2-39 学園カフェ
学園カフェがね、商売大繁盛なの。
もうね、一般人まで押し寄せてきてさ、揉め事一歩手前なのね。だから増築して客席を多くして、個室も作ってさ、一般にも開放する事にしたよ。
学園生メダルを持っていなくても、カフェは利用可能。その代わり、一人金札5枚ね。それでも、多くの客が来ているらしい。大人の貴族とかは、個室もあるからね、個室利用の場合は一人金札10枚に設定したけどさ、それでも利用が多い。
ま、紙幣の使い方から考えると、高位貴族なんだろうけど、僕は知らなーい。キャンティに任せてあるからね。
それでね、エデン人は、信仰、までは行かなくても、女神様の存在を意識するようになってきたらしい。ま、何か知らんけど、アルビノ人は怪しい神から祝福を貰ってるらしい、それで色々なものを作っているらしい、そして美味しいものが食べられるんだから、いいじゃんね?みたいな感じかな。
ま、女神様の存在を認識してもらうだけでもさ、無駄じゃないと思うから、このまま推し進めてもらうよ。
エデン人の従業員もさ、とっても増えた。
もちろん僕は、どこの誰とか全然わかんないけどね。でも、中央エデンでも、エデン人が多く働くようになるのは、いい事だと思うんだ。
まあね、人が増えると犯罪も増えるのかも知れないんだけどね、今のところは大きな問題も無いみたい。
それでね、エデン人の従業員にも制服っていうか、服を支給することにした。もちろん、平民用の無色リネンの服ね。今は金札250枚で売ってるやつ。それを神聖国で雇われているエデン人には支給してあげたの。もちろん、パラダイスも中央エデンでも。
そうしたらさ、エデン人がますます従業員に応募して来るようになっちゃってね、なんだか大変みたいよ。
今って、どのくらいのエデン人を雇っているのかなあ。パラダイスだけでも何千人も雇っているはずだし、中央エデンでも増えだしたから、もしかしたら合わせて一万人くらいにはなっているかも知れないね。一人一か月の給料が金札25枚の250000円だから、毎月25億円? 王家とかの分も合わせたら毎月30億円とか35億円くらいは世界中に紙幣を供給しているはず。あ、銅貨の両替分とかもあるのか。でも、神聖国では銅貨は欲しくないからね、無視しておこう。どうせスローンとシンエデンくらいしか使ってないし。それに、もう銅貨で買えるものは存在してないからね、その二国以外は銅貨も使わないし。
そして、その35億円とかの紙幣は、大半が神聖国に戻ってくる。そりゃそうだよね、ものを作って売っているのは神聖国なんだから。そして、また紙幣を流通させる、の繰り返し。これぞ経済って感じじゃない?
『はい、救い主様』
「ああ、アイちゃん。マーちゃん達は元気に働いてくれてる?」
『勿論にございます、救い主様』
「よかった。本当に助かってるよ。神聖国の生産能力がとっても増えたしね、おかげで世界中に貨幣経済が着実に広まってるもん」
『救い主様の、御業でございます』
「そんな事ないよ。皆が働いてくれてるしね、アイちゃんもマーちゃんも」
『とんでも無い事にございます』
「中央エデンでも、女神様の事が知れ渡って来ているみたいだしね、まあ、正しく認識はされていないかも知れないけどさ、今までは居ないと思われていたのに、それが、どうやら居るらしい、ってなったんだよ。大きな変化じゃない?」
『左様でございますね、救い主様。ですが、あの女神の本来の姿は、知られない方が、ある意味、幸せな可能性がございますが』
「そうなの?」
『はい。神の姿は、はっきりとしない方が神秘性がございますので』
「ああ、そうかもね。なにせ、神の秘密で神秘性なんだもんね~ そりゃそうか~ ハハ いつもアイちゃん、ありがと」
『救い主様の、御心のままに』
***
「さて、あちこち手配もしておこっと」
