1-17 気合じゃ!
一方その頃、鋳造所では、ドンが魔法を使おうと一人で試行錯誤していた
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(いったい、どうやったら坊ちゃんの魔法を使えるようになるんじゃろ)
(一番簡単そうな呪文で試してみるかのう)
『カナグシ』
(……何も起こらんのう。発音は完璧じゃったと思うがのう)
(どれ、もう一回)
『カナグシ』
(……何も起こらんし、何かが起こるような気もせんのう)
(坊ちゃんみたいに、一遍にたくさんの釘を作ろうと思わんで、ひとつだけ、釘を作るつもりで試してみるかのう)
『カナグシ』
(うーん、全く何も起こらん。一体、どうすればいいんじゃ……細い金棒に……片方を平らにして……)
『カナグシ』
(……トムのやつは、どうやって魔法を使えるようになったんじゃろうかのう)
(もしかしたら、何かコツのようなもんが、あるかも知れんのう)
(仕方がない。あいつに訊くのもしゃくじゃが、訊いてみるとするかのう)
***
「ドン爺~ 大丈夫~?」
「おお、坊ちゃん、わしは大丈夫だがのう、坊ちゃんの魔法、わしも使えるように、ならんもんかのう」
「たぶんドン爺も使えると思うよ~」
「なに! ほんとうかのう! して坊ちゃん、どうやるんかのう?」
「うんとね~ うんと~ ? あれ?どうやるんだろ……良く考えてみれば、僕って、どんな魔法も使えるんだよね。だから特に何も?してない……」
「そうじゃったか……ま、坊ちゃんは特別じゃし、それはそうじゃろうのう……」
「おう! ドン。どうしたんじゃ? しけたツラして~ カッカッカ!」
「……おんし、坊ちゃんの魔法が使えるようになったんじゃろ? どうやるんか、早ようわしに教えるんじゃ! ほれ、早よう!」
「カッカッカ!」
「……ほうほう、またそう来るのかのう」
「カッカッ…………カ……」
「あれはたしか」
「わー! ドン、冗談じゃよ、冗談! ドンも、もっと、大人の余裕っちゅうもんを持たんといかんの! カッカッカ!」
「パラダイスで」
「わー! 魔法じゃな、魔法。魔法はの…………気合じゃ!」
「おんし、また適当なことを抜かしおるのう……パラダ」
「じゃから! 気合が一番大切じゃ、言うとろうが!」
「……うん、そうかも知れない。皆、気合って言ってるけど、気合って、たぶん魔力のことだと思うの」
「坊ちゃん、魔力とはなんじゃ?」
「うん、うまく説明できないんだけど、魔法は魔力で使うの。魔力はね、北極にある魔力山からあふれ出てきていて、この大陸の北部にしかないんだって。でも、その魔力が濃いと、人は調子が悪くなっちゃて、死んじゃうんだって。だから、魔力がただよっている北部でも生きていけるように、女神様がアルビノ人に祝福を授けてくださって、それでアルビノ人は魔力が使える体質なの」
「……ほう。言われてみれば、いろいろ合点がいくことがあるのう……」
「それでね、ドン爺も、魔力使って仕事していると思う。前にドン爺が、皿とおろし金を作ったときにね、僕にはドン爺の手に魔力がまとわりついているのが見えたの。その時ドン爺は、気合をいれたって言ってたよ」
「そうじゃそうじゃ! 気合が一番肝心なんじゃよ! だからわしが言っとろうが! カッカッカ!」
「……そうだったのじゃな……わしも魔力を……」
「トム爺は、魔法を使うときに、何かコツ、みたいなものを見つけたりしたの? 僕、まだトム爺が魔法を使うところを見てないけど」
「カッカッカ! 魔法を使うときの最大のコツはじゃな…………気合じゃ!」
「おんし、ばかじゃろ!」
「ドンは何でも考えすぎるからイカンのじゃ!」
「おんしが何も考えなさすぎなんじゃ!」
「なにおう!」
「……二人とも、ちょっと落ち着いて~ ドン爺も、気合っていうか、魔力を意識してさ、何も考えずにイメージだけして魔法を使ってみて~」
「ふむ、坊ちゃんがいうなら……」
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『カナグシ』 ピカッ ポテッ カラコロリンリンリン……
