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3-12 離宮初の

「このイモダンゴは、とても良いお味ね、ジョーン」


「はい! 小さく作ったイモダンゴを柔らかく茹でて、カナンに来る前にミチイル様に教わった、ずんだあんをかけました!」


「この緑色のが、それなのかしら」


「はい! 大豆を、茶色くなる前の若いうちに収穫すると、こんなにキレイな緑色の豆なのです。この豆の薄皮を抽出してから、残った豆と砂糖を石臼魔法でペーストにしました!」


「誠に、大変あざやかな緑色でございますね」


「ほんとうに。とても上品よ、ジョーン」


「はい!」


「それにしてもマリア様、この離宮はなんと素晴らしい建物でございましょう」


「ええ、カンナ。とってもステキで、わたしも大満足しているの」


「それにマリア様、このサロンもステキです! この、あちこち丸くて白くてエレガントな家具が、とっても高貴です!」


「うふふ そうなのよ。この丸い意匠は猫足と言って、世界初なのですって。わたしのお部屋も、全てこのシリーズの家具で揃えてくれたの」


「まあ! それはさぞ、夢のようなお部屋でございましょうね」


「ほんとうです!」


「ええ。それにね、わたしのお部屋の家具は、彫刻、というのがしてあるのよ。ユリというお花がね、家具から浮き出ているような感じで、とてもステキなの。姫家具と言うのですって」


「姫……家具……それはとても高貴な響きがします!」


「誠に。マリア様に相応しゅうございますね」


「うふふ、ありがとう。今、工業地帯の職人たちに研究をさせているわ。ミチイルが見本の家具を渡して、魔法も教えたのだけれど、割と難しいらしいのよ。そのうち猫足とかは出来てくるとは思うけれど、でも白い家具は、この離宮専用にすると言っていたわ」


