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2-57 争い

「ミチイル様、至急、お伝えしたい事がありまして。申し訳ありません」


「ううん、もちろんいつでも良いけどさ、何があったの? 伯父上」


「はい。まず、国境の壁周辺を定期的に巡回させているスタイン侯爵家の者が、スローン人と思われるアルビノ人が近くでコソコソと動いているのを確認しました」


「何をやってたのか、わかるの?」


「いえ、何をどう、とか言う事は無く、何か様子をうかがっているような感じであったそうです。ですので、何も実害はありません」


「そう。気になるけど、何も無いなら様子見にしよう」


「はい。それと、中央エデンでスローン人が、セルフィンに残されていた商品を売っているそうです」


「まあ、そうだろうね。でも、作れないから、いずれは品切れじゃないの?」


「はい。中央エデン王国では、神聖国の後を継いだのはスローンであると言われている様ですので、王国がスローンに色々催促をしているらしいですが、詳細は不明です」


「まあね、紙幣の供給もやめた訳だし、神聖国の物は手に入れられないからね、代わりに売っているものがあるなら、エデン人がそっちを買ってもおかしくはないもんね」


「はい、それで、その事に関係するのですが、パラダイス貴族が神聖国の商品を買い、それを中央エデンで高値で売りさばいていると言う話がある様です」


「ほんとにもう。パラダイスのアルビノ商店街で物を買って、それを品薄の中央エデンに横流しして、暴利を貪っているって事だね?」


「はい。そして、これまたそれに関連するのですが、南部の貴族たちも、同じようにし始めたらしいのです」


「南部の貴族って? まさか混血じゃないよね?」


「どうやら、そのまさかの様です。スタイン侯爵家が激怒しておりましたので。ですが、スタイン家は本拠地を神聖国へ移しましたし、混血の希望者は神聖国へ移民しましたので、残っている混血民に対しては、もう統率力が及ばないそうです」


「ああ、そうだよね……そりゃそうだよ。もう面倒も見てくれない人のいう事なんて、聞かないもんね」


「はい」


「それで、攫われちゃった5人の情報は、何もない?」


「はい、残念ながら」


「マーちゃん達も見つけられないって言ってたし、仕方が無い。向こうにとっても貴重な情報源だろうし、スローン国内なら魔法も使えるだろうし、少なくとも殺しはしないでしょ、というか、殺さないよね?」


「……わかりません。ですが、交渉材料として、生かして置く可能性が高い気がします」


「そうだよね、エデンでは品薄なんだからさ、商品を寄越せとかいう時に、人質は交渉材料になるもんね。生きている事を女神様に祈ろう」


「そうですね。それで、如何しましょうか」


「うーん、僕さ、とっても面倒くさくてさ、腹立たしくてさ、もう嫌なんだ。だから、パラダイスからも手を引こう。南村の出入り口に人を配置しておけば、何か向こうから言ってきてもわかるでしょ? こっちが籠ってしまえば、人質を交換条件にして、交渉してくるかも知れないし、完全鎖国にしよう」


「かしこまりました」


「特に問題は無いよね?」


「はい。スタイン侯爵家の一族も、アドレ伯爵家の一族も、もう既に神聖国に居りますし、攫われた5名以外には何の憂いもありません」


「うん。じゃあさ、これから数か月分位の紙幣をパラダイスに下げ渡して、鎖国ね。もう紙幣は使わないからね、ありったけの紙幣を渡してもいいし。いきなり鎖国しても文句を言うだろうからさ、取り合えず大量の紙幣を渡せばさ、目が眩んで一瞬満足して大人しくなるでしょ。その後、色々気づいても、僕たちはもう知らないからね、勝手に騒げばいいと思うよ」


