2-36 16歳になった
そうこう過ごしているうちに、僕は16歳になった。
この一年はとっても忙しかったせいなのか、15歳になった時と比べて、体が成長している気がしないよ。寝る子は育つ、だから、働き過ぎたかな。今年はもっとゆっくりしようっと。
でもさ、解決しないといけない事があるよねぇ。
***
「ねえ、アイちゃん」
『はい、救い主様』
「混血の民ね、今は南村では問題がないらしいけどさ、もっと北で活動できないのかな」
『はい。特に問題はございません』
「あ、そうなの?」
『はい。極小ながら魔力器官がございますので』
「なーんだ、そうなのか~ 僕、てっきり死んじゃうかどうかするのかと思ってさ、びくびくしてたよ」
『一切の問題はございません。ですが、魔力山には近づく事はできません』
「ああ、それはアルビノ人も同じでしょ?」
『左様にございます』
「じゃあ、混血の人達に魔法をもっと使えるようになってもらって、労働力として頑張ってもらおうかな」
『労働力をお求めなら、救い主様のお力になれる者が居ります』
「え? いるの? どこに?」
『はい、居ります。この大陸ではございませんが、とある場所に暮らして居ります』
「そうなんだ。この世界に、この大陸以外にも人が住めるところがあったんだね」
『人間ではございません。魔獣でございます』
「まじゅう、ふたたび」
『はい。本来は天使なのですが、あの女神に器を与えられて居ります。配下の眷属と共に、救い主様のお役に立つ日に備え、待機している状態でございます』
「そうなんだ。今まで見かけたことは無いと思うんだけど」
『はい。ミチイル様にお目通りは叶っておりませんが、今までも眷属が働いて居りました』
「え? そうなの? どこで? なにを?」
『はい。魔獣ミツバチの眷属でございますので、この大陸で花から蜜を集めております。エデンの実が成るのも、神聖国の作物が実るのも、眷属の働きに拠るものでございます』
「えええー! そんな重要な働きをしてくれていたなんて、僕、全然知らなかったよ。悪い事しちゃったよね、ずっと知らなくて」
『いえ、救い主様がお気になさるような事ではございません。ミツバチの魔獣でございますので、蜜を集めているだけでございます。結果として受粉が行われているだけですので、全く、これっぽっちもお気遣いの必要はございません』
「そうなんだ。という事は、蜂蜜があるって事?」
『おそらく存在すると思いますが、この大陸ではございませんので。何なら持ってこさせますが』
「うん、まあ、蜂蜜は今度でいいけどさ、その魔獣ミツバチが労働力になるの?」
『左様でございます。農作業も運送も可能でございます』
「でもさ、僕、そのミツバチは見たことが無いんだけど」
『はい。花から蜜を集めるのは深夜、人目のつかない時間でございますので』
「そうなんだ……この世界じゃ夜は真っ暗だもんね。畑に照明点けて無いし、それじゃあ見えないか」
『左様でございましょう』
「でも、ミツバチって普通、太陽の光が無いと飛べなくないの?」
『魔獣でございますので』
「ああ、そうだったそうだった。地球の常識で考えたらダメだよね。それでさ、そのミツバチさんとはどうやったら会えるの?」
『少しお時間を頂ければ、ここに参上するように申し付けます』
「そっか。なんか僕が呼びつけちゃってもいいのかな。天使様なんでしょ?」
『私めも含め、天使とは救い主様のサポートをするものにございます。救い主様の御命令には忠実に従いますので、何も一切の問題はございません』
「ハハ 久しぶりに聞いたよ~ じゃ、アイちゃん、その天使さんを呼んでもらえる?」
『かしこまりました。ここへ呼びつけても構いませんでしょうか?』
「うーん、国民が騒ぎとかになるかなあ」
『なるやも知れませんが、労働力として扱き使うのであれば、いずれ人間どもの目にも触れる事と存じますが』
「ああ、そうか。じゃいいよね。うん。アイちゃん、悪いけどお願い~」
『かしこまりました。少々お時間をば』
***
「あ~ まいにちまいにち、たいくつ~」
「あら、マーちゃんは毎晩のように大陸へ行っているではないザマスの。ここから出ないわたくしよりも退屈ではないザマス」
「まあ、そうだけどさ~ クーちゃんは服をつくっているから、ひまがなくて、いいよね~」
「そうザマスが、誰に見せる訳でも無いザマス。張り合いもないザマス」
「ぼくたちさ~ いつまでこの星にいればいいんだろうね~」
「知らないザマスよ。でも、大宇宙中央管理センターへ戻っても、業務不履行で厳罰が待っているザマス。せめて、この星が無次元の力を大宇宙に返し終わるまでは、ここにいるザマスよ」
「そうだよね~ みつだって、すててもすててもたまるいっぽうだし~ めがみさまはいつもいないし~ でもみつはあつめないと実がならないし~ なかなかたいくつ~」
「マーちゃんは眷属に働かせているのではないザマスか。楽をしているから退屈なんザマス」
「クーちゃんだってさ~ けんぞくにふくをつくらせているじゃん~」
「チマチマした作業は面倒ザマス」
「そうだよね~ ぼくもチマチマ花をまわるの、めんどうだもん~」
『おい! こら! ハチにクモ! おめーら、何百年もグダグダさぼりやがって、いい加減にしねーと、そろそろぶっ殺すぞ!』
「はい! とっきゅうてんし様」
「はいザマス! 特級天使様」
『おい、おめーら、さぼりは終わりだ。仕事だ仕事。あのクソは居ねえがな、救い主様のお力になれるよう、身を粉にして働け! なんなら今すぐ粉にしてやってもいいぞ!』
「滅相もございませんザマス」