「それは当然です! ミチイル様とマリア様は、この神聖カナン王国でも特別な存在ですので!」


「誠にございます。下々が離宮に足を踏み入れる事はございませんが、この白い家具を拝見致しましたら、皆、平伏す事と存じます」


「ほんとうです! とっても神々しい雰囲気ですから!」


「そうね、そういうつもりは無いのだけれど、確かに神々しさすら感じるわね、この姫家具は」


「それに、玄関ホール前の、ガラス張りのお部屋がステキです!」


「誠ですね、光にあふれた素晴らしい空間でございます」


「ええ、サンルームと言うらしいの。あそこでお茶会もできるし、煙が出るような食事もね、サンルームですると言っていたわね」


「それは、とても合理的です! お部屋の中で焼き肉を焼くと、後の掃除が大変な事になってしまいます!」


「ええ、魚の煙も臭いがあるものね」


「それでマリア様、この離宮に使用人を配置せずとも、本当に宜しいのでございましょうか」


「ええ、カンナ。クーちゃんたちがいるもの。本当に必要ないのよ」


「ですが、特別に高貴なお方がお住まいになっておいででございますのに、神聖カナン王国民の誰もお世話をしないと言うのも、少々心もとない気が致します」


「大丈夫よ、カンナ。わたしたち、本当に何不自由なく暮らしているもの。ここは街からも離れていて静かでいいわ」


「ほんとうですね! 森の木々に隠されて、とても神秘的な感じがします!」


「……そうでございますね、神秘的な聖所に救い主様と聖母様、そして御使い様と眷属様……確かに普通の民が働く場所ではございませんでした」


「そんな大げさな話でも無いのよ。気楽に過ごしたいだけですもの。それより、このお漬物を食べてみてちょうだい」


「さっきから気になってました!」


「これは、お漬物だったのでございますね」


「ええ。このピックで一粒刺して、どうぞ、召し上がれ」


「では! ……んー、とても甘酸っぱいですが、爽やかで美味しいです!」


「誠に。お番茶が大変に相性が良うございます」


「ええ。これはね、エデンの園の神24シリーズの実なのよ」


「桃でございますね」


「桃はとても美味しいですが、お漬物にもなるだなんて!」


「ほんとうよね。大きくなったら赤子のお尻のようになるけれど、とても小さいうちに実をお漬物に加工するらしいわよ」


「小さい実も使えるなんて、さすがは神24シリーズですね!」


「誠でございます。それに、神24シリーズの美容品を使用致しまして以来、以前にも増してお肌の調子が……まこと得も言われぬ祝福がございます」


「そうなのよ。リンゴの化粧水も良かったけれど、神24シリーズには敵わないわね。お茶にもできるし、お風呂にも入れられるし、フルーツは食べても美味しいし、何よりティンクチャ―! 種も葉も、全部素晴らしいもの」


「ほんとうです! お花のエッセンスも、とても良い香りですし!」


「誠でございます。花の香りの神24石鹸も、大変に素晴らしい使い心地でございます」


「ええ。それでね、このお漬物……梅干しと言うのだけれど、これを食べると、若返るらしいわ」


「誠でございますか! ……これは失礼を致しました」


「いいのよ、カンナ。わたしも驚いたもの。今でも色々美容品があるけれど、まさかお漬物で若返るなんて、誰にも考え付かないものね」


「ほんとうです! それに、お漬物なのに甘くて美味しいです!」


「ええ。これは蜂蜜梅というものなの。梅干しに蜂蜜をかけて置いたものらしいわ。蜂蜜梅ではない梅干しは、様々なお料理に使えるのよ。この前、ミチイルが梅尽くしという和食を作ってくれたのだけれど、どれもさっぱりとして、体の中からキレイになる感じだったのよ」


「それは! とてもうらやましいです!」


「誠に。その梅尽くしは、レシピ公開されるのでございましょうか」


「特に秘密でも無いから、何も問題は無いとは思うけれど、カナンに来てからキッチンスタジアムもやっていないものね」


「そうです……離宮も遠くなりましたし」


「誠でございますね、少々寂しくございますね」


「そうね。でも、ジョーンもカンナも、いくらでも来てちょうだい! 仕事は忙しいだろうけれど」


「この婆も、そろそろ引退を考えて居りますので、その後は是非に、足繫くこちらへ参りたいと存じます」


「あら、そうなの? カンナ」


「はい。国も新しくなりましたし、息子の代になりまして時も随分過ぎましてございますので。セバス家も今や宰相侯爵家、後の事は若い者に任せとうございます」


「それもそうね。ジェームズはどうするのかしら」


「はい。ご老公様に侍り続けると存じます」


「そうね、お父様を適当に動かしてくれる人が必要よ。ジェームズはもちろん、カンナにも悪いけれど」


「とんでもない事にございます。夫がお役に立てて、光栄でございます」


「ありがとう、カンナ。じゃ、遠慮なく離宮に来てちょうだい!」


「うらやましいです……」


「ジョーン、貴女も今や侯爵夫人。後進を育てては居ないのですか? いつまでも貴女が中心では、国の行く末も困りますよ」


「はい、お義母様。今でも料飲部のリーダーとなる人材は多くいますので、わたしも一線から退きたいと思います!」


「あらあら、二人とも、大丈夫なのかしら」


「服飾部は何も問題ございません」


「料飲部もです!」


「そう。今までずっと中心となって忙しくして来たのだもの、もう自分のやりたいようにしたら良いわ。誰も文句は言わないでしょう」


「ありがとう存じます、マリア様」


「ありがとうございます! わたしも、足繁く、こちらに参ります!」


「これ、ジョーン」


「うふふ。じゃ、これからも楽しく貴女会しましょう」


「恐れ入ります。……それで、マリア様、本日のマリア様のお召し物が……」


「あらカンナ、気づいちゃった? うふふ、これはね、アラクネ絹と言って、クーちゃんだけが作れる布地なのですって。とても薄くて艶やかでしなやかで軽くて、肌触りもいいのよ」


