3-15 エビ
新しい作物の種と苗は、農業部に持って行った。促成栽培スキルもしておいたし、後は適当に栽培してくれるだろう。
そして、水産物は問題が無いみたいだから、養殖場を新設。海産物では無いんだけどね、まあ海産部の管轄になったから、エレベーター前の空き地に、大きい養殖場をたくさん作っておいた。魔力が少しは薄いんじゃないかと思うんだよね、あの辺り。資源場から魔力も出ているけど、湖は資源場の隣だからさ、魔力は濃いエリアだと思うけど、エレベーター前はカナンの最南端だもん、魔力の源から遠いでしょ。でも、魔力が多少、少なくても、ちゃんと育つはず。逆に程よいサイズになるかも知れない。ま、水産物もそのうち市場にも出回るだろう。
それで、食物が一気に増えたからね、キッチンスタジアムでレシピを公開する方が良いんだけどさ、ジョーンにレシピを教えれば、それでいいって事になった。正直言えば、製造地帯も前よりは遠くなったし、行くのが面倒になったからね、離宮で用が済むのは助かるよ。
それで、オレンジレシピも多少はジョーンに教えて、今日はこれから、水産物のレシピを伝えるの。
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「さて、今日は水産物の、エビ料理を作りたいと思いまーす」
「パチパチパチ」
「さ、ここにエビを用意してありますが、これは硬い殻に包まれた食材ですので、これを皮むき器魔法でペロンと殻を剥いちゃいまーす。殻は取り敢えず置いておいて、中の身を使いましょう。この身は、新鮮なら鰹のように生で食べられまーす。今日は、スライサー魔法で一口大に切ったエビを、3%の塩水で良く洗って、その後にキッチンペーパーの上に置いて水気を切りながら、冷蔵庫で食べるまで保管しまーす。そして、その身の一部は、大きな昆布を用意し、塩を混ぜた味醂を塗りつけて昆布が少し柔らかくなったら、その上に、処理した刺身用のエビを並べて、昆布で包むようにしまーす。後はこれを冷蔵保存でーす。これはこのまま、数日間、冷蔵庫で保存できる刺身でーす。さ、これで、エビの刺身とエビの昆布締めの、完成です!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! 刺身はお醤油でいいとして、昆布締めは何かをつけて食べるのでしょうか? 塩が使われていましたけど」
「いい質問です、ジョーン。昆布締めは塩の味が付いていますので、基本的にはそのまま食べます。醤油をつけてもいいですが、少ししょっぱくなりますね。僕は何もつけずに食べるのが好きです。昆布の風味が刺身に移って、刺身の水分が減って濃縮され、とても美味しいですよ。昆布締めは鰹だと合わないのですが、エビや、今日は使いませんがイカなど、淡白な味の物が美味しいです。使い終わった昆布は、スープの出汁に使ってください」
「わかりました!」
「はい、では次でーす。エビを大き目の一口大に切って、3%塩水で洗うのは、どのエビ料理でも共通の下ごしらえですので、必ずやってくださーい」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! なぜエビは、普通のお水ではなく塩水で洗って処理するのでしょうか」
「はい、とても良い質問です、ジョーン。まず、エビなどの水産物には臭みがあります。塩水で洗うと、その臭みが取れるのです。そして、なぜ水ではなく塩水なのかと言うと、水で洗うと身の中に水が入り込んでしまい、身がグズグズになってしまいます。そして、うまみも水へ逃げてしまいます。ですが塩水の場合は、逆に身が引き締まり、うまみも逃げず、臭みだけが取れるのです。そして身が引き締まる事により、歯ごたえも増して、より美味しくなるのです。これは、他の水産物でも同じですので、守ってください」
「はい! かしこまりました!」
「さて、続けまーす。処理した大き目の一口大エビに薄力粉をまぶし、水分少な目の天ぷら衣で天ぷらにしまーす。中華鍋に、水とチリソースとタマネギみじん切り、蜂蜜と醤油を少々いれて混ぜまーす。火を点けて沸騰させ、水溶き片栗粉でとろみをつけたら、そこへ揚げたエビの天ぷらを入れまーす。良く混ざったら、仕上げに、新調味料のごま油を少しだけ回しかけて、エビチリの、完成です! 今日は使っていませんが、この調理法は、エビの代わりに鶏のから揚げでも、イカでもカニでも作れまーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! このごま油は初めての油ですが、なぜ炒める時には入れなかったのでしょうか」
「大変に良い質問です、ジョーン。ごま油はもちろん炒める時にも使いますが、このエビチリの場合、エビは既に油で揚げていますから、さらに炒め油をいれると油が多すぎるのです。そして、最後に入れたごま油は、調理手段としての油ではなく、味と風味をプラスするための調味料として入れたのです。ごま油は最初に入れてしまうと、香りが飛んでしまいますので、最後にプラスするのです」
「わかりました!」
「では、先ほど揚げたエビの天ぷらの残りを使いまーす。ボウルにマヨネーズと蜂蜜と砂糖にケチャップもほんの少し入れて、良く混ぜまーす。そこへ、エビの天ぷらを入れてよく絡めたら、エビマヨの、完成です!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! マヨネーズに蜂蜜と砂糖を入れると、とても甘くなってしまうのではないでしょうか」
