表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/237

3-1 その後の大陸

「男爵様!」


「なんだ? それに、もう男爵でも何でも無いんだぞ……」


「これからどうしますか?」


「どうもこうも……あの時に神聖国へ移り住んでいれば……」


「そうですね……」


「……それで、どうした?」


「はい。エデンの民が多数、押し寄せて来ています」


「そうか……もうエデンの王国も海に沈んだ。わしら混血民は、どのくらい残ったか?」


「はい……1000人くらいでは無いでしょうか」


「そうか。神聖国へ行かなかった者は、殆ど残ったのだな」


「はい。ご神託にそって、南へ南へと逃げ延びた者が多かったのです」


「そりゃそうだな。南の方が土地が高くなっているからな」


「はい。それで、これからどうしましょう?」


「エデンの平民は、どのくらい残っている?」


「はい。同じくらいは居そうです」


「随分と少ないな?」


「はい。天の声が聞こえた後、逆に王都へ向かったものが多く居たようです」


「愚かだな……王都は低いと言うのに」


「……はい。ですが、不安に駆られて、王都なら何とかしてくれると思ったようです」


「はあ。これからどうすれば……農場はどうだ?」


「はい。何も変わりはありません」


「そうか。生き残った者たちで、畑を広げて生きていくしかあるまい」


「そうですね……」


「わしらは、救い主様の言う通りにしなかったばかりか、刃物を持ち出して攻め入ろうとしたんだからな」


「でも! それは王国の命令で!」


「関係ないだろう。現にスタイン侯爵一族は、みな神聖国だ」


「その後、どうなったんでしょうか」


「わからん。あの海の水に、大地の揺れだ。あちこちガタガタだからな、神聖国もただでは済むまいが」


「ですが、王都は海の底ですし、向こうへ渡る事もできません」


「どうも、時間によって海水が多い時と少ない時があると言う報告がある。海が浅い時なら、なんとか向こうへ行けるかも知れないな」


「行ってみましょう!」


「いや、それどころではない。一刻も早く、畑を増やし、生きていく算段をつけなければ」


「この辺りはそれでも良いとして、中央エデン方面からエデン人が押し寄せて来たら、どうしましょうか」


「ふむ……食料が足りなくなるな。しかし、もし仮に、女神様に祈ると言うのなら、追い返す訳にもいくまいよ」


「そうですね」


「もう、二度と間違いは起こしてはならん。女神様に祈り続け、何とかお慈悲を頂けるように、心からお願いするしか、無いだろう……」


「でも……手遅れでは……」


「かも知れんが、それでもだ。わしらは、ここで地を耕し、作物を植え、収穫して生きて行く」


「はい。神聖国から作物の種を貰ったおかげですね。昔のままだったら、もう死ぬしかありません」


「そうだな。だが、その神聖国に牙をむいたのだ」


「そうですね……」


「戻れるなら、あの時に戻りたい……が、そうこう言っても始まらぬよ、少しでも畑を作らねば。皆にも、そう指示してくれ」




***




「グハハ! エデンの奴らが死んだ! 王国は海の中だ! ざまあみろ! グハハ!」


「……父上、そんな事を言っている場合では無いのでは?」


「スローン大公、これからどうするのでしょう?」


「決まっておる! この世界を手中に収めるのだ! エデンも沈んだ今なら、邪魔者もおるまい! グハハ!」


「父上、明日食べるものもどうなるかわからないのに、世界も何もありませんよ」


「そうです、スローン大公、スローン人は一万人居るのですから」


「そうですよ、父上。スローン人は殆ど生き残ってますし」


「この馬鹿者ども! 神聖国があるだろうが! あそこを手に入れれば良いではないか!」


「セルフィンだって、思うようにならなかったのに、そんな事ができるとも思えませんが、父上」


「うるさい! さっさと偵察して来い!」


「かしこまりました、父上」




***




「なんだと? 嘘を申すな!」


「本当です、父上。神聖国はありません。国境の壁石が倒れて散らばっているだけで、何も無かったんですから」


「海の波に飲まれたのか?」


「わかりません。本当に何もないのですから。まるで中央エデンのアルビノ村のようでしたけど」


「……建物も何も、一切残って居なかったという、あれか」


「そうです。神聖国は、跡形も無く消え失せましたよ。人っ子一人、居ませんでした。それに、海も近くになっている気もしました」


「このスローンの海岸が減ったようにか?」


「はい。元の状態を知りませんけど、スローンと同じ感じじゃないですかね。そりゃ、エデンの王国も海の中なんですから、当然なんじゃないですか」


「では、これからどうするのだ!」


「知りませんよ! それを考えるのが父上の仕事なんじゃ無いですか!」


「ええい、この役立たずめ!」


「父上が神聖国にちょっかいをかけなかったら、多分こんな事にはなってないんですよ!」


「うるさいうるさい! 文句を言っている暇があるなら、食料でも作れ! このバカ息子が!」


「自分でやればいいんじゃないですか。いつも偉そうに。この国どころか、世界まで滅んだじゃないですか。王国も無いんですよ? エデンの園も消えました。もうマッツァも無いんですよ? わかってるんですか?」


「食べるものは栽培すれば良い! セルフィンから分捕った種も、まだまだあろうが!」


「育てばいいですけどね。女神様を怒らせて、ちゃんと実がなるかどうか」


「ええい、うるさい! わしの言うことが聞けんのか!」


「はあ、もう勝手にしてください。夜空にも日に日に形を変える光が現れたっていうのに、馬鹿じゃないんですか?」


「なんだと! 誰に向かって!」


「もちろん馬鹿な父上に向かってですよ。夜空の明かりも、女神様が民を見張っているのではと言われているくらいなのに、あれを見ても何とも思わないんですか……愚かな……」


