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2-45 社交

「いいか、我々偉大なるエデン人は、うんたらかんたら……」


「さあ、難解な引き算を致しますよ! 17-1は? はい、そこのあなた」


「見ろ! 良く見たか! 見たな! いや、まだだ……」




***




「はあ、何たる無駄時間」


「ほんとだよね~」


「左様でございますね」


「ミチイル様、さっさと帰ろうよ~」


「そうだね、コーチは来てる?」


「はい、手配済みでございます」


「ミチイル様」


「お、キャンティ。何か久しぶりな気分だけど」


「ミチイル様に満足に御挨拶も叶わず、大変な失礼を致しております。ここの所は夜までカフェが長引いておりまして……」


「そうなの? ちゃんと休んでる? キャンティ」


「はい。週休日がございますので、休ませて頂いております。お心遣い、痛み入ります」


「なんかさ、話し方が仰々しくない? 伯母上の影響かな」


「とんでも無い事にございます。これでも敬意が足りない程でございます。どうぞ、ご容赦くださいませ」


「はあ、ほどほどにしてね。それで、何か用があった?」


「はい。大変心苦しいのですが、ミチイル様に、お茶会にご出席頂きたいのでございます」


「お茶会?」


「はい。学園カフェで行っておりますが、多くの学園生が、恐れ多くもミチイル様とご一緒したがっておるのでございます」


「僕とお茶を飲んでも、別にいい事もないと思うけど」


「そのような事はございません。中央エデンの社交界では、ミチイル様に近づこうなどと大それた夢を見ている者どもが多いのでございます。学園では、及ばずながらわたくしが差し止めておりますが、このままではミチイル様に、草にも劣る迷惑な雑色どもが近寄ってくる可能性がございますので、お茶会でお茶を濁そうと愚考致しました」


「はあ、僕、濁ったお茶とか飲みたくないんだけど……」


「ミチイル様、ものの例えでございましょう」


「わかってるよ、シェイマス。それでさ、お茶会に出席すれば、それで皆が納得するの?」


「はい。ミチイル様に声をおかけするのは厳禁に致しますので、ミチイル様は、ただ、同じ空間でお茶を一杯だけ、お飲み頂きたいのです」


「それって、何の意味があるの~?」


「はい、シモン様。ミチイル様とお茶会に出席した、という事実が重要なのでございます」


「ミチイル様とご一緒した、という事が社交で効力を発揮する訳ですね」


「はい、シェイマス様」


「そう。何だかよくわからないけど、誰とも口をきかずにお茶を一杯飲めばいいんだね?」


「大変に心苦しいのではございますが、ご寛恕くだされば……」


「うん、わかったよ。キャンティもそれで楽になるんならいいよ。それで、いつ頃?」


「はい、本日でも明日でも、ミチイル様のご都合を最優先致します」


「じゃ、明日にしようか。明日は学園をさぼって、お茶会まではゆっくりしよう」


「さんせーい!」


「シモン様……」


「シモンは学園に行ってもいいんだよ?」


「ミチイル様~ せっかくの社交の機会なんだよ~? 学園の無意味な時間よりも、重要じゃなーい~? 中央エデンで食文化が広まる機会なんだしさ~」


「ふむ。そう言われてみれば、そうか。食文化だもんね、お茶会も。それが広まるんなら、確かに学園の授業よりも重要だよね。シモンは賢いね~」


「でしょ~」


「……お二人とも……」


「では、明日、お茶会の手配を致します。本当に申し訳ございませんが、何卒よろしくお願い致します」


「うん、わかったよ。キャンティも無理とかしないでね」


「頑張ってね~ キャンティ~」




***




「さて、面倒だけど、学園カフェに行こうか」


「ほんと、面倒くさいよね~」


「シモン様、昨日と言っている事が違うようですが」


「うわ……今日はまた、随分と混んでいるね」


「ミチイル様、お待ち申し上げておりました。本日は、大変なご足労をおかけ致しまして、申し訳ございません」


「いやキャンティ、ご足労も何も、寮から歩いて1分だけどね。今日も随分お客さんが居るねえ」


「はい。全て、ミチイル様とお茶会をするために集まった雑草どもでございます」


「え……うーん、なんか最近さあ、キャンティが毒舌なんだけど~?」


「ミチイル様~ キャンティも大変なんだよ~」


「左様でございますね。中央エデンの有象無象を相手にするのですから、苦労が偲ばれます」


「そう言えば足軽君は?」


「何でも、急用が生じた様でございます」


「あ、そうなの」


「ミチイル様、恐れ入りますが、こちらへお越しくださいませ」


「うん、わかったよ、キャンティ」




***




ザワザワザワ


「では、これより、ミチイル様をお迎え申し上げて、高貴なる女性のお茶会を開催いたします」


ザワザワザワ


「本日のメニューは、諸般の都合により、まんじゅうセットでございます。一刻も早くお召し上がりになり、即刻お帰りくださいませ」


「……なかなか毒舌じゃない?」


「そうだね~ でも頑張ってるよ、キャンティは~」


「アドレ侯爵令嬢の差配には、何も問題ございません、ミチイル様」


「なんか、まんじゅうを食べるのも久しぶりだな~」


「そーおー? 僕は結構食べてるけど~」


「シモン様は、いつもお茶会セットを召し上がっていらっしゃいますからね」


「ところでキャンティ、学園カフェは盛況のようだけどさ、何か問題はない? 大丈夫?」


「はい、ミチイル様。エデン人の平民従業員がメインで、入れ替わりもございますが、店の営業は問題ございません。調理は神聖国の調理人がスイーツを作ってくださっておりますし、客の滞在時間を減らし、回転率を上げる方が大変と言えば、大変でございましょう」


