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2-58 謁見

『おい! てめー! 今までどこをほっつき歩ってた! このクソボケが! 死ね!』


「相変わらず口が悪いわねえ、アイちゃんってば。あ~! 星神力がものすごく貯まっているじゃない! すごいわ! これで創世の時に借りパクした力を大宇宙に返せるわね!」


『うるせーボケ! さっさと世界を見ろや! 悠長な事を言ってる場合じゃねーぞ! クソアマ!』


「なあに~? 帰ったばかりだってのに、騒々しいわね~ あ、バニラアイスじゃないの! とうとうあたしの星でもバニラアイスができたのね! じゃ早速いただ」


『殺すぞ! 早く世界を確認しろや! この役立たずが! てめー、この特級天使生命を全部賭けて、大宇宙中央管理センターに訴えるぞ、このバカ女!』


「何もそこまで言わなくてもいいじゃない~ んもう、しょうがないわね、どれどれ」


『クソが!』


「ちょ! 何これ! どうしてあたしの民が人間どもに囲まれているのよ!」


『だから言ってるだろうが! このクサレが! どうすんだよ! ああん!』


「ちょっとまずいじゃない。(みちる)には寿命は設定して無いけど、救い主だから殺される可能性は高い、って言うより、もともと救い主は殺される率が高いじゃないの! このまま殺されちゃったら、この星に暗黒時代がやって来ちゃうわ!」


『どうすんだよ! ああん?』


「これじゃ、最初の頃と同じじゃない。あの時だって、クソ人間どもが分裂して、美味しい物を捧げるどころか、あたしの民を減らしたのよ! もう、なんなのよ! この人間どもは、役立たずなだけじゃなくて、邪魔よ!」


『てめーが管理しないからだろーがよ! 救い主様は、気の毒な位に努力なさったぞ! てめーが遊び惚けている間にな! このまま救い主様が殺されたら、救い主様の魂だってな……ああ、クソが!』


「わかったわ。完全に頭に来た! もうこいつら一掃してやるんだから! ノアの洪水を使うわよ!」


『おい、クソ! そんな事したら、救い主様もろとも全員死ぬだろーが、ボケが!』


「死なないように舟にでも全員乗せればいいじゃない!」


『どこにそんな舟があるかっつーんだよ! てめーが何も用意もしてねーこのクソ星だぞ! ええコラ!』


「じゃあ、どうすればいいってのよ!」


『……チッ、一級天使どもがグダグダしている島に逃がすぞ』


「はあ? 一級天使? そんなの居たかしら」


『てめー、いい加減にしねーと、ぶっ殺すぞ!』


「うそうそ、居たわね、もちろん。そうよ、あの子たち、全然見かけなかったけど何してたのかしら」


『てめーが忘れてただけだろうが! 任務完了許可も出さないまま、ずっと忘れていただろーがよ! 死ね! クサレ女!』


「ああ、そうだったそうだった。いやあねえ、こんな時のために待機をさせていたのよ。さすがあたしね! でもそんな島、どこにあるのよ!」


『こらクソボケ! てめーが最初に失敗した煙突があるだろーが、クサレ女!』


「え? そんなの知らないわよ!」


『大陸西側の海をよく見ろ! このクサレボケカス死ね!』


「ええ……あ、ほんとだわ! そういえば、魔力を宇宙に放出するのにこんなの作ったわね……まともに使えなかったけど! でも、ちょうどいいじゃない、ここに住まわせましょ。さすがあたしね! こういう事もあろうかと、最初から準備しておいたのよ! さ、アイちゃん、(みちる)に移動するように伝えてちょうだい、いや、やっぱりいいわ、あたしが直接伝えるわ。んもう、また星神力が減っちゃうじゃないの! ノアの洪水も起こさないとならないのに……これで星神力もまたすっからかんになりそうよ。もう、クソ人間どもが! 絶対に絶対に許さない!」


