3-5 月
結局、使用人の手配は必要ないと言う事で、カンナには伝えて置いた。
僕たちは晩御飯を食べたけど、民はどうしたかな。ま、避難所にたくさん食料を出して置いたし、畑も収穫直前だからね、後は適当にしてもらおう。
マーちゃんもクーちゃんも、人間の食べ物を普通に食べるらしい。マーちゃんは僕たちと一緒に食事をしたけど、クーちゃんは自分の部屋で後で食べるんだって。ま、食事風景とか、後、服飾関係?の作業は見ちゃいけないって言ってたしね、プライベートは詮索しないようにしよう。
そして、眷属たちはネグラ?住処?まで帰るんだってさ。通勤?になるのかも知れないけど、マーちゃんの眷属の黒いミツバチも、クーちゃんの眷属の黒いドレスを着たアラクネもさ、僕たちには見分けがつかないからね、たぶん、シフトを組んで勤務するんだろうから、任せよう。
ま、勤務すると言っても、僕の離宮で勤務するのはクーちゃんたちだけだからね。マーちゃんは僕とずっと一緒に居るみたいだけど、マーちゃんの眷属は夜中に世界中の受粉をしないといけないからさ、畑とかもあるし、僕の別邸では必要はないから、マーちゃんの眷属は来なくていいって事にしたよ。どちらの眷属も、資源の石とかも運んでもらわないとならないしね。
「ねえ、ミチイル」
「ん? なあに? 母上」
「外にね、何か明かりが空に浮かんでいるのだけれど、あれは何かしら」
「ええ? ちょっと裏庭に出てみる」
「わたしも行くわ」
「お? おお? これって、月じゃないのさ。月なんて、今まで無かったのに」
「あら、あれが月というものなのね。初めて見たわ」
「うん、まあそうだろうね。とっても薄い三日月だけど……昨日の夜には何も無かった気がするんだけどさ」
「そうね。この島に来たばかりだったけれど、昨日はいつもと変わらない暗闇だったと思うのだけれど」
「そうだよね……なんで急に月がでたんだろう?」
***
『はい、救い主様』
『ああ、アイちゃんさ、あれって月だよね?』
『左様にございましょうね。どうやら、魔力山の残骸を利用して、あの女神が作ったようでございます』
『あ、魔力山、無くなったんだ。ま、大洪水とかも起きたんでしょ? 僕たちには全然わからなかったけど』
『左様でございます。この星が色々変化を致しました』
『あ、星の変化ね。じゃあ、月もその一部なんだろうね』
『左様であると思料致します』
『じゃあ、昨日は新月で、今日は三日月と言う事は、普通に月も満ち欠けしていくんだろうと思うけどさ、どのくらいの期間なの? 地球みたいに28日とか29日とか?』
『少々お待ちくださいませ……私めの計算によりますと、ちょうど30日でアタシーノ星の周りを公転するようでございます』
『ん? ということは、太陰暦とかさ、普通にできるよね』
『可能であると思料致します。救い主様が、この星の時間を一日24時間、週6日、一か月30日と設定なさいましたので、月も30日で一巡するようになったのではと愚考致します』
『あ、そうだった。それでさ、一年は360日で間違いない?』
『はい。厳密に言えば、大宇宙は外側に向かって広がっておりますので、少しずつズレが生じて行くものと思われますが、この星が寿命を迎える頃までは、それほど変化は無いものと思料致します』
『と言うことは、何百年も何千年も経ったら、いま見えている金銀銅の星とはずれちゃうかも?』
『はい。ですが、それほど影響は無いのではないかと愚考致します。救い主様がお決めになったら、それが星の記録となり概念が構築されますので』
『ああ、そっか。じゃ、月の満ち欠けで一か月にしよう。そうだ! 暦を作れるよね~ 色々変化したらしいけどさ、この星は季節は無いままなの?』
『はい。自転軸には変化はございませんので、季節が無いままでございます』
『じゃあ、昨日にカナン島へ上陸して新月だったと思うからね、昨日をカナン元年の元旦にしちゃおうか~ 季節も無いなら、正月も何も無いしね~』
