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2-44 エデン会議2

「パラダイス王、お呼びと伺い、参上致しました」


「アタシーノ大公、エデン会議の前だと言うのに、すまんな」


「とんでも無い事にございます。何か、ご用でもおありで?」


「うむ。中央エデン王家にコーチとやらを売ったそうだな」


「はい。エデンの王家では一番最初にご注文を頂戴致しました」


「それを、わしの王家にも納めてもらいたい」


「かしこまりました。コーチは金札2000枚でございますので、次月の支払いと相殺させていただきますが、宜しいでしょうか」


「うむ……そのコーチには、光り輝く小太陽が付いておるな」


「いえ、販売用には諸事情によりついておりません。王家にお納めするコーチは、照明としてオイルランプをつけております」


「そうか。……その、小太陽は何なのだ? わしも見たが、あれは正しく太陽そのものだったな。あのような太陽が神聖国では当たり前なのであるか?」


「はい。女神様の恵みにより、神聖国では平民でも使用しておりますが、アルビノ人しか使えませんので、王国にお納めするコーチには勿論の事、そのものもお売りする事はできません。ご了承の程を」


「……女神か。そのような者がいるとは思えんが、あの太陽があるのは事実であるな。そなたらアルビノ人は、様々なものを生み出し、この王国も豊かになっておると聞く。民が働き、うまい物を食い、服を着ておる。王国の歴史も数百年だがな、古い言い伝えにも無い暮らしであるな」


「左様でございましょうね。私どもも、日々、驚いておりますので」


「うむ、そうか……」


「それで、如何なさいましょうか、パラダイス王。コーチはお納め致しますか?」


「……うむ。コーチは……と言うかな……パラダイス王家は、パラダイス王国の運営から手を引く事にする。後の運営は、神聖国で行うがよい。パラダイス王家には、今まで通り、毎月金札20000枚を納めよ。そして、世々永遠に金札をわしら王家に納め続けよ。王家以外の貴族への下賜も、王家に代わりそなたらが行え。マッツァの供給も王家では止める。エデンの園も任せる故、そなたらが手配し、人件費を払え。王都の整備も、そなたらが人件費を払って行え。わしらパラダイス王家は、一切手を引く。パラダイス王国民の5万人を、そなたらが食わせろ。わしら王家は、一切、何もせん。その代わり、金札を納め続けるのだ!」


「……それは、パラダイス王国を解体し、神聖国とすると言う事でございましょうか」


「ならぬ! パラダイス王国は、パラダイス王国のままである! そしてわしは、パラダイス王だ! 王家は永遠に続くのだ!」


「はあ。ではパラダイス王家は何をなさるので?」


「何もせん! 何もせんから、そなたらに任せると言うておるのだ。いいか、そなたらに任せるが、国を傾かせることは罷りならん。シンエデンはおろか、中央エデンよりも上位の王国を維持するのが、そなたらの務めじゃ! よいな!」


「それは、私ども神聖国に何も益がございませんが」


「王国を任せると言うておる! 商売はもちろん、王国も王都も好きにせよ。王国民も好きなだけ雇え。エデンの園も自由にして構わん。エデンの園なぞ、もはや無用の長物であるからな。あそこにはマッツァと少しの果物しか無いではないか! 多少の花など咲いておっても、花など食えんぞ!」


「ですが、私どもはアルビノ人。王国の運営など、周りが納得するとも思えません」


「アルビノ人は最早、エデン人と対等ではないか! 条約はそなたが望んだ事ぞ! 文句を言うやつらには下賜する紙幣でも減らして従わせれば良いではないか」


「はあ」


「この偉大なるパラダイス王国の運営を行わせてやるのだぞ! 願っても無い栄誉だろうが! 太陽まで自由にできる神聖国ならば、五万の民を食わせることなど簡単であろうに!」


「……それでは、現在、王国の運営をなさっている宰相を始め、上位貴族の面々はどうなさるので?」


「好きにせよ。わしら王家は知らん。そなたらが爵位を与えるのでも取り上げるのでも、好きにして構わん」


「では、パラダイス王国は維持し、パラダイス王家は存続はしますが、国の運営を始め、人事権も手放すとおっしゃるので?」


「だから、そうだと言うておる! 貴族や民の言い分なぞ聞いたところで、王家の紙幣が増える訳では無いのだぞ! むしろ、王家が貴重な紙幣を下賜してやっておるのだ。なぜ、紙幣を下賜してやっている王家が、受け取っている乞食どもに文句を言われねばならんのだ! おかしいではないか!」


「そう……ですかね」


「そうに決まっておる! 王家が国の運営をするならばな、下々が感謝しながら王家に紙幣を支払うのが当然であるぞ。今のままでは逆ではないか!」


「まあ、そう……ですか。では、もう一度確認させていただきます。パラダイス王国とパラダイス王家は存続、国の運営はエデンの園および人事権、民を養っていく事も含め、神聖国が行う、王国内では王家や貴族の意向を聞かず、自由に整備も商売も貴族の任命、そして貴族籍剥奪も行っても良い、こういう事でよろしいでしょうか」


「うむ。任せる。王家に金札を毎月20000枚、世々永遠に納めよ。条件はそれだけだ。コーチは別に献上せよ。偉大なる王国を自由にできるのだ。その程度は当然である」


「世々永遠にというのは保障できかねます。ですが、私の代と、私の息子の代まではお約束もできるでしょう。しかし、このような重大事、私だけでは決めかねます。一度国へ帰り、諸事整えてから再度、お返事申し上げるのでも構いませんか」


