3-8 次は離宮
結局さ、新首都もほとんど僕が作っちゃったよね。
もともと3万人くらいしか人口は居ないしさ、今までは4人家族がメインだったけど、今じゃ子供が増えてさ、5人家族とかも普通になって来ているからさ、職人たちは平民用公営住宅を建設はするんだけどさ、現状でも多くの民が引っ越ししちゃえるみたい。
それで、続々と引っ越しが始まってるんだって。そんなにかからずに新首都移転も終わっちゃいそう……
はあ、せっかく後の時代の事までカッコよく考えたってのにさ~
ま、いいか。一日でも早く、神聖カナン王国が発展して欲しいからね。
それで、次は離宮だ!
そう、僕と母上の屋敷。
どうしようかな~
やっぱり森の中かな。首都ともそんなに離れてないしね、コーチなら10分とかそんくらい。湖のそばも心惹かれるけど、結局さ、湖も植物もまだ確認してないもんね……
ま、森の中に、離宮を建てよう!
王宮も立派にしたしね、もう忖度も要らないと思うから、やりたいように建てちゃえ。
森林地帯は南北5kmで東西は10km分くらいにしたからね、そのうちの南側南北3kmが桐の森。竹は北側2kmのうち、南北1km東西10kmの10平方キロメートルね。その桐の森の真ん中あたりに、東側に小さめ道路を1km延ばして、辺りの桐を切り開き、1ヘクタール分の土地を造成。ここを離宮にしようと思う。森に囲まれているしね、南北大街道からも、もちろん全く見えないし、とってもとっても引きこもりに便利じゃない?
『はい、救い主様。大変に落ち着いた地域であると愚考致します』
「ああ、アイちゃん、そうだよね~ マーちゃんもクーちゃんも眷属たちも居るしね、下手に市街地なんかを通り抜けるよりもさ、この森の方がいいよね~ 少しだけ眷属のねぐらにも近いしさ!」
「すくいぬし様! ありがとうございます! でもけんぞくたちのことは、気になさらないでくださーい!」
「そうでございザマス。眷属どもの事は、どうぞお構いなくお願い致しザマス」
「うん、ありがとう、二人とも。クーちゃんがメイドもしてくれるからね、平民の使用人の通勤とかも考えなくてもいいしさ、コーチも、せいぜい母上の分だけ常駐してもらえばいいしね、僕はマーちゃんに運んでもらえるもん。こんな森の中でもさ、別に困らないと思うんだ~」
『どうぞ、救い主様の、御心のままに』
「はーい。さてさて、どうしようかな~ 母上は僕に全部お任せって言うし~ あ、マーちゃんもクーちゃんも、眷属たちの部屋は要らないの? 少しでもあった方が便利じゃないの?」
「はい! すくいぬし様! みずと、おおきなへやがあったら、けんぞくをすうひき、たいきさせられまーす! そうしたら、すくいぬし様のコーチをひっぱることもできまーす」
「え? ええ? ミツバチなのに、コーチも引っ張れるの??」
「はい! もんだいありません! けんぞくが2ひきくらいで、ひっぱれまーす。ながいヒモをつけてもらえれば、もんだいありませーん! まえにもすすめますし、とまるときはうしろにひっぱれば、ちゃんととまれまーす!」
「おお! じゃあ、母上用にも僕用にも、牛も御者も置いておく必要もないじゃん! ほんとに? ほんとにお願いしてもいいの?」
『救い主様、天使と眷属は、救い主様のために存在しているのです。何も迷う必要など、ございません。救い主様は、ただ命令をしていただければ良いのでございます』
「そうでーす!」
「じゃ、申し訳ないけどさ、お願いしちゃおうかな~ あ、それとさ、各区に作った健康ランドに区役所があるんだけど、そこにも平民用の魔石を運んでくれる? 空になったガラス石は工業地帯へ運んでもらえばいいから」
「はい! がんばります!」
「お願いね。じゃ、マーちゃんの部屋のほかに、ミツバチくん達の部屋も作ろう! それで、クーちゃんはどうする?」
「はいザマス! もし、眷属の部屋をいただけるでございザマスなら、糸や布やドレスも、いつでもご用意できますのでございザマス!」
「ああ、それは母上が喜びそうだけど、いい?」
「勿論でございザマス! 誠心誠意、粉骨砕身、努力をさせるでございザマス!」
「ありがとう、二人とも、そしてアイちゃんも。じゃあ、大きめの離宮にしちゃおう! どうせ、そんなに人目にも触れないしね~」
「たのしみでーす!」
