉も、色草から食紅魔法で12色作ったし、後はキッチンペーパー魔法で画用紙を作れば、水彩画は描けるね。あ、もしかしたら布に絵を描いて食紅魔法で色を定着させたらさ、友禅染みたいにできるよね……ちょっとハンカチでも作ってみようかな。ま、取り敢えず画用紙に絵を描いちゃおう。絵を描くなんて、美術の授業以来だけど、別に先生にチェックされる訳じゃないしね~ そもそも絵だって世界初じゃん! さて、道具を持って外にでも行こう。ふんふんふーん」


「あら、ミチイル、お出かけするのかしら?」


「ううん、ちょっと離宮の前庭に出るだけ」


「あら、そう。お花でも収穫するのかしら?」


「ううん、絵を描こうと思ってさ」


「……絵? 絵……何か分かるような分からないような感じがするわ……」


「ま、母上は見たことが無いだろうからね、というか、誰も見たことが無いかも」


「わたしも一緒に行くわ!」




***




「さて、この離宮の正面からの風景でも描くか……オリーブの木は手前だから無かった事にして、色花の花壇と桃の木と、離宮の建物に周りの森……うん、良し! 別に下書きとかも無くてもいいよね、写実を追求する必要もないし~ さ、サラサラ……」


「まあ! その刷毛は料理の刷毛とは違うのね。それに……この色粉……色を混ぜると、全然別な色になるじゃない!」


「うん。こうやって花とかに無い色も混ぜて作れるんだよね。それで水で溶いて、この筆で紙に色を付けていくんだよ。もうちょっと待ってね。サラサラサラ……」




***




「はい、離宮の正面風景の、完成です!」


「んまあ! 本当に離宮の感じだわ! 周りの畑とかが無いみたいだけれど」


「うん、見えているものを全部書く必要は無いからさ。花と木に囲まれた離宮の方が、洗練されているでしょ、実際は違うけど」


「そうね、もしかして、この道具を使えば……見えているものだけでは無くて、覚えているものや……頭で考えただけのものとかも、紙に描けるのではないかしら」


「うん、自由だよ。本当に自由。モノじゃなくても、空とか、色だけを模様みたいにデザインしたり、花を一輪だけとかさ、本当に自由。紙じゃなくても、他のものにも描けるしね。あ、ちょっと待ってね。さ、木綿のハンカチを出して……サラサラサラ……そして色落ちしないように食紅魔法でピカッと。そんで、おしぼり業者と干物で……はい、花の模様のハンカチの、完成です!」


「きゃーーー! ミチイル、これは……これは……なんてステキなのかしら!」


「うん。桜っていう形のスタンプを押しただけみたいな図柄だけどね。ピンク色でかわいいでしょ」


「ええ! ミチイル、これって、わたしでも出来るかしら」


「できるんじゃない? 道具を一式あげるから、やってみたら? 色粉が足りなくなったら食紅魔法で作れるでしょ? 原料の色草とか色花とかはここにあるし」


「そうね! やってみるわ!」


「じゃあ、母上のアトリエに行こう」




***




「えっと、筆も何種類か用意しておこうかな。それと、パレットと、一応画用紙もいっぱいに……あ、ここに小さいシンクもつけてあげるね、ピカッと。これで、いちいちキッチンに行かなくても水もあるし、筆とか道具も洗えるしね。食洗機魔法は使えるんだから、簡単でしょ」


「ええ! ありがとう、ミチイル!」


「じゃ、さっそくやってみよう。画用紙は後でいいとして、布に模様とか描いてみたらどうかな」


「ええ、そうしてみるわ!」


「じゃ、僕は……僕も布に模様を描こうかな。えっと、どうしようかな……あ、そうだ! タータンチェック柄でも描こう。これでズボンとか作ってもらおうかな。えっと、取り敢えず一部分だけ……うわ……直線引くのって難しいよね……ふにゃふにゃになっちゃう……そりゃそうだよね、本来のチェック柄は縦糸とか緯糸とかで柄を出すんだもんね……いや、僕は料理研究家! フリーハンドで模様をかくなんて、アイシングの絞りデコで鍛えたこの」




***




――ピロン アイシング魔法が使えるようになりました。デコレーションが思いのままです




***




「えっと、この場合は、アイシング魔法で……文字とか絵とか、描けるって事だよね……ま、いいか『アイシング魔法でタータンチェック!』 」


ピカッ ペターッ


「おお! できたできた! うん、とってもいいじゃん! さて、一部分だけだったから、これを繰り返していけばいいよね。コピーとかできれば楽なのに……ん? コピー……プリント……もしかして、焼き印魔法でできるんじゃない? 焼き印はコピーできるもんね。インクが無かったら焼き印になっちゃうけどさ、インクを用意すれば……ま、色粉だけど。ま、とにかく試してみよう『焼き印魔法で色付き図柄をコピー!』 さあさあ!」