「うるさい!」




***




――南島に生き残ったのは、混血民も含めて数千人


――北島に生き残ったのは、スローン人が約一万人


――南島では、以前から農業を始めており、牛も牧草もあったおかげで、何とか農耕民として生きて行けるだろう


――北島では、魔力山が無くなった所為で土地の魔力が薄くなり、ミチイルがセルフィンに残した井戸も枯れ、植物の成長もさらに遅くなっていった


――それでも、家畜や作物の種など、セルフィンに残っていたものも、決して少なくはない


――皆が力を合わせれば、生きていく事も可能なのである


――ただ、エデンの園は、もう二度と戻っては来ないのだ


――エデンの命の木の実のおかげで、命を繋いでいた愚かな民は、自らの選択の結果を、自らが引き受ける事になった




***




「取り敢えずさ、これからどうしようか。……ま、この海岸沿いを開拓するしか無いんだろうけどね。結構狭くない?」


『はい、救い主様』


「ああ、アイちゃん。ここの土地はさ、何万人も養えるほど広くないよ。畑を作っても、足りなくない?」


『それに関しては、問題ございません。ここではなく、山の上に土地がございます』


「ええ? 山って、この山? この天高くそびえる急峻な岩? 急峻すぎて、登ることもできないんだけど?」


『何も問題はございません』


「いやいや、マーちゃん達に運んでもらえば上まで行けるのかも知れないけどさ、三万人くらい居るんだよ? それにさ、山の上って気温が低いじゃない。どのくらいスペースがあるかわからないけどさ、普通に考えたら作物だって育たないし」


『大丈夫でございます。この山は、岩山ですが標高は100mもございません。山と言うよりは、岩の大地のようなものでございます。山の上も、神聖国よりは気温が高い位でございますので』


「ええ、そうなの? 普通にありえなくない? 標高が高い所が温かいなんて」


『そういう世界でございますので』


「ああ、そうだったそうだった、そうだったね~ そりゃ、海も割れるし大洪水が起きてもビクともしないしね、そういう世界なんだったよ」


『はい。ですので、何も心配の必要もございません』


「ま、こんな事を言っていても始まらないから、とにかく見てみるのが先かな」


『はい。山の上には十分な土地がございます。そして、救い主様なら様々な魔法がお使いいただけますから、水も作物も建物も、どうにでもお出来になられますので』


「ま、そうだね。土地があればね、何とでもなるか! 魔法があるしね!ってさ、エデンの王国では魔力が無かったけど、この山の上は魔力あるの?」


『魔力は、有り余るほど……と言いますか、魔力が世界に向けて噴出しておりますので、魔力の心配はございません』


「なにそれ。魔力山みたいなものじゃない。それじゃ、みんな死ぬでしょ!」


『大丈夫でございます。魔力山は大宇宙へ力を放出していた山ですが、この約束の地の山は、この星の魔力の循環をしているだけでございますので、魔力は無尽蔵ですが、濃度は濃くはありませんから、救い主様はもちろん、救い主様の民も、何の問題もございません』


「ああ、良かった~ じゃ、みんなも魔法が普通に使えて、魔力もあるから井戸とかも問題がないって事だね!」


『左様でございます』


「ま、とにかく見てみよう。アイちゃん、悪いけどマーちゃんを呼んでくれない?」


『かしこまりました』


プーーーン シュタッ!


「すくいぬし様~ ただいままいりました!」


「ありがと、マーちゃん。あのさ、この山の上を見てみたいんだけど」


「かしこまりました!」




***




「うわ! 山って言っているけどさ、ずっと向こうまで続いてるじゃん! 確かに山と言うよりは、台だよね、岩だけど」


『左様でございますね。ですが、高さも充分にございますし、大陸からは目視もできませんし、仮に誰が攻めて来ようとも登れもしませんし、安心でございます』


「そうだね……誰も登れないよね……僕も登れないし……みんなも登れないじゃん!」


『救い主様であれば、どうとでもなされます』


「はあ。アイちゃんってば、僕は万能じゃないんだからね」


「すくいぬし様~ そろそろとうちゃくしまーす!」


「はーい! お! おお! 山の上って言うよりは、カルデラみたいになってるね! 岩の壁に囲まれた盆地? いや、巨大なマチュピチュかな! いい感じ!」


「すくいぬし様~ どのへんにおりますか~」


「あ、手前に降りよう!」


「かしこまりました~」


シュタッ!


「ふう、ありがと、マーちゃん」


「とんでもないでーす!」


「うん、緑の大地! 普通の土! そして、平らな土地! すぐに開拓できそうだね?」


『はい、救い主様。すぐさま色々取り掛かれるように手配してございますので』


「ん? 手配? あ、マーちゃんたち、ここで暮らしているんだもんね!」


「はい! すくいぬし様! ここは、とってもいいところでーす! ぼくたちのほかにも」



……カサカサカサカサーッ……



「ん? なに?」



カサカサカサカサーッ



「……え? なになに! なんか、ビスクドールが大量にこっちに向かって来るんだけど!」


『ご心配は必要ありません、救い主様』


「いやいやいや、怖い怖い怖い! ドレスを着た無表情なビスクドールが! 大量にスススーッて! こわいこわいこわい! マーちゃん、逃げよう! 早く!」


「あ、クーちゃん~!」


「ギャーーー来るぅーーー」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