2-34 繁盛
学園レストランが大盛況になった。
シェイマスが管理している学園生のメダルも、あまり手元に残ってないらしい。ということは、現状でも100枚とか150枚くらいは流通してるんだもんね。シンエデンとかスローン以外の、ほぼ全員なのかな。10日に一回の利用としても、毎日10人は学園レストランに来てる計算だもん。
同伴者がいる時もあるだろうし、そう考えると、大盛況でも不思議ではないね。学園が終わってからいっぺんに来たら、大変じゃん。
メニューでも特に、ホットケーキセットは、今までアルビノ商店街では販売してないからね、それは評判でさ、パラダイスでも売ってないって事で、みんな何とかして学園生に連れて行ってもらおうと、必死らしい。
でも、学園生は貴族だからね、現状は貴族しか学園レストランに来れないの。平民のみなさまには、申し訳ないね。ま、エデンの王国がもっと開国したら、王都の中でも商売を始めるつもりだからさ、もっと王家に圧力をかけて頑張って欲しい。
しかし、ご苦労な事だよね~ 王都から歩いて来るんだもん。一時間くらいかかるって言ってたもんね。せっかくご飯食べても、帰宅したらお腹が空いちゃうんじゃないのかな。
***
「本日は、お招きいただいて、かたじけないでゴザル」
「私まで、恐れ入ります、ミチイル様。ミチイル様の私室にお招き頂けるなど、光栄でございます」
「やあ二人とも、いらっしゃい。ここだと込み入った話もできるからね。学園では会うけど、こうしてお茶会は久しぶりだね」
「ほんと~ 久しぶり~」
「今は学園レストランが混みあっておりますからね、ゆっくりお茶もなかなか出来ないでしょうし」
「そうなんだ? シェイマス」
「はい。学園レストランは、今や中央エデンで一番話題の所でございますので」
「左様でゴザルな。食券の販売も、もう自分一人では手に負えないのでゴザル」
「ああ、そういえば足軽君に任せっきりだったよね、ごめんごめん」
「とんでもない事でゴザル。つきましてはミチイル様、学園レストランの食券をアドレ侯爵令嬢にも販売の許可を頂きたいのでゴザル」
「ああ、もちろん構わないよ。売れば手数料も得られるしね、どんどん売って、どんどん儲けちゃって!」
「恐れ入ります、ミチイル様。誠心誠意、努めて参ります。また、アドレ侯爵家を神聖国で受け入れて頂き、感謝の言葉もございません」
「いや、こちらこそ。どう? パラダイスで商売はうまく行っているみたい?」
「はい。アドレ侯爵家で店を構えている訳ではございませんので、販売の仲介のみですが、貴族からの注文を取りまとめ、スタイン男爵家の方々に商品を当家へ運んで頂いております」
「うん、そうやってエデンでも、もっと貴族に商品が広まるといいんだけどね、紙幣は潤沢じゃないだろうから、少し難しいかな」
「そうでゴザルね、当家のグループと、アドレ侯爵家以外のパラダイス貴族は、紙幣は自由に使えないのでゴザルゆえ」
「ですが、平民でも神聖国から仕事を頂いているとか。その気になれば、紙幣を得られる訳ですから、どうしてもとなれば考えるのではないでしょうか」
「そうだね、キャンティ。少なくとも王家には、かなり多くの紙幣を渡しているからね、王家がちゃんと貴族に下げ渡せば紙幣は流通するんだけどね」
「それは中々難しいと思うのでゴザル。王家は自分たちの事しか考えてないのでゴザル」
「まったく……もっと貴族に下げ渡すなら、紙幣を増やすのに」
「ミチイル様が配ればいいんじゃなーい~?」
「そんな事をしたらさ、王家から睨まれるじゃん、シモン」
「今更じゃない~」
「シモン様!」
「ま、今更なのかなあ……僕、一応表には出てないんだけど」
「ですがミチイル様、中央エデンの王妃がミチイル様へのご挨拶のため、学園に来られた話は有名でございます」
「え、そうなの? キャンティ」
「そうでゴザル。ミチイル様は、中央エデン王家よりも力があるかも知れぬ、と思われているのでゴザル」
「ええ、面倒くさいよ」
「だから、今更だって言っているでしょ~」
「……まあ、確かに、ミチイル様の詳細は不明ながら、出で立ちも含めて学園には影響力があるのは、間違いございません」
「はあ、シェイマスまで……」
「まあさ~ 何があってもミチイル様ならどうにでもなるんじゃなーい~?」
「ま、そうだけどさ。面倒臭いの、キライなんだよね」
「僕も僕も~」
「シモン様!」
「皆様は、大変に仲がよろしくていらっしゃいますね」
「うん、キャンティ。僕たち、家族だからね~ ミチイル様とシェイマスと僕~ ね、シェイマス」
「恐れ多い事でございます」
「うん、神聖国でもね、僕たちの家族を含めて仕事をしているからね。ん? でもシモンの母上とかとあまり会ったことが無いよね、僕」
「うん、そうかもね~ 僕の母上は家に籠っているから~」
「左様でいらっしゃいますね」
「そっか。まあ、適材適所だからね、何事も無理にするのは良くないから、やりたい人がやればいいし、本当は僕だって、ずっと家に籠ってたいよ」
「ミチイル様がそんな事したら、神聖国がつぶれちゃうかも~」
「確かにそうなる事でございましょうね」
「ま、分かっているよ。今じゃ神聖国だけじゃなくて、足軽グループもアドレ侯爵家も居るしね、何とかうまい事、世界を渡り歩かないとね」
