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2-51 秘密同盟

「おい、スローン大公! 例の物は用意したんだろうな!」


「……はい」


「さっさと寄越せ!」


「……何にお使いになるのでしょう?」


「そのような事、お前に関係あるまいが!」


「……集めたのはスローンでございます。エデンに無い草ですから、神聖国で無ければ出所はスローンだとすぐに判明してしまいます」


「だからどうした。お前らも神聖国のやつらに一泡吹かせたいのではないのか? ああん?」


「もちろんでございますが、スローンだけに責任を負わせられても困ります」


「フン、呪われた民の分際で、口答えすると申すか! まあよい。その草を煎じ、汁を神聖国の食いものに混ぜよ」


「……そのような事を行ったとして、私どもに何の益がございましょう」


「何様のつもりか! 身の程をわきまえよ! 死にたいのか!」


「どうぞ、お好きな様に。ですが、私が死ねば、草は手に入らぬでしょう」


「お前の息子に持って来させれば良いであろうが! このたわけ!」


「私が帰らねば、息子は神聖国に下るでしょう。そうすれば、シンエデン王国は世界から孤立。その覚悟がおありなのでしょうか?」


「何を! わしを脅すか! 草にも劣る分際で!」


「その草をお求めなのではないですか?」


「ぐぬぬ」


「草はお渡し致します。ただし、神聖国はスローンに頂きたい」


「何だと!」


「神聖国を手中に収めても、エデン人は北部には入れますまい。神聖国をスローンに下げ渡してくだされば、今の神聖国以上のものをシンエデン王国に納めましょう」


「……ふむ。一理あるな」


「では、ご了承という事で宜しいでしょうか」


「……仕方あるまい。だが、シンエデン王国に、溢れんばかりの紙幣を納めよ。良いな!」


「かしこまりました」


「では、草の汁を中央エデンにばらまけ」


「それは無理でございます」


「なぜだ」


「先ごろシンエデン王国へ納めた服や道具など、スローン人が神聖国から巻き上げた際に、やつらに警戒を与えております故、われらスローン人は、神聖国の従業員としては入り込めません」


「何だと! この愚か者めが! 役立たずにも程があろう!」


「今、スローン人が神聖国の商店街などに近寄れば、さらに警戒を与える事でございましょう。さすれば、偉大なるシンエデン王の計画は頓挫。どうなさいますか? それでもスローン人に行けと?」


「……仕方あるまい。草の汁はシンエデンの民に工作をさせよう。さっさと草を置いてけ!」


「かしこまりました。お約束はお忘れになりません様、お願い致します」


「お前らも、兵を挙げる準備をしておけ。やつらが弱ったら、攻め入るぞ!」


「かしこまりました」




***




「ひさしぶりだな、ウンターラ。この者は身元もしっかりしておる。是非、商店街で雇ってもらいたい。人物は、シンエデン王国のカンターラ侯爵である、このわしが保障する。なに? 神聖国に確認だと? そなたは親戚であるこのカンターラを信用できぬのか? なに? 採用権限が無いだと? そなたの紹介で商店街へ紹介してくれ。親戚のよしみではないか。王妃を輩出したウンターラ侯爵家なのだ、神聖国も無碍にはするまい。頼んだぞ、ウンターラ」


「久しいな、ナモナク侯爵。息災で何よりだ。そうだな、エデン会議はお互いに大変だな。宰相など、やるものでは無いか、誠だな。わしも引退したいわ。そなたもか……お互い苦労するの。それでな、ナモナク侯爵、この者を……」