「じゃあさ、僕ね、前から憧れがあったんだけどさ、ロの字型の離宮にしちゃおうかな~ 中庭が、完全に中庭になるの。そうすればさ、眷属たちも、一切人目を気にせずに、中庭でくつろいだりできると思うんだ! 一石二鳥じゃないかな~」
「ステキザマス!」
「うん。じゃあ、平屋でロの字型で、正面に玄関と車寄せ、中庭に面した側は一周ぐるっと窓付き廊下で、もちろんガラス窓ね。中庭との出入口も廊下に設置して、うん、とっても明るくていい感じ! ま、まだイメージだけど。ささ、どんどんイメージを膨らませて行こう!」
***
という事で、僕と母上の離宮は完成した。
まず、建物の西向きに南北大街道から1km東に延ばした道路が相対する感じで、建物の中央に、屋根付きの車寄せと玄関を設置。玄関は、王宮よりは小ぶりだけど、両開きのダークブラウンのドア。もちろん、壁とか床は白い大理石風で、屋根は排水のためにほんの少しだけ傾斜をつけた陸屋根。竹材の屋根下地に銅板瓦葺きね。これは、三角屋根じゃないだけで、王宮と一緒。そして、玄関を入れば玄関ホール。正面は中庭へ降りるテラス付きの、ガラスをふんだんに使用した出入り口。右へ進めば、応接室と客室二部屋とサニタリー。そこから北に折れて、僕の研究室と僕の寝室に露天風呂。離宮の屋根は陸屋根にしたからね、一部分だけ屋根が無くても目立たないよ。そして露天風呂の北には、マーちゃんの部屋、そこから西へ折れてミツバチ眷属の部屋、アラクネ眷属の部屋、そして西端にはクーちゃんの部屋ね。天使たちと眷属たちは北棟全部。眷属の部屋はとっても広めにしたの。それぞれ100匹くらい居るらしいからね、全員が一度には揃わないだろうけど、かなり大きな部屋にしたよ。天使たちの部屋は東西の角部屋ね。
そして、北棟の一番西にあるクーちゃんの部屋からは南に折れて、母上のアトリエに、ミニサニタリー付きの母上の寝室、そして、最先端の広めのキッチン、もちろんパントリー付き。キッチンも西南角部屋になるね。そして、キッチンからは東に折れて、ダイニングとリビングと、大きいサロン、そして玄関ホールに戻る感じ。
中庭に下りる出入口は、ぐるりと一周している廊下の東西南北それぞれ四か所につけた。玄関ホール正面の屋根付きテラス部分はね、あたり一面にガラスをふんだんに使って、テラス部分をサンルームにしたよ。ま、南側では無いから直射日光は当たらないけど、とっても明るい空間だし、ここでお茶もできるね。中庭には、眷属たちが使う飲料水用の井戸噴水に、もちろん東屋も設置。そして、中庭の真ん中には、お慈悲リンゴを植えた。なんかさ、屋敷の裏側にリンゴが無いとね、落ち着かなくなっちゃったんだよね。
このお慈悲リンゴは、もちろん建物よりも背が高いから、遠くから見たら建物から生えているように見えるかもね。でも、このリンゴの木のおかげで、サンルームから北棟の建物はあまり見えないからさ、いずれにしても、ちょうどいいと思うんだ。
これで、ロの字型で、全ての窓にはガラス窓がついてて、どの方角から見ても白くて四角い平屋の建物ができたよ。王宮と同じような見た目だし、誰が見ても離宮だね。
さ、別邸に行って、全ての荷物をアイテムボックスに収納して、母上と引っ越し~
***
「母上~ 離宮が出来たからさ、引っ越ししよう!」
「あら、相変わらず速いわね! 別邸の荷物は全部、ミチイルが収納するのでしょう?」
「もちろん」
「じゃ、直ぐに引っ越しができるわね! お願いね」
「はーい」
「それとさ、母上のコーチだけどね、マーちゃんの眷属が牽いてくれるんだってさ! だから、牛も御者も要らないの。それでいい?」
「あら、もちろんよ。平民を使わなくても良いなら、助かるわね。眷属くんたちには申し訳無いけれど」
「うん。でも、やってくれるっていうからさ、お願いしちゃった。平民を配置してもらうのもね、気がひけるからね」
「そうね。じゃ、わたしは邪魔になるといけないから、コーチで待っているわ。牛と御者には、戻っていいって伝えとくわね」
「うん」
***
「お待たせ~」
「お疲れ様ね。この別邸も、カナンでの使用日数はわずかだったわねえ」
「うん。もう別邸も片づけてもいい?」
「もちろん、いいわよ。やっちゃってちょうだい!」
「ハハ 何年くらい住んだかなあ」
「ミチイルが9歳の時だったかしら」
「じゃあ、何だかんだ言って9年くらいは住んだんだね。ま、収納しちゃうからね! はい、ピッカリンコ!」
「うふふ 離宮はどんなところかしらね!」