『もともと正月はございませんので、一切何も問題はございません』
『ハハ じゃ、そうしよう! ありがと、アイちゃん』
『救い主様の、御心のままに』
***
「母上、色々わかったよ」
「あら、ご神託でもあったのかしら」
「うん、まあそんな感じ。でさ、あの月は女神様が作ったんだって。それでね、昨日は新月と言って、月が見えない日だったの。そして今日から少しずつ月が大きくなって……いや、月の大きさは変わらないんだけど、月の見える部分が増えていくの。そして月が真ん丸になってね、その後、だんだんまた小さくなっていって、完全に見えなくなる日がまた来るの。その一連の流れで30日なんだってさ。今まで一か月くらい、とか言っていたけどさ、本当に正確に一か月30日を計れるようになったんだよ!」
「なんだか難しくて、よくわからないわ」
「ハハ そうだよね。とても簡単に言うと、月を見てカレンダーが作れるんだ!」
「カレンダー? わかるような解らないような感じね」
「うん。暦とかっていうんだけどね、国を興したら、その暦を設定できたりしてね、国の運営が安定するんだよ」
「まあ! 国のためになるものなのね」
「うん。とりあえずカレンダーを作ろうか。大きい紙に数字を書いて、後で焼き印コピーとかすればいいよね。あ、考えてみれば、一年の時間がずれないしさ、一度作ったら何年もそのまま使えるじゃん! うるう年とかも無いしさ~ いや~ 便利便利! あっちの世界じゃ農作業なんかじゃ大変な苦労をして暦を読んでいたからね~ 農事暦なんてものもあっ」
***
――ピロン 農事暦魔法が使えるようになりました。カレンダーが思いのままです
***
「……食文化……だよね、そりゃ農業だもん。じゃ母上、カレンダーを作っちゃいまーす。それ『農事暦魔法で日めくりカレンダー!』 」
ピカッ バサッ
「あら、これがカレンダーなの? とてもたくさん紙がノートになっているけれど」
「うん。ノート状だけどさ、年と数字が書いてあるでしょ」
「ええ? えっと、カナン1ネン1ガツ1ニチ……かしら」
「うん、それが昨日ね。カナン島に初めて上陸した日から始まるの。だから今日は、カナン1年1月2日だからね、これをめくって破るの。ビリッとな」
「あら! もしかしたら、毎日一枚ずつビリッとな、するのかしら!」
「うん。それで、今日が何月何日なのか、わかるでしょ?」
「まあ! とても楽しそうね! ミチイル、これはわたしがやってもいいかしら?」
「もちろん、母上の好きにしていいよ」
「うふふ」
「じゃあ、明日にでも伯父上に伝えなきゃね」
「ああ、明日はお兄様が別邸、じゃなくて離宮に来るわよ。そのまま待っていたらいいんじゃないのかしら」
「そっか、じゃあそうしよう」
***
「ああ、伯父上、その後はどう? 民は問題ない?」
「はい、ミチイル様。昨日のうちに全員がカナンへ上がり、以前のままの暮らしに戻りました。ミチイル様が、街を丸ごと収納し、出してくださったおかげです」
「まあね、僕の取り柄だからね。畑とか家畜とか、そんなのはどう?」
「はい。畑は既に収穫が始まっておりますし、家畜も問題無いようです。牛も既に普通に運送を始めていますし」
「ああ、本当に普通の暮らしになってるね。と言うことは、工場とかも?」
「はい。何も問題はありません。なにせ、在庫を含め材料も何もかも、すべてそのままですから」
「まあ! さすがはミチイルね!」
「ハハ で、伯父上の要件はなあに? 先に聞いちゃうけどさ」
「はい。国を改め、神聖カナン王国とする件なのですが、ケルビーンがそのまま王家として、国の運営を行うのでよろしかったでしょうか」
「うん、もちろんだよ。他に適任もないでしょ?」
「そうよ。救い主のミチイルが生まれて、今も所属している一族ですもの、民だって、その方がしっくり来るのではないかしら」
「はい。その最終確認をしたかったのです。と言う事は、すなわち私が王と言う事になってしまうのですが……」
