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2-52 不明

「ミハイル様、少々問題が起こっているようでございます」


「ん? ソフィアからの至急便か。どれどれ……は? 売り上げが激減しているのは置いておくとしても……従業員が居なくなったって?」


「そのようでございます」


「一人二人ならまだしも、何人も?」


「はい。何かが起きているのでは無いでしょうか」


「姉上はエデンの事を何か言っていたかな……いや、手紙もないし、セルフィンの姉上は何も知らないだろうね」


「確認の必要がございますね」


「そうだね……とりあえず、スタイン侯爵に確認してもらおう。誰かは配送に行っているだろうしね」


「かしこまりました」




***




「ミチイル様、お時間をいただいて申し訳ありません」


「うん、それはいいけどさ、何があったの? 伯父上」


「はい。中央エデンのアルビノ商店街で、行方が分からない神聖国民が多数いるようなのです」


「え?」


「スタイン侯爵家に確認させましたが、間違いないようです」


「誘拐?」


「確証はありません」


「いつから?」


「それも、はっきりしておりませんが、少し前あたりからチラホラと出勤して来ない神聖国民が居たようです。この所、中央エデンの商店街の売り上げが激減していたので、人手が不足もせず、しばらくは問題だとも思っていなかったようです」


「売り上げが激減? 何か理由があるの?」


「はい。商店街で物を買うと呪われるとの噂が広まっているようです」


「バカバカしい噂だけどさ、噂だけじゃ実際に客がそこまで減らないでしょ。何か実害でも発生したかな」


「わからないのですが、ソフィアが学園で話を集めたところによると、商店街の商品を食べて体調を崩すものが多く居たとか」


「食中毒かな。でも、冷蔵車で運送しているし、生ものは出して無いし、食中毒になるとは思えないけど」


「私には食べ物の仕組みはわかりませんが、商店街や寮では体調不良のものは居りませんので、エデン人にだけ、体調不良者が発生しているのではと」


「中央エデンの王家は何か言っていないの?」


「わかりません。姉上からも手紙も来ておりませんし、そもそも王族が下々の事を気にするとも思えませんから、把握もしていないかも知れませんね」


「うーん、さすが王国。でも、普通に考えれば、標的を絞ったテロ……って事……なのかな。死んじゃったりした人はいるの?」


「わかりませんが、そういう話は無かったようです。ですが、流産などが多くなったとの話もあったようですが」


「流産って……そういえば昔に聞いたような……毒?」


「……確かに、子を流す毒がありますね。神聖国では使われなくなって久しいですが、スローンでは使われているでしょうね」


「エデンでは使わないの?」


「その毒草は北部にしか生えてませんので……」


「え? じゃあ、神聖国でもそこら辺に生えてるの?」


「ブッシュ地帯に、まばらに生えていると思いますが、今は雑草を食べなくなりましたから、誰も確認はして無いでしょうね。でも、生えていると思います」


「そんな恐ろしい毒がそこら辺に生えてるなんて……間違って食べたりしたら大変じゃない」


「食べても死んだりはしないと思います。それこそ、一日程度調子が悪くなるくらいと聞きますし。……子が流れる際には、もっと大変なのでしょうけど、わかりません」


「そう。人を無差別に殺すような毒では無さそうだね。それで、売り上げが減っていると言う話だけどさ、具体的にはどのくらい?」


「はい。私も確認するまで把握していなかったのですが、十分の一程度にまで落ちていました」


「そんなに? しかも急に?」


「はい。ミチイル様が学園を卒業する頃から、減り続けていました」


「じゃあ、まだ三か月くらいじゃない。もうテロ確定だと思う。僕、中央エデンに行ってくるからさ、中央エデンアルビノ商店街は引き払おう。伯母上はどこかな? 何か知っているといいんだけど」


「連絡がないので、おそらくセルフィンにいるのだと思います。少し前に、何か大変に重要な事案が世界に登場したから、しばらく掛かりきりになるとか、そんな話があった気がしますので」