「ほんとうに! ドレスが光り輝いています!」


「誠に! 少々失礼して、ドレスの端に触れても構いませんでしょうか、マリア様」


「ええ、もちろんよ。いくらでも触ってちょうだい」


「では、失礼致します……まあ! なんと! これは正しく神の布でございます!」


「ほんとうです! 触ったことがない感じの布です!」


「うふふ。でも、あまり量が無いの。なにせ、クーちゃんしか作れないんですもの。でも、この布より少しだけ汎用品の布があるの。それは、クーちゃんの眷属たちが虫?を育てて糸を取っているのですって。だから、その絹なら、貴族用の服に使えるくらいは用意できるらしいわ」


「まあ! それは大変な朗報でございます!」


「ほんとうです! わたしも一線を退いたら、そのステキな布の服を着たいです!」


「ええ、そうしましょうね!」




***




「ところでマリア様! 日めくりカレンダーが、昨日のままです!」


「あら、いけないわ。ジョーンは色々な所に気がつくのね。離宮のカレンダーをめくるのはわたしの仕事なのよ。さ、ビリッとな」


「マリア様、その、ビリッとな、は、もしや」


「ええ、カンナ、神への掛け声よ。あら、聞いてなかったのかしら?」


「わたしは知りませんでした!」


「私もでございます」


「あら、それは大変よ! すぐお兄様に知らせなくっちゃ!」


「マリア様! わたしから夫に伝えておきますので、大丈夫です!」


「あらジョーン、そう? そうね、セバスは宰相ですものね、ではお願いね」


「かしこまりました!」


「危うく国中で神への礼儀を失するところでございましたね、マリア様」


「ほんとうよ。女神様のお導きで国が新しくなったというのに、大変な失態をあちこちで起こすところだったわ……」


「でも、まだ始まったばかりですから、大丈夫ですよ、きっと!」


「左様でございます、マリア様。女神様に誠心誠意、お祈りを捧げてお詫び致しましょう」


「そうね、そうしましょう。やっぱり貴女会も、もっと頻繁にしないとダメね。国の根幹に関わるもの」


「誠でございます、マリア様」


「ほんとうです! できればミチイル様にレシピも教わりたいです!」


「そうね、後で皆でお料理しましょう! 二人とも、今日は夕食もここで食べて行くでしょう?」


「もちろんです!」


「憚りながら、私もご相伴に与りとう存じます」


「じゃ、決まりね! うふふ、皆で食事をするのなんて、久しぶりね」


「誠でございますね、マリア様。ここ一年ほどは、目まぐるしく世界が変化致しましたから」


「ほんとうです……まさか、大陸を出る事になるなんて、思ってもみませんでした」


「そうね。でも、このカナンはとても恵まれた所ですもの。わたしは良かったと思っているわ」


「誠でございますね、マリア様。この婆も、よもやこのような神の国にも等しき所で余生を送るなど、身に余る光栄に存じて居ります」


「ほんとうですね! どんどん新しい食べ物も増えていきそうですし!」


「ええ。この梅干しも、そうですものね。まあ、これはエデンの園の実だけれど、カナンに来なければ梅干しも生まれて居なかったに違いないわ!」


「誠でございますね、マリア様。若返りの実など、そうそうある物ではございません」


「ほんとうです! 作り方をお教えいただきたいです!」


「早速今日、教えてもらいましょう。でも、この梅干しは、一日にひとつしか食べてはいけないって、救い主の厳命が下ったのよ」


「ガーン! 毎日たくさん食べようと思っていました……」


「そうよね、ジョーン。でもね、この梅干しは料理にする場合に限り、特別にカウント外にしてもらえるそうよ」


「まあマリア様、そう致しますと、若返りの実は毎日一つだけしか頂けなくとも、お料理であれば……」


「思う存分たくさん食べられますね!」


「ええ、そうなのよ!」


「大変な祝福でございますね、マリア様。一日に一つと神が定めた霊薬を、お料理ならばいくらでもとは」


「ほんとうです! さすがミチイル様です!」


「うふふ。じゃ、今日はミチイルに、梅干しの作り方と梅尽くしを教えてもらって、夕食にしましょう!」




***




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