「そうですね、それでいいと思います」


「うん。じゃ、早速ね、今日中に全神聖国民を引き上げてもらえる? 直ぐに完了するよね、パラダイスの商店街だけだから」


「はい、問題ありません」


「じゃあ、その後に商店街を僕が引き払うね」


「それはお止めください。何があるかも分かりません」


「でもさ、なんか勿体なくて」


「中央エデンの時よりは建物も少ないでしょう。商店街以外の建物は多いですが、商店街そのものは学園寮もありませんから」


「……ま、そうだね。じゃ、念には念をで、僕は行かない事にするよ」


「ありがとうございます」


「それで後は、国内の運営も何も問題は無いんでしょ?」


「勿論です。逆に暇になった民が多く、持て余し気味ですから」


「はは……ワーカーホリックだねえ、神聖国は」


「良くわかりませんが、働くのが楽しく、幸せに思う民が多いですよ」


「うん。じゃ、鎖国! そして、後はのんびり暮らして行こう!」


「かしこまりました」




***




神聖国は、完全に鎖国した。


パラダイスでは大騒ぎだろうけどさ、もう関係ないから。伯父上も、札束でエデン人をひっぱたいて戻って来たらしい。ま、もちろん比喩だけど。


鎖国したとは言っても、国土も広いし海もあるし、資源も燃料も無尽蔵にある。労働力も余っているし、農作物も問題ない。ちょっと家畜が不足したけど、それも時間が解決するだろうしね。