***
「メアリ・セルフィン公爵夫人、ようこそカフェへお越しくださいました。わたくし、このカフェの支配人を拝命致しております、キャンティ・アドレと申します。どうぞ、お見知りおきの程を」
「まあ、ご丁寧に痛み入りますわ。あなたは……パラダイスのアドレ侯爵家のアドレ様なのかしら」
「左様にございます、メアリ様」
「あら、では神聖国へ忠誠を誓ったお家のご令嬢なのね」
「はい。現在もこうして、ミチイル様のお慈悲を頂き、勿体なくもカフェを任されております」
「まあ、良い心掛けね! さすがミチイル様、とても良い人材をお育てでいらっしゃるわ」
「恐れ入ります」
「アドレ侯爵令嬢、宜しかったら、ここでお茶でもご一緒に如何かしら。お忙しいかしら」
「セルフィン公爵夫人、わたくしの事は、どうぞキャンティとお呼びくださいませ」
「あら、そう。では、わたくしの事もメアリと呼んで頂きたいわ。では遠慮なく、キャンティ、お時間はございますかしら」
「勿論でございます。カフェの方は従業員で運営できますので、ご迷惑でなければ、是非、ご相伴に与らせて頂ければ、光栄に存じます」
「まあ! 本当に教育の行き届いたご令嬢ね! わたくし、キャンティの事を大変に気に入りました。これからもどうぞ、仲良くしてちょうだいね」
「勿体なくも、メアリ様の御指示、ありがたく拝受申し上げます」
「ありがとう。そう畏まらず、もう少し普通に話してちょうだいね。それで、ミチイル様は学園なのかしら? いらっしゃらないとの話だけれど」
「はい。このお時間は学園においでではないでしょうか」
「そう。ではわたくしも、この素晴らしい建物でミチイル様のお帰りをお待ち申し上げる事に致します。ここでは、どのようなメニューがあるのかしら」
「はい。カフェですので、スイーツとお茶のお茶会セットがございます。以前から販売しております、焼菓子と紅茶のセットに、まんじゅうと緑茶のセット、そして琥珀糖と緑茶のセットがございます。また、新しくミチイル様が導入なさったスイーツもございます」
「あら、その新しいスイーツの話は、わたくしまだ聞き及んではおりませんわ。どのようなスイーツなのかしら」
「はい。比較的最近に導入されました、ホットケーキと紅茶のセットに、一番新しいメニューでは、羊羹や、みたらし団子と緑茶のセット、そしてクレープと紅茶のセットがございます」
「まあ! とても豊富なメニューなのね! 中央エデンの王室でも、ここのカフェの話題でもちきりでしたけれど、そのメニューはわたくしも存じ上げません。羊羹は以前から販売はございましたわね」
「はい。ですが、ホットケーキとみたらし団子、クレープは最近でございます。ミチイル様がおっしゃるには、ホットケーキとみたらし団子は神聖国でも少しは作られているとの事でございましたが、クレープは、このカフェが初で現在も、ここでしか販売されていないそうでございます」
「まあ! それならわたくしが知らなくても当然ね。では、ホットケーキとみたらし団子とクレープを、少しずつお願いできないかしら。ミチイル様の奇跡を拝見したいわ!」
「かしこまりました。ミチイル様の伯母上様でいらっしゃいますから、特別に指示をして作らせますので、少々お待ちくださいませ。お飲み物は紅茶になさいますか?」
「ええ、それでお願い」
「メアリ様、かしこまりました。そこの貴女、聞いていたかしら。そう、ではキッチンに指示をしてちょうだい。できあがったら知らせてもらえる? それまでは客席の方をお願いね」
「かしこまりました。失礼いたします」
…………
「あの従業員は、エデン人なのね」
「はい、メアリ様。ミチイル様の御指示で、エデン人を多く雇い入れる事になりました」
「ええ、そうね。エデン人を少しでも多く雇って、紙幣を王国に供給し、貨幣経済を発展させると伺っているわ」
「左様でございます。それで、この中央エデンでもエデン人を多く雇いましてございます。エデン人の采配は、スタイン男爵家令息様がなさっておいでです」