「久しいの、ウゾー伯爵……この者を……」


「久しいの、ムゾー伯爵……」


「久しいの、……」




***




「なんか最近、このアルビノ商店街にエデン人従業員が増えたわね」


「そうね、急に増えた感じがするわね」


「パラダイスも大々的にエデン人に仕事を与えてるって話だしね」


「そうね。中央エデンもパラダイスみたいになるのかも知れないわね」


「さすが、ミチイル様ね」


「そうね」




***




「なんか最近、エデン人の客が減ったと思わない?」


「そうね、少し楽になったわね」


「商売が浸透して、需要が一巡したのかしら」


「そうね、そうかも知れないわね」




***




「なんか最近、神聖国の物を食べると呪われるって噂があるの、知ってる?」


「そうね、根も葉もない事だけど、そんな噂があるらしいわね」


「私たちが呪われているなんて、そんな事ある訳ないのにね」


「そうね。呪われているどころか、祝福されているのにね」


「ほんとうよね、エデン人は愚かね」


「そうね」




***




「お前、アルビノ商店街に行って来たのか?」


「おお、買い物は商店街が一番だろ?」


「呪われなかったか?」


「呪われる訳ないだろ。何年も前から買い物してるってのに、呪われるなら、もっと前に呪われるだろ」


「それもそうだな。何を買って来たんだ?」


「おう、奮発して牛丼だ」


「うまそうだな」


「やらんぞ!」


「ははは、俺も金を溜めて買いに行くかな」




***




「おい、牛丼買いに行ったか?」


「いや、まだだ。おいそれと買えないだろ、高いのに」


「買うのは、やめとけ」


「何でだよ?」


「牛丼食べたらな、調子が悪くなって、しばらくひどい目にあった」


「呪われたのか?」


「わからん。だが、体調を崩したってやつが多くいるらしい」


「そうなのか」


「ああ。俺も知っていれば、買い物に行かなかったのにな」


「俺も、気をつけるわ」




***




「ねえねえ、お隣の奥さん、お子さんが流れちゃったらしいわ」


「ええ? あんなに喜んでいたのに?」


「ええ。旦那さんなんて、お祝いだ、なんて言って、大枚叩いてカツ丼を買ってきてね、仲良く食べたらしいわ」


「ああ、もしかして、それでじゃない?」


「そうなのよ。噂があったのは知っていたけどさ、まさか、ね」


「そのまさかよ。皆が言っているのよ? 神聖国の物を食べたらダメだって」


「でも、お腹の中の子供にも悪いの?」


「それがね、お腹の中の子供こそ、一番悪いって話よ」


「ええ?」




***




「してカンターラ。首尾はどうだ?」


「はい、シンエデン王。既に多くの物を中央エデンのアルビノ商店街へ送り込み、工作をさせております」


「それはわかっておる! 結果を訊いているのだ! 報告せよ!」


「……はい。神聖国のアルビノ商店街では、客足が遠のき始めました。中央エデンでは噂が広まり、神聖国の物を食べると呪われる、子が流れると言われております。後少しの時間で、神聖国は尻尾を巻いて逃げ出す事でございましょう」