「あ、母上もだし、エデンの魔力のせいかな。まあ、セルフィンで色々やっているんだったら伯母上に危険はないね。とにかく、中央エデンの商店街は撤収。神聖国民は全員帰国。そして、中央エデンでの商売も中止。撤収は僕が一人でできるからさ、足軽運送に、人の運送を手配しておいてもらえる? 伯父上」


「かしこまりました」


「とりあえず、持てる荷物だけ持って一旦セルフィン南村に退避させよう。そこからは、なるべく急いで公都に戻れるようにしてもらえる? 普段よりはコーチが必要だと思うから、その点もよろしくね」


「もちろんです」


「それと、遅くても明日の夜には中央エデンの商店街は閉鎖撤収するからね、その前に連絡が届くようにしてもらえる? 今はまだ朝だし、至急便で夜になる前に連絡できるでしょ。そうすれば、明日の昼には全員退避できると思うから。それとさ、商店街を撤収するから、当然学園の寮も撤収になるんだけど、どうする? 寮が必要なら原始的な建物でも代わりに置いておくけどさ、もう学園からも引き払った方がいいと思う。いつ、どんな危険があるか、わからないから。神聖国民が誘拐されるんなら、学園生だって誘拐されちゃうし……」


「かしこまりました。今日中に連絡が届くようにして、直ぐに全員、中央エデンからは退避させます」


「うん、お願いね。それとさ、僕、セルフィンに寄ってから中央エデンに行くからね、伯父上は準備しておいて欲しいの」


「勿論ですが、何を」


「うん、公都とか……………………しておいてもらえる?」


「かしこまりました。問題ございません」




***




「伯母上、お久しぶりだね」


「ミチイル様、ご無沙汰致しております」


「お祖父さまはどうしてるの?」


「はい。農業指導をしていると思われますが、本日は急に、どうなさいましたか?」


「うん。伯父上からも連絡が来るとは思うけどね、中央エデンで神聖国民が居なくなった。おそらく誘拐だと思う」


「なんですって! あ、これは大変な失礼を」


「うん、いいのいいの。時間が無いからね。伯母上、最近中央エデンに行った?」


「いえ、ここ一か月ほどはセルフィンに居りました。特に最近は色々と……」


「ああ、神24ね。それはいいんだけどさ、中央エデンのアルビノ商店街の売り上げが落ちているって話だけど」


「その話は聞き及んでおりますが、元々かなり混み合っていたので、従業員の負担が減って、ちょうど良いと伺っております」


「うん。でも以前より売り上げが十分の一くらいにまで落ちているらしいんだけど」


「なんですって! あ、」


「いいのいいの。伯母上も最新情報は知らなかったんだね。僕も今日聞いたばかりだもん。それでね、中央エデンから神聖国は引きあげる」


「左様でございましたか。それでは、わたくしは中央エデンに参ります。王室を締め上げますので」


「いや、僕が行くから。もう王室とは関わらない。伯母上、セルフィンの民は行方不明者とか居ない?」


「特に報告は上がって来ておりません。……ただ、神聖国内は人も物も流動が活発でございますから、見知った人がしばらく居らずとも、本国へ行ったのかエデンに行ったのか……全員が把握している訳ではございませんので……」