「ああ、足軽家の御子息ね。あのお家は忠誠心が高いですものね、任せるのに適任だわ。さすが、ミチイル様ね」
「はい、本来ならスタイン男爵令息様は学園を卒業なさる歳なのですが、ミチイル様のお役に立ちたいと、ミチイル様のご卒業まで学園生として残っていらっしゃいます。ミチイル様の人望が、そうさせているものと存じます」
「ほんとうね。素晴らしいミチイル様に惹かれて、優秀な人材が集まるのだと思うわ。キャンティの采配も素晴らしいわよ、良く頑張っているわね」
「ありがとうございます」
「それで、学園の方はどうかしら。何か変化はあって?」
「はい、ございました。以前は混血のわたくし共やアルビノ人は忌避されておりましたが、最近では逆に、エデン人がわたくし共に擦り寄って参ります。ミチイル様なぞ、並み居る御令嬢を避けるのに、ご苦労なさっておいででございますので」
「まあ! ミチイル様に惹かれてしまうのは当然なのだけれど、エデン人などは相応しくございません。教育もなっておりませんし、美的センスも無いも同然、上のものに媚びへつらっているだけの、そこらの草にも劣る者どもですからね、ミチイル様は相手にはなさらないでしょうけれど、ミチイル様の周りをうろつくだけでも、おこがましいわ」
「左様でございますね。ミチイル様は、周りの草など、お目の中にも入っていないご様子でいらっしゃいます」
「それはそうよ。そこらの雑草にいちいち目を止めていたら、道を歩けもしないものね。それにね、エデン人には居丈高に接しないとダメよ。こっちが下出にでれば、どんどんつけあがってくるのですからね。この世界の主導権は、こちらにあるのですもの。エデン人なんかに気を遣う必要なんてないわ。キャンティも心得ておきなさいね」
「かしこまりました。よろしくご指導のほどを、お願い致します」
「ええ、もちろんよ。何でもわたくしに相談してちょうだい」
「心強いです。ありがとう存じます」
「アドレ様、お茶のご用意が整いました」
「ご苦労様。貴方は個室から下がっていいわ。客席の方をお願いね」
「かしこまりました」
「まあ! みたらし団子は何となく分かるけれど、こちらとこちらが……」
「はい。この厚みのある方がホットケーキでございます。小さめに鉄板で焼いたケーキでございまして、ブドウジャムとバター、それぞれの味をお楽しみ頂けます。これは、温かいケーキでございますから、大変に柔らかく風味も豊かで、特にエデンでは温かいものは高級品でございますので、大変な人気を博しております」
「そうね。エデンでは加熱調理も割と最近の話ですものね。そうすると、こちらがクレープね。ホットケーキと比べると、見た目が少しシンプルな気がするわね」
「はい。こちらは、ナイフをお入れ頂きますと、中からカスタードクリームとイチゴジャムが出て参ります」
「まあ! ではイチゴジャムはエデンでも解禁したのね。カスタードクリームとは聞いたことが無いけれど」
「はい。カフェには冷蔵庫がございませんので、常温での配送も可能な様に、ミチイル様が考案なされたクリームでございます。こちらも、ラム酒の風味がございまして、まろやかで甘く、そしてイチゴジャムの鮮やかな赤色が、それは大変な評判となっております」
「では、頂いてみるわ……まあ!これはとて……」
…………
「……左様でございますね……」
「……そういう時は、こう言えばいいわ。そこらの有象無象の分際で……」
「……そう致しますと、ゴミを見るような目つきが大切なのでございま……」
「……そういう時には、こうよ!……」
「……それは大変に爽快な気分でご……」
「……オーッホッホ!」
「……ふふふ……」
***
――キャンティは、女傑の薫陶を受けてしまった
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