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2-46 国を買う

「で、どうしたの?」


「ええ。わたしもあまり詳しい事は分からないのだけれど、パラダイス王家がね、国を売りたいらしいの」


「国を売る?」


「ええ」


「意味がわからないんだけど」


「そうよね。わたしにも分からないけれど、なかなか大変な事態のようよ」


「マリア様、大公がお見えになりました」


「あら、そう。お通ししてちょうだい。あなたも悪いわね、こんな夜まで。お兄様をお通ししたら、もう上がっていいわ。ごめんなさいね」


「かしこまりました。ではミチイル様、マリア様、失礼致します」




***




「ミチイル様、急ぎ御帰還頂いて、申し訳ありません」


「それはいいんだけどさ、伯父上。何がどうしたの?」


「はい。エデン会議のため、パラダイスへ赴きましたが、会議の前にパラダイス王に呼ばれまして、そこでカクカクシカジカと申し出がありました」


「ええ?」


「何を言っているのか、分かっているのかしら、あの王家は」


「ほんとだよね~ 確かに、国を売るってのと同じじゃん」


「はい。表面上はパラダイス王国もパラダイス王家も存続しますが、実質は神聖国に併合、と言うよりも、完全に属国となるでしょう」


「パラダイス王家は、それでいいんだ?」


「はい。王としての責務を果たすのに嫌気が差したのでしょう。ここの所、国の運営が面倒くさくなって来ていて、そこへ来て電球を見てしまったので、太陽まで作れる神聖国にはお手上げ、と諦めてしまった感じを受けました」


「そうよね、わたしも最初は太陽にしか思えなかったものね」


「ああ、そうなのか。電球を見せつけて、購買意欲を高めさせたかっただけなのに……」


「それに、ここ最近は貴族はおろか、平民からすらもパラダイス王家は評判が悪かったのです。なにせ、紙幣を下げ渡さないのですから」


「でもさ、アルビノ人の人頭税の代わりの紙幣でしょ。エデン人が代わりに働いているのに、ちゃんと人件費を渡さなかったんだ」


「そうなのでしょうね。その方面は、足軽家の手も離れましたから、詳細は不明です」


「あ、そうだったよね」


「はい。それに加えて、神聖国が低レベルな仕事を用意し、多くのエデン人を雇っておりましたので、王家からの給料よりも神聖国からの給料の方が良いと、民の間では言われているようです。神聖国なら、給料に加えて制服も支給されますし」


「ああ、そうか。服は平民用でも給料の十か月分するからね、簡単には買えないもんね」


「はい。ですので、王家やパラダイス貴族に囲われるよりも、神聖国に雇われようとするエデン人が多いとの事です」


「ま、国民としては当然か」


「それはそうよ。楽な仕事をして、王家よりも給料が高くて、休みもあって、服まで貰えるんですもの」


「そうですね、その通りです。ですので、パラダイス王家を始めとして、貴族の求心力も無いも同然のようです。その貴族も、王家の言う事を聞かなくなっているようですからね」


「ふーむ。それで、今パラダイスの国全体分として払っている紙幣を、全部王家の物にする代わりに、国を売る、と。国家予算を私物化しようとは、なかなか強欲だねえ」


「はい。各貴族への紙幣の下げ渡しも、神聖国で行え、との事ですし」


「うーん。それだったら、足軽家みたいになるよね、パラダイス貴族は」


「そうよね。パラダイス王国の貴族では無くて、それはもう神聖国の貴族じゃないの」


「ですね。貴族たちがどう思うかはわかりませんが、王家が国を投げた訳ですから、自力で生きていくか、神聖国へ頭を下げるか、どちらかしか選択が残されていません」


「でも、自力で生きていくなんて、できるのかしら。紙幣が無ければ食べ物は買えないし、エデンの園も実質的に神聖国のものになる訳でしょう?」


「それなら、エデンのマッツァとかも手に入らないじゃん、神聖国から認められないと」


「はい。ですので、王国の貴族も民も、神聖国が生殺与奪の実権を握ったも同然となるでしょう」


「うわー、面倒くさい」


「ほんとうねえ」


「はい。とても面倒くさくて、いやになりますね」


「僕としては、国なんていらないんだけど。自由に商売ができて、自由に人が雇えて、自由に店も作れて、アルビノ人が自由に王国内で活動できて、民にも食文化が広まれば、それで良かったのに」