『おい、少し待てよ! 救い主様の準備が整ったら知らせるからな、それまで早まるなよ!』


「わかってるわよ! (みちる)を呼ぶから、それが終わってからにするわ。アイちゃん、準備しといて!」


『チッ、クソが! てめー、失敗したら覚えてろよ! 今度こそ、ぶっ殺すからな!』


「早くしてよね!」




***




「はあ。もう嫌だよ。こんな事になっちゃうなんて……僕が死ねば……解決するのかな?」


『それはなりません、救い主様』


「ああ、アイちゃん。僕、何かを間違ったみたい」


『そのような事は、一切ございません。救い主様、お逃げください』


「お逃げって言ってもさ、結局こうやって囲まれて?同じ事を繰り返すだけじゃない?」


『ご心配には及びません。こういう時のために』


――ピカーーッ――


「なになに、何なの? っていうか、なんか前もこんな感じの事があったような……」




***



(みちる)よ……』


『ん? えっと、もしかして女神様ですか? 姿は見えないけど、こんな真っ白な世界……久しぶり?』


『ここは神界。神以外は存在しません。そして(みちる)よ、よくぞここまで、この星の食文化を発展させてくれました。この星の力も大変に増えていますよ。礼を言います』


『とんでもないです……僕、思うようにはできませんでした。今も……どうしたら……』


『その事で話があります。いいですか、良く聞きなさい。これからこの星に大洪水を起こします。あなたはお逃げなさい』


『大洪水……逃げないと、みんな死ぬんですか?』


『そうです。この星に残された最後の切り札です。この度、それを使います。ですから、あなたは民を連れて、お逃げなさい』


『でも、どこへ逃げたら良いのですか? 思い当たりません』


『それに関しては準備が整っています。救い主と、その民が住まう場所として、約束の地を用意してあります。何も心配は要りませんよ』


『そうなんですか! そこへ行けば、みんな助かるのですか?』


『全員ではありません。従順な民だけです。その他の民は、消え失せます』


『 ! 』


『あなたが気にする事ではありません。消え失せる民は、それだけの存在だったのです』


『でも、何も知らないまま、いきなり死ぬんですか?』


『そうなるでしょう』


『……せめて、せめて最後に生き残る機会を与えてもらえませんか? みんな死ぬなんて、なんか心が重いです。その後に、何事も無かったかのようには生きていく自信がありません』


『……そうですか。あなたが元気で布教をしないと、この星の力も貯まりません。わかりました、いいでしょう。大洪水の前に、この星に神託を出します。それに従えば、命だけは助かるようにしましょう』


『あ、ありがとうございます、女神様』


『あなたは世界を救わなくとも良いのですよ? 美味しい物だけ捧げれば良いのです』


『はい、わかりました。でも、それぞれの選択の結果、それぞれが死んでしまうなら、僕も納得ができます。その後はその約束の地で、女神様に美味しい物を、たくさんの人が捧げるような世界にしたいと思います』


『期待していますよ。では、後の事はアイちゃんに訊いてください。あなたとあなたの民が約束の地へ着いたのを確認してから、大洪水を起こします。星が震えるかも知れませんが、約束の地には影響はありません。心配せず、後はわたくしに任せなさい』


『ありがとうございます!』


『では、さらなる働きを、期待していますよ』




***




「ハッ! アイちゃんアイちゃん!」


『お疲れさまでした、救い主様』


「うん、今ね、女神様に呼ばれてた。それでさ、約束の地ってのがあるらしいんだけど」


『……はい、ございます。そこは、ハチの一級天使が寝起きしている場所にございます』


「あ、そうだったんだ! それはどこにあるの?」


『はい。この大陸の西側の海を少し行った所にございます』


「ええ……海を渡るんだ……でも、どうやって? この国の民は3万人も居るのに……ちょっとやそっとの舟じゃ、とてもじゃないけど皆が乗れないよ……」


『私めに策がございます。この公都から西へ向かった海岸の延長上に、その島がございます。その島は、この大陸と繋がっておりますので、海を渡って行けば到着すると愚考致します』