「ああ、そうか。人が動くと、そういうリスクもあるんだね……それで、スローンのスパイとかはどう?」


「はい。出入りは防げませんが、大きな動きの報告はございません」


「でも、確認はできないんだもんね……仮に、スローンがさ、仮にだけど、セルフィンに攻めて来たとしたら、民は守れる?」


「……正直言えば、わかりません。スローン人が全員押し寄せてきたら、とてもではございませんが、守り切れるとは思えません」


「戦える人はいる?」


「北で魔獣と戦っている者も居りますから、それらは戦えるでしょうが、子供が増えましたので、セルフィンを守り切る事は難しいと存じます」


「そうだね。武力の戦争は、あまりしたくないから想定して来なかったんだ。でも、国民が攫われたとなるとさ、攫われた人を助けるのはもちろんだけど、新たに攫われたりする危険性は排除したい。伯母上、とりあえず戦えない国民、女性と子供、年寄りね、それと戦うのに自信が無い人とかね、そういう人たちを先にアタシーノの公都へ避難させてほしい。そしてその後には残りのセルフィンの民を全員、公都に避難させて。伯父上には受け入れ体制を整えてもらっているから、どうしても持っておきたい大切な物だけ持って、後はそのまま放って、急いで本国へ避難させて」


「かしこまりました。神聖国民は、ほとんど私物はございませんので、多少の荷物で移動できるはず。ですが、本国でセルフィンの一万人以上もの民を、受け入れ可能なのでございましょうか」


「うん。公都はね、四区に分かれているんだけど、もともと三区分しか使ってないの。その三区分も余裕がある状態だね。商売が大きくなって、あちこちで暮らす人が増えたからね。それで、残りの一区分は、職人たちが、言わば訓練のために建築した区画なの。だから、そこは住宅は有るけどまともに使ってないから、そこだけでも詰めれば5000人とか、もっと住めると思う。他にも空いている住宅も多少はあるだろうし、それに公共の施設もあるからね、一時的にはそこにも何千人も収容可能だから。だから、セルフィンの人が全員来ても、当面は問題ない。万が一、もうセルフィンに戻れなくなったとしても、僕がすぐに住宅を建てるから、心配ないよ」


「左様でございますね、ミチイル様がいらっしゃるのですもの、何の憂いもございません。直ぐに国民を移動させます。健康な者は歩いて向かわせますし、子供や年寄りは、コーチを総動員して往復させましょう」


「うん。歩くと一泊の必要があるかも知れないね。食料は持って行ってもらって。食料はね、中央エデンに商品はもう必要ないし、本国にも在庫はあるし、増やそうと思えばいくらでも増やせるからね、心配はいらない」


「勿論でございます。ミチイル様のなさる事に、万の一つも不足などございません」


「はは……頑張るよ。もしかしたら、みんな二度とセルフィンに戻れないかも知れない。ごめんね、僕が世界に進出したばっかりに、こんな事になっちゃって」


「とんでも無い事にございます! ミチイル様が御降臨下さらなかったら、今でも奴隷生活を送っていただけでございます! ここへ置いていくのが惜しい物もございますでしょう。ですが、元をただせばミチイル様がいらっしゃらなかったら、手に入らなかった物ばかりでございます! これはミチイル様のご指示なのです! そのミチイル様が授けてくださった物を残して行く事に、何の憂いがございましょうや! それらは全て、元々ミチイル様の物にございます! セルフィンの民は、セルフィンの土地が一番ではございません。一番は女神様、そして救い主様でございます。むしろ、この辛い記憶の残っているセルフィンを捨ててしまえば、さっぱり心機一転でございます! さあ、時間がございません、ミチイル様。一刻も早く、完了せねばなりません!」


「そうだね、ありがとう、伯母上。それと今後、作務衣の着用は禁止するようにして欲しい。移動にも不便だし、避難の時はみんな普通の服を着るとは思うけど、神聖国ではもう作務衣は禁止にするから。スローン人と区別が付かないからね」


「かしこまりました。普通の服を着て喜ぶ民は多く居りますが、作務衣を惜しむ民などおりませんよ!」


「うん。それの徹底後はね、作務衣を着たアルビノ人は、スローン人って事になるからね。本国に人が急に増えるからさ、色んな判断材料は多い方がいいから」


「心得ております。ミチイル様、セルフィンの事は、わたしくが責任をもって全員を本国へ避難させます。ご心配には及びません。心置きなく、使命をお果たしなさいませ」


「うん、ありがとう。じゃ、もう行くね。後はよろしく」


「かしこまりました」




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