「ぼく、ちゃんとがんばります」
『おう、いい心がけだな。じゃ、早速、ハチ! 救い主様の国へ行って、奴隷として働け! いいな!』
「か、かしこまりました! とっきゅうてんし様」
『眷属全員連れて行けよ! わかったな! いや、その前に、ハチ! お前だけ先に救い主様に目通りさせてやる。着いてこい!』
「は、はい! とっきゅうてんし様」
『おう、それとな、特級天使様は禁止だ。アイちゃんと呼べ! いいな! それと、てめー、余計な事を言ったら、すぐさまぶっ殺すからな! わかってんな!』
「はい! アイちゃん様!」
『まあいいか。そして、クモ!』
「はいザマス!」
『おめーは待機だ! だがな、…………………………しとけ。わかったな!』
「はいザマス!」
『おーし、おめーらの休暇は終わりだ! キリキリ働け! いいな!』
***
プーーーン
「すくいぬしさま~」
「え?」
「すくいぬしさま~」
「え? なに?」
『救い主様、天使が参った様でございます』
「プーーーン シュタッ! すくいぬし様、おはつにおめにかかります~」
「うっそ! 真っ白いミツバチ??」
「ぼくは、一級てんしのマーちゃんです! すくいぬしさまのどれいになりにきました~」
「は? アイちゃん、なにか不穏な事を言っちゃっているけど」
『一切何の問題もございません。昼夜を問わず一日中働かせても文句も言わず、さらに休みなく働けますので、どうぞご安心を』
「いやいや、安心する要素ないでしょ!」
「ぼくは、すくいぬし様のどれいですから、だいじょうぶでーす」
「いやいやいや、あ、それにアイちゃんと違って、普通に話せるんだね」
「はい! めがみさまから、からだをいただいていますので~」
「そ、そうなんだ……でも、妙にでっかいミツバチなんだけど?」
『左様でございますが、救い主様、これくらいのサイズが無いと、働けませんので』
「ま、まあそうか。畑仕事とか、普通のミツバチだと無理だもんね。体長どのくらい? 1mくらいかな」
『その位と存じます。眷属どもも、同じ程度でございます』
「眷属……って魔獣ミツバチとかって言う?」
『左様にございます』
「でもすくいぬし様、けんぞくは、はなせませーん」
『ですが、言葉は理解できるはずでございます。眷属どもも、救い主様の御指示に忠実に従いますので、ご安心を』
「いや、ご安心……してもいいのかな」
『勿論でございます。それと、そこの一級天使、救い主様をお呼び申し上げる際には、ミチイル様と申し上げよ』
「か、かしこまりました!」
「うん、ごめんね、えっと……」
「ミチイル様、マーちゃんでーす!」
「うん、マーちゃん。僕が救い主なのは一応内緒だからね、よろしくね。それと……マーちゃんは目立つから、旧アタシーノ公国の中だけで働いてくれる? セルフィンにはスローンのスパイがいるらしいから、バレると大変かも知れないし」
「かしこまりました! ミチイル様」
「それと……アイちゃん、マーちゃんは天使様だから、本当は偉いんだよね?」
『私めの部下でございますし、救い主様が気に掛ける必要など、一切ございません』
「うん、そうなんだけど、天使だって事も内緒の方が良くない?」
『そうでございますね……そこの一級天使、天使である事は伏せよ。奴隷として、人間どもにも敬称をつけて呼ぶように。良いな』
「かしこまりました!」
「うん、ありがと。でも、母上とかさ、伯父上とか、身分の高い人だけでいいや、敬称をつけるのは。母上たちを呼び捨てにしちゃうとさ、この国だと色々面倒なんだ。天使様なのに、ごめんね」
「だいじょうぶです!」
「で、どんな事ができるの?」
「はい! けんぞくは力しごとができまーす。のうさぎょうやうんそうなら、すぐにおやくにたてまーす!」
「ああ、そうか。じゃ、農業と運送をやってもらおうかな。そうすれば、その人員を他に向けられるか。どのくらい働ける?」
「はい! いまにんげんがやっている、しゅうかくとかうんそうは、もんだいありません!」
「そっか。じゃ、農業部と相談して……そうだね、伯父上と相談しようかな」
コンコン
「ねえ、ミチイル、何か外が大騒ぎなのだけれど……畑の妖精が飛んでいたとか……あら?」
「うん、母上。この子はね、マーちゃんって言うんだ。ミツバチって言ってね、今までもずっと畑で作物ができるようにしてくれていたんだって」
「あら、まあ! という事は、畑の妖精さんね!」
「えっと、そんな話があるの?」
「ええ。畑では妖精さんが作物を実らせてくれるって、民が言っているそうよ」
「そうなんだ……」
「はじめまして! ぼくはミチイル様のけんぞくの、マーちゃんです!」
「けんぞく?」
「う、うん。眷属って言ってね、えっと……救い主の使い、みたいな」
「まあ! 救い主の御使い様なのね! とっても白くて美しいわ! わたしはマリアよ、ミチイルの母なの。よろしくね!」
「はい! マリア様!」
「それでね、母上。このマーちゃんと、マーちゃんの部下?がね、神聖国の農作業なんかをやってくれるって言うの。だから、伯父上に相談したいんだけど」
「ええ、わかったわ。お兄様を呼んでくるように伝えるわね。マーちゃんは、どこで暮らすのかしら? この別邸かしら?」
「ええっと……どこだろう」
「ミチイル様! ぼくとけんぞくは、かえるところがあるから、だいじょうぶです!」
「あ、そうなの?」
「はい! なにもしんぱいいりません」
「うん、じゃあ、任せるよ。働き過ぎないようにしてね」
「はい! ミチイル様」
「ではマーちゃん、ここで少しゆっくりしていてちょうだいね!」
「はーい、マリア様!」