「まあ、仕方が無いわよ。エデン人が、わたしたちの想像よりも愚かだったのだもの」


「そうですね、パラダイス王も、自分は王であり続けるつもりでしょうが、何の権力もなくなるのであれば、誰も王として扱わなくなるでしょうね」


「そうだよねえ。足軽家にマッツァの対価を要求した時から、何となく王権の根源を分かって無さそうな感じはしたけどさ、ほんとに分かって無かったとは」


「それより、永久に紙幣を渡し続けるなんて、できるのかしら」


「それは無理でしょうね。ずっと後の事なんて、誰にもわかりませんし」


「そうよね、北部の三公国ができた時だって、まさか何百年も子孫が奴隷扱いを受けるとは思っていなかったかも知れないものね」


「そうだよね~ そんな先の事なんて、誰にもわからないよ。女神様にもわからないはず」


「そうなんですか?」


「うん、そうらしいよ、伯父上。……うん、そうか。これも……あれの結果だね」


「あれってなあに? ミチイル」


「うん、ちょっと色々あるんだけどね、この先、この世界で争いごとが増える可能性があってね、今回のも、その一つかも知れないなって思って」


「そうなのですか? 特に争いが起きそうな感じもありませんけど」


「うーん、僕にもはっきりは判らないかな。でも、考えることがたくさんあり過ぎて混乱するんだけどさ、女神信仰と食文化を広める、って事だけに焦点を当てて考えてみるとすれば……自由に出来る事が増えるって事だし……悪い事では無いかも知れない」


「そうね。王国を自由にしていいんですものね、やりたい放題できるじゃない!」


「かも知れませんね。紙幣を発行しても、どうせ神聖国に戻って来ますしね」


「そうだよね。紙幣の分、商品を用意さえできれば、紙幣は発行し放題だからね」


「そうよ。平民にはほどほどに、そして貴族には高額なものを売りつければいいのよ。紙幣を大盤振る舞いして、超高額商品を売りましょ!」


「確かに、それで問題が無い気もしてきました」


「うん、そうかもね~」


「で、具体的には、どうしましょうか、ミチイル様」


「うん、まず、王家の要求は飲もう。毎月金札2万枚の2億円だね。王家って何人くらい居るの?」


「そうですね……大公家と変わらないくらいでは無いでしょうか。20人くらいですかね」


「単純に割れば、一人月に1000万円のお小遣いか……王家の分家はどうなの?」


「はい。王家の分家は公爵家です。そこには王家の半分以下の元王族がいると思います」


「あ、そう。ならさ、公爵家は廃止しよう。王家に併合するもよし、知らんぷりするのも良し、パラダイス王家に任せる。もうパラダイス王家に分家はいらないでしょ。どうせ何十年後とかには一貴族になってると思うしね」


「そうね、それで充分だと思うわ」


「ですね。王家は自分たちだけ良ければ構わないと思いますから」


「うん。王家の要求は他には無いの?」


「継続的なものはありません。ただ、コーチを献上しろと言っていますし、牛と御者も神聖国で手配せよ、との事でしたが」


「ああ、本当にわかってないんだね。じゃ、いいよ、言うとおりにしてあげて。その代わり、もう献上は無しね。欲しいものは紙幣で買ってもらってくれる? 伯父上」


「かしこまりました」


「後の貴族だけど……面倒くさいから基本的に取り潰しにする」


「まあ! とってもステキだけれど、反発がすごいのではないのかしら」


「そうですね、大混乱になるのは必至だと思います」


「うん、だからね、新たな貴族を神聖国が認めるの。パラダイス貴族は廃止、そして神聖国が新たに許可って感じね」


「それなら、今とあまり変わらないのではないのかしら」


「うん。だからね、パラダイス王国の貴族たちは、全員子爵以下にする。ま、基本的に子爵かな。そしてね、どのくらい貴族が居るのかわかんないんだけど、一子爵家あたり100人でまとまってもらう」


