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1-18 北へ

「坊ちゃん、お元気じゃったかの? わしはこのとおり元気じゃ! 元気は元気なんじゃがの……」


「じゃがの……? 何かあったの?」


「何もありゃせんのじゃが……その何もありゃせんのが、の……わし、もっと魔法が使いたいんじゃ!」


「流しそうめん、たくさん使って、南の村まで水を延ばしてくれたんでしょ?」


「そうじゃ! 皆、喜んどった。そんで、わし、もっと作れないかと思うて海に行っての、塩つくる時の海水を持ってくるのに使えんじゃろうかと思うての、そんで、海からナガシソウメンしたんじゃ!」


「そっか、海水をいちいち汲んで塩を作っているんだもんね。それもかなり助かったんじゃないの?」


「そうじゃ! じゃがの、そのあとにすることが無うなっての……」


「あぁ、そういうことなのね」


「ドンのやつはの、今じゃ鋳造所に入り浸っておって、魔法を使いたい放題じゃ。何でも、公都の家だとあまり魔法が使えんらしいの。目の前に、使う魔法の材料が無いと魔法が使えんと言うておった。わし、ナガシソウメンしか使えんし、その魔法の材料が石じゃとするとの……」


「そうだよね、ここで魔法使ったら、もしかしたら誰かの家が無くなるかも知れないよね~」


「そこでじゃ! 石がたくさんあれば、他の魔法も使えるかも知れんじゃろ? じゃから! 坊ちゃん、わしと北の石切り場へ行かんかの?」


「うん! 僕、まだ公都より北には行ったことがないし、行ってみたい~」


「カッカッカ! 決まりじゃの! わし、大公に話をしてくるからの、坊ちゃん、ちいと待っとってくれんかの!」


「わかった~」




***




「アイちゃん」


『はい、救い主様』


「魔法を使うには、材料が必要なの?」


『救い主様が使う魔法は万能ですので、たとえ目の前に材料がなくとも、この星に材料が存在していれば、救い主様なら問題ありません。スキルの場合など条件がある事もありますが、基本的にどんな魔法でも発動します』


「そ、そうだったんだ……」


『ですが、救い主様以外の場合は、メインの材料が必要です。サブの材料は女神の権能(ごつごうしゅぎ)で必要ありません。そして、理論的には救い主様と同じ程度の大きさの魔力器官と権限を持っていれば、目の前に材料が無くとも魔法が発動するのでしょうが、現実としては、救い主様と同じ大きさの魔力器官と権限を他の人間が持つことはできませんので、事実上不可能です』


「なんか難しいけど、要するに、僕以外の場合、魔法を使うには対応する材料が必要なんだね?」


『左様でございます』


「わかったよ。ありがとう」




***




「坊ちゃ~ん! 許可もばっちりじゃ! 早よう!」


「はいはい」




***




「トム爺、その北の石切り場までは、どのくらいかかるの~?」


「そうじゃな、10kmくらい離れとるから、走ったら20分くらいじゃ。今くらいの速さだと倍近くかかるの!」


「へぇ~ それでも速いね~ さすがトム爺」


「カッカッカ! わしにかかれば朝飯前じゃ!」


「ふーん……公都から離れていくと、草?と岩ばかりになるんだね。南のブッシュ地帯より草も短い感じだし、やっぱり寒い?」


「じゃな。こんあたりは公都より少し寒いの。それでも、北極の魔力山とは比べもんにならんの……あそこは万年雪で真っ白じゃし、なにより、魔力が濃すぎる言うんじゃったかの、近寄れん……調子悪うなるでの。アタシーノ川も、北に行けば行くほど冷とおて、とても中にも入れんしの!」