「いや、そりゃ海の中で大陸棚?で繋がっているだろうけどさ、海を渡るってさ、無理でしょ」


『大陸棚で繋がっていると言うよりも、浅い海底に山の尾根が繋がっておりますので、その上なら、歩くこともコーチで行くこともできるでしょう』


「ええ、海底にそんな道があるんだ……」


『はい、諸事情により、この大陸との脈が繋がっておりますので。ですので、その道を通り、島へ民を向かわせましょう』


「いやいや、海があるじゃないのさ」


『救い主様なら、問題はございません。海をも割れる力をお持ちでございます』


「いやいやいや、そんな力なんて、僕には無いよ」


『ございます。救い主様は、この世界で唯一、次元魔法をお使いになれます。ですので海を割ることも可能でございます』


「えっと……次元魔法は……時間を止めたり……収納したり、出したり……海水を収納でもするの?」


『左様でございます』


「でもさ、一部分だけ海水を収納してもさ、直ぐに別な海水が押し寄せてくるじゃない。それこそ海水が動かないように……えっと、まさか……海の時間を止めて?!」


『左様にございます。本来なら、この星の全ての海水程度なら問題も無く収納可能でしょうが、今回は大洪水が起きますので、その材料である海水を全て取り去る訳には参りませんので』


「ああ、そうか」


『救い主様、時間の猶予がございません。まず、民を向かわせましょう』


「でも、先に僕が行って確認した方が良くない?」


『時間が無いのです、救い主様。約束の地は火山島のようなものですが、裾野は十分に広く、そこは一時的に数万人程度なら洪水に巻き込まれずに滞在可能でございます。一刻も早く、民の移動を始めねば、間に合いません』


「わかったよ、アイちゃん。じゃ、取り合えず僕が道を作って、後は民を向かわせればいいんだね?」


『左様にございます』




***




「ああああ! 女神様がお怒りだわ! 大変よ! このままでは全員、死んでしまうわ! 早く! 早く約束の地へ!」


「マリア様! マリア様! お気を確かに!」


「直ぐにお兄様の所へ向かうわよ、コーチを、早く!」


「かしこまりました!」




***




「お兄様! 神聖国の民を全員、約束の地カナンへ向かわせないとならないわ! でないと、全員死んでしまう! 女神様が大変なお怒りなの! 早く! 早く!」


「マリア……」


「ミハイル、マリアのいう事に従え」


「父上」


「ミチイルが産まれる時もそうであった。マリアは神託を受ける存在。マリアのいう事は、おそらく正しい」


「……そうですね、わかりました。セバス、国中へ触れを」


「かしこまりました」


「早く! 早く! 女神様が! 女神様が! 大変なお怒りよ! ミチイル! ミチイル!」


「……マリア……」


「誰か、急ぎミチイル様をお連れしろ、いや、いい。別邸へマリアも連れて行こう」




***




「母上は、どこに行ったんだろう?」


「ミチイル様、マリア様は血相を変えて本邸へ向かわれました」


「え? 何かあったのかな」


「ミチイル様、大公とマリア様が!」


「ああ! わたしのミチイル! 女神様が! 女神様がお怒りなの! 一刻も早く、約束の地カナンへ行かなければ!」


「ミチイル様、マリアはこう申しております」


「うん、伯父上。この世界に洪水が起きる」


「洪水とは……」


「うん、おそらく海の水が押し寄せてきて、この大陸が海の底になるかも知れない」


「なんと!」


「僕は行ったことが無いんだけど、女神様が約束の地を用意してくださっているらしいの。そこに、全国民を移動させないとならない」


「そうよ! 約束の地カナンよ! 早く! 早く! あああ!」


「伯父上、僕は約束の地までの道を作らないといけないの。その道は、ちょうど漁業基地の辺りから始まると思うからさ、民を移動させて。民が全員いなくなってから、この国中の建物とかも含めて全部、僕が収納して持っていくから。一応、軽食が用意できる人は、それを持つように、そして、最低限、飲み水は持っていくように通達して。取り合えず、一刻の猶予も無いらしいの。家ごと約束の地へ移動するからね、できるだけ最小限の荷物で移動するように伝えて」


「かしこまりました。人質はどうしましょう」


「うん、民の移動に一日近くかかるかも知れないから、その間は時間稼ぎしよう。どっちにしても、今日の夜になったら、マーちゃん達に助けてもらおう」


「かしこまりました」


「とにかく、セルフィンの時よりも荷物は少なくして。誰か指揮をとれる人を先に向こうに向かわせてね」


「それなら、父上に向かってもらいます」


「うん、それがいいね。じゃ僕は道を作りに行ってくる。戻って来るからね、もう民の移動は開始してもいいから」


「かしこまりました」




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