「うむ、そうであろう。この偉大なるパラダイス王国を自由にさせてやるのだ。軽々に返事をされても困るのでな。うむ、殊勝な良い心がけである。褒めてつかわそう。コーチは返答の際に納めよ」


「かしこまりましたが、コーチは、牛と御者は別料金でございますので、その旨、ご了承ください」


「うむ。そなたらが国の運営を行うのだ。当然、王家のコーチの差配も、そなたらが行うのが筋であろう。よいな」


「……善処いたします」




***




「さて、今回もエデン会議にお集まりいただきまして、恐縮でございます。私、パラダイス王国の宰相、ナンターラが今回司会を務めさせて頂きます。これよりエデン会議を開催いたします」


「アタシーノ大公はどうしたのだ?」


「はい、シンエデン王。アタシーノ大公は諸般の事情により、欠席とのご連絡がございました」


「このエデン会議よりも重要な事が、あるはずもなかろう。そうは思わんか、諸王よ」


「朕は何も思わんの」


「わしも特に何も思わん。国を運営しておれば、そういう事もあろうものである」


「はい、中央エデン王、パラダイス王、貴重なご意見ありがとうございました。では、このままエデン会議を進行してまいります。最初の議題は、ある王国の中級貴族からの訴えです。外国では紙幣が流通しているのに、自分の国では紙幣が無いのは不公平であるとの事。これについて、各王のご意見をどうぞ」


「当然、シンエデンにも紙幣が支払われてしかるべきである。即刻、充分な紙幣をシンエデン王室へ納めよ」


「朕は何も思わんの。中央エデンでは紙幣は平民も持っておるんじゃからの」


「わしも特に何も思わん。紙幣が欲しければ、納めさせれば良いでは無いか」


「納めよと命じても、いう事を聞かんではないか!」


「シンエデン王国に魅力が無いからであろうな」


「左様。朕の中央エデンでは、命じても居らぬのに紙幣が供給されておるしの」


「フン……じじいが。この世界にシンエデンよりも偉大な国など無いわ!」


「ほう、そのような古い服しか着れぬ貧しい王国が、何を言っておるのか」


「ほんにのう。うまい物でも食うて、少し落ち着いたらどうじゃ? シンエデン王。うまい物が買えればの話じゃがの」


「はい、貴重なご意見ありがとうございました。では現状の通りという事で、次の議題に移ります。次は、ある王国の上級貴族からの訴えです。隣の王国では珍しい食べ物や服などが売られているのに、なぜ我が王国にはないのか、との事にございます。これについて各王のご意見をどうぞ」


「それはアルビノ人が無能だからだ! さっさとシンエデンにも物を寄越せ! 呪われた民が!」


「朕は何も思わんの。中央エデンでは商売を自由にさせておるのじゃからの」


「わしも特に何も思わん。物がが欲しければ、自由に商売をさせれば良いでは無いか」


「なんだと! 汚らわしいアルビノ人に国内を自由に歩かせろと? そのような悪政、偉大なるシンエデン王国では許さん!」


「はい、貴重なご意見ありがとうございました。では現状の通りという事で、次の議題に移ります。次は、ある…………」


…………


「はい、貴重なご意見ありがとうございました。本日の議題はすべて終了しました、つきましては」


「ナンターラ侯爵! お願い致します」


「どうぞ、スローン大公」


「はい、恐れ入ります。神聖国などと勝手に名乗っておるケルビーンとセルフィンが、スローンへ物資を届けず、自分たちだけで囲っております。その結果、世界の物資に著しい偏りがございます。なにとぞ、エデン会議のお力で、やつらから物資を取り上げ、何も持たないスローンにも供給していただきたく、お願い申し上げます」


「スローン大公のいう事、もっともだ。やつらから物資を取り上げ、偉大なるエデン人で管理するのが当然だ! 即刻、兵を差し向けよ!」


「何を言っておるのかのう。そのような事をしたら、アルビノ人が北部へ籠ってしまうではないのかのう。朕は現状のままで良い。ところでスローン大公、そちの国民が中央エデンで粗悪な品を許しも無く売っているそうではないか。そちの国にも売るものがあろうが。何も持たずとは、嘘はいかんの」


「左様。そんなに物資が欲しければ、神聖国に頭でも下げて恵んでもらうが良かろう、スローン大公よ。そなたがそのような物言いをする所為で、同じアルビノ人から毛嫌いをされておるのであるからな。ここには居らんが、アタシーノ大公に平伏してみては如何であるか、なあ、シンエデン王もそう思うであろう? ついでにシンエデン王も頭でも下げてみるが良かろうぞ」


「何だと! 偉大なるエデン人が呪われたアルビノ人に平伏せと! お前ら、それでもエデン人か! 痴れ者が! ええい、スローン大公、商売をしているというのは誠か!」


「……はい。ですが、少々でございますので」


「少々もクソもあるか! 誰のおかげで生きていられると思っているのだ! 一刻も早く、集めた紙幣を差し出せ! 良いな!」


「……かしこまりました」


「はい、それでは、現状を維持するという結論に達しました。各国おのおのそれぞれ、周知徹底をお願い致します。次回のエデン会議は…………」




***




――悪意の種が、花を咲かそうとしていた




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