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「うわ~、ドン爺もやっぱり魔法使えるんだ~ やったね、ドン爺!」
「だ~からさっきからわしが言うとろうが! 魔法を使う最大のコツはの……『考えるな、気合じゃ!』 じゃ! カッカッカ!」
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――こうして、トムに引き続き、ドンも魔法が使えるようになった
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あれから大騒ぎになっちゃって、とりあえず公都の大公家屋敷に戻って来た後、しばらく日々が過ぎた。
その間、南の村の木工工房に、改めて木工関係の呪文を伝えた結果、親方や一部の職人が魔法を使えるようになったらしい。
もちろん、鋳造所の職人たちも同じだ。
ドン爺が毎日鋳造所に通って、魔法を教えたり、自己研鑽しているみたい。
そしてトム爺は、流しそうめんを南の村まで完成させてくれたらしい。
魔法を使えるようになったと言っても、それぞれの魔力器官の容量に左右されるから、一日で数回だけとか、まだほんの少しみたい。
それでも使い続けていれば、魔力器官が大きくなって、もっと魔法が使えるようになるはずだから、毎日仕事をしている職人が育つのも時間の問題かも知れない。
現状、なぜ一部の人のみ魔法が使えて、全員使えるようにならないのかってのは、確証はないんだけど、その魔法の適性と、その適性にあった技術の蓄積と女神信仰が関わっていると思う。
アルビノ人にあるという魔力器官も、使わないと大きくならない。魔力器官を使うには、気合を入れて仕事をし、技術を蓄積して、そしてさらに気合…もう魔力って言っちゃうけど、無意識魔力を使って来なければならなかったはず。爺ちゃんたち大親方はもちろんだけど、現親方たちも、親方任されているくらいだから、技術も努力も積み重なっていて、その分、無意識に魔力を使っていたから、この度、魔法が使えるようになったんじゃないかと……
もちろん、女神信仰が大前提ね。これがすべての基本だもん。
あと、地球でも好き嫌いと能力の有無ってのは、直接の関係はなくても相関関係というか、好きこそものの上手なれって言葉があったくらいだから、やっぱり好きだったり、興味があることについての方が、魔法を使いやすいんじゃないかと思うんだよね。
とりあえず、魔法を使える人を増やして、仕事の効率化を図って、余裕を作らないと。
お祖父さまとも相談した結果、当面は、今の職人たちが、仕事をしながら自分たちで魔法を使う訓練をする、ということにした。
そして、当たり前のことなんだけど、公国の外、要するにエデン人には絶対に知られない様に、きつい箝口令を出したみたい。
アルビノ人は、エデンに人頭税を出さないといけないから、常時何百人かの公国人が、エデン三王国に分かれて出張っているらしい。
その人たちは、ずっとエデンで暮らすのは精神的にきついから、定期的に入れ替わっていて、具体的には半年とか、そのくらいのスパンで交代しながら働いているみたい。
なので、常に誰かと誰かが入れ替わっているから、バレないように箝口令なんだって。
それでも、エデンに出張るのは、建築関係で石工職人と木工職人、メイドや従業員として公国の平民女性、力仕事や雑事の平民男性とからしいから、鋳造所とかの職人は心配いらないのかな。わかんないや。
後、母上の兄上、お祖父さまの息子で次期大公の一家も、パラダイスに常駐しているんだって。伯父上ってことなんだろうけど、息子もいるってよ。僕は会ったことがないから、何も知らなかったよ。
そんなこんなで時が過ぎていった。
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「坊ちゃ~ん! おいでなさるかの! わしじゃ、わしじゃよ! カッカッカ!」
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――ミチイルに、元気いっぱいの来訪者きたる