「そりゃそうよ。お兄様しか居ないじゃないの」
「そうだね、伯父上が王で、シモンが王太子だね。ソフィアは王女かな」
「はあ。とても面倒なのですが」
「あら、誰がやっても面倒なのにはかわりないのよ、お兄様。それとも、お姉様を女王にでもするのかしら?」
「あ、それもいいかもね。伯母上なら色々やりそう」
「そうね! きっとキリキリ働かされるでしょうね、お兄様を筆頭に」
「……わかりました。僭越ながら、不肖の私が王となりましょう」
「んもう、最初からそう言えばいいのよ、お兄様ったら」
「ハハ 面倒くさがりなのは、ケルビーンの男の特徴らしいからね、伯父上」
「ほんとうですよ、面倒なのは嫌いなんですから」
「ま、諦めてよ。伯父上が神聖カナン王国の初代ケルビーン王ね」
「かしこまりました。ミチイル様の仰せですから、最初から否やはございませんよ。それで、貴族制度はどうしましょう?」
「うん、以前のままでいいんじゃない? ケルビーン王家とセルフィン公爵家、そしてセバス侯爵家にスタイン侯爵家、アドレ伯爵家たちの10家。エデンの貴族を抜かせば、こんな感じだったよね?」
「はい。それで、子爵と男爵は居ないのですが、どうしますか?」
「別に必要はないんじゃないのかしら」
「まあ、必要かどうかで言えば、必要はないけど、確かに収まりが悪いかも。でもさ、貴族と言っても領地を与える訳でも無いしさ、どちらかと言えば、管理とか面倒くさい仕事をしないとならないんだよね。なりたい人が居るとも思えないけど」
「それなら、昔に準男爵家から下りた血族の平民を子爵とか男爵にすれば良いのではないかしら?」
「そうですね、それなら元々平民の間でリーダーとして働いてもらってましたからね、いいかも知れません」
「じゃあ、そこは適当に伯父上に任せるよ。現状の伯爵以上は上級貴族として、これから増える子爵家以下は下級貴族って感じだね」
「かしこまりました」
「あ、そうだ。今の仮首都も地割はそうだけどさ、建設予定の新首都もね、区を8区にするつもりなの。東西南北3kmずつで9平方キロメートルのうち、中央は貴族区で、その周りの8平方キロメートル分の区ね。だからさ、子爵家は区長として8家作ってよ。領地では無いんだけど、それぞれの区を取りまとめるのが仕事って事で。それでさ、男爵家は、それぞれの区に2~3人ずつくらいにしてさ、町内会長みたいに働いてもらおうよ。そうすればさ、民に周知するのでもさ、区長の子爵を8人呼べば済むじゃない。楽でいいでしょ? 伯父上」
「それはいいですね! 是非、そうしましょう!」
「あら、楽になることがわかったら、急に元気になったわね、お兄様」
「それでさ、セルフィン公爵家は王家の傍流として伯母上に君臨してもらってさ、セバス侯爵家は宰相家でしょ、スタイン侯爵家は運送と警備、アドレ伯爵家は下級貴族の取りまとめをしてもらって、他の伯爵家は工業地帯とか製造地帯とか、首都以外を取りまとめてもらおう。ケルビーン王家の分家は、王国の執務ね。そして区長の子爵と町内会長の男爵。こんな感じでどう? 伯父上」
「素晴らしいです! すぐさま、そのようにしましょう」
「もう、お兄様ったら」
「それでね、僕と母上の事なんだけど、僕は結婚しないの。そして母上も結婚はしない。だからね、僕たちは別な家は興さないから。悪いんだけどさ、ケルビーン王家の所属のままにしてもらえる?」
「それはもちろん、構いませんが……昨日も話にありましたが、ミチイル様は、あまり表には出ないと言う事なのですね?」
「うん。神聖カナン王国の運営は、全部ケルビーン王に任せるよ。僕は、裏方ね」
「それでいいのよ、お兄様。わたしたち色々考えて、そう決めたのよ」
「……かしこまりました。ですが、国の運営方針の最終決定権は、ミチイル様のままとさせてください。少なくとも、ミチイル様がご存命の間は」
「うん、わかったよ。それでさ、僕からも取り急ぎの話があるんだ」