ピカッ ズラズラ~


「うおーい! できるとは思ってたけど、本当にできた~!」


「んまあ、ミチイル! 模様が布全体にキレイに広がったわよ! 焼き印魔法で、こういう図柄もコピーができるのね!」


「うん、イメージが大切だからね。母上もやってみたら?」


「ええ、もちろんよ。この、ようやく一つ描き終えたピンク桜を……布いっぱいにたくさん『焼き印』 」


ピカッ ポンポンポン


「あらあらあら! 桜の図柄が布いっぱいになったわ! すごい! ステキ!」


「ほんと、魔法って便利だよね~」


「ええ、そうね! ミチイルありがとう!」


「うん。図柄をさ、画用紙にひとつずつ描いておけばさ、それで焼き印魔法コピーができるんじゃない? 毎回布に描かなくても」


「はっ! そうね、それはいいわ!」


「うん。色んなデザインを画用紙に描いておけばさ、好きな時にそのまま使えるよ。たくさん描いて密閉シーラー魔法で端を綴じておけばさ、デザイン帳になる」


「デザイン帳?ってなにかしら」


「うん。色んなデザインを集めておくノート?まあ、本っていうんだけどね、そのデザイン帳の本が作れるね。布のデザイン帳だから、テキスタイルデザイン帳かな」


「まあ! てきすたいる……」


「うん。模様とかがついた布のことかな。ま、おしゃれな布の事をテキスタイルって言う感じ? かな……適当だけど」


「テキスタイル……いい事を聞いたわ! さっそく思いの限りをテキスタイルデザイン帳にしましょう! さあ、とても忙しくなるわよ!」


「ハハ 時間はたっぷりあるでしょ、ゆっくりやってよ」


「さあ、カンナも呼ばなくちゃ。忙しいわ!」


「聞いてない……あ、カンナが来るならさ、このタータンチェックの布で、僕のズボンを作って欲しいんだけど」


「救い主様! そのズボンの製作は、是非、わたくしにお任せいただきたいのでございザマス!」


「ああ、クーちゃんは服を作るのが得意だったもんね」


「はいザマス! メイド以外のもうひとつの本職でございザマス!」


「うん、じゃあ、クーちゃん、お願いね。そう言えばさ、クーちゃんは普通に話せるし魔力もあるでしょ? 魔法が使えるんだよね?」


「もちろんにございザマス! 本日も救い主様御業の数々、しかと魂に刻み込みましてございザマス!」


「じゃ、色々な布も服も、クーちゃんオリジナルで作れるね!」


「ありがとうございザマス! 精進致しザマス!」




***




「ああ、伯父上、呼びつけちゃってごめんね」


「とんでもありません」


「これね、マドレーヌだけど新作なんだよ。どうぞ、食べてみて」


「では……モグ……! これは、とても爽やかな風味がしますね」


「でしょ~ オレンジの皮のオレンジ部分だけを細かくして混ぜてあるの。オレンジの果汁とかマーマレードを混ぜて焼いていいんだけどね、オレンジの皮だけでも、シンプルながらも風味があるからさ、おいしいんだよね~」


「オレンジは、新果樹ですね。ジュースとマーマレードは普段から頂いています」


「あ、もう果樹園で収穫できてるんだね」


「はい。ミチイル様が、オレンジの木を成木にしてくださったので」


「そっか。じゃ、レモンとかスダチも?」


「はい。ですが、使い方が良くわからないそうで、そのままにしてあると聞いています」


「そっか。ジョーンにレシピを伝えないと」


「ミチイル様のお好きな時になさってください。特に急ぐ必要はありませんので」


「うん、ありがとう。でね伯父上、今日はこれを見せたくて」


「これは……」


「うん、絵って言うものなんだ。色の粉を水で溶いて、筆につけて紙に書いたものなんだ。これは、布にも模様とかがつけられるしね、木工製品とかにも絵が描けるし、もちろん紙にも」


「これは、とても素晴らしいものですね……何か、心まで満たされるような……これはこの離宮の絵、ですね」


「うん、これは風景画って言うんだけどね。それでね伯父上、この絵を描いたりするのを、学校の授業で取り入れたらどうかと思うんだ。美術の授業って言うんだけどさ、ま、教える先生の問題もあるんだけど、特に誰も教えなくてもね、お絵かきっていって、この色粉……便宜上、絵具って言うんだけど、これと筆と画用紙……この絵を描いている紙ね、これを子供たちに渡してさ、自由にお絵かきをしてもらったらどうかな」


「それは、もちろん構いませんが……どういう効果があるのでしょうか、美術?の授業を取り入れると」


「さすが伯父上、真っ先に授業の効果について考えるなんて! うん、効果はね、後で色々な仕事に就いたときに役に立つと思う。服飾関係でもね、布に絵をかいてキレイな服も作れるだろうし、木工職人だって、家具なんかに絵を描いたりね、そういう事もできる。それにね、お菓子だってね、絵と言うか模様を描いたりするんだよ。クッキーにアイシングをしたり。あ、アイシングって言う新しい魔法もできたから、後で誰かに伝えないとね……」


「それは、将来の仕事にとても役に立ちそうな授業ですね。平民学校はゆとりが充分にありますから、何も問題なく美術の授業を開始できると思います。これらの道具類は、職人たちにも作れるのでしょうか?」


「うん。材料さえあれば今までの魔法で作れるから。この筆は、牛の柔らかい毛が必要だけど、たぶん、今は捨てている牛の耳の毛とか使えばいいと思うんだ。職人たちに研究させてみてもらえる?」


「かしこまりました」


「うん。最初は美術の教師が居なくてもいいと思うの。実際、居ないしね。何年かして、絵とかが得意な人が出てきたら改めて考えようよ」


「それにしても、色々な色でこのような模様……絵を描くなど……見たことも聞いた事もありません。ですが、こういうものがあると、豊かな気分になりますね」


「うん。絵を壁にかけて飾ったりね、美術品って言うんだけど、そういう文化も進んでいくと、もっといい国になると思う」


「楽しみですね」


「うん。将来的には、絵を描く仕事の人とかが出てくれば、仕事の選択肢が広がって、民も幸せになると思うんだ。それに、貴族たちもね、時間があったりするでしょ? 子供とか女性とか。そういう人たちもね、屋敷で絵なんかを描いて研究してもらってもいいかもね。貴族から文化とかが平民に広がって行ったりもするから」


「それはいいですね。では、さっそく平民学校と貴族たちに美術を研究させましょう」


「ハハ 強制だけはやめてね」


「わかっております」


「それとね、伯父上、もう一つあるんだけど……」




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