「うん、ここから15kmくらいあるよ。ミツバチくんが牽いても30分くらいかかるかも」
「そうなのね。じゃ、ミツバチくんたち、お願いね!」
「わかりました! では、けんぞくたち、コーチをよろしく」
***
「ここが桐の森なのね?」
「うん。首都から少し離れているけど、首都の北隣のエリアではあるね。この森の真ん中あたり、あ、そこから、小道を東に少し入って行くの」
「まあ! ここから小道に入るの……ほんとうに街道からも離れているのね! なにか神秘的な感じがして、とってもいいわ! ステキよ!」
「でしょ~ 僕も気に入ってるんだ! あ、そろそろ見えて来るかも」
「うふふ ワクワクするわね! あら! あらあら! まあ! 木に囲まれた、なんてステキな屋敷なのかしら! 白くてシンプルな形で、それに向こう側にはリンゴの木ね! とっても大きなリンゴの木!」
「うん。なんかリンゴの木が欲しくなっちゃってね、植えたんだ」
「それに、とってもステキな玄関ね!」
「車寄せって言うんだよ。屋根もついているし、コーチから降りたらすぐに玄関だからね、濡れないし」
「そうね。昼でも雨が降るかも知れないんですものね。王宮と同じ感じで、とってもステキ!」
「うん。あ、ミツバチくん、ありがと。コーチはこのままでいいよ。敷地の入り口に車庫と御者の小屋があるけどさ、あんまり使わないと思うから。来客もあんまり無いしね、コーチは車寄せに置きっぱなしでもいいから」
「かしこまりました! すくいぬし様!」
「ああ、マーちゃんが差配してくれるんだもんね、ありがと」
「ねえねえ、早く入りましょう」
「うん、さあ、新しい離宮へどうぞ~」
「んまあ! とっても広くて明るい玄関ホールね。それに、ガラス張りのお部屋があるわ!」
「うん、テラス兼サンルームって言うんだよ。ここでお茶とか飲めるね」
「中庭が見えて、リンゴの木もサワサワ揺れていて……まあ!石のプールにお水が湧いているわ! 水の音って、とっても心が落ち着くわね」
「うん。じゃ、玄関ホール西のサロンから。ここがサロンだよ」
「まあ! とっても広いわね! それに、照明もキラキラしてステキよ! 貴女会をやりたい放題ね! サロンもサンルームもあるし!」
「照明は王宮の玄関ホールに付けた、シャンデリアの小さいやつ。壁のスイッチで使えるの。この離宮の照明は全部、壁のスイッチを使うタイプだからね。そして、こっちがリビングね。あんまり使わないかも知れないけど。そして、隣が小さいダイニング。過ごす場所はここがメインかもね……ここで家族がご飯を食べるしね。そして、隣がキッチンだよ」
「まあ! 広さは別邸の時と同じくらいだけれど、キッチンはすっきりしたデザインね。それに、設備も……別邸とは違うようだけれど」
「うん。システムキッチンにしたんだよ。シンクとか魔石コンロとかはいっしょだけど、レンジフードに魔石オーブンに、収納部分には扉もつけたからね、モノが見えないからすっきりでしょ。調理台も以前と同じ感じだしさ、パントリーも冷蔵庫も冷凍庫もあるし、七輪は設置しなかったけど、焼き肉とかはさ、サンルームでやろうと思うんだ。掃除が少しだけ大変かも知れないけど」
「それは、わたくしどもにお任せくださいザマス。メイドでございザマスので」
「ああ、ありがと、クーちゃん。よろしくね」
「さあさあ、次はなにかしら」
「うん、次は北方面に向かって、すぐは母上の部屋ね。小さいサニタリーもつけておいたから。そしてその次は母上のアトリエ」
「んまあ! 別邸よりも素晴らしい部屋ね! 落ち着いているし、わたし専用のサニタリーまで! これで心置きなく神の泉に好きなだけ入れるわね!」
「今までも、心置きなく入っていたでしょ……」
「さ、北側はなにかしら?」
「うん、北はね、クーちゃんの部屋がアトリエのすぐ北となりで、後は眷属たちの部屋が続いていてね、一番東端にはマーちゃんの部屋、そして露天風呂に僕の部屋と僕の研究室になるよ。ま、後は、玄関の横に応接室と、客室が一応二部屋だね。そしてみんなが使うサニタリーがある感じ」
「ほんとうに建物がぐるっと一周しているのね。中庭がどこからでも見えて、とっても明るいし、いい感じね!」
「うん。じゃあ、僕は家具とか荷物を設置するからね、母上はサンルームででもお茶でも飲んでいてよ」
「わかったわ。邪魔にならないようにしているわね!」