「そういえば、魔獣って、どの辺りにいるの?」


「そうじゃの~ 石切り場よりは北じゃの! 金属石がゴロゴロしとる場所あたりじゃな。公都から30kmくらいかの」


「へ~ 豚、なんでしょ?」


「鶏もおるの~ じゃが、鶏はすばしっこくて捕まらんのじゃ! 向こうから襲ってくれば別じゃが」


「トム爺は、魔獣を倒せるんでしょ? 大公屋敷で食べてる魔獣の塩漬けは、北で働いている人たちが狩ってるって聞いたけど」


「カッカッカ! 若い頃よりは落ちたがの、まだまだ狩の腕もまんざらでもないの!」


「……なんか、辺りの岩が大きくなってきたね~ 岩っていうより、岩山? もう小山みたい」


「さ、ここら辺りじゃ。働いてるもんがおるでの、外れの方にでも行こうかの!」




***




「こんな岩山の石を切り出してるんだね~ どうやって切るの?」


「切るう言うよりも、割るって感じじゃな! 鉄ノミで小穴を開けたあとに鉄の楔を入れて、上から硬い石で打ち付けるんじゃ!」


「あ~ どこでもそんな感じなんだね。でも割るの、結構時間がかかるんじゃない?」


「そうでもないぞい。ほれ、あそこに四角い石が転がっているじゃろ? あれくらいに割って、いくつかまとめて南の村まで運ぶんじゃが、あのくらいなら、30分くらいで割れるの!」


「えー? ブロックみたいに綺麗な四角だよ?……でも僕、石を割ったこととかないから、速いのか遅いのかもわかんない~ でも、あのでかい漬物石サイズの岩を一回でいくつも運べるなんてすご」




***




――ピロン 漬物石魔法が使えるようになりました。石を使って任意の形、任意の大きさの漬物石を作り任意のところへ設置できます




***




「…………い………」


「坊ちゃん、どうしたんじゃ?」


「……うん、ちょっと降ろしてもらってもいい?」




***




「 『漬物石』 」ピカッ




***




「おおお! なんじゃこりゃ! 四角くてツルツル平べったい石が、数えきれんほど現れよった! もしかせんとも、坊ちゃんの魔法じゃな? この魔法を……わしに……わしに授けてくれるんじゃな! そうか、坊ちゃんが、わしのために! ()()()()()()!!」


「……う、うん、トム爺に喜んでもらえて、僕もよかったよ……」


「して、坊ちゃん、この石は何に使うんかの? 家に使うにはちぃと薄い気がするんじゃが……」


「うん、それはね」


『漬物石』 ピカッ


「おおおっ! 石畳の道ができておる! カッカッカ! そうじゃ、これで道が作れるんじゃな!」


「うん、こんな風に石畳で舗装道路をね、あちこちに作ったら、もっと移動が早く楽になるでしょ? いいんじゃないかと思いついてね…………さっきだけど」


「で! で! 坊ちゃん、呪文をもう一回わしに教えてもらえんかの?」


「うん。いうよ。……漬物石」


「ふんす『ツケモノーイーシー』……何も起こらんの」


「漬物石、だよ」


「んんん『ツケモノイーシー』……」


「漬物石」


「ふんす『ツケモノイーシ』……やっぱり呪文は難解じゃの……」


「トム爺なら大丈夫。もうほとんど合ってるよ! もう一回ね。漬物石」


「ふんす、くッ!『ツケモノイシ』!」 ピカッ


「やった、できたね、トム爺!」


「ほんまじゃ! わし! わし! わし再び! 坊ちゃんがわしのために授けてくれた魔法を!」


「ハハ……50cm角くらいのざらっとした石畳が縦横2枚分の1平方メートルくらい、石の舗装道路になってるね、トム爺。継ぎ目もきれいに処理されてる!」


「うおーし! これを公都まで続けていけば、石切り場と道路でつながるんじゃな! わし、絶対にわし、やるんじゃから!」


「うん、よろしくね。道路ができると移動の時間が減るからね、かかる時間が減ると、他のことに時間が使えるようになって、国が発展していくから」


「おおおお! わしの魔法に、この国の発展がかかっておるんじゃな! こうしちゃおれんわい、坊ちゃん、急いで大公屋敷まで戻るとしようかの! わし、そのあと引き返してきて、わしの魔法を使うんじゃ!」


「ハハハ、じゃ、お願い、トム爺」


「おしきた!」




***




――そして時は過ぎ、ミチイルは、4歳になる




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