「今の貴族家では平均的に、一家20人程度では無いかと思いますが」


「うん、だからね、今のパラダイス貴族の家は存続できないの。適当に合併してまとまって100人以上にならないと、貴族として認めない事にする。そうすると、貴族の家の数が減るでしょ。何十家もあっても面倒くさいしさ」


「それはいいんじゃないかしら! いやなら勝手に生きていけばいいんですものね! 別に強制でもなんでもないもの」


「うん。そして子爵家には金札を毎月1000枚渡そう。パラダイス貴族って、総合計で何人くらいなの? 伯父上」


「そうですね……王家関係は除外するとして、南部貴族の足軽グループも除外すると、2000人くらいではないでしょうか」


「じゃあ、子爵家は最大で計20家ね。それ以上は認めない」


「かしこまりました」


「そして、公爵家含む王家はそのままでしょ、ついでだから神聖国の貴族制度も刷新しよう。ケルビーン大公家とセルフィン公爵家はそのまま、新たに侯爵家を新設して、セバス男爵家をセバス侯爵家に、そしてスタイン男爵家もスタイン侯爵家にしようか」


「それはいいわね。仕事ぶりを考えると、妥当な配置よ」


「そうですね。セバス家は事実上、神聖国の宰相家ですから」


「うん。これを機に宰相家にしよう。そして伯爵家も新設する。まず、セルフィンの執事の男爵家ね、これは伯爵家に、そしてアルビノ人の準男爵家も全部、伯爵家にする。これを合計10家」


「いいですね」


「そうね、準男爵家も報われるわね」


「うん。そして、パラダイスのアドレ侯爵家をアドレ伯爵家に衣替えしよう。表面上は下がっちゃうけど、正式に神聖国貴族に迎える。混血だからね。そして、旧パラダイス貴族をまとめてもらおう」


「そうですね、旧パラダイス貴族の頂点と言ったところでしょうか」


「うん。スタイン侯爵家は現業仕事あるしね、南部の商売も開始したでしょ、貴族のとりまとめはアドレ伯爵家にやってもらおう」


「それがいいわね。スタイン侯爵家の負担が増えすぎるのも問題ですものね」


「うん。ここまでがアルビノ人もしくは混血の貴族ね。伯爵以上がアルビノ血脈になるようにする。その方がわかりやすいしさ、魔法が使える貴族だから、区別のためにもね。そして、さっき言った旧パラダイスの貴族たちの子爵家が20家ほど、子爵以下は主にエデン人ね」


「男爵家はどうなるのですか?」


「うん。神聖国としては男爵家は設けない。各貴族家が自由に男爵家を創設することを認めるの。そして、その男爵家を養っていくのも、創設した子爵家以上の貴族ね。神聖国ではノータッチ」


「そうね、そんな末端貴族まで気にしていられないわよね」


「ですね。要は、今の足軽グループと同じ扱いですね」


「うん、さすが伯父上、理解が速い! パラダイス貴族を一絡げにしちゃうからさ、適当な貴族の名目でもないと反発があるかも知れないからね、後はよろしくやってよ、って感じかな。神聖国では男爵家に紙幣は払わないし、何も支給もしない。養っていくのは、寄親ね」


「そうすると、気軽に男爵家を作ることもできませんしね、貴族の総数をコントロールするのにも都合がいいでしょうし」


「でも、男爵家には紙幣を払わないというけれど、他の貴族たちには紙幣を支給するのかしら?」


「うん、全部の家じゃないけどね。いい機会だから、ここらで神聖国の歳出をまとめてみようか」




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