「そうかそうか、重畳重畳」


「もうしばらく、お待ちくださいませ」


「そうだな、下がれ」




***




「カンターラ! 一向に神聖国は逃げ出さんでは無いか!」


「ですが、かなり売り上げは減っているはずでございます。やつらも、そう長い事は耐えられないと存じます」


「パラダイスでは、なんの噂も無く商売をしておるのであろうが!」


「左様でございましょうが、パラダイスまでは、如何ともし難く」


「ええい、うるさいうるさい! そちはパラダイスにも親戚がおろう! そやつに工作員をねじ込めば良かろうが!」


「パラダイスでは、貴族制度が一新されました。ナンターラ家も、もはや宰相でも侯爵家でもございません」


「何だと! 宰相が宰相では無くなったと申すか!」


「左様でございます。今は、適当な者どもと寄り集まって、一子爵家として神聖国から紙幣を下げ渡されております故、何事をも成すことは叶いません」


「この役立たずが! 呪われたアルビノ人ごときに何をやっておるか! ナンターラをここへ呼べ!」


「無理でございます。そうでなくとも、パラダイス王国の貴族でございますから、シンエデン王が命じる事はできますまい」


「ええい、どいつもこいつも、役立たずが! お前ら下々は、王のために存在しておるのだぞ! はよ朗報を持ってこい! 下がれ!」


「……かしこまりました」




***




「なぜだ? スローンの民は、なぜセルフィンのやつらと同じことが出来ぬのだ? おかしいでは無いか」


「ですがスローン大公様、神の祝福が無ければ、何の仕事も思うようにできない、との事でございますから」


「そのような物があってたまるか!」


「しかし、セルフィンで仕事ぶりを盗み見たものが、何をどうしても同じようにはできないと申しております。只人には不可能な現象が起きると申しておりますが」


「そういえば父上、学園の新しい寮でも、不思議な事がありましたよ。誰も水を汲んでいないのに水が用意されていたり、お湯がずっと流れていたり、あれは何だったのか、調べられませんでしたが」


「はい次期大公様、どうやらそれは、魔法と呼ばれる現象のようです。セルフィンでは、何か言葉を用いて、その魔法というものを使っているそうでございます」


「なに? 学園の寮でも同じだったか?」


「いえ、父上。私が居た時には、特に何も聞いたりはしてませんよ。ただ、寮には何をやっても入ることが出来なかった場所がありましたね」


「なに? そこが、何か秘密が隠されている場所ではないのか?」


「わかりません。ケルビーンの子の部屋みたいでしたけど。寮の中でも一番奥の部屋でしたから、一番重要な場所には違いないと思います。その子は髪が金のように光っていて青い目で、ケルビーンの次期大公ですら様づけで呼んでましたし、重要なのには間違いありません」


「セルフィンでも、神に祈りを捧げる建物では、神と共に救い主とやらにも祈りを捧げているようだとの報告もございましたが」


「なに? 神の他にも? 救い主? 何を救うのだ? 主だと?」


「存じません。ですが、救い主のおかげで収穫ができるとか美味しいものが食べられるとか、そんな事を言っているようでございます」


「そういえば、寮でも聞いた気がしますね。寮にも祈りの部屋がありましたからね」


「そこで祈れば、作物が実るだと?」


「わかりませんけどね。でも、寮の建物も、どこにも無いような素晴らしい建物でしたからね。ここには戻りたくなかった位ですがね」


「大公様、アタシーノ大公は、女神信仰をすれば、全部解決すると、何度もおっしゃっていましたが」


「ええい! どいつもこいつも世迷いごとを言いおって。祈りをすれば建物が建つとでもいうのか! ばかばかしい、神など居るものか! だが、セルフィンが見違えるような国になったと言うのは事実なんだな?」


「それは間違いございません。わたしは実際見ては居りませんが、家の者を遣わして確認させました」


「そうでしょうね父上。寮のように豪華な建物は少なかったですが、そこまでで無くとも、アルビノ村はエデンよりも頑丈で立派な建物ばかりでしたからね。あのような建物が国中にあるなら、そりゃ見違えるでしょうね。それに比べれば、このスローンなど」


「だまれ! その救い主とやらが重要な秘密を持っているに違いない」


「そういえば、寮の建物も、工事もしていないのに次の日には出来ていたと、いう事がありましたね」


「なんだと? どういう事だ」


「知りませんけど、寮の建物が一日で増えましたよ。最初は無かったのに、ある日突然建物が増えた?足した?特に工事などはしてなかったのに、とにかく建物が増えたのです。そうとしか言いようがありませんね」


「どういうことだ?」


「大公様、存じません」


「結局何も判らんでは無いか! ええい、ここで話していても埒があかん! 誰かを攫ってこい! 拷問でもして秘密を聞き出せ!」


「無理じゃないですかね、父上」


「うるさい! 良いな、やつらを連れてくるのだ! 執事長に申し付けて手配せよ!」


「かしこまりました」




***




「あの子、今日はまだ出勤してないの?」


「わからないわ。でも、ここの所は商店街も仕事が少なくなったでしょ? もしかしたら神聖国へ帰ったのかもね」


「そういえば、彼氏がどうのこうのとか言ってたわね」


「じゃあ、彼氏に会いに帰ったんじゃないの?」


「それならそうと、誰かに断ってから帰ればいいのに」


「そうよね」




***




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