ああ、マッツァが手に入らなくなったからね、エデンの園で手に入れたマッツァを品種改良して、神聖国でも育ててるよ。家畜の飼料に必要だからね。


でも、牛とかも、もう遠距離の荷運びもしないからさ、神聖国内だけだもん。マッツァすらも無くてもいいかも知れない。マッツァを食べさせると牛パワーが余るからね。


攫われたままの5人の情報は無いまま。


農業部とかの人だったら、外で作業するから見つけやすいと思うんだけど、調理関係の人達だからさ、どこかの建物の中だと探せないんだよね。はあ、気になる。


でも僕、何もできないから……


僕は、良くわからない感じでフワフワと日々を過ごしている感じだね。


しばらく何も考えたくないよ。




***




「あー、読んだ読んだ。やっぱりお姉様の所は天国ね!」


「あらあら、神が居るところが天国なのですもの、あなたも自分の星に帰ったら、そこが天国じゃないの」


「いやあねえ~ 比喩よ比喩! あ、お姉様~ バニラアイスちょうだい~」


「はいはい。好きなだけ食べなさいな。でも、それを食べたら帰るのよ? また来てもいいけれど、一度は様子を見に帰りなさい。いいわね?」


「はーい」


「でも、こんなに滞在しても不都合が無いだなんて、あなたの星でも結構星神力が貯まっているのでは無いのかしら」


「そうかもね~ ずっと力が届いているし、今頃美味しい食べ物で溢れかえっているに違いないわね!」


「良かったわね。救い主に感謝なさいよ。そして、ちゃんと面倒を見なさいね。救い主が殺されてしまったら、後が大変なのだから」


「そうよね~ 本当に面倒くさいわよね……」


「そうよ。わたしの星でも大変だったのだから。今でも少しは大変だけれど、あの時ほどではないもの。数百年もひどい目に遭ったわ」


「神もラクじゃないわよね~」


「あなたねえ、ほとんど何もしていないじゃないの。きちんとしなさい、もう大人なんですからね。自分の星を持った以上、それには」


「はいはーい。じゃ、お姉様、あたし一度帰って来るわね。一瞬で戻って来るから~ じゃあ後でね~」




***




「ああ、マーちゃん、どう? 最近は」


「はい! すくいぬし様~ げんきいっぱいです!」


「そう。神聖国も労働力が増えたからさ、眷属のみんなも適当に人数を減らしてもいいよ」


「はい! ありがとうございまーす! でも、けんぞくもたのしくしていますので、だいじょうぶです!」


「そっか。ありがと。蜂蜜もいつもたくさんくれるし……そういえばさ、マーちゃん達はこの世界の受粉もしているんでしょ?」


「はい! そういうしくみに、めがみさまがととのえました!」


「あ、そうなんだ。じゃ、義務、みたいな感じかな」


「はい! でも、そこはてきとうでーす!」


「はは……この世界は緩いもんね。でも、ごめんね、受粉義務もあるのに、今まで畑仕事もしてもらっちゃってさ」


「だいじょうぶでーす! たのしいので!」


「ミチイル様! 大公がお見えです。急用の様でございます!」


「あ、そう? 何だろね」




***




「ミチイル様、お呼びだてして申し訳ありません」


「それはいいけど、何があったの?」


「はい。エデンの王国で兵を集め、神聖国に宣戦布告をして来ました」


「は? でもエデン人は北部には来れないでしょ」


「それが、南部に残った混血の民が南村の交易口に来ております」


「挙兵して?」


「はい。人数は数百人のようですが、森林地帯の周辺には、数千のエデン人が武器を持って集まっているようです」


「そうなの? それはどこの情報?」


「はい。交易口に来た混血民が申しております。それと、スローン人も千人単位で武器を持って、こちらへ向かっているとか」


「はあ。スローン人はここに侵攻できるからな……で、戦争をするって?」


「はい。それで……」


「ん? 何かまずい事でも?」


「……はい。救い主を差し出せ、と……」


「えっと、僕を差し出せ?」


「はい。救い主を差し出せば、戦争は止めると申しております。そして、救い主を差し出さない場合、人質を一人ずつ殺して行く、と……」


「何だって! 僕が行かないと?」


「……はい」


「人質はどこにいるの?」


「スローン人が連れてくるようです」


「まだ着いてないんだね。それで、いつ戦争するって?」


「今日の所は宣戦布告だけだと言っています。後は、人質が着き次第、何か動きがあるのでは無いかと思うのですが」


「じゃあ、僕が行くよ」


バタン!


「ダメよ! 絶対にダメ!」


「母上……」


「そんな事、絶対に許さないわ!」


「そうですね、神聖国としても、ミチイル様が行かれるのは許容できません」


「でも、攫われた人たちが殺されちゃうよ!」


「……こういう言い方はしたくは無いのですが、救い主様と比べられるものでは無いのです。言葉を恐れずに言えば、人質の代わりは居ても、ミチイル様の代わりはいらっしゃいません」


「……そうよ。わたしが母だから言っているのでは無いわ。ミチイルは欠くことができない救い主なのよ。そして、ミチイルを守ることは女神様の御指示。神聖国としても、ミチイルが行くのは認められないわ」


「本当は、ミチイル様にも内緒にして置こうと思ったのですが、それは女神様の民として、してはならない事だと……なので、ミチイル様にお知らせしました。ですが、ミチイル様には行って欲しくはありません」


「でも……」


「とりあえず、人質が到着してから考えましょう。人質が確認できれば、夜中にマーちゃん達に救ってもらえるでしょう?」


「あ、そうか。そうだよね……それまでに殺され無ければいいんだけど……」


「向こうも、ミチイル様を確認しないうちに人質を殺しはしないのでは無いでしょうか。殺してしまえば、人質の価値が無くなります」


「でも、見せしめに一人くらい殺したり」


「目の前で殺さなければ、見せしめの効果が半減します。交渉もろくに行わないまま人質を殺せば、人質を連れて来る意味がありません。人質を連れてきて、一人ずつ殺すと言っているという事は、交渉に使うからでしょう」


「そうね。いま殺すくらいなら、最初から遺体を持ってくればいいんですもの、すぐに殺しはしないわ。マーちゃん達が助ける時間は充分稼げるはずよ」


「はい。最初から救い主は出さない、と言ってしまえば交渉になりませんので、取り合えず、救い主には準備が必要だから、準備が整い次第、交渉する余地があるとでも言っておいて、時間を稼ぎましょう。夜になってしまえば、マーちゃんが動けるでしょうし」


「はい! おまかせください! なんなら、いまからでもだいじょうぶです!」


「そうよね、もう神聖国に籠るのですもの、マーちゃんの存在が知られてしまっても、それほど問題は無いのではないかしら」


「そうかも知れませんね」


「いや、マーちゃん達が飛んで行っている隙に、一人二人は殺されちゃうかも知れないじゃない。いくらマーちゃん達のスピードが速いと言ったってさ、明るいうちなら飛んでくるのが見えるんだもん。刃物で刺し殺す方が速いと思う」


「ふむ、そうかも知れませんが」


「とにかく、お兄様、交渉するから時間をくれと言って、少しでも引き延ばしてちょうだいよ」


「わかりました。ミチイル様は、くれぐれも別邸から動きません様、お願い致します」


「ミチイルはわたしが見ているわ。お兄様、よろしくね」




***




――そして、ようやく女神(くそ)が戻って来た




***




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