「うん、さっきの言い草だとさ、客が来なくなりそうだけど」


「とんでも無い事でございます、ミチイル様。掃いて捨てても根こそぎひっこ抜いても、生えてくるのが雑草でございますので」


「ぷっ キャンティ、かわいいのに、なかなか言うよね~」


「左様でございますね、シモン様。大変に良いエデン人の扱いでございます」


「いいの? なんか二人とも、過激派とかになってない? キャンティは言わずもがなだけどさ」


「ミチイル様が居ない間も、エデン人がワンサカすり寄って来て、大変なんだから~」


「そう、なんかごめんね、シモンも皆も」


「とんでも無い事でございます。メアリ様に、直々に薫陶を授けて頂いておりますので、中央エデン貴族のあしらいは心得てございます」


「あ、そう。なんか少しだけモヤっとする気もするけど、皆がそれで問題ないなら、いいか~」


「そうだよ、ミチイル様~ 今や、このカフェが中央エデンで一番有名な場所なんだもん~」


「左様でございますね、シモン様。下手な事をして、この学園カフェに出入り禁止にでもなったら、社交界で爪弾きにされる可能性もございますから」


「そもそも、いつの間に社交界なんてものができたんだか」


「メアリ様が創設なさいました」


「そうなの? キャンティ」


「左様でございます。メアリ様は、今やこの国の社交界を牛耳るお方でいらっしゃいますので」


「伯母上は、やり手だからね~」


「左様でございますね、シモン様」


「失礼いたします、シェイマス様」


「どうした?」


「はい。国元から急ぎの連絡がございました」


「わかった、すぐ行く。申し訳ございません、ミチイル様、少々席を」


「ああ、気にしないでいいよ」




***




「ミチイル様、神聖国から書状が届いております」


「ああシェイマス。僕に?」


「左様にございます」


「ありがと。どれどれ……」




***




「ハハキトクスグカエレ」




***




「はあ。何か分からないけど、直ぐ帰って来いってさ」


「それでは、手配を致しましょうか」


「うん、お願い。でも今から出ても、今日中に着かないじゃんね」


「手配だけ、一応しておきます」


「うん、ごめんね」


「ミチイル様、このお茶会の要件は満たされてございますので、どうぞ、ご遠慮なく執務においでくださいませ」


「いや、執務も何も無いけどね。ま、じゃあ僕は失礼するよ」


「じゃあ~ 僕も~ キャンティ、頑張ってね~」


「お集まりの皆さま、僕は先に失礼しますが、この後も、どうぞごゆっくりお過ごしください。では」


ザワザワザワ




***




「はあ、疲れた」


「ほんとだね~」


「それにしても、急用とかさ、なんだろうね」


「さあ~?」


「ま、行けばわかるか。今考えても何も分からないしね」


「そうだよ~ それより、今日の晩御飯は何にするの~? ミチイル様」


「そうだね~」


「ミチイル様」


「あ、シェイマス」


「急ぎの連絡が私宛にもございました。国の根幹にかかわる事態が発生した様でございます」


「へ? 問題があったの?」


「存じません。迎えを寄越すので、ミチイル様には待ってていただくように、との知らせにございます」


「迎え? 誰だろうね」


「存じません」


「ま、いっか。じゃ、部屋で休もう」


「僕も僕も~」




***




「もう夜になったけどさ、迎えは明日かな」


「そうなんじゃなーいー? もう真っ暗だし~」


「左様でございましょうね」


「……ミチイルさま~ ミチイルさま~」


「ん? 何か聞き覚えがあるような無いような」


プーーーン シュタッ


「ミチイルさま~ おむかえにあがりました!」


「ああ、マーちゃん。久しぶりだね」


「はい!」


「みんな元気かな?」


「はい! ありがとうございまーす!」


「ところで、こんな所まで何しに来たの? 誰かに見られたらまずいじゃない」


「はい! くらくなってからおうこくに入りましたので、だいじょうぶです!」


「ああ、そう? バレないならいいけどさ、お迎えって?」


「はい! ミチイル様をくにまでおつれしまーす」


「マーちゃんが?」


「はい! ミチイル様をかかえてはこびまーす」


「ああ、人も運べるとは聞いた気がするけどさ……」


「はい! ごしんぱいはひつようありません!」


「そ、そう? じゃ、お願いね」


「かしこまりました! では」


「あ、ちょっと待って。じゃ二人とも、僕は帰るからね、僕の部屋を閉めるから」


「わかった~ ミチイル様、気をつけてね~」


「どうぞ、お気を付けください。では、マーちゃん、宜しくお願いします」


「かしこまりました! ではミチイル様!」


「じゃ、後はよろし……ギャー」




***




「マーちゃん、びっくりしたよ、もう」


「だいじょうぶでーす」


「ま、そうだろうけどさ」


『そこの一級天使。救い主様に負担がかかっておる。もっと静かに落ち着いて運ぶように』


「か、かしこまりましたー アイちゃん様!」


「まあ、真っ暗でどうせ何も見えないしね、見えな過ぎて怖くも無いから平気だよ。マーちゃんの好きな様にしてね」


「はい! ミチイル様~」




***




「ミチイル、お帰りなさい」


「もう、何なの、また変な手紙よこして」


「急用なのよ。ずいぶん早かったわね」


「ふー、なんかすごく速かったんだろうけどさ、景色も何も見えないから良くわかんないよ。公都が近くなったらポツポツ明かりが見えて来たから、そうかなとは思ったけど」


「お疲れ様ね」


「うん、なんか2時間もかからないで戻って来た感じ」


「そうなのかしら? 誰もマーちゃんに運んでもらった事がないものね、わからないわ」


「それで、何があったの?」


「ええ。後でお兄様も来ると思うけれど……」




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