「恐れ入るでゴザル」
「何卒、よろしくお願い申し上げます」
「ま、取り敢えず、お茶にしようよ。なんか最初から話し込んじゃったけど。じゃ、シェイマス、キッチンで手伝って」
***
「さ、今日はね、レアチーズケーキだよ。休暇中に神聖国で作ったんだ」
「ミチイル様~ これは真っ白なケーキだね!」
「これがレアチーズケーキなのでございますね、ミチイル様。神聖国に帰った際に母と祖母が自慢しておりました」
「これは……ミチイル様、もしかしてこれも、乳製品でゴザルか」
「うん。生クリームとクリームチーズって言うのを使っているんだ。お供えも済ませたし、さあ、食べよう」
「いただきまーす」
「うわ~ 滑らかで溶けちゃったよ~ ミチイル様~」
「左様でございます! これは母と祖母が自慢しても仕方がございません」
「ほんとうに! このように冷たくてとろけるスイーツがあるだなんて!」
「これが、また牛乳からできているのでゴザルか……牛乳は底知れないのでゴザル」
「そうだよ、牛乳はね、本当に欠かせない食材なんだ。牛がたくさんいるっていう南部は、エデンの王国じゃ一番恵まれていると思うよ」
「左様でございますのでゴザル。牛が居て、北部との運送を任されていなければ、今の当家も無いのでゴザルゆえ」
「そういえばさ、中央エデンの南部貴族は何しているのかな。もう昔と違ってセルフィンとの運送もしてないでしょ?」
「何もしていないのでゴザルかと」
「そうなんだ。牛は飼っているんだよね?」
「牛は放し飼いにしているだけでゴザルゆえ」
「まあ、そうか。結局何もしてないんだね」
「まあ、もともとエデンの貴族は仕事はしておりませんので」
「そうだったね、シェイマス。ま、混血じゃないって話だし、どうする事もできないけどね」
「自分たちは混血で良かったと、胸を撫でおろしているのでゴザル」
「私どももでございます」
「そうだね、足軽君もキャンティも、魔力器官があるはずだからね、そういう意味でも女神様の祝福があると思うよ」
「私にも魔法と言うものが使えるのでございましょうか、ミチイル様」
「使えるんじゃない? ちょっと気合を入れてみてくれる? キャンティ」
「気合、でございますか……ええっと、どのようにすれば良いのでしょうか……」
「魔法はね、キャンティ、考えるな! 気合じゃ!」
「ハハ なつかしいね、シモン。みんな元気かな」
「ご老公様を始め、元気いっぱいにセルフィンでお暮しのようでございます」
「それは良かったよ、シェイマス」
「……ううん、ふんっ」
モヤ~
「あ、キャンティから魔力が少し出ているから、魔法も使えるね」
「はあはあ……ですが、とても疲れます」
「うん、エデンでは魔力が漂ってないからね、仕方がないんだ。南村の辺りなら魔力もすぐに回復するんだけど」
「左様でございますのでゴザル。自分も、南村で過ごさせて頂いた折には、魔法が使えたのでゴザル」
「あ、そうなの? それは良かったよ。キャンティも状況が許せば、南村とかで魔法の練習したらどうかな」
「はい。ミチイル様のお許しがございましたら、是非に」
「うん、許す許す。どんどん魔法が使えるようになってよ。魔法は女神様の祝福だからね、女神信仰をしてないと使えないし、逆を言えば、魔法が使えるってことはアルビノ人の血を引いていて女神信仰をしているって証拠だからね」
「左様でゴザルのでしたか……」
「私も、ほっと致しました」
「そっか、キャンティの所はついこの間だもんね、準神聖国民になったの。じゃ、この事をアドレ侯爵家にも伝えておいてもらえる?」
「かしこまりました、ミチイル様」
「二人とも、今日は夕ご飯を食べて帰ったら? 夜は暗いけど、ランプも貸してあげるからさ、学園まで街道も敷いたし、危なくないでしょ。キャンティはちゃんと足軽君が送り届けてね」
「かしこまりましたでゴザル」
「大変に光栄な事でございます。学園レストランでスイーツは頂いておりますが、食事はあまり経験がございませんので」
「そうなの? キャンティ」
「はい。余りお腹がいっぱいになりますと、戻ってからマッツァを食べるのに苦労致しますもので」
「そうでゴザルな。マッツァはそれなりに美味でゴザルが、飽きるのでゴザルゆえ」
「ふーん。僕は生のマッツァは食べたことが無いからね」
「ミチイル様だけではなく、私達もでございます」
「うん、僕も無いよ」
「では、今度、自分の分をお持ちするでゴザル。ただ、時間が経てば経つほど、萎びてきてしまうのでゴザルから、それほど美味しくも無いのでゴザルよ」
「そうですね、もしかしたらもぎたてのマッツァは美味しいのかも知れませんけれど、学園で支給されるのはシワシワですので、それほど美味しくは頂けません」
「そうなんだ。ま、楽しみにしてるよ」
「僕も~」
「私も、楽しみでございます」
「じゃあ、何を食べようか」
「僕ね~ 焼き肉!」
「シモン様、焼き肉はスタイン男爵令息様ともども既に頂きましたよ」
「じゃあ~ ピラフ!」
「うん、じゃあさ、ピラフの上に焼き肉を乗せよう! 一頃流行ったやつだけど」
「うわ~ 美味しそう~」
「シモン様、楽しみでございますね」
「自分もでゴザル」
「私も、ミチイル様のお食事を頂けるなんて、末代までの誉れでございます」
「ハハ 大げさだな~」