「いい質問です、ジョーン。このエビマヨは、甘い方が美味しいのです。甘くしないと、ただのマヨネーズ和えになってしまいます。それでも充分に美味しいのですが、エビマヨという料理ではありません。これは、甘いマヨネーズとエビを食べる料理、と覚えてください。そして、このエビマヨ用の甘いマヨネーズは、後日紹介予定の練りごまと醤油を混ぜると、ゴママヨとかマヨディップというものになります。このマヨディップは野菜に付けて食べるととても美味しいですよ」
「はい、ありがとうございました!」
「はい、では続いて、小さく切って下処理したエビと、タマネギみじん切りとニンニクみじん切りと、バターにコンソメに味醂に塩も使い、ご飯を炊きまーす。ご飯が炊けたら、茹でトウモロコシの実を混ぜ、皿に盛って乾燥春菊のみじん切りをあしらったら、エビピラフの、完成です! これは、昔に作ったピラフのベーコンをエビに変えたものです。エビの出汁でご飯を炊くので、とっても風味があって美味しいですよ!」
「さ、次は、小さめ一口大に切って下処理したエビと、スライスタマネギをバターで炒め、塩で下味をつけまーす。それをグラタン皿に入れてホワイトソースとチーズをかけて焼いたら、エビグラタンの、完成です! そして、同じく下処理したエビをグラタン皿に並べ、上にマヨネーズをたっぷり絞り、山椒の粉を少し振りかけてオーブンでこんがり焼いたら、エビのマヨ焼の、完成です!」
「ささ、次は、下処理したエビと、タマネギに塩と味醂、卵白を加えて石臼魔法で滑らかにペーストにしまーす。生地が緩いと思うので、そこへ生地がまとまる程度に片栗粉を入れて混ぜ、ハンバーグの種のようにしまーす。そして、それをハンバーグ形に成形して油を敷いたフライパンで焼いたら、エビバーグの、完成です! 焼かずにこのエビバーグにパン粉をつけて揚げたら、エビカツの、完成です! このエビバーグもエビカツも、パンに挟んで食べると美味しいですよ!」
「さささ、エビカツが出ましたので、次はエビ料理の本命でーす。エビは小さくなり過ぎないように太い棒状に切り分けて下処理しまーす。それに薄力粉と溶き卵とパン粉をつけて、油で揚げまーす。こんがり揚がったら、エビフライの、完成です! これは、エビカツよりもダイレクトにエビを味わい、また、プリプリとした食感が、とても美味しいでーす。ソースをつけても、醤油をつけても、タルタルソースをつけても美味しいでーす。今日は使いませんが、新食材のレモンを絞ってかけて食べるのが、とってもおすすめでーす」
「そして、エビフライを作る際には、多めに揚げて置いて冷蔵庫で保存してくださーい。二日後くらいに保存して置いたエビフライを、カツ丼と同じように丼物にしまーす。このエビカツ丼はカツ丼とはまた違って、とても美味しい残り物料理ができますよ! さらにエビは、フライだけでは無くて、先ほどからも使っているように、天ぷらにも非常におすすめでーす。野菜の天ぷらに、エビ、イカ、カニなども天ぷらにすると、天ぷらが一気にごちそうになりまーす。なんなら、エビだけで天丼にしたりもしますよ!」
「はい、次は、下処理したエビをみじん切りにしまーす。そうしたら、これに火を通した後、干物魔法をかけてカラカラに乾燥させまーす。はい、干しエビの、完成です! これは、水で戻してスープの具にしたり、ご飯を炊くときに一緒に入れたり、そのまま食べておやつにしたりできまーす。そしてエビは、好きな大きさに切って塩ゆでするだけでも美味しいでーす。サラダに入れても良し、醤油をかけて食べても良し、散らし寿司に散らしても良し、オムレツに入れても良し、茶わん蒸しに入れても良し、味噌と混ぜてご飯に乗せて食べても良し、塩と山椒粉とマヨネーズで和えてサンドイッチの具にしても良いでーす。とってもとっても万能に使えるのが、エビなのでーす」
「すごいのね、エビって。聞いているだけでも、何にでも使えそうだわ」
「うん、母上。良質な低脂肪のタンパク質でもあるからね、美容にもいいし」
「な、なんですって! じゃあ毎日」
「はいはい、食べ過ぎないようにね。それと、あと一つ、エビの料理を紹介しまーす」
「ミチイル様! よろしくお願いします!」
「はい。では、先ほどからエビの殻を剥いているかと思いますが、その殻をキレイに洗って、たっぷりの水と共に圧力鍋魔法をしまーす。すると、エビの出汁がとれまーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! それは、家畜の骨と同じ使い方でスープが取れるという事でしょうか」
「はい、その通りです。エビの殻からは、とても良い出汁が取れるのです。ですが、先ほども言ったように、油は殆どありませんので、あっさりとした上品で香り高い出汁が取れます。塩で味付けするのが合いますが、醤油でも味噌でも味をつける事ができ、それぞれ大変に美味しいです。このエビの出汁も、濃縮してスープの素に加工ができると思います。エビの殻は捨てないで出汁をとってください。そして出汁を取った後の殻は、もちろんコンポストして細かくして、家畜の飼料に混ぜてください。家畜の良質なカルシウム源となります」
「はい! 徹底します!」
「以上で、エビ料理のレシピ講座は終了です。次回はイカとカニの講座を開きたいと思いまーす」
「ありがとうございました!」
「ミチイル、早くご飯にしましょうよ」
「楽しみです!」